今年の新採職員と話していると、自分が随分「役所の常識」に染まってしまっていることを思い知らされます。
今回はその一つ、「事業」と「庶務」という役割分担について紹介したいと思います。
こういう役所の常識を知っていると、面接で有利かもしれません。 世間一般としては筋が通っているように聞こえても、役所の常識にどっぷり漬かった人間にとっては的外れに聞こえてしまうという、悲しいケースを避けられるでしょう。
「事業」と「庶務」とは、担当業務の中身・性質を分類する、最も大きな分類枠です。
地方公務員の下っ端が担当する業務は、ほとんどこのどちらかに分類できます。
たいていの職員は、「事業」か「庶務」のどちらかだけを担当します。人数の少ない部署で両方担当していることもありますが、メインの業務がどちらなのかは必ず設定されています。
ここまでは公務員に限った話ではありません。そこそこの規模の組織であれば、どこでも似た環境でしょう。
経営学にも「ライン」「スタッフ」という用語がありますが、「事業」が「ライン」、「庶務」が「スタッフ」にだいたい相当します。
地方公務員特有の事情とは、ひとつの部署の中に事業・庶務の両方が在籍している点です。「営業部」のように、ラインだけの部署が無いのです。
事業と庶務の担当 同じ部屋で机を並べているとはいえ、仕事内容は全然違います。
基本的に、庶務の担当は、事業の中身に口出しをしません。 口出しすることを求められていない、というほうが正確かもしれません。
基本的には、事業担当がやることの経理をやるのが庶務担当です。どちらかというと不適切な経理処理にならないよう、ストッパーとして機能するのが庶務担当です。
事業担当とっての庶務担当は、面倒な後処理を代わりにやってくれる、とてもありがたい存在です。ただ、場合によっては、事業目的を遂行するためのハードルになることもあります。
庶務担当にとっての事業担当は、飼い慣らすべき存在です。好き放題されるほど、自分の手間が増えることになります。
この事業では、地元出身の若手女性声優であるSさんを起用して、四季ごとの観光情報を、ご自身のインスタグラムアカウントで投稿してもらいます。もちろん、無償ボランティアではありません。投稿の対価として、県から謝金を支払います。
謝金の金額を決める時に、事業担当と庶務担当のやりとりが発生します。
事業担当は、どれだけ支払えば事業の効果が最大化されるかという観点から、謝金額を考えます。
この事業の場合、事業担当としては、なるべく上限に近い金額を支払いたくなります。
けちけちせずにお支払いしておけば、相手方に良い印象を残せ、今後さらなるタイアップが期待できるからです。
今回は、上限である「5万円」を支払いたいと提案します。
一方、庶務担当は、謝金の金額が経理上適切かどうかという観点で考えます。
自治体には「謝金規程」があり、金額の上限が決められています。
これを確認してみると、「5万円」支払う場合とは、「著名な大学教授や人間国宝など、その人以外では遂行不可能な仕事を頼む場合に限る」と書かれていました。
「インスタグラムアカウントを持っている地元出身の著名人」は、Sさん以外にも何人かいます。そのため、庶務担当としては、「この事業は、Sさん以外でも遂行可能。5万円は高すぎる」という判断になります。
このように、事業担当と庶務担当の意見は、たびたび食い違います。
食い違った場合は、基本的に庶務担当の意見のほうが優先されます。
事業効果の最大化よりも、規則を守るほうが優先されるからです。
5万円案が一度却下されてしまったら、事業担当は諦めるか、「5万円にふさわしい」根拠を探すことになります。
Sさんのフォロワー数が他の地元有名人に比べて圧倒的に多いとか、Sさんのインスタグラム運用がものすごく上手いとか、「Sさんでなければいけない」理由を探します。
見つけた理由を庶務担当に示して、再度議論し、庶務担当が納得してくれれば、5万円の支払いをしてもよいか、正式に上司に諮れることになります。
再度却下された場合は、根拠探しを再開するか、諦めるか……たいていは諦めます。
地方公務員として働くうちに、「事業」「庶務」という立場で考える習慣が自然と身に付いていきます。
そのため、学生さんや新人さんが「事業と庶務を一人で同時にこなしていきたい」のような発言を聞くと、どうしても違和感を覚えてしまいます。
彼としては、会計学の知識を活かしてよりよい観光PRイベントを作ります!と言いたいのでしょう。
しかし、その通りに解してくれる役所の人間は殆どいないでしょう。
観光PRの中身を考えるのは事業担当、特別会計を触るのは庶務担当。別々の職員がやるものという前提があるためです。
役所の人間からすると、彼の発言は、本来別々の職員が担当する業務を、ひとりでこなしてみせますよ!職員数が削減できますよ!とアピールしているように聞こえてしまいます。これは残念ながら、あんまり求められていない能力です。
事業も庶務も、どちらも大切な仕事です。優劣は無く、好みや適性によって、どちらが良いか決まってくると思います。
どちらもこなせるのが理想ですが、実際の配属履歴を見ていると、どちらかに偏る場合が多いようです。
部署が変わっても庶務の仕事は大抵共通していることから、「若いうちに一度は庶務を経験したほうがいい」とよく言われますが、若くして庶務を担当すると、ずっと庶務を続けるというパターンがとても多いです。
もしかしたら、配属される部署よりも、キャリア形成に強く寄与するいるかもしれません。
ちなみに自分は、事業しか経験していません。
一度でも庶務担当をやっていれば、もっと地方公務員あるあるネタを拾えるのでしょうが……
(追記)
庶務担当は基本的にストッパー役として機能しますが、ものすごく世話好きな方や、事業内容に個人的に興味のある場合には、話は変わってきます。庶務的に問題のない範囲で、事業の効果を最大化する方策を一緒に考えてくれます。
例に挙げた事業の場合であれば、「インスタグラムでの発信だけだったら別の人でもできるけど、せっかくSさんとタイアップするなら、彼女のインターネットラジオ番組とも連動しようよ。ラジオも活用するとなると彼女しかできないから、謝金は5万円で確定だね」という助言をくれるなど。本当に心強く、ありがたいです。
こういった方は、もれなく出世コースに進みます。
今回はその一つ、「事業」と「庶務」という役割分担について紹介したいと思います。
こういう役所の常識を知っていると、面接で有利かもしれません。 世間一般としては筋が通っているように聞こえても、役所の常識にどっぷり漬かった人間にとっては的外れに聞こえてしまうという、悲しいケースを避けられるでしょう。
“ライン”と“スタッフ”が机を並べてます
「事業」と「庶務」とは、担当業務の中身・性質を分類する、最も大きな分類枠です。
地方公務員の下っ端が担当する業務は、ほとんどこのどちらかに分類できます。
たいていの職員は、「事業」か「庶務」のどちらかだけを担当します。人数の少ない部署で両方担当していることもありますが、メインの業務がどちらなのかは必ず設定されています。
ここまでは公務員に限った話ではありません。そこそこの規模の組織であれば、どこでも似た環境でしょう。
経営学にも「ライン」「スタッフ」という用語がありますが、「事業」が「ライン」、「庶務」が「スタッフ」にだいたい相当します。
地方公務員特有の事情とは、ひとつの部署の中に事業・庶務の両方が在籍している点です。「営業部」のように、ラインだけの部署が無いのです。
「事業」と「庶務」の業務内容
事業と庶務の担当 同じ部屋で机を並べているとはいえ、仕事内容は全然違います。
基本的に、庶務の担当は、事業の中身に口出しをしません。 口出しすることを求められていない、というほうが正確かもしれません。
基本的には、事業担当がやることの経理をやるのが庶務担当です。どちらかというと不適切な経理処理にならないよう、ストッパーとして機能するのが庶務担当です。
事業担当とっての庶務担当は、面倒な後処理を代わりにやってくれる、とてもありがたい存在です。ただ、場合によっては、事業目的を遂行するためのハードルになることもあります。
庶務担当にとっての事業担当は、飼い慣らすべき存在です。好き放題されるほど、自分の手間が増えることになります。
ありがちなやりとり(フィクション)
例として、「地元出身女性声優によるインスタグラムを活用した観光情報の発信」という架空の事業を考えてみます。この事業では、地元出身の若手女性声優であるSさんを起用して、四季ごとの観光情報を、ご自身のインスタグラムアカウントで投稿してもらいます。もちろん、無償ボランティアではありません。投稿の対価として、県から謝金を支払います。
謝金の金額を決める時に、事業担当と庶務担当のやりとりが発生します。
事業担当は、どれだけ支払えば事業の効果が最大化されるかという観点から、謝金額を考えます。
この事業の場合、事業担当としては、なるべく上限に近い金額を支払いたくなります。
けちけちせずにお支払いしておけば、相手方に良い印象を残せ、今後さらなるタイアップが期待できるからです。
今回は、上限である「5万円」を支払いたいと提案します。
一方、庶務担当は、謝金の金額が経理上適切かどうかという観点で考えます。
自治体には「謝金規程」があり、金額の上限が決められています。
これを確認してみると、「5万円」支払う場合とは、「著名な大学教授や人間国宝など、その人以外では遂行不可能な仕事を頼む場合に限る」と書かれていました。
「インスタグラムアカウントを持っている地元出身の著名人」は、Sさん以外にも何人かいます。そのため、庶務担当としては、「この事業は、Sさん以外でも遂行可能。5万円は高すぎる」という判断になります。
このように、事業担当と庶務担当の意見は、たびたび食い違います。
食い違った場合は、基本的に庶務担当の意見のほうが優先されます。
事業効果の最大化よりも、規則を守るほうが優先されるからです。
5万円案が一度却下されてしまったら、事業担当は諦めるか、「5万円にふさわしい」根拠を探すことになります。
Sさんのフォロワー数が他の地元有名人に比べて圧倒的に多いとか、Sさんのインスタグラム運用がものすごく上手いとか、「Sさんでなければいけない」理由を探します。
見つけた理由を庶務担当に示して、再度議論し、庶務担当が納得してくれれば、5万円の支払いをしてもよいか、正式に上司に諮れることになります。
再度却下された場合は、根拠探しを再開するか、諦めるか……たいていは諦めます。
事業がやりたいのか、庶務がやりたいのか
地方公務員として働くうちに、「事業」「庶務」という立場で考える習慣が自然と身に付いていきます。
そのため、学生さんや新人さんが「事業と庶務を一人で同時にこなしていきたい」のような発言を聞くと、どうしても違和感を覚えてしまいます。
ありがちな主張(ノンフィクション)
例として、先日の採用説明会にて、実際に聞こえてきた発言を紹介します。「会計学ゼミで学んだ知識を活かして、県の観光PRイベントがうまくいくように、特別会計のバランスシート改善を通してアプローチしたいと思います」
彼としては、会計学の知識を活かしてよりよい観光PRイベントを作ります!と言いたいのでしょう。
しかし、その通りに解してくれる役所の人間は殆どいないでしょう。
観光PRの中身を考えるのは事業担当、特別会計を触るのは庶務担当。別々の職員がやるものという前提があるためです。
役所の人間からすると、彼の発言は、本来別々の職員が担当する業務を、ひとりでこなしてみせますよ!職員数が削減できますよ!とアピールしているように聞こえてしまいます。これは残念ながら、あんまり求められていない能力です。
事業と庶務、どっちがいいのか?
事業も庶務も、どちらも大切な仕事です。優劣は無く、好みや適性によって、どちらが良いか決まってくると思います。どちらもこなせるのが理想ですが、実際の配属履歴を見ていると、どちらかに偏る場合が多いようです。
部署が変わっても庶務の仕事は大抵共通していることから、「若いうちに一度は庶務を経験したほうがいい」とよく言われますが、若くして庶務を担当すると、ずっと庶務を続けるというパターンがとても多いです。
もしかしたら、配属される部署よりも、キャリア形成に強く寄与するいるかもしれません。
ちなみに自分は、事業しか経験していません。
一度でも庶務担当をやっていれば、もっと地方公務員あるあるネタを拾えるのでしょうが……
(追記)
庶務担当は基本的にストッパー役として機能しますが、ものすごく世話好きな方や、事業内容に個人的に興味のある場合には、話は変わってきます。庶務的に問題のない範囲で、事業の効果を最大化する方策を一緒に考えてくれます。
例に挙げた事業の場合であれば、「インスタグラムでの発信だけだったら別の人でもできるけど、せっかくSさんとタイアップするなら、彼女のインターネットラジオ番組とも連動しようよ。ラジオも活用するとなると彼女しかできないから、謝金は5万円で確定だね」という助言をくれるなど。本当に心強く、ありがたいです。
こういった方は、もれなく出世コースに進みます。
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