読みこなせるかどうかわからない学術書を、タイトルにつられて衝動買いしてしまうのは、キモ・オタクの悲しい性です。

今回紹介するのも、そんな経緯で購入した一冊です。

 

親密な関係のダークサイド

親密な関係のダークサイド

  • 作者: B.H.スピッツバーグ,W.R.キューパック,William R. Cupach,Brian H. Spitzberg,谷口弘一,加藤司
  • 出版社/メーカー: 北大路書房
  • 発売日: 2008/10
  • メディア: 単行本
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対人関係の良い面と悪い面の両方を研究するもともとの理由はさておき、われわれは、たんに、ダークサイドのたとえ話が知的な興奮を引き起こすものであることに気づいている。それは、興味をそそり、関心を高め、心をかき立てるものである。また、それは、重要であるがしばしば無視されてきた現象に関する研究を活気づけ、特に、隠れた禁断の、逆説的で反語的な対人関係の要素を考慮することを促す。

 (中略)

まとめると、本書で行われた学問的冒険は、親密な対人関係プロセスに含まれる道徳的・機能的複雑性を解説することを目的としている。この目的は、親密な関係のダークサイドを安定維持させることでもなければ、悪霊として描くことでもない。むしろ、対人関係における日々の行動の重要性を強調することである。こうしたプロセスが対人関係に必要不可欠であることを受け入れることによってのみ、それらの役割を十分に理解することが可能になる。

(『親密な関係のダークサイド』北大路書房(2008.9)原書まえがき vーvii)

 

 

本書は、親密な人間関係にありがちな暗い部分=ダークサイド(嫉妬、噂話、片思い、ストーキングなど)に関する学術論文集の抄訳です。

まえがきにもある通り、ダークサイドを無くそうとするわけではなく、ダークサイドをあるがまま捉え、解説します。

 

どんな感じで議論が進んでいくのか、第7章「片思い」を例に紹介します。

 

そもそも「片思い」はダークサイドなのか?

「恋愛は良いことだからどんどんやれ」というのは、オタクコンテンツにおいてはいうまでもなく、我々の日常生活でも当たり前の考えです。

ここでいう恋愛とは、もちろん相思相愛の関係性ですが、その前段階として、まずは何より、恋心を抱くことを奨励します。

 

恋心を抱いたら、次は愛の告白を促します。恋心を伝えずに、自分の内に秘めたまま終わらせるのは、NGです。

愛の告白が成功すれば、大成功です。恋が実らず、片思いーー相手からは愛されず、一方的に恋い慕うだけに終わってしまうことーーに終わってしまっても、徒労ではありません。意味のある失敗です。

自分は傷つきますが、次の恋への経験値になります。

告白された相手の方も、断ること自体は苦痛ですが、好意を示されること自体は嫌な気はしません。

 

出典:僕の中高時代の思い出

 

……自分の過去を思い出しながら書いて見ましたが、アラサー婚活世代に突入するまでは、どこもこんな感じではないでしょうか?

この考え方では、告白した側が傷つくという意味で、ダークサイドが存在しています。

 

 

断った側のほうがダメージ大きい

ここから、本文の内容を少しだけ紹介します。

本文に合わせて、以下の通り用語を定義します。

・告白した側 → 求愛者

・告白を断った側 → 拒絶者

・片思い → 出会い~恋心の芽生え~告白~拒絶 までの一連の流れ

 

本書では、求愛者と拒絶者のそれぞれについて、どのような苦痛を感じるかを解説します。

 

求愛者は、自尊心を喪失します。自分は愛されるに足りない存在なんだと思い知らされるからです。

拒絶者は、罪悪感に苦しみます。拒絶者もまた求愛者たりうることから、断った相手が感じているであろう苦悩に共感してしまううえ、そもそも他者からの愛を拒絶することは、生来的な人間の所属欲求に反するからです。

本書では、拒絶者の苦しみについて、より多く解説をしています。例えば、愛の拒絶に際し、拒絶者はまず求愛者の情動に目を向けるのに対して、求愛者は自分の気持ちに焦点を当てがちで、拒絶者が抱く苦痛に意識が回らない、など。

 

続いて、告白の拒絶からしばらく時間が経った後では、片思い経験がどのように感じられるのか、論じられます。

いくつかの論点が挙げられますが、共通するのは求愛者と拒絶者で片思いエピソードへの評価がかなり異なることです。

 

求愛者は、ポジティブ・ネガティブ両方の感情を抱いています。失恋自体は悲しいことですが、関係性構築の段階、恋に燃え上がったことはむしろ楽しい思い出で、なかったことにしたい、忘れたいとは思いません。

拒絶者は、ネガティブな感情しか抱きません。望まない相手から注目される困惑、拒絶を通して求愛者に苦痛を与えたことへの罪悪感。綺麗さっぱり忘れてしまいたいとも思います。

 

これらのような、求愛者と拒絶者の間の非対称性も、ダークサイドの一つです。告白を断った後も何らかの関係が続くとしたら、拒絶者だけが一方的に苦痛を感じ続けることになります。

 

このほか、議論の前提として、恋愛の進展のあり方や、片思い状態が生じるパターンの整理など、ダークサイドとは直結しないものの、興味深い説が紹介されています。

 

 

拒絶者サイドの苦痛を描こう

本文中の端々で、「粘り強く愛を訴え続けることを推奨する風潮」の存在、そのせいで拒絶者側の苦痛が過小評価されている危険性をほのめかしています。

最初に「一般的な恋愛観」を挙げました。これはこの記事を書くために僕がしたためたもので、自分の中高時代を思い出しながら書きました。あくまでの僕が経験した、狭い世界での常識です。

しかし、玉砕覚悟で告白することを是とするまでは、どこでも共通している発想ではないでしょうか?

 

拒絶者側の苦痛は、確かに過小評価されていると思います。

さらにいえば、拒絶者側の苦痛を先取り共感して告白をためらう者の優しさもまた、「臆病」のひところで断じられており、正当な評価がなされていないのではと思います。

 

現実世界だけでなく、オタクコンテンツの中においても、告白を断る側の苦痛は軽視されているように思います。愛の拒絶はネガティブな行為であり、盛り上がりに水を差すことになりますし、愛を拒絶した後の苦痛も一般受けする要素ではないでしょうが、リアルな人間を描くためには必要ですし、一部には需要のある要素だと思います。。

 

つまるところ……二次創作で補完すべき要素なのかなと。

 

 

今回は「片思い」についてのみ紹介してみましたが、他の章でもオタクの好きそうな単語をみっちりと取り上げています。

俗にいう「ノンスマイル」「ダウナー交際」を真剣に考えるにあたり、大変参考になる一冊かなと思います。

 

もう一冊類書があるのですが、まだ積んでいます。読まなきゃ。

対人関係のダークサイド

対人関係のダークサイド