役所は日々、いろんな施策を実施していますが、堂々と「成功した」とアピールできる施策は多くありません。
マスコミからの取材や議会の質問で「施策の成果」を問われた際に、数字をいじくりまわしたり、それっぽい日本語表現を繕ったりして、半ば無理やりに答えを絞り出した経験のある人も多いと思います。

従前より、地方公務員を辞める人の多くは、「仕事にやりがいが無い」と語ってきました。
「やりがいが無い」と感じる理由の一つが、「成功体験を得られない」せいなのではないかと、僕は思っています。

特に若手職員は、SNSなどで同世代がどんどん成功を収めている姿が嫌でも目に入り、隣の芝が青く見えていくと同時に、自分の仕事に価値を見出せなくなっていくのでしょう。
「どれだけ頑張っても成果を出せないような仕事に従事するのは人生の無駄だし、自分のキャリアを閉ざすことになるのでは?」という危機感が、彼ら彼女らを転職活動に駆り立てているのではないかと思われるのです。

職員の自尊心維持のためにも、若手職員の離職防止のためにも、小さなことでもいいので成功体験を積ませることが大事なのだろうと思うのですが……役所の仕事は本当に成果を出しづらいです。

その理由の一つに、世の中の大きな流れ、いわゆる「メガトレンド」に逆らう仕事が多いことが挙げられると思います。

役所にとって「変化」≒「危機」

メガトレンドとは、辞書的には「時代の大きな流れ、趨勢」のことを指します。


本稿ではやや意味を限定して、「世代や地域にかかわらず、あらゆる人に影響を及ぼす、社会全体の大きな流れ」という意味で用います。
具体例を挙げると、少子化や地球温暖化、都市部への人口流出、デジタル化……などです。

こういったメガトレンドは、日常生活はもちろんのこと、仕事にも大きく影響します。
民間も役所も同様です。メガトレンドから逃れることはできません。

ただ、メガトレンドへの対応は、民間と行政では全く異なります。

民間企業は、メガトレンドをチャンスと捉えます。
メガトレンドにうまく乗っかって、自社の利益拡大を図ります。

一方、役所の場合、メガトレンドはピンチにほかなりません。
メガトレンドそのものを止めようとしたり、メガトレンドの影響を極小化しようと試みます。

パッと思いついた具体例をいくつか掲載します。
メガトレンド事例

だいたいのメガトレンドで、民間では「乗じる」、行政では「逆らう」スタンスを採っていると思います。
地球温暖化だけは例外で、民間も行政も「逆らう」方向です。


川下りと沢登り、大変なのはどっち?

メガトレンドに「乗じる」戦略と、メガトレンドに「逆らう」戦略。
成果が出やすいのは、もちろん前者です。
メガトレンドは、簡単には止められないからこそメガトレンドなのであり、戦略実行の難易度や費用対効果を合理的に考えると、メガトレンドには乗るしかありません。

メガトレンドに逆らう戦略を採る行政は、最初から「負け戦」に臨んでいるのだと言っても、過言ではないと思います。

もちろん、行政がメガトレンドに逆らう戦略を採るのには理由があります。
メガトレンドによって「困る人」がいるからです。

中長期的にはメガトレンドを受け入れたほうが皆幸せになれる可能性が極めて高い状況であれ、現下に困っている人がいるならメガトレンドに逆らわなければいけない……これが民主主義の宿命であり、民主主義的決定の実行者たる行政の役割です。

メガトレンドにより困る人は比較的高齢者が多いので、「メガトレンドに逆らう」という現状の行政の姿は、シルバー民主主義の産物ともいえるかもしれません。


登る澪筋は変われども、沢登りするスタンスには変わりない

メガトレンドの中身は刻一刻と変わっていきます。
しかし、「メガトレンドに逆らう」という行政の基本スタンスは、いつまでも変わらないと思います。
メガトレンドの影響を嫌う人、別の言い方をすると変化を拒み現状維持を望む人が、高齢者を中心に相当数存在するからです。

ゆえに行政は、新たなメガトレンドが登場するたびに、それをを否定し、無謀な抵抗を続けることになるでしょう。
このような行政のあり方を「頭が固い」「時代遅れ」などといって批判したり、嫌気がさして見限る(退職する)のは、それはそれで正しいと思います。

ただ、メガトレンドに逆らうことにも、間違いなくニーズが存在しています。
目に見える成果は挙げられないでしょうが、それでも少なくない住民のニーズを満たせているはず。
単なる一時凌ぎにすぎなくとも、現存するニーズを充足しているのであれば、これはこれで成果といえないでしょうか。
コストパフォーマンスは最悪だと思いますが、そもそも行政はコスパでは測れない(コスパ度外視で必要なサービスを提供する)セクションですし。

……我ながら暴論だとは思いますが、このような落とし所を見出すことで、僕は自分を納得させています。