キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

カテゴリ: 公務員の生き様

地方公務員の給与水準に対する官民の印象には、埋め難い隔たりが存在します。
当の地方公務員は「安い」と嘆き、公務員以外は「高すぎる」と憤る…という構造です。

新型コロナウイルス感染症が流行し始めてからは、再び「高すぎる」という批判が強まってきました。
特に、人事院勧告の調査対象が「従業員50人以上」の企業だけという点を捉えて、
  • 公務員給与は大企業水準で設定されており、国民の大半を占める中小企業従業員の水準が反映されていない
  • ゆえに日本国民全体で見たら給与水準は間違いなくガタ落ちしているはずなのに、公務員給与の減少幅が不当に小さい、人事院勧告のあり方がおかしいせいで公務員は不当に得をしている
という批判を展開する方が多いように思います。

地方公務員の給与水準が民間と比べて高いのか低いのか、このブログでも何度か取り上げています。
なるべく統計数字を使って分析をしてみたところ、
  • 男性の場合、給料月額(基本給)は同年代の民間平均よりも安く、大卒地方公務員≒同年代の高卒民間従業員くらい。ボーナス込みの年収だとだいぶマシになるが、それでも民間平均よりも低い。
  • 女性の場合、同年代の民間企業従業員よりも恵まれている
  • 官民の差は、地域によって状況が違いそう

というところまでは見えてきました。




今回はさらに一歩踏み込んで、地域別・企業規模別で分析してみます。

算出方法

今回も「賃金構造基本統計調査」を使っていきます。

この統計調査から、都道府県別・年代別の民間企業従業員の平均年収を算出し、同年代の地方公務員年収と比較していきます。

この統計調査であれば、従業員規模10人以上という中小企業も含めた給与額が使えます。
公務員給与の高さに怒っている方々は、「地方公務員給与が高いのは、人事院勧告の調査対象が50人以上の大きくて裕福な企業だけだから」という叩き方をしてきます。
民間企業の中でも「上澄み」だけを比較対象にしていて、大多数のサラリーマンからはひどく乖離しているという主張です。

総務省の資料(リンク先エクセルファイルの「7−4」)によると、従業員10人規模以上の企業だけで、全雇用者の7割強を補足できるようです。
これなら「上澄み」のみならず民間企業従業者全体と比較できるはずです。


民間企業従業員の年収は、「きまって支給する現金給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」で算出しました。

地方公務員の年収は、賃金構造基本統計調査の対象と合わせ、給料(基本給)、時間外勤務手当、期末勤勉手当、地域手当を合算しています。

給料は、大卒ストレート(22歳)で入庁した職員が一般的ペースで昇給したと仮定し、民間統計の年齢帯の中間である27歳(5年目)で1級40号、32歳(10年目)で3級8号と設定しました。

10年目にもなると自治体間の差も広がりますし、同じ自治体の同期入庁職員どうしでも差が開いてくるので、まだ2級という方も少なくないでしょう。
ただ、あまり低く設定すると地方公務員側に有利な分析になってしまうので、あえて高めに設定しました。

残業時間は、総務省の「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査結果」中の都道府県職員の平均残業時間である12.5時間≒13時間、毎月残業すると想定し、13×12=156時間分の時間外勤務手当を盛り込んでいます。
時間外勤務手当単価は、所定内給与時給換算額×1.25で算出しました。

地域手当は、各都道府県の都道府県庁所在地の率を反映させています。
 
ボーナス(期末勤勉手当)は4.4か月分を計上しました。

男性……30歳以降はそこそこ

まずは男性から見ていきます。

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25〜29歳区分では、ほとんどの都道府県において、地方公務員より民間企業のほうが高水準です。
きちんと「従業員規模10人以上」まで集計対象を広げた結果がこれです。
「中小企業も含めた国民全体水準から見ると、地方公務員は不当に高給」という定番の批判は、少なくとも20代後半の男性職員に関しては、当てはまらないと言えるでしょう。

一方、30〜34歳区分では、半分強の地域で、地方公務員のほうが高水準になります。
地方公務員のほうが昇給ペースが早いので、徐々に差が縮まり、ついには逆転するのでしょう。
僕の体感的に「20代のうちは中小企業含めて民間より安いけど、30歳を過ぎると民間に引けをとらなくなる」という感覚だったのですが、どうやら間違っていなかったようです。安定昇給に平伏感謝。

地域別に見ると、やはり田舎ほど地方公務員のほうが優位に見えます。
意外なのが千葉県と埼玉県です。
千葉県民とか埼玉県民という括りだと決して公務員は高給取りではなさそうなのですが、「千葉・埼玉県内で働く人」という括りだと、相対的に公務員が優位に立てるようです。
地域手当がガッツリ支給されるのも大きそうです。

【閲覧注意】1,000人規模以上だと惨敗

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企業規模1,000人以上の大企業だけとの比較版も作ってみました。
こちらだと、沖縄県を除き地方公務員の惨敗です。 

しかも企業規模10人以上の場合とは異なり、25〜29歳区分から30〜34歳区分にかけて、官民乖離が縮まりません。
元々の給与水準も、昇給ペースでも、地方公務員は大企業に遠く及ばないのです。

女性……超強い地方公務員

続いて女性のデータを見ていきます。

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地方公務員の圧勝です。

民間のデータは産休・育休を挟んだせいで昇給が遅れた方の影響が反映されているはずなので、やや低めに出る(地方公務員のほうが高くなる)かもしれませんが、それでも地方公務員優位という結論は揺るがないでしょう。

1,000人以上でも引き続き優位

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従業員1,000人以上の企業とだけ比較しても、地方公務員の優位性は揺らぎません。
25〜29歳区分では負けている地域も半分弱ありますが、30〜34歳区分では完勝です。

やはり男性20代地方公務員の給与水準は低い

分析結果をまとめると、以下のようになります。
  • 男性の場合、25〜29歳区分では、中小企業を含めて比較しても、民間よりも地方公務員のほうが給与水準が低い。ただし30〜34歳区分では地方公務員のほうが高い地域が増える。
  • 男性の場合、従業員1,000人以上規模の大企業の給与水準には、年齢区分問わず遠く及ばない。
  • 女性の場合、中小企業を含めると、地方公務員のほうが高水準。従業員1,000人以上規模の大企業に限って比較しても、半分以上の地域で地方公務員のほうが高水準。

データ集計のため、ひたすらエクセルコピペ作業を約3時間ほど繰り返しました。
苦労した分、未知の新事実との邂逅を期待していたのですが……得られた結論はそんなに目新しくありません。
多くの地方公務員が抱いている「感覚」の正しさが定量的に証明された、とも言えるでしょう。

数字で見ると、女性の公務員志望者が増えているという報道が一気に現実味を帯びてきます。
給与水準が高く、産休・育休も充実、休暇後も復帰可……となると、少なくとも「金稼ぎの手段」としては、役所はかなり魅力的な職場に映るのでは?

一方で、バリバリ働ける男性にとっては、かなり損な職場とも言えそうです。
僕みたいに民間就活に失敗して公務員になったパターンならまだしも、民間就活やっていない若手職員にとっては、 同世代の民間サラリーマンはまさに「青い芝」に見えることでしょう。


地方公務員の給料月額(基本給)は、ちゃんと1年間出勤さえすれば、余程のことがない限り昇給します。
業務の難易度や忙しさ、人間関係など、役所という職場はとにかく「配属運」で全てが決まる環境ではありますが、昇給はほぼ平等です。

この「昇給の安定感」が、悪名高い「年功序列」につながっているだとか、個々人の業績が反映されなくて悪平等を引き起こしている……などなど賛否両論ありますが、自分みたいな無能寄りの人間にとっては非常にありがたい仕組みです。

しかし実のところ、地方公務員でも給料月額が下がるケースが存在します。
もちろん不祥事を起こして降格処分を食らえば下がりますが、こういう職員に過失があるパターンだけでなく、無過失どころか優秀なせいで減額されてしまうケースも実は存在します。

退職派遣に要注意

無過失の給料減額が発生しうるのは、外部機関に退職派遣されるときです。
退職派遣は、地方公務員を一旦離職して派遣先組織で改めて採用されるという出向形態で、第三セクターや独立行政法人、国への割愛派遣あたりでよく見られます。
 


外部機関への出向では、退職派遣のほかにも在籍型派遣があります。
在籍型のほうがメジャーです。自治体職員という立場のまま外部機関に出向するもので、給与は派遣元自治体が引き続き支払います。


退職派遣の場合、派遣期間中の給与は派遣先が負担します。
そのため、派遣されてきた職員にいくら支払うかは、基本的に派遣先が決めます。
派遣先が独自の基準で「値付け」するわけです。
 
極論、派遣先が「地方公務員経験なんて役に立たない」という考え方の組織であれば、経験年数を問わず初任給並みに設定しても問題ありません。

とはいえ職員側からすれば、人事異動の都合で一方的に退職派遣させられているわけで、派遣先の意向で給料を下げられてしまったら、当然ながら不満を抱きます。
そのため、なるべく自治体勤務と差がつかないよう、派遣元自治体の人事担当者が派遣先と調整しています。

結果的に、たいていの退職派遣では、職員の待遇は変わりません。

国だけは一味違う

ただし、国への退職派遣(割愛派遣)は事情が異なります。
ほぼ確実に自治体勤務時代よりも号級がダウンして、給料が下がるようです。
つい最近、某省への退職派遣から帰ってきた同期職員から聞きました。

彼が個人的に調べた限りでは、
  • 初任給水準+自治体勤務年数×4号ベースが上限、たいていもっと低い
  • 自治体勤務年数しかカウントされないっぽい(民間勤務あり中途入庁者は異様に安い)
  • 自治体勤務時代の特別昇給(6号・8号昇給)は当然考慮されない

あたりの法則性が存在するっぽい……とのことでした。

彼いわく、退職派遣職員の給料水準(号級)はベテランプロパー職員の方々すら把握できていない暗部。どうやって決められているかも謎ですし、同じ年齢・経験年数の職員どうしでも着任時点で差が開いているとのこと。
(もし近日中に弊ブログが消滅したら、この闇に触れてしまったせいだと思ってください)

職場都合で派遣される以上、ちゃんと現給保証されてるのかと思いきや、まさか個々に値付けされてるとは……恐ろしいところです。

ただ、たとえ給料が下がるとはいえ、本省勤務であれば地域手当がたんまり支給されます。
僕の同期のケースでは、給料自体は3万円ほど下がったものの、地域手当が5万円ほど支給されたので、給与トータルではプラスだったとのことでした。

ただ、地域手当の恩恵を受けられないパターン、例えば
  • もともと地域手当がしっかり支給されている都市部自治体から本省に派遣される場合
  • 同一県内の地方局に派遣される場合
であれば、泣き寝入りするしかありません。

減給リスクを背負うのは高評価職員だけ、閑職はむしろ守られる

退職派遣にしろ研修派遣にしろ、国に出向する職員は、自治体組織の中でも高く評価されている職員だけです。
つまり、高評価な職員は「退職派遣で号級ダウン」という減給リスクに晒される一方、反対に僕みたいな閑職は減給とは無縁でいられるわけです。

評価が低い職員ほど減給リスクが高そうな気がしますが、実際は真逆なのです。


インターネット上には、地方公務員の本省出向について解説している記事がたくさん存在しており、研修派遣と退職派遣(割愛)の差にも多く触れられています。
しかし、「割愛だと給料が下がる」という情報は全然見当たりません。
ひょっとしたら僕の同期が出向した省庁だけのイレギュラー運用なのかもしれません……

そもそも退職派遣自体、研修生としての出向よりもレアケースですし、心配するほどのリスクではないと思います。

地方公務員志望者の中には、「プライベートを充実させたいから」というモチベーションの方も少なからずいらっしゃるでしょう。

実際、現役地方公務員にもこういう意識の方は大勢います。
歳をとるにつれて「(個人的な)プライベート充実」から「家庭生活充実」へと変質していくとはいえ、「オフを充実させたい」という基本的路線には変わりありません。
主権者たる国民からはお叱りを受けそうですが……

ただし、このブログでも散々書いているとおり、地方公務員のプライペートには色々制約が課せられます。
せっかく趣味を楽しむために地方公務員になったとしても、趣味によっては、この制約のために諦めざるを得ないかもしれません。 

とにかく「無難」を強いられるファッション

地方公務員だから楽しめない趣味の最たるものがファッションだと思います。 

職員の身なりに関する住民からの苦情は本当に多いです。
派手な格好をしていると当然怒られますが、かといって地味すぎても怒られます。
僕がかつて観光関係の仕事をしていた頃、「人前に出る仕事なんだから整髪料くらいつけろ」と怒られたことがあります。

服装のせいでお叱りを受けて仕事が止まってしまうのは、明らかに時間の無駄です。
住民の「お気持ち」は如何ともし難いので、苦情防止のためには職員側が自衛する、つまり派手すぎすダサすぎない「無難な格好」をするしかありません。

もちろん休日は好きな服を着ていいのですが、自分の身体は平日であれ休日であれ急には変えられません。
そのため、ファッションにおいて重要である「髪型」が厳しく制限されます。

女性であれば、ヘアカラーは黒か、染めるにしてもダークブラウンくらいです。
明るい色にはできませんし、メッシュ入れたりも不可です。
男性は黒一択、かつ長髪は確実に駄目です。 あとはツーブロックもNGな自治体が結構あるようです。
ちなみに僕は「もみあげが長すぎる」と叱られたことがあります。ブラック校則よりも細かいのでは?

女性の場合、手指のネイルも楽しめないでしょう。
ネイルアート自体は休日だけ(平日は落とす)にしても、土台となる爪そのものが長い時点でNGです。 
 
僕はキモオタク独身異常男性なので、ファッションは全く詳しくありません。
外見的にすぐわかる事例しか挙げられないのですが、ほかにも色々と制約があるのだろうと思われます。
ビジネスカジュアルマニアでもない限り、思い通りファッションを楽しむのは難しそうです。


長期休暇が取れないので近場しか旅行できない

細かい休みは取得しやすいものの、長期休暇は取りづらいのが地方公務員です。

地方公務員(特に本庁)の仕事はチームではなく個人技が基本です。
職員ごとに細かく担当業務が分かれており、一人でも欠けるとフォローしきれません。

そのため、「平日に連続して休暇をとる」ことへの強い抵抗感が染み付いています。
もし休んでいる間に担当業務で突発案件が舞い込んできたら、組織全体に迷惑がかかるからです。

僕の勤務先県庁だと、よほどの事情が無い限り、年休取得は週あたり2日が限度です。
お盆や年末年始を除けば、最長でも土日含めて4連休が限界でしょう。
ちなみに、ゴールデンウィークには期待しないほうがいいです。
暦通り休めたらラッキーなほうで、休日出勤せざるを得ないケースも少なくありません。
(ちなみに僕の場合、本庁勤務していた8年間、毎年1〜2日は休日出勤していました)



長期休暇を取れないとなると、長期の旅行、特に海外旅行ができません。
せいぜい3泊4日が限界でしょう。
台湾のような近場なら問題ないでしょうが、移動だけで時間を要するヨーロッパや南半球への旅行は、かなり難しくなります。

職務専念義務のために何であっても売れない

地方公務員には職務専念義務があり、営利活動は禁止されています。
地方公務員は地方公務員法38条により営利活動を制限されています。 
「営利活動」にはいろいろな解釈があるようですが、基本的に「売上が生じる活動は全部駄目」です。
つまり、売上以上に経費がかかっていて利益的にはマイナスであったとしても駄目です。

このため地方公務員は、フリーマーケットで手作り雑貨を売ったり、同人誌を頒布することができません。
 
最近は何でもかんでも「副業」に括られて収益面ばかりが注目されがちですが、こういった活動はそもそも「作ることが楽しい」ものです。
僕もクリエイターとしては傍流の端くれですが、この気持ちはよくわかります。

モノを作るとなると、どうしても経費がかかります。
そこで「対価をとって経費を回収したい」と思うのであり、儲けのためにやっているわけではありません。
しかし地方公務員は、この「経費回収のための売上」が許されていません。

こっそりやっていればバレなさそうなのですが、実際のところ結構バレています。
僕の勤務先県庁でも定期的に発覚しています。
実例を挙げるのは避けますが、恐ろしいくらいにあっさり特定されてしまうようです。
 
僕も実は既に特定されていて、無収益だから放置されているだけなのかもしれません……


地方公務員人生と相性が良いのは、細々と続けていくタイプの趣味でしょう。
高確率で土日は休めますし、平日もそれほど夜遅くなるわけではないので、「毎日20分」とか「週1回」みたいな、細切れの時間は確保できます。


「地方公務員は『稼ぐ力』が無いから駄目人間だ」という批判とは、リアルでもインターネット上でも頻繁に遭遇します。
住民からの苦情では「税金泥棒」と同じようなニュアンスで使われますし、何より地方公務員自身が自戒を込めてよくこのように評しています。

実際、地方公務員の稼ぐ力はかなり貧弱でしょう。
少なくとも、どれだけ役所で頑張って働いたとしても「稼ぐ力」は身につきません。
もし「稼げる地方公務員」がいたとしたら、役所に就職する前から素養があったか、業務外に自主的に訓練したのでしょう。

ただ僕は、地方公務員には、必ずしも「稼ぐ力」が必要だとは思いません。
途中で退職して転職するのであれば別ですが、地方公務員として職業人生を全うするのであれば、「稼ぐ力」よりも優先して伸ばすべき能力がたくさんあるような気がしてならないのです。

そもそも営利活動に従事していないから必要ない

「稼ぐ力」とは利益を獲得するための能力群であり、握力のように単体で測定できるようなものではなく、「学力」や「モテ度」のようにいろいろな構成要素から成る複合的な評価軸です。

事業を営んだり、民間企業に従事する場合のように、利益を追求する場面で活躍するスキルセットです。

改めて言うほどのことではありませんが、役所はそもそも、営利を追求するための組織ではありません
貧者救済のような営利活動とは無関係な事業もあれば、環境法令による規制のように営利活動を妨害する事業すらあります。


役所の仕事の中には、観光施設の運営のような営利活動っぽい事業も確かにあります。
ただ、こういった事業の従事者はごく限られていますし、民間のように完全営利目的で運営できるわけではありません。
「採算は取れないけど、行政だからやる」みたいな業務がたくさんあります。 

役所で働く地方公務員のほどんどは、営利活動に従事しているわけではありません。
そのため「稼ぐ力」を発揮する機会もありませんし、能力としても求められないのです。

「稼ぐ力」よりも重要な要素がたくさんある

「稼ぐ力」という能力群にはいろいろな要素が含まれているとはいえ、人間の能力を全て網羅しているわけではありません。
公務員としての役割を果たすには、「稼ぐ力」には含まれない、別群の要素のほうが重要でしょう。

特に役所は「誰からも攻撃される」という特異な存在であり、何よりまずは防御を固めないとまともに活動できません。
そのため地方公務員には、あらゆる角度から攻撃リスクを検討して未然防止する「予見力」、攻撃されたらすぐに対策して被害を最小限に抑える「火消し力」といった防御に関する能力が欠かせません。
こういった要素は「稼ぐ力」には含まれていないのではないかと思います。

方向性の違い

「稼ぐ力」に含まれている要素であっても、地方公務員稼業においては求められる方向性が異なるケースも多々あると思われます。

例えば「文章力」。
稼ぐための文章力といえばセールスライティング、つまり多くの人を引きつけて納得・共感させてアクションを起こさせることが重要と言われます。

一方、地方公務員に必要な文章力は、漏れがなく一義的であることです。
読み手に誤解を与えないこと、悪意ある恣意的解釈を許さないことが重要です。

地方公務員が書く文章は、「稼ぐ」という観点から見れば零点です。
同時に、セールスライティングの名文も、役所の文章としては全然使えません。
 
同じ「文章」であっても、求められる要素が全然異なります。
求められる要素が異なるゆえに、求められる能力も異なってくるのです。

稼げないからといって劣等感に囚われる必要は無い

役所は資本主義社会の単なる一参加者ではなく、資本主義に歯止めをかけるという独自の役割を担っています。
その独自の役割を機能させるのが地方公務員の使命です。

現在の資本主義社会において、「稼ぐ力」が重要なパラメーターであることは間違いありません。
ただし地方公務員は、資本主義社会におけるプレイヤーではありますが、民間の方とは異なる役割が与えられています。
そして、役割が異なれば必要な能力も異なる、つまり地方公務員には「稼ぐ力」が備わっていなくとも問題はないはずです。


資本主義というメジャーな価値観に抗えるほど行政は強くなく、「地方公務員は『稼ぐ力』が無いから駄目人間」という批判は今後も止まないでしょう。

地方公務員としての基本的素養を身につけたうえで、さらに「稼ぐ力」を上乗せするのであれば問題ない(むしろ望ましい)と思います。
しかし、「稼ぐ力」コンプレックスにとらわれるあまり、(世間一般の認識のように)地方公務員という職業自体を卑下するようになると、その先には不幸が待っています。
自己否定からの自己肯定感ロストのコンボです。

「稼げなくとも重要な役割を担っているはず」と理解するのが、精神衛生上も無難かと思います。

このブログの読者層にとっては公然の事実でしょうが、公立学校教員には残業代が支給されません。
代わりに「教員調整手当」なる手当が支給されていますが、大した額ではありません。

公立学校教員に残業代を支給すべきか否かは、定期的に話題になります。
ただ支給賛成派も反対派も感情論に終始している感じがして、具体的な金額はあまり論じられていない気がしています。

特に「もし支給されることになったら、国全体でどれくらいの財政負担が生じるのか」というマクロな数字は見覚えがありませんし、インターネットで検索してみても全然ヒットしません。
 
というわけでざっくり試算してみました。

年間1.8兆円!?

計算方法は、以前の記事で「年齢別の年収」を作った際の方法をアレンジしています。

まずは総務省「給与実態調査」を使って「経験年数ごとの人数」と「経験年数ごとの残業代単価」を算出します。
管理職はそもそも残業代の対象外なので、人数からは差し引きます。

「経験年数ごとの残業代単価」に「残業時間」を乗じて「1人あたり残業代」を算出し、最後に「経験年数ごとの人数」を乗じて、国全体のマクロな残業代を求めていきます。

ビジュアル用(教員残業)

その結果、小中学校分で約1.4兆円、高校分で約0.4兆円、合計約1.8兆円というとんでもない数字になってしまいました。

1.8兆円というと最早感覚が全然つかめません。
そこで自治体の予算規模と比較してみたところ、令和3年度の宮城県の総予算額(一般会計+特別会計)がだいたい1.5兆円と結構近い額になりました。

教員の残業代だけでそこそこ大きい県の予算規模を余裕で超えると理解すればいいと思います。

どこかでミスった?

我ながら信用できない数字が生まれてしまいました。

僕が使った「人数」には、産休などで休んでいて残業するわけない人も一部含まれていると思われるので、上振れしているのかもしれません。
とはいえ休日出勤分の時間外手当割増を考慮せず「一律25%加算」で計算しているので、下振れする要素もあります。

とりあえず「約1.8兆円」は正しいとして、どうしてこんなに高くなるのかを考えていきます。


残業時間が長い

残業時間は年間1,000時間という設定です。
月あたりに換算するとだいたい85時間。
事務職地方公務員だと相当なハードなほうです。

こんな長時間労働が蔓延しているとは思いたくないのですが、公表データを使うとこの結果になりました。

年間1000時間は、「週あたり21時間15分」 × 「48週間」=1008時間 ≒ 1000時間という流れで算出しています。

「週あたり21時間15分」 の出典は、文部科学省が実施した「教員勤務実態調査」です。
この中で「週あたりの勤務時間は、小学校だと55〜60時間、中学校だと60〜65時間の層が一番多い」との記述があることから、間をとって60時間に設定しました。

60時間から、定時勤務時間である38時間45分を差し引いて、週あたり残業時間である21時間15分を算出しました。

スクリーンショット 2021-10-30 11.46.52(2)

僕が恣意的に残業時間を長めに設定しているわけではなく、実態調査の結果「事務職地方公務員だと上位数%レベルの長時間労働が当たり前」と設定せざるを得ないのです。

人数が多い

総務省の資料(PDFへのリンクです、30ページ参照)によると、公立学校の教員は全国でだいたい85万人くらいいます。
一般事務職員(約76万人)よりも多いです。
人数が多いために、全国総額も大きくなります。

公務員の残業代支給の適正化といえば、「本省勤務の国家公務員」が真っ先に思い当たります。
「暗黙の了解事項だった本省のサビ残が改善されたんだから、教員も改善を!」という主張を見かけますが、本省勤務職員と教員だと人数があまりに違いすぎます。

一人あたりの不払い残業代という意味では、教員よりも本省職員のほうが大きいかもしれませんが、全国総額で考えると桁違いのインパクトがあるでしょう。


触れないほうがいい

正確な金額は置いといて……教員の時間外勤務手当をきちんと支給すると凄まじい財政負担が発生するのは、間違いないと思います。
「一人あたりの残業時間」も半端ないですし、「教員の数」も半端ないのです。

ざっくり試算してみて、誰も真剣に全国マクロの金額を推計しない理由がわかりました。
途方も無い金額になるせいで、国民の理解を到底得られないからなのでしょう。

「毎月80時間も残業している」までなら同情を誘えるでしょうが、「現状を改善するには〇〇兆円必要です」という情報が加わると、途端に国民の反応が変わり、世論は教員叩きに流れると思います。
「そもそも働き方が悪い」「人材の質が落ちている」みたいな。
残業代についての問題提起が、かえって自らの首を締めてしまいかねないのです。

当面はとにかく、残業代支給については触れずに、教員の労働時間を減らす方向しか取れないのだと思います。


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