キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

カテゴリ: 公務員の日々の仕事

現役地方公務員の方は、たいてい「地方公務員の仕事はルーチンワークだ」と自ら評します。
特に元職の方は必ずそう言いますし、かつ地方公務員を辞めた理由の一つとして「ルーチンワークに耐えられなかった」と開陳している方も多いように思います。

一方、「地方公務員の仕事は標準化・マニュアル化されていなくて非効率」という声も絶えません。

ここで個人的に疑問なのが、「マニュアル化/標準化されていないルーチンワーク」というものは、そもそも存在するのか?という点です。

「ルーチンワーク」という言葉の定義は、
 


手順・手続きが決まりきった作業。日課。創意工夫の必要ない業務。




とのこと。

言葉の定義を見ても、ルーチンワークは「マニュアル等により手順が決められている結果、単調な作業になっている」仕事なのでは?と思われます。

「地方公務員の仕事はマニュアル化されていないけどルーチンワークだ」という一見矛盾する主張は、「ルーチン」の期間を考慮すると両立します。

1日〜1ヶ月くらいの短サイクルで「ルーチン」を捉えるならば、地方公務員の仕事はルーチンだとは思いません。
ただし、一年以上の長期サイクルで「ルーチン」を考えるなら、確実にルーチンワークだと言えるでしょう。

単調な日々が続くわけではない

地方公務員の仕事は、世間からは「単調なルーチンワークだ」という印象を強く持たれています。
 僕の場合、住民から「刺身にタンポポを乗せるほうが刺激的」だと言われたことがあります。
 

 
スーパーの元鮮魚担当だった方から以前聞いたのですが、刺身にタンポポを乗せる仕事は実際ルーチンワークではなく創造性の塊とのことです。
 
タンポポをいかにうまく乗せるかで見栄えが激変して売行きに直結しますし、乗せ方を工夫すれば原価を抑えられ(「つま」「バラン」を削減できる)利益率に直結するらしいです。
「単純作業の代表例扱いされてるのが納得いかない」と憤っていました。
 



もしかしたら地方公務員志望者からもそう思われているかもしれません。
単調作業でそこそこの給料がもらえる!と期待して試験勉強に励んでいたり……

地方公務員の仕事は単調だとは、僕は思いません。
 
地方公務員の仕事のかなりの部分を占める「内部調整業務」は、マニュアル化が困難なコミュニケーション中心の業務であり、場当たり的に「柔軟な」対応が求められます。

マニュアル化されていてフローが決まっている業務もたくさんあるものの、そういう業務であってもマニュアルではカバーしていないイレギュラーな事態が連日のように発生して、その都度「新しい対応」を迫られます。

もちろん役所内には、ルーチンワークと呼んで差し支えないような単調な業務もあります。
ただ最近は、こういう仕事は会計年度任用職員の方か再任用職員の方がこなしていて、正規職員は関わりません。

僕は以前から、簡単な「業務日誌」を認めているのですが、ネタに困ったことはこれまで一度たりともありません。
毎日何らかのハプニングが発生しています。非常事態が日常です。

1年間の流れはいつも同じ

一方、一年スパンで見ると、地方公務員の仕事は確実にルーチンワークと言えます。
 
全庁共通の年中行事(中でも議会と予算)が、仕事の大きな割合を占めているからです。

役所内にいる限り、どんな部署に配属されようとも、どんな役職に就こうとも、年中行事からは逃れられません。
毎年同じような時期に、準備開始〜しこしこ作業〜上司や財政課のヒアリング〜本番〜終了後の後始末〜というサイクルを回すことになります。

しかも役所の場合、経験を積んで職位が上がるほど、仕事に占める年中行事の割合が大きくなります。
民間企業であれば、職位が上がるほど裁量が効き自由度が上がる、つまりルーチンから解放されていくところ、役所は逆に職位が上がるほどルーチンに縛られていくとも言えるでしょう。

僕はこの4月から外部団体に出向しており、そろそろ半年が経過します。
役所を離れて議会とも予算とも無縁の生活を経験したことで、地方公務員の仕事に占めるこれらのウェイトの大きさを痛感しているところです。

ルーチンワーク=悪、とは限らない

まとめると、地方公務員の仕事は
  • ルーチンのサイクルを短く捉えるならルーチンワークではない→「毎日同じ作業を繰り返す」わけではない
  • ルーチンのサイクルを長く捉えるならルーチンワークといえる→「同じような一年」をずっと繰り返す
と言えるでしょう。

インターネットで情報発信している方は皆さん仕事熱心で、ルーチンワークは悪であると断じています。
成長につながらないし、何よりつまらないからです。

ただ僕は、必ずしもルーチンワークは悪ではないと思います。
同じような日々が続くということは、予見可能性が高いということであり、安定的であるといえます。
このような仕事に魅力を感じる方も多いでしょう。
特に家庭を持つと、仕事においては、刺激的な日々よりも安定感を重視するようになると思います。

人生全体がルーチン化されていたら流石につまらない気がしますが、あくまでも人生の一部分にすぎない仕事だけに限っていうのであれば、善悪ではなく価値観の問題なのでしょう。
 

就職する前は誰しもが「残業は嫌だ」「残業の少ないところに就職したい」と思うものです。
「残業が少ない」という理由で地方公務員を目指している方もいるかもしれません。

ただ実際に働き始めてみると、多少の残業はアリだと宗旨替えする方も結構います。
特に地方公務員の場合は若いうちの給与水準が低いので、残業代欲しさに残業許容派に転じるパターンが多いです。

残業の負担感は人それぞれです。
一般的な基準として「原則45時間/月」とか「80時間/月の過労死ライン」がありますが、人によっては月100時間残業でもこなせますし、月30時間でダウンする人もいます。

「残業をどれだけ負担に感じるか」、いわば残業耐性は、実際に残業してみないとわかりません。
「平均〇〇時間/月の残業」と端的に示されたところで、それが自分にとってどういう意味を持つのか、その残業がどれだけ自分にとって負担なのか、やってみるまでわからないのです。

とはいえ、残業の負担感がどれほどのものなのかは、働き始める前に知っておきたいポイントだと思います。
また、まったりした出先機関に配属された地方公務員にとっても、いずれくる本庁勤務の負担がいかなるものか、気になるところでは?

今回は残業に対する僕の主観的負担感を紹介します。
僕は典型的なロングスリーパー(毎日8時間は寝たい)で、かつ体力も無く、偏頭痛&貧血持ちで、残業耐性はかなり劣るほうだと思います。
「雑魚だとこれくらい苦痛なのか……」という観点で読んでもらえれば。

※残業の負担感は、業務内容よっても大きく変わります。
 本記事では残業時間中も定時内と同じような仕事を続けていると想定します。


月30時間以下 →余裕あり

遅くとも19時30分までには毎日退庁できる生活です。
この程度なら負担感はありません。定時退庁生活と大差ありません。

生活にも支障はありません。せいぜい夕飯前の自由時間がなくなる程度です。
それほど疲労感が無いので、夕飯〜就寝までの時間にがっつり勉強したりブログ書いたりする余力もあります。

この程度の残業時間だと、時間外勤務手当が支払われない自治体も多いと思われます。
「20時以降まで残業しないと時間外勤務手当の申請ができない」とか、「定時から1時間は必ず休憩時間(=時間外勤務手当が支払われない)に設定する」あたりのローカルルールは、僕自身よく聞きます。

月31時間〜45時間 →自由時間が減るけど心身はまだ余裕

19時退庁が標準、週一で21時まで残業するような生活です。
本庁だと、閑散期でもこれくらいの残業がデフォです。

疲労感はあまり感じないものの、座っている時間が長くなってくるせいなのか腰と膝に違和感を感じ始めます。
平日の自由時間はかなり少なくなってしまいますが、睡眠を削るまでは至らず、一晩寝れば体力を全回復できます。
翌日まで疲れが残らないので、一年間ずっとこれくらいの残業が続いたとしても大丈夫です。

ただし、小さなお子さんのいる家庭だと、食事やお風呂、寝かしつけのようなお世話関係でかなり時間を取られ、このくらいの残業時間からしんどくなってくると聞きます。
自分の睡眠時間が削られて体力的にしんどいだけでなく、子育てに参加する時間がそもそも確保しづらいです。

月46時間〜60時間 →しんどいけど耐えられる

毎日20時〜21時退庁という生活です。
僕みたいな閑職勢を除けば、本庁勤務職員はだいたい毎月これくらい残業していると思います。

僕の場合、50時間を超えたあたりで急にしんどくなってきます。
睡眠時間をきちんとキープしたところで、疲労が溜まっているのか、一晩寝ても完全回復には至りません。
偏頭痛を起こす頻度も増えて、少なくとも週一ペースで頭痛薬のお世話になります。

週前半と週後半では明らかに業務効率が違います。
生産的な仕事は水曜日までしかできません。木曜日と金曜日は頭が回らず、単純作業をこなすので精一杯です。


観光関係部局に在籍していた頃、ちょうど毎月50時間残業ペースで仕事していたのですが、クリエイティブ要素のある仕事(広報用文章やビラデザインの作成など)は必ず水曜日までに仕上げることにしていました。 
木金にクリエイティブな作業をしようとしても頭が働きません。



主観的にしんどくなってくるとはいえ、土日を挟めばちゃんと回復できます。
一年間ずっとこの生活が続いても耐えられます。嫌ですけど……

月60時間〜87時間 →せいぜい3ヶ月が限界

毎日21時〜22時退庁、かつ月2回ペースで休日出勤する生活です。
87時間という半端な時間は、僕が経験した最長残業時間です。これ以上は未知の領域です。

ここまでくると睡眠を削らざるを得なくなり、明らかに体調が悪くなってきます。
  • 朝起きれなくなります
  • 食欲が落ちます(特に朝昼)、かつ味の濃いものでないと箸が進みません
  • 肩こり、腰痛、膝の痛みが顕著です
特に食欲の落ち方が激しく、「栄養補給するための栄養が足りない」かのような悪循環に陥ります。

仕事の効率も明らかに低下し、自分でもよくわからない行動が増えます。
参照しようとしているフォルダとは全然違うものを開いたり、せっかく作成した資料データを保存する前に閉じてしまったり、単純な誤字脱字を繰り返したり……

ただし、なぜか働いている間は元気なんですよね。
職場を離れた途端に心身の疲労を自覚して、急に体が重くなります。
脳内麻薬が出ているのかもしれません。

一日の疲労感のピークは、翌朝の起床時です。
金曜日の朝なんかはなかなか起き上がれません。
眠気の有無とは関係なく、とにかく起き上がるのがしんどいのです。

これがエスカレートすると、「体が動かない」に達するのかと思われます。


せっかくの休日もほとんどエンジョイできません。
とにかく疲労感がひどく、寝転がってインターネットを眺めるくらいしかできません。


僕の場合、月60時間超の残業が連続したのは、せいぜい3ヶ月間です。
正確にいえば65時間・87時間・70時間で推移しました。

この時は、人間関係が過去最高に良好な職場で、かつ僕は気楽な立場(単純作業だけやっていればいい)であり、長時間残業とはいえかなり負担は軽かったです。
それでも明らかに体調が悪くなりました。
もし財政課や企画課のような高負荷の残業内容であったら、耐えられなかったかもしれません。

残業時間よりも「人間関係」のほうが重要か?

残業の負担感は、個人の残業耐性だけでなく環境要因にも大きく作用されます。
和気藹々とした職場であれば負担感は軽減されますし、ギスギスパワハラ環境であれば短時間であっても苦痛です。

個人的には、月45時間以下であれば、さほど恐れなくともいいと思っています。
問題は労働時間よりも労働環境、特に人間関係です。
「パワハラ環境で残業ゼロ」と「人間関係良好な環境で月60時間残業」であれば、即座に後者を選びます。


<追記>月100時間残業の結果をアップしました。こちらもどうぞ。 





個人的に今年一番のホットニュースである「ぐんまちゃんアニメ化」の続報が出ました。





役所はとにかく他自治体の事例を気にする組織です。
斬新な取組みであればあるほど。

広報や観光の担当者の中には、この事例について上司から「分析しろ」「資料を作れ」と指示されている方もいるかもしれません。

インターネットで調べれば
  • 地元出身の声優さんをメインキャストに据えている
  • 自治体が「製作・著作」としてクレジットされるアニメは珍しい
くらいの事実ならすぐわかると思いますが、僕みたいなオタクを除き、どれくらいすごいことなのかという感覚的な部分はピンとこないかもしれません。

資料を作ってヒアリングしても、「どんな効果が見込まれるのか?」「うちの自治体でも真似できるのか?」「成功するのか?」と詰められたら、回答に窮するでしょう。

7月11日時点で公表されている情報をもとに、「僕だったらこう説明するだろうな」というヒアリング用のカンペを作ってみました。

メインキャストがガチ

メインキャストの3名(高橋花林さん、内田彩さん、小倉唯さん)はめちゃくちゃ有名です。
断言できます。
高橋果林さんはキャリアが短いものの、当たり役(ぼののとかぐろっぴとか)を続々と射止めており、知名度は相当高いです。

声優業には「アニメ畑」「吹き替え畑」「ナレーター畑」のような活動領域がありますが、メインキャストの3名は皆さんアニメ畑です。
かつ、単に声をあてるのみならず、歌手活動も活発に行っており、マルチタレントと言っても良いでしょう。 

内田彩さん小倉唯さんはソロライブツアーなんかも複数回やっています。
さらに内田彩さんは、μ’sの一人として紅白歌合戦にも出場しています。

代表作やディスコグラフィのような指標で示すことも可能ですが、このブログの主要読者層は関心がない情報だと思うので省略します。
とにかく名実ともに「豪華キャスト」であることに間違いありません。

お三方とも声は可愛い系(しかも正統派美少女というよりはちょっと変な声路線、特徴が強い)なので、マスコットキャラクターを演じるのにもぴったりだと思います。
かつ絶妙にファン層が被っていないのも高ポイントです。

一朝一夕で成った企画ではない(推測)

群馬県庁と地元出身声優さんとの繋がりは、今回のアニメ化のずっと前から連綿と続いていたものと思われます。
少なくとも内田彩さんのTwitterアカウントには、かなり前から「ぐんま特使」であることが書かれています。

一昨年、東京・銀座にあるアンテナショップ「ぐんまちゃん家」を訪問したのですが、内田彩さんソロ名義のCDを取り扱っていて、とても驚きました。
アンテナショップという極めて競争率の高い売場でスペースを確保できるほど、一昨年の時点で深いつながりを構築していたのでしょう。

自治体がメディアタイアップするときにありがちな、広告代理店にお金を積んでゴリ押するパターンには到底見えません。成るべくして成ったという感じがします。

「物語性」への挑戦

今回のアニメ化の最大のインパクトは、「自治体のマスコットキャラクターに物語性を付与」したことだと思っています。

アニメ化されるということは、キャラクター達が織りなすストーリーが綴られるということであり、エピソードの積み重ねにより、キャラクター達の設定・奥行きが増していきます。
これが「物語性」です。

「物語性」は、もちろん制作側が主導権を握って作っていくものですが、受け手側によってもかなり左右されます。
制作側が狙ったとおりに受け手側が解釈してくれるとは限りません。
ファンの誤読がバズって炎上騒ぎに発展するケースもあります。

さらに「物語性」は、好き嫌いが分かれる要素でもあります。
大多数が高く評価していても、ごく一部からは強烈に嫌われていたり……逆もまた然りです。

つまるところ「物語性の付与」は、どれだけ頑張っても成功するとは限らないし、何より「全員が喜ぶ」ことはほぼあり得ないのです。


これまでの自治体キャラクターの運用は、粗探しや政治利用を回避すべく、とにかく設定を少なく物語性を排除していました。
極論、ロゴマークと大差ありません。

長期間運用することが前提である自治体マスコットキャラクターにとって、「物語性の付与」はかなりリスクの高い行為です。
これまで積み上げてきたキャラクターイメージが崩壊するかもしれませんし、悪意をもって物語性を解釈し難癖をつけてくる人も現れるでしょう。


自治体キャラクター運用の新境地なるか?

リアルでのパフォーマンスでは、結局くまモンに勝てません。
僕も何度か生で見たことがありますが、明らかに別格です。
動きのキレがいいというレベルを通り越して、観衆の心を揺さぶってきます。

しかも最近は新型コロナウイルス感染症のせいでリアルイベントが中止になり、キャラクターが活躍できる機会も減っています。

このまま従来通りの運用を続けていても、ジリ貧であることは間違いありません。
だからこそ群馬県はチャレンジしたのでしょう。

アニメという媒体を使うのであれば、ここまでは最善に近い展開だと思います。
あとは本編がどうなるか次第です。



新型コロナウイルス感染症騒動が始まって以来、僕が務める県庁では「コールセンター業務の外注」が相次いでいます。

窓口業務の多い市区町村では、業務の外注は日常風景かもしれません。
ただ県庁勤務の僕にとって、これまで職員がやっていた業務を民間事業者に委託するという事態は、なかなか新鮮です。

自治体の業務外注(民間委託)には賛否両論あるところですが、僕は賛成派です。
中でも住民対応窓口業務はどんどん外注すればいいと思っています。

「職員の負担が減る」「安上がりになる」という理由ではありません。
役所の窓口業務特有の環境を民間企業に経験してもらうことで、社会全体のイノベーションにつながるかもしれないからです。

「万人に同じサービスを提供する」難しさを経験してもらう


過去の記事でも少し触れましたが、行政サービスの利用者層はものすごく幅広いです。
いろんな層の人間が、戸籍関係書類の取得のような同一のサービスを求めて、日々役所を訪れます。


通常のビジネスだと、こんなに広い客層に対して同一のサービスを提供しなければいけないという経験は、なかなか得られないと思います。
この貴重な経験を民間企業に提供することで、新たなテクノロジーやサービスが生まれるかもしれません。
 

戸籍関係書類の取得をイメージすれば、きっとわかりやすいと思います。

手続きのためには申請書を書いてもらわなければいけませんが、この「申請書を書く」という行為は、利用者次第で難易度が異なります。

案内なしですらすら書ける方もいますし、一言一句説明しないと書けない方もいます。
握力が弱っていて字が書けない方や、そもそも文字が読めない方もいます。

つまり、利用者のレベル差がものすごく激しいのです。
 

この課題に対し、役所であれば、分厚いマニュアルを作って人海戦術を採るというハイコストな作戦を採ります。
しかし民間企業の場合は、同じ手は使えません。儲けが出ないからです。
そのため、何らかの新たな方法を編み出して、「利用者のレベル格差」という課題に対処するでしょう。
ITに強い企業であれば、新しいテクノロジーを開発するかもしれません。

このようにして新しいノウハウやテクノロジーが生み出されれば、きっと役所窓口だけでなく別の場所でも応用されていき、ひいては社会全体が便利になるでしょう。
行政サービスの外注は、イノベーションのヒントを提供するのです。

これまで切り捨ててきた層に向き合ってもらう

民間企業と役所の大きな違いの一つが、顧客を選べるか否かだと思います。
もちろん、民間企業は顧客を選べる立場で、役所は選べません。

民間企業は、誰も彼もにアプローチするのではなく、ちゃんと利益の源泉になりうる層だけにアプローチすることで儲けを確保しています。これがビジネスです。
逆にいえば、利益の源泉にならなさそうな層に対しては、大して情報を持っていないと思われます。

行政サービスを受託する場合、民間企業でも、これまで顧客として見てきた層のみならず、社会全体のあらゆる層の方々に対応しなければいけません。
これもまた貴重な経験です。
従来は顧客として見てこなかった層の情報を、ローリスクで得られるのです。


ここからは暴言なのでフォントを小さくします。

要するに、これまで民間企業が相手にしてこなかった
  • 資力的に民間サービスを利用できない低所得者
  • お金は無いけど時間は有り余っていて、役所くらいしか相手にしてくれない高齢者
  • 即刻出禁にするレベルのハードクレーマー
  • 表立って関係を持ったら罰せられかねない反社会的存在
こういった方々と対面することができます。

多くの民間企業は、こういった層の方々を「収益源として見込めない」と端から切り捨てています。
しかし、実際に接触して研究を深めていき、新たなサービスやテクノロジーを生み出せば、収益源にできるかもしれません。


民間企業が自社事業としてこういった層にアプローチするのは、多大なリスクが伴います。
しかし、行政サービスの受託であれば、一定の収入は保証されており、リスクはかなり軽減されるでしょう。 

行政サービスの外注は、民間企業を、これまで民間企業から見放されてきた層に半ば強制的に引き合わせるきっかけになります。
この出会いがイノベーションの端緒となるかもしれないと僕は思っています。


つまるところ、これまで役所に押し付けてきた「面倒ごと」を民間企業にも経験してもらうことで、何らかの社会的改善が図れるのでは?と期待しているのです。

現役地方公務員とそれ以外の方々で評価が180度変わりそうなニュースが出てきました。



東京都では
  • 特定の人が頻繁に請求を繰り返したり、請求する対象が十分に特定されないため開示を検討する対象の文書が大量になったりして、業務に著しい支障が出ている
  • 制度の運用を見直し開示請求を受け付けない基準を設けることを検討している
とのこと。

もしこのような運用が実装されたら、地方公務員の多分80%超がガッツポーズをとると思います。
上記のような状況は、東京都に限った話ではありません。
僕の勤務先県庁でも常態化していますし、しかも特定の部署に限った話ではなくほぼ全部署が悩まされています。

僕自身もこれまで幾度となく手を煩わされてきました。
とある年度なんか、特定の1人からの情報公開請求だけで250時間くらい残業しました。
(今使っているMacBookProは、その時の残業代で買いました。なのではっきり覚えています)

一方、地方公務員以外の方からすれば、サービスの劣化かつ行政の不透明化、ひいては知る権利の侵害に他ならず、「けしからん」と思うでしょう。
(都議選を控えたこの時期に、こんな住民受けが悪そうなニュースが報じられるあたり、政治的な匂いを感じます)


ニュースの文面だと、あたかも「公開請求の件数が多いせいで業務に支障が出ている」ように書かれていますが、実際は異なります。
混雑緩和のために入場制限を設けるかのごとく、「件数が多いから規制します」という理屈であれば、僕も疑問に思います。

情報公開の現場を悩ませているのは、「この制度を使って行政活動を妨害したい」「情報公開のプロセスをやらせることでミスさせたい」という悪意ある方々です。
こういう方々が暴れているせいで、「情報公開制度を使って情報を入手したい人」、つまり本来のユーザーが割を食っています。

「さすが独身異常男性、狭量すぎだろ(笑)」と思われるかもしれませんが、僕がこれまで経験したどの部署でも、情報公開制度を使った攻撃を食らってきました。

以下、自分の経験談を紹介していきます。
現役の地方公務員であれば、身に覚えのある話ばかりで、目新しさは皆無だと思います。

事務担当者側から見た公文書開示のフロー(前提)

情報公開制度は、だいたい以下のような流れで進んでいきます。

  1. 請求内容の確認
  2. 対象文書を探す
  3. 開示できるか否かの判断
  4. 非開示情報をマスキング(黒塗り)
  5. 開示方法の調整
  6. 開示の実施
基本的には無料です。お金がかかるのは開示された資料をコピーする際くらいです。
スマートフォンカメラで撮影すれば完全無料で済みます。

単純作業のように思っている方もいるかもしれませんが、実際は相当のコミュニケーション能力が求められます。
特に「請求内容の確認」「開示方法の調整」あたりは、頻繁に揉めます。


公開請求=Look at me.

情報公開制度は、開示請求書を提出するというアクションを起こすことで、役所に対して『公文書開示』というサービス提供を義務付けることを可能にする制度です。

あえて性格の悪い言い方をすると、紙切れ一枚で役所に法的義務を負わせ職員を拘束することが可能です。
たとえ理不尽な内容であっても、条例上のルールを守っていれば、役所側は拒否できません。
「条例ギリギリ」の理不尽ラインを攻めることで、役所に負担をかけられるのです

先述した1〜6の各プロセスで、具体的にどういうふうに役所に負担をかけられるのか、見ていきましょう。

1.請求内容の確認……あえてぼかす

情報公開制度を利用する方は、基本的に公務員以外の方です。
そもそも役所がどんな情報を持っているのか知りません。
そのため、請求内容は、「〇〇に関する文書を開示してください」みたいな抽象的なものになりがちです。

こういう請求があった場合、役所側は請求者とコミュニケーションをとり、請求内容を絞り込まなければいけません。
情報公開制度は条例に基づくサービスであり、このコミュニケーションも条例に基づくもので、役所側は法的義務を負っています。
そのため、下手(したて)に出るしかありません。

繰り返しになりますが、役所側は「請求内容を特定する」という法的義務があります。
そのため、どれだけ請求者から罵倒されようが詰られようが粘り強くコミュニケーションを続けなければいけませんし、直接面会を要求されれば応じなければいけません。

さらに、情報公開請求のフローに乗せれば、メールや電話ならスルーされるレベルの荒唐無稽な中身であっても、行政側は応じざるを得ません。


例えば
  • 「ふざけるな」など単なる暴言
  • 「地球外生命体が攻めてきた場合の避難フロー」みたいな過激設定・陰謀論

であっても、行政側は真剣に応じなければいけません。

つまり、「請求書を提出する」というお手軽かつ無料のアクションだけで、下手弱腰な職員を好きなだけ拘束できるという美味しいシチュエーションを確立できるのです。



2.対象文書を探す……悪魔の証明を強制できる

対象文書の量が多くても、正直それほど負担ではありません。
肉体的には大変ですが、あくまで作業です。

本当に大変なのは、存在するのかどうかはっきりわからない文書です。
書庫をひっくり返して探すしかありません。

僕の経験上、悩ましいのは以下のような文書です。
  • 大昔の文書(廃棄した可能性が高いもの)
  • 国から移管された業務の文書(自治体に引き継がれているのか不明瞭)

「存在しない」ことの証明は、俗にいう「悪魔の証明」であり、どれだけ手間と時間をつぎ込もうが原理的には不可能です。
しかし、情報公開制度を使えば、役所に対して「悪魔の証明」を強制できるのです。
こういう案件が降ってくると、面白いくらいに残業時間が嵩んでいきます。

3.開示できるか否かの検討……グレーゾーンを攻めて「運用の齟齬」を狙う

情報公開制度のルールでは、「開示できない情報」の基準も定められています。
代表的なものが個人情報(特定の個人を識別できる情報)です。
あとは企業の営利的内部情報であったり、役所内部の機密情報などもあります。

各自治体の内規などで、これら「開示できない情報」の具体的な線引きがなされていると思いますが、情報のあり方は非常に多様で、全ての事例を網羅的に線引きするのは不可能です。
そのため、部署ごとに個別の判断が下されることもあります。

つまり、ある情報についてA部署では普通に公開されたのにB部署では非開示情報扱いで黒塗り処理された……という「運用の不統一」が生じうるのです。

開示できるか否かのグレーゾーン案件が生じた場合、とにかく徹底的に前例を調べなければいけません。
庁内初のケースであれば、別自治体にも問い合わせます。
これも時間がかかるんですよね。

もし「運用の不統一」に感づかれてしまったら、格好の燃料になってしまいます。


4.非開示情報をマスキング(黒塗り)……物量で攻めて「ケアレスミス」を狙う

全ページ真っ黒に塗りつぶせるなら楽なのですが、1ページの中に個人情報がちょろちょろ出てくるような文書の場合、個人情報部分だけを黒塗りしなければいけません。

この作業がめちゃくちゃ大変です。
これまでの県庁職員生活で、僕がいただいた残業代の少なくとも3割は、黒塗りタイム分だと思います。

悪意ある請求者達もこの苦労は十分ご存知で、だからこそ黒塗り作業が発生しやすそうな文書を狙い撃ちしてきます。
黒塗りが多ければ多いほど、役所に負担をかけられるのです。

もし黒塗り作業にミスがあれば、請求者側からすれば「棚からぼた餅」です。

黒塗りが漏れている箇所があったら、明らかな行政の失態です。
管理職を呼びつけて謝罪させることができます。

黒塗り不要な箇所を間違って黒塗りしてしまった場合も、「情報の隠蔽だ」「きっと意図があるに違いない」と言って燃やせます。


5.開示方法の調整……ここからが本番

黒塗り作業を終えて開示準備が整ったら、再び請求者とのコミュニケーションが始まります。
ここからの流れは、「単に情報が欲しい人」相手と「役所と戦いたい人」相手とで大きく異なります。

前者の方々が求めているのは「文書そのもの」です。
そのため、「開示の準備ができました」と一報を入れれば終了です。

一方、後者の方々の目的は文書ではありません。
公文書開示のプロセスを通して職員を好き放題に拘束することです。
そのためほぼ確実に、情報開示にあたり、職員の同席&口頭説明を求めます。
むしろここからが本番です。

個人的には一番緊張するプロセスです。
怒鳴られながら宣戦布告されることもあれば、やたら嬉しそうな口ぶりでプレッシャーをかけてきたり、「マスコミと議員を連れていくから最低限課長出してね」と一方的に通告されたり……


6.開示の実施……毎回ドラマ

文書が目的の方の場合、基本的に開示には立ち会いません。
質問がある場合のみ面会して対応します。

一方、役所と戦いたい人の場合、相手側の要求に応じて立会わざるを得ません。

開示当日は何が起こるかわかりません。
いまだトラウマな案件もあれば、笑い話もあります。
何にせよ時間も体力も消耗します。

大体の案件に共通するのは、せっかく用意した文書をほとんど見てもらえないことです。
請求者の目的は「職員の拘束」であり、文書はどうでもいいのです。

文書を読み込まれたら別のトラブルに飛び火しかねないので、読まれないほうが安心ではあるのですが、せっかくの努力が無駄になるのはやるせないものです。



ここまで約3,500字にわたって書いてきました。
このブログの記事はだいたい2,000字前後なので、かなりの長編になってしまいました。

しかし、ほとんどの地方公務員にとって、目新しい内容は無かったと思います。
それくらいありふれた事案です。

東京都には是非頑張ってもらって、全国に広がることを強く期待します。
 

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