キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

カテゴリ: 公務員の生き様

二地域居住は「手段」であって「目的」ではないのでは



若手国家公務員の二拠点居住を支援して、「国の職員が中小規模の市町村を副業的に支える仕組み」を構築するとのこと。
市町村にとってはありがたい施策のように見えますが、一方で国(省庁)や国家公務員側には全くメリットが無さそうで、実際に制度が始まっても利用者はごくわずかだろうなと思いました。

まず、自宅のほかに拠点を持つとなると、かなりお金がかかります。
いくら支援があろうと、全額補填されることはさすがに無いと思います。自腹を切らざるをえないでしょう。

さらに、市町村のお世話をする時間に対し、対価がちゃんと支払われれるのか危ういです。
「副業的」という書き方をして、ちゃんと報酬が出るような仄めかしはしていますが、自治体の現場を見ていると、報酬を払うまでのハードルはかなり高いと思います。
市町村の財政事情は常時厳しいですし、何より「公務員の副業に対して公金を支出する」ことに住民が賛同するとは思えません。いかにも地元メディアが叩いてきそうです。

つまるところ、ただでさえ超激務な国家公務員が、貴重な余暇と身銭を切って、さらに叩かれるリスクまで背負って、わざわざ市町村の支援に行くのだろうか……と思われて仕方ないのです。

国家公務員側にメリットがあるとすれば、転職に役立つかもしれないという点でしょうか。
自らの知見に基づいてコンサル的な活動をした実績が作れるので、転職市場での市場価値は上がるんじゃないかと思います。

そもそも、市町村の伴走支援は都道府県庁の役割のはずなんですが、すっかりスルーされているのが面白いですね。
国としても地方公務員の人材劣化(都道府県庁職員では市町村のサポート役は到底務まらない)を実感しているということなのでしょうか。

実際に地方公務員を大規模削減したらどうなるんだろうか



トランプ大統領が「政府職員を大幅削減する」と表明して以来、ネット上では「日本も公務員を減らすべき」との大合唱が続いています。
ほとんどの人は公務員叩き&ディスりの観点で「もっと減らせ」と主張していますが、中には「これから労働人口が減っていくんだから、真に人手が必要な業界とか成長分野に人を回すべき」との意見も見られます。この意見、僕は至極ごもっともだと思います。

役所の人手が足りないのは事実です。現在進行形で新しい仕事がどんどん増える中で、公務員を減らしたら、行政サービスの水準は間違いなく劣化するでしょう。
しかし世の中には、行政サービスよりも必要性の高い民間サービスがたくさんあります。例えば物流あたりでしょうか。
これからどんどん労働人口が減っていく中、役所よりもこういう業界に人を回したほうがいいと思います。

さらに、人材の質という意味でも、役所よりも優先すべき業界が多くあると思います。
そもそも民主主義というシステムを採っている以上、公務員はあくまでも主権者の道具、主権者が決めたことを粛々と実行する役割にすぎません。
ゆえに、(総体としての)主権者よりも賢い人が公務員になろうとも、その知性は埋もれます。主権者の意思決定に意見具申すらできないからです。
つまり、一般国民よりも優秀な人材が公務員になっても、その優秀さを全然発揮できないのです。

地方公務員界隈では「優秀な人材ほど役所を辞めていく」という嘆き節が後を絶ちませんが、これは一種の社会の自浄作用なのではないかとすら思えてきました。
民間企業でもやっていける優秀な人材はどんどん民間に流出していったほうが、社会全体にとってはきっと良いのでしょう。

そうなるともちろん行政サービスは劣化していきますが、もはや仕方ないと僕は思います。
劣化させてはいけないサービス(消防や警察)はなんとかして維持、それ以外は計画的に縮小・撤退していくのが、僕世代の自治体職員の責務なのだろうと思います。

クレーマーの喜びを垣間見た

普段は全くテレビを見ない僕ですが、1月27日のフジテレビの記者会見は視聴しました
僕はフジテレビに対して個人的な恨みがあります。以前とある部署でフジテレビのニュース番組から取材を受けたのですが、スタッフから無茶ぶりをされたうえ、オーダー通り対応したのに散々罵倒されたからです。
(フジテレビの名誉のために断っておくと、他のキー局からも同じような奴隷的扱いを受けた経験あり)

経営陣がしどろもどろに答える様子は、正直とても面白かったです。
いけ好かない連中が追及され、狼狽する姿を眺めるのは、ある種の溜飲が下がる思いでした。

しかし僕は途中で視聴を止めました。
フジテレビ経営陣が罵倒され詰られる様を面白がる心理は、公務員叩き&ディスりに励むクレーマー達と酷似していることに気づいたからです。

記者会見を見ながら愉快な気分になっていた自分は、彼ら彼女と何が違うのか。
安全圏から他者を叩くことの快感に、無意識のうちに囚われていたのではないか。
そう思ったとき、急に自分が怖くなり、視聴を止めたのです。

同時に、公務員に対する一般的な住民感情(=漠然とした反感や敵意)の正体を垣間見たような気もしました。
僕がフジテレビを好いていないように、多くの住民もまた公務員を好いていません。
そして、好いていない相手が追い詰められていると、たまらなく嬉しくなる──まさに僕が感じたのと同じ構図です。

「公務員叩き」が一大コンテンツとして長く愛されている理由がようやくわかりました。
国民の大半に刺さって、全国津々浦々から新鮮なネタが提供されてくるわけです。
コンテンツ制作者にしても、コンテンツを配信するメディアにしても、本当に便利なのだろうと推察します。

役所は日々、いろんな施策を実施していますが、堂々と「成功した」とアピールできる施策は多くありません。
マスコミからの取材や議会の質問で「施策の成果」を問われた際に、数字をいじくりまわしたり、それっぽい日本語表現を繕ったりして、半ば無理やりに答えを絞り出した経験のある人も多いと思います。

従前より、地方公務員を辞める人の多くは、「仕事にやりがいが無い」と語ってきました。
「やりがいが無い」と感じる理由の一つが、「成功体験を得られない」せいなのではないかと、僕は思っています。

特に若手職員は、SNSなどで同世代がどんどん成功を収めている姿が嫌でも目に入り、隣の芝が青く見えていくと同時に、自分の仕事に価値を見出せなくなっていくのでしょう。
「どれだけ頑張っても成果を出せないような仕事に従事するのは人生の無駄だし、自分のキャリアを閉ざすことになるのでは?」という危機感が、彼ら彼女らを転職活動に駆り立てているのではないかと思われるのです。

職員の自尊心維持のためにも、若手職員の離職防止のためにも、小さなことでもいいので成功体験を積ませることが大事なのだろうと思うのですが……役所の仕事は本当に成果を出しづらいです。

その理由の一つに、世の中の大きな流れ、いわゆる「メガトレンド」に逆らう仕事が多いことが挙げられると思います。

役所にとって「変化」≒「危機」

メガトレンドとは、辞書的には「時代の大きな流れ、趨勢」のことを指します。


本稿ではやや意味を限定して、「世代や地域にかかわらず、あらゆる人に影響を及ぼす、社会全体の大きな流れ」という意味で用います。
具体例を挙げると、少子化や地球温暖化、都市部への人口流出、デジタル化……などです。

こういったメガトレンドは、日常生活はもちろんのこと、仕事にも大きく影響します。
民間も役所も同様です。メガトレンドから逃れることはできません。

ただ、メガトレンドへの対応は、民間と行政では全く異なります。

民間企業は、メガトレンドをチャンスと捉えます。
メガトレンドにうまく乗っかって、自社の利益拡大を図ります。

一方、役所の場合、メガトレンドはピンチにほかなりません。
メガトレンドそのものを止めようとしたり、メガトレンドの影響を極小化しようと試みます。

パッと思いついた具体例をいくつか掲載します。
メガトレンド事例

だいたいのメガトレンドで、民間では「乗じる」、行政では「逆らう」スタンスを採っていると思います。
地球温暖化だけは例外で、民間も行政も「逆らう」方向です。


川下りと沢登り、大変なのはどっち?

メガトレンドに「乗じる」戦略と、メガトレンドに「逆らう」戦略。
成果が出やすいのは、もちろん前者です。
メガトレンドは、簡単には止められないからこそメガトレンドなのであり、戦略実行の難易度や費用対効果を合理的に考えると、メガトレンドには乗るしかありません。

メガトレンドに逆らう戦略を採る行政は、最初から「負け戦」に臨んでいるのだと言っても、過言ではないと思います。

もちろん、行政がメガトレンドに逆らう戦略を採るのには理由があります。
メガトレンドによって「困る人」がいるからです。

中長期的にはメガトレンドを受け入れたほうが皆幸せになれる可能性が極めて高い状況であれ、現下に困っている人がいるならメガトレンドに逆らわなければいけない……これが民主主義の宿命であり、民主主義的決定の実行者たる行政の役割です。

メガトレンドにより困る人は比較的高齢者が多いので、「メガトレンドに逆らう」という現状の行政の姿は、シルバー民主主義の産物ともいえるかもしれません。


登る澪筋は変われども、沢登りするスタンスには変わりない

メガトレンドの中身は刻一刻と変わっていきます。
しかし、「メガトレンドに逆らう」という行政の基本スタンスは、いつまでも変わらないと思います。
メガトレンドの影響を嫌う人、別の言い方をすると変化を拒み現状維持を望む人が、高齢者を中心に相当数存在するからです。

ゆえに行政は、新たなメガトレンドが登場するたびに、それをを否定し、無謀な抵抗を続けることになるでしょう。
このような行政のあり方を「頭が固い」「時代遅れ」などといって批判したり、嫌気がさして見限る(退職する)のは、それはそれで正しいと思います。

ただ、メガトレンドに逆らうことにも、間違いなくニーズが存在しています。
目に見える成果は挙げられないでしょうが、それでも少なくない住民のニーズを満たせているはず。
単なる一時凌ぎにすぎなくとも、現存するニーズを充足しているのであれば、これはこれで成果といえないでしょうか。
コストパフォーマンスは最悪だと思いますが、そもそも行政はコスパでは測れない(コスパ度外視で必要なサービスを提供する)セクションですし。

……我ながら暴論だとは思いますが、このような落とし所を見出すことで、僕は自分を納得させています。

僕は以前から、地方公務員の出世競争は採用直後からスタートしているという説を提唱しています。

具体的にいうと、
・採用から3年間ほどで有望な職員をまずピックアップし(一次選抜)
・彼ら彼女らを忙しいポストに配置して能力や激務耐性を測る(二次選抜)
・二次選抜に通過した職員を、人事課・財政課・企画課といった圧倒的出世コースに配置し、帝王学教育を施す
という流れです。



この記事を書いた頃は、僕の世代はちょうど二次選抜の真っ最中で、まだまだ勝敗が固まっていませんでした。
それから4年が経過して、とうとう僕の世代も2次選抜が終わったようで、圧倒的出世コース(部長候補)である人事・財政・企画部局に腰を下ろす面々が固まってきました。

出世競争第一幕の結末として、どういう職員が圧倒的出世コースに乗ったのか、細かく見ていきます。

教科書的リア充のA君 →人事課

  • 学歴 県内2番手進学校(バスケ部主将) → 首都圏上位私大
  • 異動遍歴 出先の庶務担当 → 観光部局の予算担当 → 育休 → 土木部局の予算担当 → 人事課
  • 外見 高身長(185cmくらい)、モデル体型のイケメン
  • 性格 いじり上手なムードメーカー(いじれる相手だけ、とことんいじる)
  • 家族 20代半ばで結婚、3児の父
  • 仕事 必要最低限しかやらないスタンス。必要最低限の見極めがとても上手いので、スマートに仕事をこなしつつ年休もがっつり消化。

外見も性格も公務員らしくない、良い意味で異色の存在です。
廊下ですれ違うと「うーっす!」と気さくに挨拶しながら肩を小突いてきて、甘めの香水の残り香を漂わせて、颯爽と去っていくような。

大手民間企業から大量に内定取れそうなスペックなのですが、労働への興味が皆無で、「最低限のことさえやっていれば普通に昇給していくから」という理由で県庁を志望したらしいです。

実際、熱心に仕事に打ち込んでいるわけではなく、残業は極力せず、隙あらば年休を取得しています。
それでも要領が良く、必要十分に仕事をこなしていますし、何よりコミュニケーションが上手いので人望はとても厚いです。

後述するメンバーのように、「めちゃめちゃ仕事ができる」という高評価を受けているわけではないものの、それなりに忙しい部署でもサクッと仕事をこなして年休を取得し、3人の子育てにも熱心に取り組んでいる……ということで、要領のよい優秀な若手職員という評価を受けています。


教科書的エリート公務員のB君 →財政課

  • 学歴 県内トップ進学校 → 関西圏最上位国立大
  • 異動遍歴 厚生福祉部局の制度担当 → 教育委員会の予算担当 → 厚生福祉部局の総括調整担当 → 財政課
  • 外見 特筆すべき点なし
  • 性格 真面目で凝り性、昔はポケモン対戦ガチ勢だったらしい
  • 家族 独身
  • 仕事 常人の1.5倍の労働時間で、10倍の仕事量をこなす

性格も仕事ぶりも「公務員の鑑」。
採用1年目から明らかに有能だったらしく、「彼は財政課に行くだろう」とずーっと言われ続けていました。
管理職達からの評価は非常に高く、僕の世代で一番有名な職員だと思われます。

国家総合職に落ちて県庁に来たという、超高学歴層にありがちな不本意入庁組です。
筆記試験は余裕で通過したらしいのですが、官庁訪問で落ちてしまったとのこと。
当時はちょうど東日本大震災の直後で、国家公務員の採用はだいぶ絞られていました。
しかも彼は難関人気官庁ばかりチャレンジしていたそうです(財務・総務自治・警察庁だったはず)
不人気な官庁も受けていたら、普通に内々定出ていたんじゃないかと思います。

仕事は正確かつ、とにかく速い。そして残業を厭いません。
目の前の仕事はもちろんのこと、過去の懸案事項にも果敢にチャレンジして、実際にいくつも片付けていきます。
さらに「仕事を作る」のも上手いです。
彼が自主的に調べたことや整理したデータが後々活きるケースがとても多く、上司としては本当にありがたい存在なのだろうと思います。

ただ、他人にも自分並みの完成度・作業量を求める傾向があり、自分にも他人にも厳しいタイプです。
ひょっとしたらこれからパワハラ上司に化けてしまうかも……

マイペース趣味人のC君 →企画課

  • 学歴 県内2番手進学校 → 関東圏最上位国立大
  • 異動遍歴 産業振興部局の事業担当(部内で何度か異動) → 国 → 企画部局(総合調整担当)
  • 外見 ヒョロガリ
  • 性格 オタク
  • 家族 独身
  • 仕事 完全自立型、ゴールと納期を設定したら自主的に段取りして進めていく

カタログスペックだけ見ればB君と大差無いのですが、性格が全然違います。
非常に温和で、あまり物事に執着せず飄々としているので、非常に付き合いやすいタイプです。
(職場の人間関係にあまり関心が無いのかもしれません)
僕がオタク趣味を明かしている数少ない一人でもあり、それくらい信頼できる人間です。

出身大学のレベルが近似していることから、庁内には勝手に「B君とは互いにライバル視しあっている」などと評する人もいます。
こういう下馬評に対し、B君は露骨に嫌な顔をしているのですが、C君は「俺らの関係性、傍目に見るぶんにはめっちゃ面白いんだろうなー」などと笑って流すような感じです。

入庁依頼ずっと本庁の産業振興部局の事業担当として、結構裁量も与えられて好き放題に仕事していたのですが、30歳過ぎでいきなり国に出向して、戻ってきてからは企画課に配属。
(僕の勤務先県庁では、国出向はたいてい20代半ばの職員が選ばれるので、異例の高齢出向です)

今度は産業振興関係だけでなく、いろんな分野において、次々降りてくるミッションをこなしているようです。


典型的「優秀な公務員」人材の枯渇

ここまで読んだ大多数の方が、C君みたいな人が出世コースに乗ることに違和感を覚えたと思います。
圧倒的出世コースを歩む職員には、庁内調整能力が欠かせません。
まさにA君のようにコミュニケーション巧者だったり、B君のようにロジカルに他者を従わせる強さが必要です。
ただC君には、彼らのような庁内調整能力が備わっていません。

実際のところ、二次選抜に突入した時点では、もっと庁内調整に長けた典型的出世コース人材がいたのですが……途中でドロップアウトしてしまいました。
多忙すぎて体調を崩したり、パワハラ上司に潰されたり……有望だと目をつけられなければ安穏とした公務員人生を送れたかもしれないのに。本当に気の毒です。

完全に推測ですが、有望な人材のタマが足りなくなったので、カタログスペック的に上位にくるC君を繰上げで圧倒的出世コース入りしたのではと思います。

過去の記事で、人事課や財政課の出世コースの中でも企画課は異色と書きましたが、やはり異色のキャラクターを充てたということなのでしょうか。




これまでの世代はB君みたいな人が同期に複数人いるのが普通だったので、僕の世代を指して「やっぱ平成生まれはダメだ」などと評する人も少なくありません。
本当に人材劣化しているのか、それともむしろ「多様性」が生まれて良い方向に向かうのか、彼らのこれからの活躍に期待です。

今更言うまでもなく、地方自治体の人事ローテーションはうまく機能していません。
要配慮者を負担の軽いポストへとうまく配置したり、NGな組合せを避けるだけで精一杯で、それ以外の職員は単なる玉突きの穴埋めでしか配置できていないのが現実でしょう。

戦略的に人材育成している民間企業とは雲泥の差がありますし、同じ官公庁でも、国は一定の「コース」を設けて若いうち選抜&育成を図っています。
他の職場と比べても、地方自治体の人事はおざなりと評されて然るべきだと思います。

この原因は多分ですが、職員数に比して人事部門の人数が少ないせいだと思っています。
人事は典型的な間接部門であり、主権者たる住民からすれば、自分達に何の恩恵ももたらさない「無駄」なセクションです。

ゆえに、「人事部門を充実する」のは至難の業だと思いますし、人員配置の代わりにコストを投じてタレントマネジメントみたいな外部サービスを利用するのも困難でしょう。
地方自治体の人事異動のあり方を抜本的に改善するのは、民主主義体制を敷いている以上、不可能だと思います。

とはいえ、リソースを追加せずとも、現状の異動のあり方を少し変更することで、今よりはまだマシにできるのでは?とも思います。

「部署」または「職務」どちらかだけを変える

地方公務員のポストは、ざっくり「部署」「職務」「職位」の3つの要素から構成されます。
「部署」は配属される部署のこと、「職務」は担当業務の中身(庶務、窓口、許認可、内部調整など)、「職責」は立場(ヒラ、主任、係長など)のことです。
他にも色々な要素がありますが、主だったものはこの3つだと思います。


例えば、自分の仕事を他者に説明するときは、だいたいこの3つを取り上げないでしょうか?
新たに異動した部署で自己紹介することになったり、久々に顔を合わせた元上司から「今は何やってるの?」と聞かれたり、合コンで「どんなお仕事してるんですか?」と質問されたり……このあたりのシーンを思い出してみてください。
「農業振興の部署で、農地関係の許認可の担当をやってます」みたいに、部署&職務&職位のセットで喋りませんか?



多くの自治体の人事異動では、「部署」「職務」「職位」の3要素が一切連動せずに、バラバラに変更されます。
このうち「職位」は、年齢や昇級昇格、組織定数といったルール、つまり人事異動とは別のルールで決まるので、今回は無視します。

一方、「部署」「職務」は、人事異動の際に決める要素であり、まだ工夫の余地があるはずです。
そこで、「部署」「職務」の両方を同時変更するのは極力避けて、いずれかを固定して、片方だけを変更するような異動形態にすればいいのでは?と思います。

具体例を挙げると、
  • 農業系部署の許認可担当 → 福祉系部署のケースワーカー → 観光系部署の庶務担当 
みたいに、「部署」「職務」どちらも異動のたびに変更するのではなく、

  • 農業系部署の許認可担当 → 福祉系部署の許認可担当 → 福祉系部署のケースワーカー
みたいに、「部署」「職務」のうち片方だけを変更する形のほうがよいのでは?と思うのです。

異動負担の軽減&専門性の醸成

インターネット上の投稿を見ていると、現状の地方公務員の人事異動のあり方に対する問題提起が多数なされていますが、その中身はおおよそ
  • 人事異動のたびに全く経験したことのない業務をやらされることになり、かつ即座に習得しなければならず、学習負担が重い
  • 数年おきに全く違う仕事をやらされて、キャリアに一貫性が無く、専門性が身につかない
という意見に集約されます。

これらの事象は、「部署」「職務」の両方を同時に変更するのを止めて、片方だけの変更に止めれば、かなり軽減されるはずです。

まず、前者の「異動時の学習負担の軽減」は、これまでは「部署」の学習(=新たに携わることになる分野の基礎知識の勉強)と、「職務」の学習(=具体的な業務処理方法の勉強)という二重苦が課せられていたところ、片方だけになるので、間違いなく軽減されます。

後者の「専門性の欠如」についても、部署ごと・職務ごとの経験年数が長くなることで、今よりは改善されるはずです。

一つのポストだけを長年担当していても専門性は身に付かない

現行の人事異動では、一つの部署で一つの業務しか担当せずに異動するケースが多く、どうしてもその「部署」(分野)への理解が表面的に終わっていると思います。

例えば、観光系部署で5年間にわたりイベント運営を担当していた職員がいるとします。
彼/彼女は、イベント準備の段取りやイベント当日の進行、安全管理あたりについては間違いなく詳しいでしょう。
しかし、だからと言って「観光に詳しい」と評しても良いのでしょうか?

イベント運営だけを担当していては、観光に関するその他の論点については、さほど詳しくなれないでしょう。
観光に関する他の施策のことを知らず、施策体系の中に「イベント開催」がどのように位置付けられるかもよくわかっていないとすれば、「イベントに詳しい」とすら言えなくなってきます。

このように、現行の人事異動では、自分の携わる分野に、限られた視点からしか携わることができず、結果的に分野への理解が浅いまま終わっていると思います。
ここで、イベント担当を2年くらいにとどめておいて、別の業務(例えばマスコミへの売り込みなど)を2年間担当させたほうが、トータルの在籍期間は1年短くなっても、観光分野に関してはより詳しくなれると思います。

「職務」についても同様です。
農業系部署で5年間庶務担当をしている職員がいるとします。
彼/彼女は、ハード事業の積算や国庫支出金の処理に関しては非常に詳しくなっていると思います。会計検査院の相手も余裕でしょう。

ただ、だからと言って庶務全般に精通できるわけではありません。
ソフト事業の積算や、施設設備の運営費管理のような、他部署の庶務担当であれば当たり前にこなしている日常業務は、さほどうまく処理できないと思います。

つまるところ、「専門性の欠如」の原因の一つは、一つの部署で一つの職務しか担当できずに転々と異動させられることであり、一つの部署でいくつかの職務を経験する(あるいは一つの職務を複数の部署で経験する)ことで、今よりは専門性が身につくのではないか?と思うのです。


複数の「専門性」を備えるのが正規職員ならではの役目

何か一つの「部署」や「職務」の専門性を極めるのは、もはや地方公務員の役割ではないのだと思います。

これまでも、「部署」(分野)の専門性が欲しい場合、外部有識者にヒアリングしたりアドバイザーとして起用したり、業務を丸ごと委託して、専門性を確保してきました。
加えて、ここ数年でコンサルがどんどん行政分野に進出してきていて、「職務」の専門性すら外注できるようになりました。
これまで役所特有だった「職務」、例えば会計処理や予算編成、条例制定のような業務すら民間委託できるようになってきています。

限られた分野・職務の専門性が欲しいだけなのであれば、民間委託すれば済みます。
正規職員を任用するよりも手早く、かつ安上がりでしょう。

これから地方公務員に求められるのは、専門性の掛け合わせなのだろうと思います。
行政に関する分野・職務に関して複数の専門性を備えている人間は、今のところ正規の地方公務員しか存在しません。
俗に言う「縦割りの弊害の解消」「分野横断的な問題の解決」には、複数の専門性を兼ね備えた人間が必要であり、これこそが地方公務員に求められる役割だと思います。

60点くらいの専門性をいくつか身に付けて、それらを掛け算することでオリジナリティを発揮していく。
入庁してから係長として部下を持つまでの間に、だいたい6ポストくらいを経験して、この過程で4〜5個くらいの専門性を身に付けられたらいいんじゃないかと思っています。

僕の世代(30代半ば)を見ていると、活躍している職員がまさに、これまでの異動遍歴の中で複数の「専門性」を身に付けて、それらを掛け合わることでオンリーワンの存在として存在感を発揮しています。
僕みたいに1〜2年スパンで異動を繰り返し、何の専門性も身につかないまま年次だけ重ねてきた職員にとって、彼ら彼女らは眩しすぎます。


先日なぜか「地方公務員の普通退職者が増えている」ことが大々的に報じられました。



今回取り上げられている「地方公務員の退職状況等調査」は、総務省が毎年実施して調査結果も公表されているものです。
このブログの過去の記事でも、何度かこの調査の結果を使っています。

記事中では「若手地方公務員の退職が増えている、公共サービスの劣化が懸念される」と危機感を報じていますが、この傾向は今回の調査結果に始まったわけではなく、ここ数年ずっと続いています。
正直、目新しさゼロなのですが……どうしてこのタイミングで報じたのでしょう?

報道の裏側にある意図は置いといて、結果を深掘りしていきます。

若手職員の母数が増えているので退職者数も増えて当然

まず、この報道には大きな欠陥があります。
退職者の増加にだけに焦点を当てていて、職員数の増加に一切触れていない点です。

地方公務員の採用数は、全国的に平成10年代後半に一度大幅に減少した後、平成24年頃から増加傾向にあります。
この影響がモロに若手の職員数に波及して、ここ10年で若手職員数が大幅に増加しているのに、この記事では全く触れていません。

「若手の地方公務員」の母数が増えれば、退職者数も増えて当然だと思うのですが……
あえて触れずに「退職者の増加」をことさら強調する意図がきっとあるのでしょうね。

より正確に実態を把握すべく、職員数の増加具合も追加して、表にしてみました。
H25・R4退職実態調査


20代は、退職者数が2.7倍に増えている一方、職員数も1.35倍に増えています。
そのため、退職率の増加は2倍になります。

30代は、退職者数の増加は3.14倍に対し、職員数は1.05倍しか増えていません。
そのため、退職率の増加幅も3倍を超えます。
特に35歳以上の退職率が3.5倍近くまで伸びています。

職員数の母数も含めて数字をみてみると、20代よりも30代のほうが、退職者数・退職率ともに大きく増加しているといえます。

ただ、10年前と比べて増加しているとはいえ、退職率は依然かなり低いです。
一般的に「3年で3割が退職する」と言われる民間企業と比べれば、地方公務員はまだまだ離職率が低いといえるでしょう。


30代後半は役所を辞めてどこに行く?

改めて数字を見てみると、20代の退職が増えているのは印象どおりなのですが、30代も増えているのは予想外でした。

僕としては、若手よりも、35歳以上の方々が役所を辞めてからどのように生計を立てているのか、興味があります。

今は空前絶後の人材難です。
20代であれば、転職先には困らないと思います。

一方、転職界隈では「地方公務員は30代になると市場価値が落ちて転職できなくなる」のが通説です。
僕自身、転職アドバイザーと以前面談したときに、同じようなことを言われました。

そのため、民間企業に転職するのはなかなか難しいと思われます。

フリーランスになって独立開業するのも難しいと思います。
インターネット上では「公務員からフリーランスになって年収が倍になった」みたいな人がたくさんいますが、本物かどうかよくわかりませんし……

もしかしたら、別の自治体に経験者枠で転職しているのでしょうか?
自治体の経験者枠採用と言えば、これまでは民間大企業か中央省庁でバリバリ働いてきた人しか通過できない難関枠で、元地方公務員なんて(都庁職員を除けば)歯牙にもかからないのが通説でしたが、役所の人材難が深刻になるにつれ、どんどんハードルが下がってきているとか。

転職ではなく、労働市場からリタイアするケースも少なくなさそうです。
僕の勤務先県庁でよく聞くのは、心身を故障してフルタイムで働けなくなってしまうパターン
35歳の退職者が増えている原因が、このような不本意退職の増加でなければいいのですが……

35~39歳の職員は、地方公務員の採用数が特に少なかった平成20年前後に採用された人が多いです。
この時代は景気が悪く、民間採用も低調だったので、役所には本当に優秀な方々が集まりました。
僕の勤務先県庁では「一騎当千の世代」などど呼ぶ人もいます。
この世代が優秀すぎて、財政・人事・企画のような出世コースを独占しており、世代交代が進んでいないことが問題視されるほどです。

もし僕の勤務先県庁でこの世代が相次いで退職したら、相当な大問題になります。
役所の中枢業務のノウハウを持った人材がいきなりいなくなるわけで……少なくとも予算編成は回らなくなると思います。

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