諸説ある県庁出世コースですが、人事・財政・企画の3部局に関しては概ね誰もが同意するところです。

このうち人事と財政は、役所という組織を存続させるためのルールを運用する部署(むしろルールそのものと呼んでも過言では無いかも)であり、多少の外圧では動じない・変わらないことが求められます。

一方で企画部局は、新しい課題を続々と処理することが求められ、ルールも手順も無いところを、自ら開拓していかなければいけません。
同じ圧倒的出世コースであっても、企画部局は毛色が異なります。



多忙度(残業の多さ)でも、人事・財政と企画の間には、大きな差があります。
人事・財政は不夜城です。特に、人事課の人事異動期、財政課の当初予算編成時期は、月間200時間くらいの残業が当然のように発生しています。
一方で企画部局は、業務量はそれほど多くはなく、残業時間も人事・財政よりは少ないです(もちろん安定して定時帰宅できるわけではありません)。
どこの県庁でも、このような傾向があるのではないでしょうか?

しかし最近、僕の勤務先県庁では、企画部局の残業時間が激増しています。
「ストレスは多いけど早く帰れる」という評価が崩れ、「ストレスも残業も多い」という地獄へと変貌を遂げつつあるのです……

ぶん投げられる新規事業が増えている

本題に入る前に、本稿でいう「企画部局」について整理しておきます。

ここでいう企画部局とは、以下のような業務を担当する部局です。
  • 全庁的・中長期的なプランを策定する業務
  • 新しく生じた課題を一旦引き受ける業務

前者は、俗にいう「総合計画」や「長期構想」、「基本方針」のような、今後5〜10年間くらいの大まかな施策の方向性を定めた文書を策定する仕事です。
これは企画部局の固有業務(人事課でいう人事異動、財政課でいう予算編成)であり、どこの自治体でも企画部局が担当していると思います。

後者は、首長や住民、議員などが発案した新規事業を形にしたり、国が省庁横断的に設定した課題(地方創生など)に対応する業務です。
乱暴な言い方をすると、ぶん投げられた無茶振りをこなす仕事ともいえます。途方もない目標を勝手に設定されて、それを実現するための方法をひたすら考えて実行に移していきます。
こちらの業務は、企画部局が引き受けると決まっているわけではなく、他の部局では対応できない案件が、消去法的に企画部局に回されてきます。


ここ最近で増えているのは、企画部局の業務の中でも後者のほうです。
いろいろと社会課題が増えて、自治体に対する無茶振りが増えているのもありますが、それ以上に役所内の業務の振り分け方が変わってきました。

従来は他の部局が対応していたような案件、例えば
  • 既存の制度の延長線上にあるような業務
  • 省庁横断ではなく所管省庁が特定の1省庁だけの業務
  • 土木、農学、医療のような技術的専門知識が必要な業務
こういった案件までも、企画部局で対応しているのです。

企画部局で対応する案件の増加に伴い、冒頭で述べたとおり、残業時間も激増しているようです。

企画部局以外だと新規事業を回せない

企画部局にいる知り合いに聞いてみたところ、「全庁的なマンパワー不足が原因ではないか」とのことでした。
より詳しく聞いてみると、
  • 従前であれば、どんな部局にも優秀な職員(事務処理能力・コミュニケーション能力に長け、長時間労働にも耐えられる)が複数おり、彼ら彼女らに新規案件を任せることができた
  • しかし今は、優秀な職員の頭数が減少しており、人事・財政・企画以外の部局には優秀な職員がほぼいない
  • 現状、「新規事業の立ち上げ」という難しい業務を任せられる職員が、企画部局以外には存在しないので、内容に関わらず企画部局で処理せざるを得ない

このような事情のため、新規案件は何でもかんでも企画部局に任せるという運用になっているというのです。

僕にはこの説が正しいのかまではわかりませんが、「優秀な職員が減っている」という事象は僕も実感しています。
過去にも記事にしましたが、今の30代前半の世代は、優秀な職員が挙ってコロナ対応で潰れてしまい、人材の層が薄くなっています。



上記の記事を書いた時点では「財政課候補者が減っている」という局所的な影響しか見えていませんでした。
しかし実態はもっと深刻で、コロナによる人材の喪失は組織全体を蝕んでおり、その影響が「企画部局への業務集中」として表出しているのだと思われます。

あくまで部外者の感想ですが、財政・人事の長時間労働と、企画部局の長時間労働では、後者のほうがストレスが大きいと思います。

人事課や財政課の長時間労働には、ゴールがあります。
人事異動が完成したり、予算編成が終わったりすれば、一旦は長時間労働から解放されます。
ゴールが見えているからこそ頑張れるという側面もあると思います。

一方、現状の企画部局の長時間労働には、終わりがありません。
業務の内容は別にしても、「いつまで続くかわからない」という一点だけで、ストレスは跳ね上がると思います。

企画部局にいる優秀な職員までが潰れて更に人材が枯渇していく……という事態に陥らないことを祈るしかありません。