先日なぜか「地方公務員の普通退職者が増えている」ことが大々的に報じられました。
今回取り上げられている「地方公務員の退職状況等調査」は、総務省が毎年実施して調査結果も公表されているものです。
このブログの過去の記事でも、何度かこの調査の結果を使っています。
記事中では「若手地方公務員の退職が増えている、公共サービスの劣化が懸念される」と危機感を報じていますが、この傾向は今回の調査結果に始まったわけではなく、ここ数年ずっと続いています。
正直、目新しさゼロなのですが……どうしてこのタイミングで報じたのでしょう?
報道の裏側にある意図は置いといて、結果を深掘りしていきます。
若手職員の母数が増えているので退職者数も増えて当然
まず、この報道には大きな欠陥があります。退職者の増加にだけに焦点を当てていて、職員数の増加に一切触れていない点です。
地方公務員の採用数は、全国的に平成10年代後半に一度大幅に減少した後、平成24年頃から増加傾向にあります。
この影響がモロに若手の職員数に波及して、ここ10年で若手職員数が大幅に増加しているのに、この記事では全く触れていません。
「若手の地方公務員」の母数が増えれば、退職者数も増えて当然だと思うのですが……
あえて触れずに「退職者の増加」をことさら強調する意図がきっとあるのでしょうね。
より正確に実態を把握すべく、職員数の増加具合も追加して、表にしてみました。
20代は、退職者数が2.7倍に増えている一方、職員数も1.35倍に増えています。
そのため、退職率の増加は2倍になります。
30代は、退職者数の増加は3.14倍に対し、職員数は1.05倍しか増えていません。
そのため、退職率の増加幅も3倍を超えます。
特に35歳以上の退職率が3.5倍近くまで伸びています。
職員数の母数も含めて数字をみてみると、20代よりも30代のほうが、退職者数・退職率ともに大きく増加しているといえます。
ただ、10年前と比べて増加しているとはいえ、退職率は依然かなり低いです。
一般的に「3年で3割が退職する」と言われる民間企業と比べれば、地方公務員はまだまだ離職率が低いといえるでしょう。
30代後半は役所を辞めてどこに行く?
改めて数字を見てみると、20代の退職が増えているのは印象どおりなのですが、30代も増えているのは予想外でした。僕としては、若手よりも、35歳以上の方々が役所を辞めてからどのように生計を立てているのか、興味があります。
今は空前絶後の人材難です。
20代であれば、転職先には困らないと思います。
一方、転職界隈では「地方公務員は30代になると市場価値が落ちて転職できなくなる」のが通説です。
僕自身、転職アドバイザーと以前面談したときに、同じようなことを言われました。
そのため、民間企業に転職するのはなかなか難しいと思われます。フリーランスになって独立開業するのも難しいと思います。
インターネット上では「公務員からフリーランスになって年収が倍になった」みたいな人がたくさんいますが、本物かどうかよくわかりませんし……
もしかしたら、別の自治体に経験者枠で転職しているのでしょうか?
自治体の経験者枠採用と言えば、これまでは民間大企業か中央省庁でバリバリ働いてきた人しか通過できない難関枠で、元地方公務員なんて(都庁職員を除けば)歯牙にもかからないのが通説でしたが、役所の人材難が深刻になるにつれ、どんどんハードルが下がってきているとか。
転職ではなく、労働市場からリタイアするケースも少なくなさそうです。
僕の勤務先県庁でよく聞くのは、心身を故障してフルタイムで働けなくなってしまうパターン。
35歳の退職者が増えている原因が、このような不本意退職の増加でなければいいのですが……
35~39歳の職員は、地方公務員の採用数が特に少なかった平成20年前後に採用された人が多いです。
この時代は景気が悪く、民間採用も低調だったので、役所には本当に優秀な方々が集まりました。
僕の勤務先県庁では「一騎当千の世代」などど呼ぶ人もいます。
この世代が優秀すぎて、財政・人事・企画のような出世コースを独占しており、世代交代が進んでいないことが問題視されるほどです。
もし僕の勤務先県庁でこの世代が相次いで退職したら、相当な大問題になります。
役所の中枢業務のノウハウを持った人材がいきなりいなくなるわけで……少なくとも予算編成は回らなくなると思います。
コメント
コメント一覧 (8)
おもしろい記事がありました。早慶卒の優秀な30代職員が、見切りを付けて退職されたと。高い能力を生かせる職場ではないと、後悔しているようです。
30代後半は優秀な職員が多いからこそ、ふと我に返ったときにつらくなるのでしょう。一騎当千の世代なんて言われてますけど、当時の労働市場が特殊だっただけです。本来は優秀な人を集められるような程度の高い職場ではないと。
2番目は積極的な転職(コンサル会社や外資系企業)や起業や独立など。稼げるキャリアクラスはこちらに行くのが正直本筋かと。たまに失敗して元いた役所に関連する団体に再雇用でねじ込んでもらう人もいたりと、その成否はケースバイケース・ピンキリといったところ。
3番目は何らかの事情で地元に帰る(地元市役所・警察事務・医療介護系・地元金融機関・地元IT企業・地場中小企業など)主にノンキャリアやキャリア技術職の人たち。割と堅実な真面目な優秀層ではこのような人生選択をするのに今や驚きもありません。
4番目はFIREや家業や会社を引き継ぐ人たち。ただしそのようなリスクテイカーは公務員にはあまり存在していない層で珍しい存在です。一部の富裕層の子息ではそういった人もいるとか、あくまで自力でというより様々な条件に恵まれた人たち。
これ以外の人は日々の労苦に耐えつつ再雇用も渋々受け入れて40年以上は勤め上げるという人。今でも概ね7〜8割が該当するかなと思っています。
> 当時の労働市場が特殊だっただけです。本来は優秀な人を集められるような程度の高い職場ではないと。
まさにその通りだと思います。現存する優秀世代の方々には、なんとか「烏合の衆でも回せる仕組み作り」を成し遂げていただきたいと切に願うばかりです。
地方公務員の場合、さほど忙しくない&積極的な転職するだけの能力も評価も無い……という状況で、国家公務員ほどには若手転職が目立たなかったのだと思われますが、最近は多忙化&売り手市場のために増えてきてるのだろうと思われます。もう転職手遅れ世代としては羨ましいとしか言いようがありません……
転職先としては人手不足が著しいコンサルからのオファーしかなく、あまり惹かれなかったので応募はせず、いったん無職状態です。
夫は外資系で収入差がかなりあったので、暫く休んだ後は、私の場合は家事育児をメインで担いつつ、自分が自由に使うお金だけ稼ぐために、細々と仕事をしようと思っています。
親に教育費もかけてもらったのにこのような状況で非常に恥ずかしい気持ちはありますが、もう深夜タクシーで帰宅しなくても良いと思うとほっとしています。
長々と自分語りを失礼しました。
長年の勤務お疲れ様でした!
不本意入庁かつ働かなくても家計が回るのであれば、辞めたくなりますよね……コンサルからオファーが来るということは、国家一種か都庁かとお見受けしました。普通の地方公務員であればどこからもオファーなんて来ないので、やはりブランドは強いなと思った次第でもあります。まずはゆっくりお休みください……
人口減少や過疎化の影響が著しい地方の県市町村は特に、結婚や介護で地元に戻るUターン転職者勢もなんとか取り入れようと今後どんどん必死になりそうですね。できれば優秀な若者を取りたいのが本音でしょうが、役所も贅沢を言っていられないくらい人材確保に苦戦してるのが現実といったところでしょうか…
僕の勤務先県庁だと、これまでの経験者枠はランクダウン転職してきた方(都会の大企業で働いていたが、やむをえず地元に帰ってきた)が多かったですが、最近はランクアップ転職(ブラック企業から脱出するために受験)パターンが多い気がします。倍率の低下のみならず受験者層も大きく変化していそうです。