キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

カテゴリ: 公務員の生き様


毎年2月恒例、人事異動の噂話に花を咲かせつつ、夜な夜な予算業務の後始末と議会対応に明け暮れる日々を過ごしています。こういう時間を「無駄だ」と一蹴する人は地方公務員向いてないんだろうなと思います。僕は好きです。


敗北を認めることがスタート

高知県 “賢い縮小”人口減見越した社会目指す 当初予算案提出



県レベルの戦略で「いかに縮小させるか」を考えていること、より正確に言えば縮小を前提にした施策が許容されることに感動を覚えました。

これまでの役所界隈では、地域社会の縮小を是認するのはタブーだったと思います。
ゆえに、無駄金だと誰もが思いつつも、移住促進や子育て支援、よくわからない複合施設の整備、目新しさだけが売りの集客イベントのような、実らない施策に取り組まざるをえない、暗黙の強制力のようなものがありました。
ヒトモノカネ全てのリソースが減っていくのに「今後ますます発展していきます」という虚勢を張らざるをえないという空気が、本当に気持ち悪かったです。

「地方創生」なんかよりも「賢い縮小」こそ、今の地方自治体に必要な発想だと思います。

相次ぐ賃下げ(理由は色々)

八街市、財政難で職員の給与削減方針 次年度に若手除き半数が対象、特別職も



新庁舎整備のため職員らの給与を5年間減額…市長は30~20%、年間約5500万円の財源確保




来年度予算で給与カットをキメる自治体がちらほら出てきました。
やはり昨年の人事院勧告のプラス改定が強烈すぎたのでしょうか……

昨年の人事院勧告には、「若手の賃上げ」という目的がありました。
この目的を具体化するためには、低い号給ほど賃上げ幅を大きくすることになります。地方公務員の給料は年功序列で決まっており、若手ほど号給は低いからです。
そのため、「低い号給ほど賃上げ幅を大きくする」という対応で、「若手の賃上げ」という目的はきちんと達成されます。

このような措置は、別の見方をすると、若手職員に限らず「低い号給の職員」は誰でも手厚く賃上げがなされたともいえます。
例えば再任用職員や会計年度任用職員の方々です。これらの方々は、年齢に関係なく低い号給が適用されており、若手職員と同じく大幅な賃上げを享受しています。
例えば僕の勤務先県庁では、僕(30代半ば)よりも、会計年度任用職員や再任用職員の方々のほうが、金額では3倍、率では5倍ほど大きいです。

全国の自治体ではこれまで、正規職員を非正規職員(会計年度任用職員)に置き換えることで、人件費を削減してきました。
しかし今回の人事院勧告では、低い号給ほど賃上げ幅が大きくなったために、会計年度任用職員の人件費が大幅に増えることになりました。
特に、都道府県よりも会計年度任用職員の比率が大きい市町村ほど、給料プラス改定による財政負担増加が著しいのだと思われます。

給与のプラス改定がいつまで続くのかはわかりませんが、給与カットする自治体はこれからも増えていくのではないかと思います。

正直なところ、僕はある程度の給与カットは仕方ないと思っています。
ただし、「行政サービスの質も量も縮減してもなお財政が厳しいから、給与カットせざるを得ない」という前提がある場合に限ります。
島根県太田市のように、新しい施策を行うための財源として給与カットするのは論外です。

前掲の新聞記事を読んで「やべー!!」と思ったのは、「新庁舎整備のために給与カット」という判断よりも、市長のコメントです。


楫野市長は「財政が厳しい中、職員らに協力を呼び掛けて理解を得た。給与カットと併せて、様々な補助事業や有利な起債も活用していく」と話した。
【読売新聞】新庁舎整備のため職員らの給与を5年間減額…市長は30~20%、年間約5500万円の財源確保
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20250219-OYO1T50025/

この言いぶりだと、主な財源調達手段は「給与カット」で、従たる手段が「補助事業や有利な起債」という趣旨になります。
普通、逆ではないでしょうか?
補助や起債を駆使したうえで財源が不足するのなら、その事業は背伸びしすぎなのであって、見直して縮小するべきです。
それでもどうしてもやらざるを得ない場合に限り、給与カットで財源捻出するという流れではないでしょうか……

地方公務員界隈のみならず、世間一般の関心も高いようです。
僕の課で来年度から始まる新規事業があり、つい先日新聞報道されたところ、さっそくご意見の電話(大半が苦情、無駄だから止めろという趣旨)が何件か入っているのですが、電話主たちが「この事業のためにどれだけ給与カットするのか」と問いただしてくるんですよね。
「新規事業の財源を給与カットで捻出」という発想が早くも浸透してるのではないかと不安になります。

地方公務員が「ブログで稼ぐ」のは違法っぽい

北海道の31歳女性職員「人気が出てしまい報酬を…」ネットショッピングの商品評価をSNS投稿し34万円報酬得る 匿名通報で発覚 減給の懲戒処分




地方公務員の副業に関してルールが整備されてくるにつれて、長らくグレーゾーンだった部分が徐々に白黒はっきりしてきています。
今回報道されたのはアフィリエイト収入です。
商品のレビューを投稿して収入を得るケースは違反だと判断され、減給の懲戒処分が下りました。

しかも、許可を得ていないからアウト(得ていればセーフ)というわけではなく、「申請があっても認められない事案」とのこと。
つまり、「地方公務員はアフィリエイト収入NG」という前例ができたわけです。

副業として認めるか否かは、各自治体の判断です。北海道庁では「アフィリエイト収入NG」という判断になりましたが、他の自治体では認められる可能性はあります。
とはいえ役所は先例を重んじる組織なので、この事例が参照され、「アフィはダメ」と判断する自治体が多数派になるのではと思います。

スエゾー

来庁者からつば、市職員がビンタ 加賀市、和解に10万円



顔に向かって唾を吐くのって結構難しくて、勢いよく吐き出したつもりでも重力に負けて相手まで届かないことが多いんですよね(経験談、もちろん吐かれた側です)。
息巻いて唾を吐き飛ばしたのに、床や机に墜落してしまった後のなんともいえない微妙な空気。地方公務員ならではの貴重な経験だと思うので、一度は体験してみてほしいです。

この来庁者の方はきっと慣れてるんだと思います。


本ブログのアクセス数には明確に周期があり、毎年3月にピークを迎えます。
Googleアナリティクスによると、1月~4月にかけて20代前半のアクセス数が激増しており、4月から働き始める新規採用職員予備軍の方々が本ブログを読んでくれているのだろうと思われます。

就業を控えたこの時期は、多くの人が不安を感じるものです。
僕自身も俗にいう「内定ブルー」みたいな状態になっていて、ひたすらアニメを見て気を紛らわせていました。

数か月後に生活が激変するのは確実なのに、準備しようがないというもどかしさ。
できることといえば、情報収集くらいでしょうか。
もどかしさのあまり、本ブログみたいな信憑性の疑わしい情報すら目を通してしまうんですよね……

勤務開始目前の方々にとっての最大の関心事は、自分の配属先だと思います。
地方公務員界隈で「配属ガチャ」という言葉が罷り通っているとおり、どこに配属されるか発表まで全然わかりませんし、当たり外れの差も大きいです。

地方公務員人生には人事異動がつきもので、初任の配属先に骨を埋めるわけではありません。どうせ数年で別の仕事をすることになります。
全然興味が無い分野に配属されたとしても、数年我慢すればいいだけです。
逆に、希望する部署に行けたとしても、その幸運は数年限りです。

しかしそれでも、地方公務員人生における最初の配属先の影響は非常に大きいと思います。
業務内容はさておき、地方公務員という職業や、役所という職場に対する好き嫌いは、最初の職場での経験でかなり決まってくるからです。

初任配属先の業務内容や雰囲気、人間関係が合わなかったために、採用1年目にして仕事への意欲を失う職員は少なくありません。
意欲を失う程度ならまだマシなほうで、心身を壊して休職したり退職してしまう人もいるくらいです。

反対に、採用直後は全然やる気が無かったのに、周囲に感化されてモチベーションが上がったり、能力を開花させる人もいます。
僕自身、そこそこ楽しく地方公務員稼業を続けられているのは、初任の配属先がいいところだったからだったと思います。

また、役所を見限って転職するにしても、最初の配属先での経験を「自分の強み」としてPRしていかなければいけません。
転職活動の成否すらも、最初の配属先にかかっていると言えるでしょう。

では、実際に新規採用職員にとって働きやすく、キャリアにとっても有益な「当たり部署」とはどのようなものか。僕の経験をもとに、独断と偏見で考察してみます。

人数が多い

僕が最も重要だと思う要素は、配属先部署の正規職員数です。
初任の配属先は、正規職員が多ければ多いほうが良いと思います。

より正確にいうと、正規職員が少ない職場は心身の健康を損なうリスクが比較的大きく、最初の職場としてはなかなか厳しいと思います。

職員数の少ない職場は、人間関係も狭くなりがちで、一人でもやばい職員(パワハラ野郎など)がいると、その人の雰囲気に吞み込まれます。
分母が少ない分、全員に占めるやばい職員の影響力がどうしても強くなってしまうんですよね。

人数が多い職場であれば、善良な職員たちで集まって別コミュニティを作ってお互いを守りあうことが可能ですが、少人数職場ではこういう対処が難しいです。


加えて、何らかの事情で急に職場全体の仕事量が増えた場合や、職員が減ってしまった場合に、職員数が少ないと負担の分散ができません。

年度途中で急に業務が増えるケースは多々あります。
  • 首長や議員の発案で新規事業を立ち上げることになった
  • クレーマーに目をつけられて連日大量の公文書開示請求が舞い込んできた
  • 制度改正があった
  • 訴訟を起こされた
などなど、現役地方公務員の方であればどれか一つは経験があると思います。

このような事態が生じた際に、人数の多い職場であれば複数人で分担できますが、少人数の職場だと一人で対応する羽目になりがちです。
もっとシンプルに、分母となる職員数が少ないので1人あたりの負担増が大きいともいえるでしょう。

年度途中で職員が減ってしまった場合も同様です。
同僚が心身を病んで休職してしまったものの補充されず、欠員状態のまま年度末まで仕事を回すという事態はもとから常態化していますし、最近では若手職員がいきなり退職するケースも出てきました。
こうした場合、いなくなった職員の分の仕事を他の職員が引き継ぐことになります。
職員数が少ないほど、1人あたりの引継分が多くなり、負担が増えることになります。


役所内ルールを執行する仕事

業務内容では、庶務や部局内調整のような、役所内ルールを執行する仕事が「当たり」だと思います。

役所にはいろんなルールや作法があります。
代表的なものとして、会計経理や議会答弁の作成、契約手続き、補助金の交付手続きなどが挙げられます。
こういった業務にはマニュアルが用意されており、ある程度の年次になると『知っていて当然』とされますが、実際に担当しなければ細かな手続きを理解することは難しいものです。
早い段階でこれらの知識を身につけておくことは、公務員としてのキャリアを築く上で大きな助けとなるでしょう。

また、こうした行政の内部ルールを知っていることは、民間企業への転職においても強みになりえます。
近年、行政の業務を外部に委託するケースが増えており、役所内部の実務に精通した人材は、民間企業にとっても貴重な存在です。
例えば、役所相手のコンサルティング業務や、公共事業のプロポーザル参加など、行政経験を活かせる分野は少なくありません。

さらに、内部ルールの執行は、単なる事務作業ではなく組織運営の一環とも言えます。
転職活動の際には「マネジメント経験」としてアピールできるでしょう。
実際に、僕が過去に転職活動を試行した際も、エージェントからは「組織の管理に関わる経験があるか」と問われました。営業や経理のような実務スキルを持っていない地方公務員をあえて採用する場合、企業側はきっと「組織を動かす能力」を期待するのだろうと思います。

結局は人間関係

ここまで色々書いてきましたが、結局は人間関係が全てだと思います。
正直どこの部署であれ、新人の担当する仕事は大差ありません。




二地域居住は「手段」であって「目的」ではないのでは



若手国家公務員の二拠点居住を支援して、「国の職員が中小規模の市町村を副業的に支える仕組み」を構築するとのこと。
市町村にとってはありがたい施策のように見えますが、一方で国(省庁)や国家公務員側には全くメリットが無さそうで、実際に制度が始まっても利用者はごくわずかだろうなと思いました。

まず、自宅のほかに拠点を持つとなると、かなりお金がかかります。
いくら支援があろうと、全額補填されることはさすがに無いと思います。自腹を切らざるをえないでしょう。

さらに、市町村のお世話をする時間に対し、対価がちゃんと支払われれるのか危ういです。
「副業的」という書き方をして、ちゃんと報酬が出るような仄めかしはしていますが、自治体の現場を見ていると、報酬を払うまでのハードルはかなり高いと思います。
市町村の財政事情は常時厳しいですし、何より「公務員の副業に対して公金を支出する」ことに住民が賛同するとは思えません。いかにも地元メディアが叩いてきそうです。

つまるところ、ただでさえ超激務な国家公務員が、貴重な余暇と身銭を切って、さらに叩かれるリスクまで背負って、わざわざ市町村の支援に行くのだろうか……と思われて仕方ないのです。

国家公務員側にメリットがあるとすれば、転職に役立つかもしれないという点でしょうか。
自らの知見に基づいてコンサル的な活動をした実績が作れるので、転職市場での市場価値は上がるんじゃないかと思います。

そもそも、市町村の伴走支援は都道府県庁の役割のはずなんですが、すっかりスルーされているのが面白いですね。
国としても地方公務員の人材劣化(都道府県庁職員では市町村のサポート役は到底務まらない)を実感しているということなのでしょうか。

実際に地方公務員を大規模削減したらどうなるんだろうか



トランプ大統領が「政府職員を大幅削減する」と表明して以来、ネット上では「日本も公務員を減らすべき」との大合唱が続いています。
ほとんどの人は公務員叩き&ディスりの観点で「もっと減らせ」と主張していますが、中には「これから労働人口が減っていくんだから、真に人手が必要な業界とか成長分野に人を回すべき」との意見も見られます。この意見、僕は至極ごもっともだと思います。

役所の人手が足りないのは事実です。現在進行形で新しい仕事がどんどん増える中で、公務員を減らしたら、行政サービスの水準は間違いなく劣化するでしょう。
しかし世の中には、行政サービスよりも必要性の高い民間サービスがたくさんあります。例えば物流あたりでしょうか。
これからどんどん労働人口が減っていく中、役所よりもこういう業界に人を回したほうがいいと思います。

さらに、人材の質という意味でも、役所よりも優先すべき業界が多くあると思います。
そもそも民主主義というシステムを採っている以上、公務員はあくまでも主権者の道具、主権者が決めたことを粛々と実行する役割にすぎません。
ゆえに、(総体としての)主権者よりも賢い人が公務員になろうとも、その知性は埋もれます。主権者の意思決定に意見具申すらできないからです。
つまり、一般国民よりも優秀な人材が公務員になっても、その優秀さを全然発揮できないのです。

地方公務員界隈では「優秀な人材ほど役所を辞めていく」という嘆き節が後を絶ちませんが、これは一種の社会の自浄作用なのではないかとすら思えてきました。
民間企業でもやっていける優秀な人材はどんどん民間に流出していったほうが、社会全体にとってはきっと良いのでしょう。

そうなるともちろん行政サービスは劣化していきますが、もはや仕方ないと僕は思います。
劣化させてはいけないサービス(消防や警察)はなんとかして維持、それ以外は計画的に縮小・撤退していくのが、僕世代の自治体職員の責務なのだろうと思います。

クレーマーの喜びを垣間見た

普段は全くテレビを見ない僕ですが、1月27日のフジテレビの記者会見は視聴しました
僕はフジテレビに対して個人的な恨みがあります。以前とある部署でフジテレビのニュース番組から取材を受けたのですが、スタッフから無茶ぶりをされたうえ、オーダー通り対応したのに散々罵倒されたからです。
(フジテレビの名誉のために断っておくと、他のキー局からも同じような奴隷的扱いを受けた経験あり)

経営陣がしどろもどろに答える様子は、正直とても面白かったです。
いけ好かない連中が追及され、狼狽する姿を眺めるのは、ある種の溜飲が下がる思いでした。

しかし僕は途中で視聴を止めました。
フジテレビ経営陣が罵倒され詰られる様を面白がる心理は、公務員叩き&ディスりに励むクレーマー達と酷似していることに気づいたからです。

記者会見を見ながら愉快な気分になっていた自分は、彼ら彼女と何が違うのか。
安全圏から他者を叩くことの快感に、無意識のうちに囚われていたのではないか。
そう思ったとき、急に自分が怖くなり、視聴を止めたのです。

同時に、公務員に対する一般的な住民感情(=漠然とした反感や敵意)の正体を垣間見たような気もしました。
僕がフジテレビを好いていないように、多くの住民もまた公務員を好いていません。
そして、好いていない相手が追い詰められていると、たまらなく嬉しくなる──まさに僕が感じたのと同じ構図です。

「公務員叩き」が一大コンテンツとして長く愛されている理由がようやくわかりました。
国民の大半に刺さって、全国津々浦々から新鮮なネタが提供されてくるわけです。
コンテンツ制作者にしても、コンテンツを配信するメディアにしても、本当に便利なのだろうと推察します。

役所は日々、いろんな施策を実施していますが、堂々と「成功した」とアピールできる施策は多くありません。
マスコミからの取材や議会の質問で「施策の成果」を問われた際に、数字をいじくりまわしたり、それっぽい日本語表現を繕ったりして、半ば無理やりに答えを絞り出した経験のある人も多いと思います。

従前より、地方公務員を辞める人の多くは、「仕事にやりがいが無い」と語ってきました。
「やりがいが無い」と感じる理由の一つが、「成功体験を得られない」せいなのではないかと、僕は思っています。

特に若手職員は、SNSなどで同世代がどんどん成功を収めている姿が嫌でも目に入り、隣の芝が青く見えていくと同時に、自分の仕事に価値を見出せなくなっていくのでしょう。
「どれだけ頑張っても成果を出せないような仕事に従事するのは人生の無駄だし、自分のキャリアを閉ざすことになるのでは?」という危機感が、彼ら彼女らを転職活動に駆り立てているのではないかと思われるのです。

職員の自尊心維持のためにも、若手職員の離職防止のためにも、小さなことでもいいので成功体験を積ませることが大事なのだろうと思うのですが……役所の仕事は本当に成果を出しづらいです。

その理由の一つに、世の中の大きな流れ、いわゆる「メガトレンド」に逆らう仕事が多いことが挙げられると思います。

役所にとって「変化」≒「危機」

メガトレンドとは、辞書的には「時代の大きな流れ、趨勢」のことを指します。


本稿ではやや意味を限定して、「世代や地域にかかわらず、あらゆる人に影響を及ぼす、社会全体の大きな流れ」という意味で用います。
具体例を挙げると、少子化や地球温暖化、都市部への人口流出、デジタル化……などです。

こういったメガトレンドは、日常生活はもちろんのこと、仕事にも大きく影響します。
民間も役所も同様です。メガトレンドから逃れることはできません。

ただ、メガトレンドへの対応は、民間と行政では全く異なります。

民間企業は、メガトレンドをチャンスと捉えます。
メガトレンドにうまく乗っかって、自社の利益拡大を図ります。

一方、役所の場合、メガトレンドはピンチにほかなりません。
メガトレンドそのものを止めようとしたり、メガトレンドの影響を極小化しようと試みます。

パッと思いついた具体例をいくつか掲載します。
メガトレンド事例

だいたいのメガトレンドで、民間では「乗じる」、行政では「逆らう」スタンスを採っていると思います。
地球温暖化だけは例外で、民間も行政も「逆らう」方向です。


川下りと沢登り、大変なのはどっち?

メガトレンドに「乗じる」戦略と、メガトレンドに「逆らう」戦略。
成果が出やすいのは、もちろん前者です。
メガトレンドは、簡単には止められないからこそメガトレンドなのであり、戦略実行の難易度や費用対効果を合理的に考えると、メガトレンドには乗るしかありません。

メガトレンドに逆らう戦略を採る行政は、最初から「負け戦」に臨んでいるのだと言っても、過言ではないと思います。

もちろん、行政がメガトレンドに逆らう戦略を採るのには理由があります。
メガトレンドによって「困る人」がいるからです。

中長期的にはメガトレンドを受け入れたほうが皆幸せになれる可能性が極めて高い状況であれ、現下に困っている人がいるならメガトレンドに逆らわなければいけない……これが民主主義の宿命であり、民主主義的決定の実行者たる行政の役割です。

メガトレンドにより困る人は比較的高齢者が多いので、「メガトレンドに逆らう」という現状の行政の姿は、シルバー民主主義の産物ともいえるかもしれません。


登る澪筋は変われども、沢登りするスタンスには変わりない

メガトレンドの中身は刻一刻と変わっていきます。
しかし、「メガトレンドに逆らう」という行政の基本スタンスは、いつまでも変わらないと思います。
メガトレンドの影響を嫌う人、別の言い方をすると変化を拒み現状維持を望む人が、高齢者を中心に相当数存在するからです。

ゆえに行政は、新たなメガトレンドが登場するたびに、それをを否定し、無謀な抵抗を続けることになるでしょう。
このような行政のあり方を「頭が固い」「時代遅れ」などといって批判したり、嫌気がさして見限る(退職する)のは、それはそれで正しいと思います。

ただ、メガトレンドに逆らうことにも、間違いなくニーズが存在しています。
目に見える成果は挙げられないでしょうが、それでも少なくない住民のニーズを満たせているはず。
単なる一時凌ぎにすぎなくとも、現存するニーズを充足しているのであれば、これはこれで成果といえないでしょうか。
コストパフォーマンスは最悪だと思いますが、そもそも行政はコスパでは測れない(コスパ度外視で必要なサービスを提供する)セクションですし。

……我ながら暴論だとは思いますが、このような落とし所を見出すことで、僕は自分を納得させています。

僕は以前から、地方公務員の出世競争は採用直後からスタートしているという説を提唱しています。

具体的にいうと、
・採用から3年間ほどで有望な職員をまずピックアップし(一次選抜)
・彼ら彼女らを忙しいポストに配置して能力や激務耐性を測る(二次選抜)
・二次選抜に通過した職員を、人事課・財政課・企画課といった圧倒的出世コースに配置し、帝王学教育を施す
という流れです。



この記事を書いた頃は、僕の世代はちょうど二次選抜の真っ最中で、まだまだ勝敗が固まっていませんでした。
それから4年が経過して、とうとう僕の世代も2次選抜が終わったようで、圧倒的出世コース(部長候補)である人事・財政・企画部局に腰を下ろす面々が固まってきました。

出世競争第一幕の結末として、どういう職員が圧倒的出世コースに乗ったのか、細かく見ていきます。

教科書的リア充のA君 →人事課

  • 学歴 県内2番手進学校(バスケ部主将) → 首都圏上位私大
  • 異動遍歴 出先の庶務担当 → 観光部局の予算担当 → 育休 → 土木部局の予算担当 → 人事課
  • 外見 高身長(185cmくらい)、モデル体型のイケメン
  • 性格 いじり上手なムードメーカー(いじれる相手だけ、とことんいじる)
  • 家族 20代半ばで結婚、3児の父
  • 仕事 必要最低限しかやらないスタンス。必要最低限の見極めがとても上手いので、スマートに仕事をこなしつつ年休もがっつり消化。

外見も性格も公務員らしくない、良い意味で異色の存在です。
廊下ですれ違うと「うーっす!」と気さくに挨拶しながら肩を小突いてきて、甘めの香水の残り香を漂わせて、颯爽と去っていくような。

大手民間企業から大量に内定取れそうなスペックなのですが、労働への興味が皆無で、「最低限のことさえやっていれば普通に昇給していくから」という理由で県庁を志望したらしいです。

実際、熱心に仕事に打ち込んでいるわけではなく、残業は極力せず、隙あらば年休を取得しています。
それでも要領が良く、必要十分に仕事をこなしていますし、何よりコミュニケーションが上手いので人望はとても厚いです。

後述するメンバーのように、「めちゃめちゃ仕事ができる」という高評価を受けているわけではないものの、それなりに忙しい部署でもサクッと仕事をこなして年休を取得し、3人の子育てにも熱心に取り組んでいる……ということで、要領のよい優秀な若手職員という評価を受けています。


教科書的エリート公務員のB君 →財政課

  • 学歴 県内トップ進学校 → 関西圏最上位国立大
  • 異動遍歴 厚生福祉部局の制度担当 → 教育委員会の予算担当 → 厚生福祉部局の総括調整担当 → 財政課
  • 外見 特筆すべき点なし
  • 性格 真面目で凝り性、昔はポケモン対戦ガチ勢だったらしい
  • 家族 独身
  • 仕事 常人の1.5倍の労働時間で、10倍の仕事量をこなす

性格も仕事ぶりも「公務員の鑑」。
採用1年目から明らかに有能だったらしく、「彼は財政課に行くだろう」とずーっと言われ続けていました。
管理職達からの評価は非常に高く、僕の世代で一番有名な職員だと思われます。

国家総合職に落ちて県庁に来たという、超高学歴層にありがちな不本意入庁組です。
筆記試験は余裕で通過したらしいのですが、官庁訪問で落ちてしまったとのこと。
当時はちょうど東日本大震災の直後で、国家公務員の採用はだいぶ絞られていました。
しかも彼は難関人気官庁ばかりチャレンジしていたそうです(財務・総務自治・警察庁だったはず)
不人気な官庁も受けていたら、普通に内々定出ていたんじゃないかと思います。

仕事は正確かつ、とにかく速い。そして残業を厭いません。
目の前の仕事はもちろんのこと、過去の懸案事項にも果敢にチャレンジして、実際にいくつも片付けていきます。
さらに「仕事を作る」のも上手いです。
彼が自主的に調べたことや整理したデータが後々活きるケースがとても多く、上司としては本当にありがたい存在なのだろうと思います。

ただ、他人にも自分並みの完成度・作業量を求める傾向があり、自分にも他人にも厳しいタイプです。
ひょっとしたらこれからパワハラ上司に化けてしまうかも……

マイペース趣味人のC君 →企画課

  • 学歴 県内2番手進学校 → 関東圏最上位国立大
  • 異動遍歴 産業振興部局の事業担当(部内で何度か異動) → 国 → 企画部局(総合調整担当)
  • 外見 ヒョロガリ
  • 性格 オタク
  • 家族 独身
  • 仕事 完全自立型、ゴールと納期を設定したら自主的に段取りして進めていく

カタログスペックだけ見ればB君と大差無いのですが、性格が全然違います。
非常に温和で、あまり物事に執着せず飄々としているので、非常に付き合いやすいタイプです。
(職場の人間関係にあまり関心が無いのかもしれません)
僕がオタク趣味を明かしている数少ない一人でもあり、それくらい信頼できる人間です。

出身大学のレベルが近似していることから、庁内には勝手に「B君とは互いにライバル視しあっている」などと評する人もいます。
こういう下馬評に対し、B君は露骨に嫌な顔をしているのですが、C君は「俺らの関係性、傍目に見るぶんにはめっちゃ面白いんだろうなー」などと笑って流すような感じです。

入庁依頼ずっと本庁の産業振興部局の事業担当として、結構裁量も与えられて好き放題に仕事していたのですが、30歳過ぎでいきなり国に出向して、戻ってきてからは企画課に配属。
(僕の勤務先県庁では、国出向はたいてい20代半ばの職員が選ばれるので、異例の高齢出向です)

今度は産業振興関係だけでなく、いろんな分野において、次々降りてくるミッションをこなしているようです。


典型的「優秀な公務員」人材の枯渇

ここまで読んだ大多数の方が、C君みたいな人が出世コースに乗ることに違和感を覚えたと思います。
圧倒的出世コースを歩む職員には、庁内調整能力が欠かせません。
まさにA君のようにコミュニケーション巧者だったり、B君のようにロジカルに他者を従わせる強さが必要です。
ただC君には、彼らのような庁内調整能力が備わっていません。

実際のところ、二次選抜に突入した時点では、もっと庁内調整に長けた典型的出世コース人材がいたのですが……途中でドロップアウトしてしまいました。
多忙すぎて体調を崩したり、パワハラ上司に潰されたり……有望だと目をつけられなければ安穏とした公務員人生を送れたかもしれないのに。本当に気の毒です。

完全に推測ですが、有望な人材のタマが足りなくなったので、カタログスペック的に上位にくるC君を繰上げで圧倒的出世コース入りしたのではと思います。

過去の記事で、人事課や財政課の出世コースの中でも企画課は異色と書きましたが、やはり異色のキャラクターを充てたということなのでしょうか。




これまでの世代はB君みたいな人が同期に複数人いるのが普通だったので、僕の世代を指して「やっぱ平成生まれはダメだ」などと評する人も少なくありません。
本当に人材劣化しているのか、それともむしろ「多様性」が生まれて良い方向に向かうのか、彼らのこれからの活躍に期待です。

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