若い頃こそ自己投資に惜しまず資金を投じるべし——このような金言は、ビジネス書や各種セミナーで繰り返し説かれ、一種の真理として社会に浸透しています。
とりわけ地方公務員にとって、この言葉は一層重みを持つかもしれません。

「民間企業と違ってスキルアップの機会が限られている」
「人事異動のたびにキャリアがリセットされる」 
このような悩みを抱える地方公務員の方々が、自腹を切ってオンラインセミナーに参加したり、資格取得のために貴重な休日を犠牲にしたりする姿は珍しくありません。

僕自身、就職後にいくつか資格試験に挑戦しており、つい先日もITサービスマネージャ試験に挑んできました。
こつこつ試験勉強して少しずつ問題が解けるようになっていくのが快感なのと、試験本番のヒリヒリ感が癖になっているんですよね。

しかし、これまで十数年役所勤務してきた経験から率直に申し上げると、これまで取得してきた資格は、地方公務員稼業にはあまり役立っていません。
宅建だけは胸を張って「役立つ!」と断言できますが、そのほかは正直微妙なところです。少なくとも、私財とプライベートを投じるほどの価値があるとは思えません。

資格のみならず、自分自身のスキルアップに投資したとしても、地方公務員稼業にはそれほど寄与しないと思っています。
自分のキャリアを切り拓くために自己投資したとしても、「期待したほど報われない」可能性が高いのです。
 

一般的な自己啓発・自己投資のリターンは小さい

今更言うまでもなく、多くの自治体では定期的な人事異動が行われます。
だいたい2〜3年周期で部署が変わるため、ある分野の専門知識を習得したとしても、それを活かせる期間は限られています。

しかも、地方自治体の業務は多岐にわたっており、どんな部署でも幅広く活きるような汎用的専門知識があまりありません。
「地方公務員なら○○を勉強しておけばずっと役立つ」みたいな鉄板分野があればシンプルなのですが、今のところ僕には思いつきません。強いて言えば都市計画法くらいでしょうか……

さらに組織として、職員にはさほどの専門知識を求めていないとも思います。
多くの自治体は、特定分野の専門知識よりも、組織の中で円滑に業務を進められる調整力や人間関係構築能力を持つ人を高く評価します。出世コースを歩む職員を見ていると、この傾向は明らかです。

結果として、たとえ高度な専門知識やビジネススキルを獲得しても、それを活かす機会はごくごく限られますし、かつ職場での評価につながらないのです。
 

真に投資すべきは「地域探求」

キャリアアップを目指す地方公務員が、まず真っ先に時間とお金を投資すべきは、「勤務先自治体のことを知る」ための活動だと思います。
 
自治体職員として最も汎用性が高く、どの部署に異動しても活かせる知識とは、自らが勤務する地域についての深い理解です。
普通に働いていれば、勤務先の役所が実施している施策に関しては自然とわかるようになってきますが、さらなる高みを目指すのであれば、それだけでは不十分です。
地域の歴史や文化、産業構造、民間サービスの実態、住民の生活様式など、自分が関わっている地域を多角的な目線で地域を理解することが求められます。
 
この「地域を知る」という学びの旅には、明確なテキストもなければ、導いてくれるメンターも存在しません。何を学ぶべきか、どのように学ぶかを自ら設計し、行動に移す必要があります。
だからこそ習得が難しく、真似されにくい、自分だけの強みとなり得ると思います。
 

労働市場での価値が全てではない

もちろん、セミナーや資格取得を通じて知識を増やすことは、個人の人生を豊かにするでしょう。しかし、それらを地方公務員の業務に活かそうとするのは、現実的ではないと考えています。

地方公務員としての真のスキルアップを目指すならば、その地域にどっぷりと浸かることが近道です。
休日の旅行を減らし、代わりにローカルイベントに参加する。通販で全国各地の物産を楽しむより、地元の店舗を巡る。
そうした日常の小さな選択の積み重ねが、地域への理解を深め、結果として職務パフォーマンスの向上につながるのです。

つまるところ、日常生活のあらゆる場面が、 地方公務員として成長する「学びの場」なのだと思います。この認識こそが、地方公務員として真に価値あるスキルアップへの第一歩となるでしょう。