キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

カテゴリ: 公務員の生き様

「あけましておめでとうございます」という挨拶すら不謹慎と糾弾されるという、ショッキングなスタートを切った2024年。
お亡くなりになられた方々にお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

新年一発目の記事は、今年も「地方公務員界隈の今年の展望」でお送りします。
例年、陰謀論めいた暗い話題になりがちなので、今年くらいは明るい話題にしたいなと思いトピックを探したのですが、全然見つかりません……
なので、今年も初っ端から暗い話題でお送りします。

今年はとにかく「給料が高い」と批判され続ける一年になると思っています。

久方ぶりの人件費増加

このブログでも以前取り上げましたが、地方公務員(正規職員)の人件費は、これまで減少を続けてきました。


しかし、地方公務員の人数が増加に転じていること人事院勧告でプラス改定が続いていることから、令和6年度はついに増加に転じてしまうようです。

総務省が毎年作成している「地方財政収支見通し」によると、給与関係経費が前年よりも増加しており、資料の本文中でも、歳出増加要因の一つとして、「社会保障関係費」と並んで、「人件費」が列記されています。


さらに、会計年度任用職員の勤勉手当も支給されることになり、正規職員のみならず会計年度任用職員の人件費も大幅上昇します。
全体ひっくるめた人件費は、よほどの人員削減をしない限り、増加してしまうでしょう。

地方公務員の人件費が増えれば、議会やマスコミ、住民から確実に反発を食らいます。
まずは各自治体の当初予算案が発表される1月下旬~2月上旬あたりで、全国的に地方公務員批判が活性化するのではないかと思っています。

令和6年度の当初予算では、ちょうどコロナ関係で焼け太りした補助金が諸々カットされるでしょうし、「役人どもは住民サービスを削って私腹を肥やしている」みたいなセンセーショナルな見出しつきで叩かれるんでしょうね……

田舎地方公務員は四面楚歌に追い込まれる

今回、地方公務員の人件費が上昇するのは、人事院勧告のプラス改定による影響が大きいです。
人事院勧告は、公務員給与と民間給与を比較してその差を埋めようとする趣旨で、プラス改定されるのは民間給与が上がっているからです。
つまり、民間企業で賃上げされているから、公務員もつられて上昇しているという仕組みです。

民間企業の賃上げは、昨年からたくさん報道されています。
地方公務員の賃上げ幅なんて相手にならないくらい、大幅上昇を決めている企業もたくさんあります。

ただ、これが全国的な現象かというと、どうやら違うようです。

少なくとも僕が住んでいる田舎県では、株式上場している大手企業(地銀や地場メーカー等)であっても、ボーナスは多少弾んだようですがベースアップは全然実現していません。
初任給を引き上げた企業は若干あるものの、その分だけ昇給幅を抑制していて、30歳にもなると全く昇給していないとのこと。
僕くらいの年齢でまともにベースアップしたのは地方公務員だけ……という悲惨な状態です。

そのため、今回の人件費増加では、もともと地方公務員に悪感情を抱いている方々から「無駄に人件費を食いやがってけしからん!」と怒られるのみならず、これまで地方公務員人件費に無関心だった方々(主に現役サラリーマン)からも「我々は上がっていないのに何故地方公務員ばかり上がるんだ!」と不満を持たれることになるでしょう。

要するに、地方公務員に対する潜在的な敵意が、いつになく渦巻く一年になるのだと思います。


今年どんな批判を浴びるのかは未知数ですが、ベースアップしたのは事実です。
賃上げされた分をどう使うのかを考えるのが精神衛生上良いのだろうと思います。
ちょうど新NISAも始まることですし、ベースアップ分は全部投資や貯蓄に回すのもアリな気がします。

20代の若者にとって、地方公務員という仕事は旨味がありません。

民間と比べて給料は安いですし、ビジネスマンとしての汎用的なスキルが身につくわけでもなく、キャリアの幅が狭まります。
しかしそれでも一定数(最近は随分減ってきましたが)の若者が地方公務員を志しているのは、こういったデメリットがあるにもかかわらず、何らかのメリットを見出しているからなのでしょう。

地方公務員に就職するメリットとして典型的なのは、「趣味の充実」でしょうか。
土日祝日に安定して休みが取れて、平日もまあまあ早く帰宅できてるので、趣味に割く時間もエネルギーもしっかり確保できるはず……このように期待している人は少なくないと思います。

この目論見は概ね正しいです。
よほど忙しい部署に配属されない限り、趣味を楽しむ時間はそこそこ確保できます。
とはいえ30代になると、なかなか趣味をエンジョイしにくくなってきます。
(男性のケースを中心に紹介していきます、女性職員の事情はよくわかりません)


30代になっても趣味を充実させられているのはかなり少数派

30歳過ぎで実際に趣味をしっかり楽しめている男性職員は、全体のおおよそ2割程度でしょう。
だいぶ少数派です。
 
趣味を充実できていない理由は、既婚者と独身者で大きく異なります。

時間もお金もエネルギーも足りない既婚者

既婚かつお子さんがいる男性職員は、とにかく育児に時間もエネルギーもお金も吸い取られています。
趣味に割く余力なんて一切残りません。
「家にいると疲れる、仕事のほうがラク」というぼやきを何回聞いたことか……

仕事が忙しかろうと暇であろうと関係ありません。
たとえ毎日定時で帰れて、年次有給休暇をフル取得できたとしても、エネルギーとお金が無くなって趣味を継続できないようです。

ただ、趣味から遠ざかってしまったからといって、彼らは不幸には見えません。
「辛い辛い」と言いつつも、充実しているように見えます。
 
多分、人生における優先順位が変わったのでしょう。
興味関心が趣味から育児へとシフトしているために、たとえ趣味に一切触れられなくても、人生としては充実しているのです。

一方、お子さんのいないDINKS家庭であれば、反対に生活に余裕ができて、趣味を継続しやすいようです。

エネルギー(モチベーション)が枯れていく独身者

一方の独身者では、お金や時間はあるものの、エネルギーはどんどん失われていきます。
エネルギーというより「モチベーション」というほうが正確でしょうか。

独身者の場合、他の人が婚活に励んでいる20代の時間を、まさに趣味につぎ込んできた人が多いです。
それだけ趣味に没頭してくると、それなりに飽きが生じてきます。

加えて、自分の限界も見えてきます。

スポーツであれば体力の限界。
コレクションであれば資金力の限界。
ゲームであれば技量の限界。

ある程度没頭してきたからこそ、自分の限界が見えてくるのです。

さらに、趣味仲間もどんどん減っていきます。
結婚等で時間が無くなる、怪我や病気で続けられなくなる、単に興味が無くなる……などなど、色々な理由で趣味仲間がいなくなっていき、趣味を介した人間関係が衰退していきます。

こういった事情が重なって、趣味へのモチベーションがどんどん削がれていくのです。


新しい趣味が見つかればいいが

僕自身、これまでそこそこ充実した趣味人生を送れてきましたが、今年に入ってから急激にモチベーションが低下してきています。

オタク趣味のほうは、仲間が激減したことが大きいです。
これまで主にTwitter経由で繋がっていた仲間が、Xに移行する際のドタバタでSNSから離れてしまい、気軽に感想を言い合える相手がほとんどいなくなってしまいました。

このブログも趣味のひとつですが、今まさに限界をひしひし感じています。
残業が多すぎて週0.5日くらいしか休めていない生活が続いており、記事を書く時間が全然ありません。
この記事が最後のストックです。次回はいつ更新できることか……

「趣味の充実」という目論見で地方公務員になるのは、間違いではないと思います。
ただし、年齢を重ねるにつれてライフステージが変わり「趣味」がどうでもよくなるかもしれませんし、趣味へのモチベーションを保てていたとしても、異動ひとつで趣味どころではなくなるかもしれません。

「給料安いし僻地勤務リスクがあるけど、趣味の時間を確保したいから地方公務員になる」 みたいな感覚、つまり諸々のデメリットは理解しているものの「趣味時間の確保」というメリットが上回るから地方公務員になりたい!という方は、よくよく考え直したほうがいいと思います。 

総務省が検討会を開いて、地方公務員のあり方を検討するらしいです。





検討会の名称は「社会の変革に対応した地方公務員制度のあり方に関する検討会」。
(長いので、以下「検討会」。)

報道によると結構なロングスパンで継続開催されるようで、委員数も多いですし、法改正につながるような抜本的な見直しをするんじゃないかと思われます。

まだ全然情報が出ていない今のうちに、どんな検討がなされていくのか想像していきます。

検討の前提にある「社会の変革」とは

まず、この検討会で一体どんな議題を扱うのかを考えてみます。

名称を見るに、この検討会は「社会の変革」に対応するための「地方公務員制度」を検討する場のようなので、検討の前提となる「社会の変革」をどう定義しているのかがまず重要になります。

地方公務員を取り巻く「社会の変革」を総務省がどう捉えているのか、一つヒントが存在します。

総務省では、地方公務員のあり方に関して、「ポスト・コロナ期の地方公務員のあり方に関する研究会」という別の研究会(以下「研究会」)を、最近まで開いていました。
名称も似ていますし、今回の検討会にもこの研究会からメンバーが一部引き継がれていますし、連続性があるのだと思われます。



この研究会の報告書の中には、「社会状況等の変化」という文言が出てきます。
「社会の変革」と「社会状況等の変化」、表現はやや異なりますが、ニュアンス的にはかなり近いです。

そのため、検討会における「社会の変革」が何かを窺うには、研究会の報告書内で結論づけられた「社会状況等の変化」がヒントになると思います。


研究会の報告書では、以下の3点を「社会状況等の変化」として掲げています。
  • 【社会情勢の変化による人材確保への影響 】若年人口の減少と人材の流動化に伴う人材獲得競争の激化と、困難な政策課題に対応できる多様な人材確保の必要性の高まり
  • 【行政に求められる能力の変化】 行政課題の複雑・多様化に伴い職員に求められる能力等の再整理、専門人材(特にデジタル人材)の育成・確保、定年引上げに伴う計画的な人材育成の必要性の高まり
  • 【働き手の意識変化】 職員がやりがい・成長実感を得られる取組や、多様な働き方を受け入れる職場環境の整備等の必要性の高まり

いずれの点も、違和感はありません。

災害対応のような突発的長時間労働の増加、慢性的な人手不足、離職者・休職者の増加、心身に危害が及ぶレベルのカスハラ増加……といった業務の過酷化の観点が全然無いのが若干遺憾ですが、2000年台のような「これまで甘い汁を吸ってきた連中の既得権益を引っぺがすぞ」的な懲罰的視点が無いだけでもありがたく思うべきなのでしょう。


正規職員の処遇改善は無さそう

前項では、検討の前提となる「社会の変革」がどのようなものが探ってみました。
一応のヒントは存在するものの、包括的な記述すぎて、具体的な論点は想像できません。

総務省ホームページの検討会資料によると、まず課題を洗い出してから、それぞれの課題を分科会で検討するという進め方を採るらしいので、とりあえずはどんな課題がセットされるのかを注視していきたいです。

現役職員的に一番気になるのは、正規職員の処遇改善でしょう。
時事通信社の記事には「処遇改善」という単語が出てきており、期待したくなるところなのですが…‥総務省が公表している検討会資料では、処遇改善に関しては全然触れられていません。
そのため、この検討会を経て、地方公務員の処遇改善がなされるかは定かではありません。

個人的には、正規職員の処遇改善は望み薄だが、非正規職員や外部人材の処遇改善は大いにありうると思っています。
先に触れた研究会報告書における「社会状況等の変化」の中には、「若年人口の減少」と「人材の流動化」という記述があり、この前提から「従来の正規職員中心の組織運営ではなく、シニア世代を含めた非正規職員や、外部人材をもっと登用すべき」という方向性になるのではないでしょうか?

現状、役所の非正規職員の待遇はよろしくない(専門職は除く)ですし、外部人材に支払う報酬や謝金も、民間水準に比べれば随分安いようです。
特にデジタル関係の人材に関して「求めるスキルに対して報酬が低すぎる」とよく炎上していますし、このあたりの実態を改善するような策が提言されるのでは……と思っています。


良い影響は無さそう

検討会の結論が出るのは2025年度末(令和7年度末)。
実際に制度が変わるのはもっと後になるでしょうし、制度変更が実際に役所現場に影響を及ぼすまでには、さらに年月を要します。

その頃には僕はもうアラフォーで、きっと出先機関で庶務係長あたりのポジションを拝命しているでしょう。
そのため、制度改正の影響は、僕自身の給与とか身分よりも、僕の部下たちに影響してきそうです。
これまで通り、部下は若手正規職員なのか、非正規の高齢者だらけになるのか……ひょっとしたらデジタル化が進んで部下がいない可能性すらあります


地方公務員の働き方は、外部環境に大きく影響されます。
地方公務員制度をいかに変えようとも、正直あまり関係ないと思います。
時間外勤務手当が満額支給されないように、運用上うやむやにされるのが制度の宿命。
明らかな待遇劣化が生じないかという観点で、引き続き注視していきたいです。

ここ最近、地方公務員の個人賠償案件が立て続けにニュースになっています。



 


行政のミスについて公務員に個人負担を求める案件は、以前から度々ありました。
プールの栓の閉め忘れは毎年のように発生していますし、去年だと常陸太田市の連帯責任的減給が一番話題になったでしょうか。

大抵の場合、報道側も受け手(国民)も「公務員が自腹を切るのは当たり前」というスタンスなのですが、今年の案件ではなぜか地方公務員に同情的な報道が目立ちます。

個人的には、個人負担うんぬんよりもマスコミの手のひら返っぷりが一番腹立つんですよね……
プールの水とか電気あたりは、あなた方が全国津々浦々の事例をいちいち全国ニュースで大々的に報道して「賠償して然るべき」だと騒ぎ立てるから個人賠償するのがスタンダード化したんですけど?
自分で「問題」を作っておいてそれを他者のせいにして別の「問題」に仕立て上げるとは、見事な死の商人っぷりです。

……私怨は置いといて、個人賠償が増える流れ


もともと個人賠償は潜在的にリスクだった

地方自治法上、地方自治体が職員に対して個人賠償を課すこと自体は、違法ではありません。


地方自治法
(職員の賠償責任)
第二百四十三条の二の二 会計管理者若しくは会計管理者の事務を補助する職員、資金前渡を受けた職員、占有動産を保管している職員又は物品を使用している職員が故意又は重大な過失(現金については、故意又は過失)により、その保管に係る現金、有価証券、物品(基金に属する動産を含む。)若しくは占有動産又はその使用に係る物品を亡失し、又は損傷したときは、これによつて生じた損害を賠償しなければならない。(以下略)
 


つまり、地方公務員が業務上のミスを自腹で補償するのは、地方公務員という職業に内在するリスクと言えます。
法令上決められていることなので、賠償させられること自体に文句を言うのは筋違いなのでしょう。

実際に働いていると、手違いのために物品を損傷してしまうケースはままあります。
職場のパソコンに飲み物をぶちまけて壊してしまうとか、ホッチキスの針がついたまま書類をコピー機に突っ込んで壊してしまうとか……

とはいえ、こういうミス全てに対して賠償請求されているわけではありません。
損害賠償の条件となる「故意または重大な過失」は、かなり限定的に解釈運用されていると思われます。
法令上存在する「個人賠償リスク」が、組織の温情によって相当程度軽減されているとも言えるでしょう。少なくとも従来はそうでした。

ただここ最近は、個人賠償を求められるケースが増えています。
背景や経緯は別にして、この現象だけを捉えると、これまでは潜在的だった個人賠償リスクが顕在化してきたということなのでしょう。



地方公務員が個人負担を負わされることについて、「かわいそう」という見方もできますが、僕はあくまでも個人賠償は法に則った適法な措置であり、感情面とは切り離して考えるべきだと思っています。

地方公務員の個人賠償を「かわいそう」という理由で否定するのは、感情的な理由で法令逃れを正当化しようとする方々……例えば、官有地を長年不法占拠してきた人に対して「かわいそう」といって反発してくる市民団体とか、飲酒運転がバレた際に「今日は仕方なかったから見逃してくれ」と懇願してくる酔っ払いと変わりありません。

これまでは無視していても問題なかった潜在的リスクが、とうとう顕在化して襲ってきた……という理解が一番妥当かと思っています。

「賠償責任保険の値上がり」という身近な懸念

とはいえ、地方公務員が個人賠償するケースは、まだまだごく少数に止まっています。
顕在化しつつあるとはいえ、それほど神経質になる必要も無いのかと思います。とりあえず今は。

僕が目下心配しているのは、地方公務員向けの賠償責任保険の値上がりです。

地方公務員が業務上のミスやトラブルが原因で個人賠償責任を負った場合に、賠償金や弁護士費用を補償する保険が、いくつかの損害保険会社からリリースされています。
どこの会社も保険料はかなり控えめで、安いコースであれば一月あたりスタバ一杯分くらいの金額で加入できます。

この公務員向け賠償責任保険は、自動車保険などと同じく、損害保険の一種です。
損害保険の保険料は、保険金が出るケースの数によって大きく左右されます。
自動車保険の場合、(ここ最近の中古自動車関係のニュースでも取り上げられていましたが)自動車事故の数が増えれば増えるほど、保険料は全体的に上がっていきます。

となると、公務員向け賠償責任保険の場合も、保険金が出るケース、つまり公務員が個人賠償するケースが増えれば増えるほど、保険料が上がっていくと考えられます。
先述のとおり、これまでは賠償するケースがごく少数だったため保険料も安く抑えられていましたが、これから賠償事例が増えていけば(増えると見込まれれば)、保険料はどんどん上がっていくでしょう。

賠償事案が増えるにつれて、賠償責任保険のニーズは高まると思います。
しかし同時に、今は安価でお手頃に見える保険料も、今後どんどん上がっていくかもしれないのです。

さらに、保険に加入する地方公務員が増えるほど、役所側としては個人賠償を課しやすくなるのでは?という懸念もあります。

ひょっとしたら今後、
  1. 個人賠償する案件が増える
  2. 保険に加入する職員が増えると同時に保険料が上がる
  3. 役所側が「どうせ保険金が出て懐は痛まないんだから個人賠償しよう」と考える
  4. 1に戻る……
という負のスパイラルが始まってしまうかもしれません。

地方公務員の自腹で住民が潤う

地方公務員の個人賠償案件が増えることで損をするのは、もちろん地方公務員です。
下手をすれば全財産が吹き飛ぶレベルの賠償を強いられるのは言うまでもなく、来る損害賠償に備えて保険に加入するにしても、自腹で保険料を支払わなければいけません。
今は安価ではありますが、これから値上がりするんじゃないかと僕は思っています。

一方、住民は得をします。
地方公務員個人から賠償金を取ることで自治体の歳入(=自分達に還元される財源)が増えるのはもちろんのこと、職員が自腹で保険に入るだけでも、損害賠償を取りやすくなるという意味で、住民は間接的に得をします。

民間企業であれば、業務上発生しうる損害への保険は、会社の経費で加入するんじゃないかと思うのですが、地方自治体の場合は職員の個人負担で加入するのがスタンダードになりつつある、とも言えるでしょう。

どのような見方をするにしても、地方公務員の勤務環境が一段階悪化したのは間違いありません。
何度も触れているとおり、個人賠償を求められること自体は、地方自治法上どうしようもなく、地方公務員という職業に内在する如何ともし難いリスクです。
「労働基本権が制限されている」「副業が厳しく規制されている」あたりと同列のデメリットとして、就職前に留意すべきポイントと言えるでしょう。

地方自治法の法令の条文を改めて読んでいると、運用上なあなあにされているために問題視されていないものの、厳格に適用すると大事件になりかねない条文が他にもあったりします。
地方公務員という職業には、今回の「個人賠償責任」の他にも、潜在的なリスクがたくさんあるのでしょう。
 

今年もそろそろ新規採用職員の方々から「放置されている」という怨嗟が漏れ聞こえてくる頃合いでしょうか……
 
研修が適当な理由は過去にも記事にしています。


「4月1日付で一斉に人事異動」「議会のスケジュール」「出納整理期間」といった制度的な理由のために、役所はどうしても新人教育に注力する余裕がありません。

組織的なOJTが機能しづらいからこそ、直属の上司のみならず先輩ポジションの職員が草の根的に新人をサポートする必要があると思います。
しかし、新人の怨嗟が止まないということは、こういうサポートもうまく機能していないのでしょう。

先輩によるサポートが機能していない理由は、昔と今とで異なります。
以前は「サポート役がそもそもいない」という組織構成が原因でしたが、最近は「ノウハウ不足」というより低レベルな原因に堕しています。

かつて:先輩がいない

僕が採用された頃(2013年頃)は、「先輩」と呼べる職員が周囲にほとんどいませんでした。
平成10年代後半に総務省主導で厳しく採用抑制されたせいで、ちょうど先輩にあたる世代(20代後半〜30代)の採用人数が極端に少ないからです。
僕が配属された職場だと、僕の次に若い職員が「40代前半」の係長でした。

つまるところ、新人をサポートしてやれる先輩的なポジションの職員がそもそもいなかったのです。
先輩ポジションがいる職場であっても、先輩一人当たりの新人数が多すぎて、十分なサポートができていなかったでしょう。

僕の場合、たまたま補佐級のおじさんたちがみんな面倒見が良かったおかげで色々助けてもらえましたが、同期入庁職員の多くは見事に放置プレイを食らっていたようで、当時は飲み会のたびに愚痴が飛び交っていました。

今:サポートスキルが無い

平成20年代後半からは採用数も増えてきて、今はどんな職場でもそれなりに「先輩的ポジション」のアラサー職員が在籍しています。
新人をサポートする人的体制は相当改善されたといえるでしょう。

しかし今度は「新人をサポートするスキルが不足している」という新たな問題が生じています。

今のアラサー職員は「先輩にサポートしてもらった」という経験に乏しいです。
そのため、何をどのように教えればいいのかよくわかっていません。
頼りになるのは自分の経験だけであり、サポートするにしても単なる経験談の押し売りになりがちです。

経験談ベースのサポートだと、情報が体系化されていなくて抜け漏れだらけですし、少しずつ段階を踏んで教えていくという観点が抜け落ちていたりします。
いずれにしても新人職員のためにはなりませんし、かえって余計に混乱させてしまうかもしれません。

経験談はあくまでも「一事例」であり、定石とは限りません。
それなりに経験を積んだ職員であれば役立てるかもしれませんが、判断能力に乏しい新人職員にとっては毒にもなりかねません。

何より問題なのが、今のアラサー職員には「自分は誰からもフォローされなかったがなんとかなった、だから新人のフォローはそもそも不要」というマッチョ思考な職員が少なくない点です。
つまるところ、指導するスキルも無ければ、指導する気も無いのです。 
これは典型的な生存バイアスでしょう。


今回取り上げたのは、あくまでも僕の勤務先県庁で生じている事案です。
ただ、原因の大元は「平成10年代後半に採用数を極端に絞ったこと」であり、これは全国共通の事象なので、同じような事態が全国で発生しているのではないかとも思います。

かつては先輩という立場から新人に伝授されていた「アンオフィシャルな仕事のノウハウ」みたいなものが存在したようなのですが、僕らの世代には引き継がれていません。
一旦ノウハウが途絶えてしまうと、復活させるのは本当に難しいです。
 
とはいえ、役所は日々変化していますし、新人職員の性質も変わってきています。
今と昔では、新人に教えるべき事柄も教え方も、ずいぶん違うでしょう。
新しいサポートのあり方を考えていく良い機会なのかもしれません。

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