<これまでのあらすじ>
2月から本格的に二股仮交際をスタートしたキモオタク。
一人は同じ地方公務員で、共通点が多く安心感を与えてくれるウイさん。
もう一人は東京生まれ東京育ちのエリート専門職で、知的刺激に満ちているナギサさん。
どちらも魅力的で選びきれないまま仮交際を重ねるうちに、上限である5回に達してしまいました。
そんな中、結婚相談所から「お二人とも本交際を希望されています」との連絡が届き、ついに決断の時を迎えることに――。

結婚とは別次元の私欲

前回記事の文章量からも察していただけけると思いますが、二股仮交際が始まった時点では、だいぶナギサさんのほうに傾いていました。
お相手の魅力もさることながら、ナギサさんとの結婚が僕の人生を好転させる可能性を感じていたからです。

※ナギサさんのイメージ(ベージュ髪の子)。まさか3D動画配信されるとはタイムリーすぎる……



過去の記事でも何度か触れていますが、僕は就職活動に失敗して不本意ながらUターン就職しました。
幸いにも職場では人間関係に恵まれて、プライベートでも田舎なりの楽しみを見出して、公私ともにそれなりに充実した生活を送ってきましたが、それでも「やっぱり都会で暮らしたい」という憧れは捨てきれませんでした。
具体的に行動を起こす度胸は無いものの(入庁以来一貫して異動希望先に「東京事務所」を挙げ続ける程度)、埋火のように燻り続けていました。

そんな折、ナギサさんとの出会いにより、この憧れが急に現実味を帯びることとなったのです。

ナギサさんは一人娘で、かつ職業の都合上、いずれは東京に戻るのではないかと僕は思っています。
ナギサさんと結婚した場合、彼女が東京に本拠地を移すタイミングで僕も東京事務所に異動させてもらえるでしょうし(過去にも類似事例あり)、もしそのまま東京に定住するとなっても、役所の人手不足が深刻化している現状を見るに、公→公転職であれば十分可能でしょう。

つまり、ナギサさんと結婚すれば、「都会に戻る」という積年の悲願が叶うのではないか……このような自分勝手な空想を思い描いていました。

ナギサさんとのすれ違い

一方で、ナギサさんとの面会を重ねるうちに、ある懸念が浮上してきました。
どうやらナギサさん、僕のことを過大評価しているようなのです。

前回の記事でも書いたとおり、ナギサさんは僕への好意や賞賛をはっきりと言葉にして伝えてくれます。
「お話しがとても上手」とか「エスコートしてくれて頼りになる」とか。
これまで三十余年生きてきて、ナギサさん以外には一度も言われたことがない誉め言葉を、彼女は惜しみなく贈ってくれます。

ナギサさんとの面会では、本県に来てまだ日が浅い彼女のオーダーに応じて、県内の主要な観光スポットを巡ってきました。
かつて観光部局で働いていたときの知見を頼りに、一日の行程を組んで、各スポットを案内してきたのですが、これがナギサさんにとても好評で、僕への高評価につながったのだと思います。

ただし、こんなことができるのは、僕がかつて観光部局で仕事をしていたからで、僕自身は根暗コミュ障キモオタクにすぎません。
たまたま僕の強みとナギサさんの希望が合致したためにうまく事が運んでいるだけで、そもそも僕に他人をエスコートするとか、気の利いた会話をして場をつなぐなんて不可能です。

ナギサさんにも何度も「たまたま過去に観光の仕事をしてただけで……」と伝えているものの、彼女は耳を貸さず「謙遜しないでください」とさらに褒めてくれます。
しかも相槌のような言葉だけの賞賛ではなく、しっかりと気持ちが込められているように聞こえます。

一般的に、他者にイメージと実物のギャップは、付き合いが長くなるにつれて是正されていくものだと思います。
しかしナギサさんの場合は、会うたびにギャップが拡大している気がしてなりません。
そして、いずれ彼女がこのギャップを認識した途端に、僕に対する好意も消失してしまうのではないか……
このような懸念が日々強まりつつありました。

足を引っ張る「地方公務員」という肩書き


仮交際期間としては最後の5回目の面会では、別の難題が浮き彫りになりました。

渋めの喫茶店で休憩しているときに、ナギサさんからおもむろに「両親と会ってみませんか?」と切り出されました。
今度こちらに遊びに来る機会があるそうで、僕の都合がつくようなら少しでもいいので顔を合わせてほしい、もし可能なら一緒にお食事は如何かと、お誘いをいただきました。
最初に聞いたときは、心の底から嬉しかったです。僕のことを両親に紹介したいくらいに本気で想っていてくれて、積極的に関係を進展させようとしてくれているのだと思いました。

しかし、現実はそう甘くありませんでした。

「地元県庁の方とお付き合いしていると、このあいだ両親に伝えたんです。そうしたら驚いていました。両親はこれまで地方公務員の方とあまり関わったことがないから、どんな人なのかイメージできていないみたいなんです。きっとキモオタクさんと直接会って話してみたら印象も変わると思うのですが……」

ナギサさんは細心の注意を払って言葉を選んでくれたようですが……
つまるところ、ご両親から「地方公務員なんかと付き合ってるの!?」とネガティブな反応を示されてしまったとのことでした。
地方公務員の社会的評価が低いことは重々承知していましたが(都市部では特に)、さすがにショックでした。

一方でナギサさんは、僕に直接会って話してみれば両親も考えを改めるはず……と能天気に構えています。
こういうところからも、僕を買いかぶりすぎている気がしてなりません。ナギサさんとの距離感というか認識の相違というか……漠然とした違和感を覚えた瞬間でした。

僕は即答できず、「人事異動の結果次第で4月以降の予定がだいぶ変わってくるから、また連絡するね」と逃げてしまいました。

もしこれが普通の恋愛関係であれば、ご両親の歓心を買うために誠心誠意頑張るところなのですが、僕たちが繰り広げているのは結婚相談所での「婚活」です。
仮交際状態での面会は「5回まで」がルールであり、次にナギサさんと会うためには、本交際に進まなければいけません。

時間とお金が許す限り何股でもかけられる仮交際とは違い、本交際に進めるのは1人だけ。
つまり、ナギサさんとの本交際には進むには、ウイさんとの交際を終了しなければいけません。
この判断をその場で下すほどの自信も度胸も、僕にはありませんでした。

ウイさんとの「快適な停滞」関係

一方で、ウイさんとの関係は、面会を重ねるにつれて順調に深まっていました。
相変わらず物静かでガードが固いものの、少しずつプライベートを晒してくれるようになっていました。

ウイさんとの関係は、本当に書けるネタが無いんですよ。
お互い交互にレストランを提案して、一緒に食事して、駅中のチェーン喫茶店で雑談して解散……という流れの繰り返しで、わざわざ記事にできるような面白いエピソードが全然ありません。

強いて言えば、藤田和日郎先生(漫画家)の大ファンだというくらいでしょうか。チョイスが渋い。
あとはやっぱり立派な果実をお持ちです。薄手のニットなどを着てると目のやり場に困ります。

ウイさんとの関係は「ノーイベント・グッドライフ」の一言に尽きます。
わくわくする出来事も新たな発見もありませんが、会話の流れも相手の反応もだいたい予想の範囲内で進むので、絶対的な安心感がありました。

ウイさんと一緒にいると本当に安心感しか感じなくて、ナギサさんとの関係のように嬉しかったり困ったりという感情の上下がありません。
ドラマ性が皆無なんですよね。「停滞している」と表現しても過言ではないと思います。

ゆえにブログ記事としては何も書けなくて物足りない仕上がりになってしまうのですが……パートナーとして末長く暮らすのであれば、このような落ち着いた関係性のほうがいいのだろうとも思います。
停滞しているとしても、それが快適な停滞なら、それでいいんじゃないでしょうか?

人生の岐路

繰り返しになりますが、僕が利用している結婚相談所では、仮交際期間中の面会は5回までというルールがあります。

仮交際とは違い、本交際には1人としか進めません。
つまり僕の場合、どちらかと本交際に進むためには、もう一方と別れることになります。

読者の皆様はきっと「ウイさん一択だろ、何迷ってるんだこいつ?」と思われることでしょう。

しかし僕は決断できませんでした。
これまで拗らせてきた「東京への憧れ」が、決断を阻んでいたのです。

僕にとってナギサさんは「白馬の王子様」そのもの(性別は逆ですが)、「就活に失敗して地元に逃げ帰った」という人生最大の汚点を克服する、またとないチャンスでした。

一方で、地元密着人間のウイさんを選んだら、「東京に出る」可能性は完全に潰え、この汚点を一生抱え続けることが確定します。

つまり、ナギサさんとウイさんのどちらを選ぶかという選択は、結婚相手の選択であると同時に、自分の過去をどう清算するかという選択でもあったのです。

僕はひたすら自問自答しました。
「十数年もの間抱き続けてきた憧れが成就する可能性があるのなら、手を伸ばすしかないのでは」
「しかし、ウイさんという確実な選択肢もある中で、ナギサさんという不確かな選択肢を選ぶのは悪手ではないか」

この二つの問いで、堂々巡りを繰り返していました。

新しい夢の見つけ方

弊ブログを長らくご覧の方はご存知と思いますが、僕はラブライブ!シリーズの昔からのファンです。
特に去年からは、石川県金沢市を舞台に展開している「蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」というシリーズにずっぽり嵌っています。(なお一推しのメンバーは百生吟子ちゃんです)


このシリーズ自体は一昨年からスタートしていて、僕も追いかけていたのですが、昨年元日に能登半島地震が発生して以降、応援派遣で石川県に滞在する機会が何度かあり、派遣帰りに聖地巡礼しているうちにますます嵌ってしまいました。
本当すごいんですよこのシリーズ。北陸特有のじとぉっ……とした空気感がよく出ています(褒めています)。

このシリーズはスマホアプリを中心に展開されており、月2回ペースで「活動記録」というメインシナリオが配信されています。
11月頃から婚活が忙しすぎてあまり読めていなかったのですが、3月半ばになってようやく時間ができたのでじっくり読みました。

秋から冬にかけて配信されたシナリオでは、卒業を控えた高校3年生のメンバーたち(3人)が、卒業後のことで思い悩む姿が描かれました。
  • 今の環境が心地良すぎて、新しい夢へと向かうのが怖い
  • 自分が夢を追求することで、誰かに皺寄せがいくことを自覚し、夢を追うことに臆病になる
  • 長年の夢を叶えた結果、次の夢が見つけられない
こんな感じで、彼女らは三者三様に「自分の夢」と真剣に向きあい、最後には新しい夢を見つけていきます。

『矩を超えて一歩踏み出すことで、新しい夢を見つける』
このシナリオ展開が、僕に深く深く刺さりました。


僕にだって、「東京に戻る」というこれまでの夢に代わる、「新しい夢」が見つかるかもしれない。
いったんこれを捨ててこそ、また新しい「夢」や「憧れ」が生まれてくるのではないか?

そう思った瞬間、1週間ほど堂々巡りを続けていたのが嘘のように、スッと全てが腑に落ちました。
そのまますぐにカウンセラーさんに連絡。
ナギサさんとの仮交際を終了し、ウイさんとの本交際を申告しました。