先日ツイッター上で、この4月に民間企業から市役所に転職してきた方が愚痴をツイートしていました。
彼いわく「役所のプロパー職員は民間経験者に期待しすぎ、なんでもかんでも聞いてくるな」というのです。
具体的にどのような事情があるのかはわかりませんが、採用されたばかりなのに教えを乞われる……というのは、確かに大変だろうと思います。
しかし一方で、民間経験者に頼りたくなるプロパー側の気持ちもよくわかります。
僕自身、文書管理規則や財務規則のような内部ルールに慣れさえすれば、民間経験者は新卒入庁職員とは比べ物にならないくらい優秀だと、心の底から思っています。
社会全体による強力な「刷り込み」
プロパー地方公務員が民間経験者に期待する理由はいたってシンプルです。「民間人材とは比べ物にならないくらい、地方公務員は無能だ」と刷り込まれているからです。
「民間人材>地方公務員」という図式は、もはや社会の常識と化しつつあります。
テレビを見たり、ラジオを聞いたり、ちょっとSNSを開いたりすれば、いつでもどこでも「地方公務員は無能」という言説が目に入ってきます。
日本は「言論の自由」が一応保証されているので、何事に対しても幅広く意見を持てますし、主張することも許されています。
実際、マスメディアの論調に対してインターネット上で反対意見が噴出するなど、メディアの間で意見が割れることもしばしばあります。
そんな中、「民間人材と比べて地方公務員は無能」という言説は、あらゆるメディアで意見が一致している稀有な事例です。
加えて地方公務員は、日々、「お前たちは無能だ」と住民の皆様から教え込まれています。
民間人材と比較して地方公務員をこき下ろすのは、苦情の定番です。
民間人材と比較して地方公務員をこき下ろすのは、苦情の定番です。
- 民間なら数秒でできることに、公務員は何年かかるんだ
- 民間だったらお前はクビだ
みたいな抽象的な意見にとどまらず、
- 一般的なビジネスマナーができていない
- プレゼンが下手
- 資料が汚い
など、ダメな点を具体的に指摘してくるパターンも多いです。
役所には日々たくさんの人が、それぞれ別々の思惑を抱えて苦情を申し立ててきます。
立場が異なれば苦情の内容も違ってくるもので、同じ日に正反対の内容の苦情を受けることもしばしばあります。
新型コロナウイルスのワクチン接種あたりが典型で、「強制的にワクチンを打たせて感染拡大を食い止めるべき」「ワクチン接種は毒液注射と同じ殺人行為」という両極端の主張を交互に聞かされる……なんてこともありました。
このように多様性に満ち満ちている苦情内容の中でも、苦情主の老若男女を問わず、社会的地位や所得に関係なく共通するのが、「地方公務員は無能」という点です。
苦情内容がどのようなものであれ、「地方公務員が無能だから問題が発生しているんだ、民間ならこんなお粗末な事態にはならない」という理屈づけは、万人に共通しているのです。
苦情内容がどのようなものであれ、「地方公務員が無能だから問題が発生しているんだ、民間ならこんなお粗末な事態にはならない」という理屈づけは、万人に共通しているのです。
民間経験者に期待を寄せるのは職員だけではない
このように、地方公務員は日々、住民の生声に加えて、オールメディアで「民間人材と比べて地方公務員は無能」という主張に曝され続けているわけで、どれだけ自我を強く保とうとも「自分達は民間人材と比べて無能なのだ」と刷り込まれてしまいます。
そして、この刷り込みが、民間経験者への期待に直結しているのだと思います。
住民の声や世論をしっかり聞いている真面目な職員ほど、「自分たちは所詮無能だから何をやっても失敗ばかりだけど、優秀な民間経験者の力があればきっと何とかなるはずだ」と考えるのです。
民間経験者ご本人からすれば、「無茶を言うなよ……」と思うかもしれませんが、世間に流布している一般常識をもとに考えれば、このような判断に至るのが至って自然で、論理的にも正しいです。
さらに言えば、「民間経験者への猛烈な期待」は、プロパー職員のみならず住民も抱いています。
僕がかつて観光系部署にいたとき、よくやりとりをしていた地域振興団体があったのですが、そのコアメンバーの中に公務員嫌いの方がいて、何をするにも不審がられて調整に苦労しました。
しかし、僕が異動して、後任に民間経験者が着任した途端に、その人の態度が一気に軟化して、ものすごく協力的になったのです。
このような「民間経験者が担当した途端に住民との関係が円滑になる」エピソードは、後を絶ちません。
つまるところ、社会全体が、「地方公務員は無能だ」と認識している反動として、役所で働く民間人材に期待を抱いているのだと思います。
「プロパー職員が民間経験者に期待を寄せる」という現象は、単にその氷山の一角に過ぎないのです。
周囲からやたらと期待されてしまうのは、民間経験者の宿命なのだろうと思います。
当人としては、新人なのに頼られるのが居心地悪いのかもしれませんが……
プロパー職員の中には、民間人材に対する劣等感を拗らせている人もちらほらいます。
そういう人は、期待を通り越して嫌味を言ってきたり、さんざん持ち上げておきながら「期待外れだった」などと勝手に落胆してきたり、色々と面倒です。
当人としては、新人なのに頼られるのが居心地悪いのかもしれませんが……
プロパー職員の中には、民間人材に対する劣等感を拗らせている人もちらほらいます。
そういう人は、期待を通り越して嫌味を言ってきたり、さんざん持ち上げておきながら「期待外れだった」などと勝手に落胆してきたり、色々と面倒です。
こういう言動を取らないよう、プロパー職員側は常々注意しなければいけないと思います。
コメント
コメント一覧 (8)
どれも真実であるとは思いますが、役人として優秀であっても利益を上げるのはまた違う能力が必要だということでしょうか。
役所が主導してうまく行った大規模プロジェクトもないわけではないと思いますが、失敗例の方が多いのは事実でしょうね。
役所の近視眼的な単年度主義(年度使い切り予算)が優良な民間企業のような長期的に利益を上げられる体質へ育まれないという政治上・組織上の問題もまたあるかと思います。
> かつて「役人(官僚・公務員)は優秀だから、(政治家が三流でも)日本は躍進した」と言われていましたが、その一方で「公務員は民間で使い物にならない」とも言われ、昨今では「優秀な人間は公務員にはならない」と言われるようになりました。
時代を経るにつれて、優秀とみなされる条件=必要とされる能力が変わってきた、という捉え方もできるのかもしれませんね。
かつては役人的なスキル(ルール作りなど?)が重宝されましたが、今はいかに現ナマを稼ぐかのほうが重視されているとか……こう考えると、さらに少子高齢化が進んで社会が無茶苦茶になった頃には、再び役人的スキルが尊ばれるのかもしれません。
「表に出てくる」という観点で考えると、生え抜きの職員の場合、優秀とされる人ほど内部管理部門(財政など)に招集されていて、表には出てこないことに気がつきました。
乱暴な言い方をすると、表(住民の前)に出てくる時点で2軍以下なので、役所外部からは「1軍の職員」がどれほどのレベルなのか全然わからないわけで、それなら無能だらけだと認識しても仕方ないのかなと思いました。
民間組で飲みをした時も、所詮年功序列だしやる気なくなるよねという話によくなります。
>出世や賃金という待遇の面からすれば民間経験者がプロパーストレート組に追いつくことは決してないのかなと思ってます。
100人に1人レベルまで出世するのはプロパーストレートだけかもしれませんが、上位10%くらいの出世具合であれば、むしろ民間経験者のほうが到達しやすい気がします(少なくとも僕の勤務先自治体では)
プロパーの場合、最後まで主任級で終わる人もざらですし……
期待するならそれだけ厚遇すべきでは?というお気持ちはよくわかります。その通りだと思います。
霞が関キャリアの世界でも、おそらく新卒ストレートで入ってきたキャリア官僚が民間経験者組(外国人も含む)に出世や待遇でいっきに抜かされるということは日本のお役所ヒエラルキー上に見てもありえない話だと思います。
体質が古い・閉鎖的だという指摘は確かにありますが、それを許してしまうと年次主義・純血主義をとっている官僚制の意義や崩壊にもつながりかねないので、当局もそんな人事にはひときわ慎重になっていると思われます。
もし仮に日本が移民大国になっても、主要なポストや政治家を日本人で死守したいと国民レベルで考えるのが当然だと思いますが、移民や外国人からするとそれは不満で排他的要素であり、そのうち国連あたりからもケチがつくかもしれません。まさに国家の枠組みが揺さぶられる大問題にもなりかねませんからw
いち公務員の人事を考えるだけでもグローバル社会に今後いかに適応していくのか?それはもう大変な困難が予想されます。