キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

カテゴリ: 公務員の日々の仕事

地方公務員という仕事は、暴力とは切っても切れない関係にあります。
(法という根拠があるとはいえ)様々な形で暴力を行使する加害者でもありますし、住民からの物理的・精神的暴力に常時晒されている被害者でもあります。

そのため、地方公務員が暴力についてしっかり考えることは、非常に有益だと思います。
自らの振る舞いの暴力性を意識する必要がありますし、何より心身共に健康に生きるために暴力からの自衛を考えなければいけません。

というわけで、去年夏ごろから「暴力」と名のつく本を手当たり次第読んでいるのですが、最近読んだ『民衆暴力 一揆・暴動・虐殺の日本近代』という本が非常に面白かったです。


ひとたび民衆の暴力行使が始まると、日常ではなし得なかった行動が呼び起こされもする。暴力をふるうプロセスで、民衆にとって「可能な幅」が広がっていくのである。権力への対抗として現れた暴力が、途中から被差別者に向けられたり、反対に被差別者への暴力のなかに権力への対抗の要素が含まれたりもする。
本書を通読すると、権力に対する民衆の暴力と、被差別者に向けられた民衆の暴力とが、それほど簡単に切り分けられないことがわかるだろう。誰が/誰に向けてふるったかによって、暴力の意味合いが異なってくるのはもちろんだが、両者を「民衆暴力」として同時に扱うことで、従来とは異なる領域に思考をめぐらせることができるはずだ。

藤野裕子 著『民衆暴力 一揆・暴動・虐殺の日本近代』 
中公新書 2020年8月 「はしがき」より


地方公務員稼業における暴力考察のポイントを以下紹介していきます。

アンチ行政活動が弱者叩きにもなりうる

先の引用にも書かれているとおり、権力への反抗としてスタートした暴力行使であっても、途中で弱者にも矛先が向けられてしまうケースがままあります。
 
行政に対する抗議活動でも、こういうパターンがよくあります。
行政にダメージを与えるための「戦略」として弱者を攻撃するのです。
あまり具体的なことは書けませんが、現に発生しています。

抗議側としては外堀を埋めるくらいの感覚なのかもしれませんが、やられる側からすれば堪ったものではありません。

民衆による不当な暴力から弱者を守るのは、今の行政の役目です。
そのため、もし今から民衆暴力が始まった場合、被害に遭いそうな相対的弱者は一体誰なのかをシミュレーションするだけでも、きっとためになると思います。

加えて、行政の言動が「民衆暴力のお墨付き」にならないよう、細心の注意が必要だと思います。
マスク着用をめぐって他人に難癖をつけて暴力を振るう「マスク自警団」達は、行政による「感染防止を徹底してくれ」というメッセージを拡大解釈して、自らの暴力を正当化しているのだと思われます。
こういうケースを極力起こさないよう、隙のないメッセージづくりが求められるでしょう。

武装蜂起されたら(軽武装であっても)マジで死ぬ 

そもそも公務員は「権力側」の存在であり、民衆暴力の典型的なターゲットです。

これまでもたびたび、役所内での暴力沙汰や公務員に対する暴行事件が報じられているところですが、報道されているのはごくごくごくごくごくごく一部です。
 
実際に発生している事案数は、報じられた件数の十倍はあるでしょう。
公務員に対する暴力行使の心理的ハードルが低いのだろうと思わざるを得ません。

しかも昔の官憲とは異なり、今の公務員は全く武装していません。
役所内にも武器はおろか防具もありません。刺股(さすまた)くらいならどこかにあるのかもしれませんが、一般の職員は手にできません。

正直、河原で手頃な石を拾ってきて放り投げる程度の原始的暴力にすら勝てる気がしません。

集団に襲撃されたらなすすべもなくやられることを改めて痛感しました。


コロナ収束後が怖すぎる

「コロナによって世界は不可逆的に変わる、行政にも変化が求められる」というお題目の下、行政のデジタル化を進めなければいけない等と主張する方が結構います。
僕もその通りだと思いますが、「コロナによる不可逆的な変化」についていけない方々の救済も、同じく行政の重要な役目だと思っています。

そして、「民衆暴力」という視点で整理してみると
  • 「ついていけない方々」が民衆暴力の主役になる(現代のラッダイト運動)
  • 「ついていけない方々」が相対的弱者となって民衆暴力の対象になる
いずれかの展開になりそうな気がしてなりません。

どちらにせよ行政・公務員は確実に槍玉に挙げられるのでしょうね……

今の時代、物理的暴力は随分下火ですが、精神的暴力のほうは人類史上最盛期を迎えていると思っています。
 
インターネットのおかげで、お手軽かつ殺傷力の高い手段がよりどりみどり。
しかも素性を明かさずに攻撃できるので、加害側のリスクも相当抑えられています。
 
本当に何が起こるのか予想できません。僕も自衛の術を真剣に考えていきます。


本記事を読む前に、これまでの人生を振り返ってみてください。
仕事以外の用事、つまりプライベートの用事で都道府県庁に行ったことって、どれくらいありますか?

僕の場合、
  • マンション管理士試験の申込書を貰うために公営住宅担当課に行った
  • 県立の体育館を借りるために申込書を提出しに行った

この程度です。
多分ほとんどの方が、プライベートの用事では滅多に県庁に行かないのでは?

一方、市役所や町村役場のほうは、たびたび足を運んでいるでしょう。
僕の場合も、マイナンバーカードを作ったり、転入・転出届を出したり、戸籍謄本などの証明書類を取得したり……なんだかんだ用事があって毎年1回は行っています。

この違い、つまりプライベートの用事で訪れる頻度の違いが、市町村職員と県庁職員の業務の違いにも大きく影響していると思います。


市役所・町村役場はプライベートモードの人、つまり「オフの人」を主に相手にしています。

一方、県庁は仕事モードの人、つまり「オンの人」を主に相手にします。


「オン」相手の仕事、「オフ」相手の仕事

もちろん県庁にも「オフの人」を相手にする仕事があります。
自動車税や都道府県民税、公営住宅関係の仕事がその典型でしょう。
ただし、県庁の業務全体からみれば、こういった業務の割合は小さく、従事している職員の数も少ないです。

県庁での対外的な仕事といえば、法人相手の手続き対応がメインです。
職員が対面する相手は「一個人」ではなく「組織の一員」であり、典型的な「オンの人」であります。

何より県庁は、国や市町村とのやりとり、つまり公務員相手の仕事がものすごく多いです。
公務員もまさに「オンの人」です。



一方、市町村の仕事は、住民票関係や各種手当(児童手当など)、生活保護、介護保険、国民健康保険など、住民のプライベートに関わる仕事がたくさんあり、多くの職員がこういった仕事に関わっています。
これらの制度を利用する住民は「オフの人」です。
仕事のためではなく自分自身の私生活のために利用しているからです。

「オンの人」相手の仕事もあるのでしょうが、県庁よりはずっと少なく、役所の仕事全体に占める割合も小さいと思います。

「オン」の人、「オフ」の人

どんな人も「オン」と「オフ」とで異なる顔を持ちます。
 
オンオフの差は人それぞれですが、一般的に「オン」のときのほうが感情の起伏に乏しく打算的だと言えるでしょう。
よく言えば冷静で落ち着いている、悪く言えば無味乾燥でつまらない人間です。
 
人間関係においては、自分の本心を曝け出すわけではなく、表層的な段階を超えません。
まさに「仕事上の関係」です。

「オンの人」と「オフの人」、いずれを相手にするかによって、業務の雰囲気が大きく変わります。

「オンの人」相手の仕事=腹の探り合い

まず、「オンの人」は属性が限られます。
年齢は20代〜60代で、日本語が使えて、健康かつ認知機能のしっかりした方ばかりです。
社会的なステータスもそれなりに高く、常識をわきまえている方がほとんどです。

「オンの人」はたいてい親切です。好感を持たれるよう愛想よく振る舞います。
怒るときも、感情を爆発させるわけではなく、理路整然と詰めてくるほうが多いです。

ただし、親切なのはあくまでも自分の目的を達成するための手段です。
嫌われるよりも好かれていたほうが何事もスムーズに進むから親切なだけで、役所が好きなわけでもなければ、担当職員に個人的な好印象を持っているわけでもありません。
基本的なビジネスマナーを実践しているだけです。

そのため、ある程度までは容易に信頼関係を築けるものの、心の底から打ち解けるような状態までは滅多に至りません。
裏切ったほうが目的に適うと判断すれば、あっさり裏切られます。
なんともドライな関係です。

「オンの人」相手の実際の仕事では、相手の言動は打算であるという前提で動きます。
相手から感謝されても、怒られても、悲しまれても、あくまでも打算だと考え、これらのアクションの裏を読もうとします。
相手の言葉をそのまま鵜呑みになんて絶対しません。発言の経緯や真意を探ります。
相手と協調路線で物事を進めているような状況でも、裏切られた場合を常に想定しています。
ニコニコ笑顔を取り繕いつつも腹の探り合いをしているようなものです。

「オフの人」相手の仕事=生身の人間との対面

一方、役所が関わる「オフの人」は、たいてい苛立っています。
特に役所の窓口に来る方は、来たくて来ているわけではなく、来させらているという認識であり、「貴重なプライベートが潰された!」と言わんがばかりのイライラが表れています。
ただし、うまくスムーズに対応できれば、笑顔で帰ってくれることも多いです。
このときの笑顔は打算ではなく本心でしょう。


属性も幅広く、相手に合わせた対応が必要になります。
認知症のために話が通じなかったり、心身に深い傷を負っていたり、カタギでなかったり……
「読み書きができない」という方も結構いらっしゃいます。

「オフの人」相手の仕事では、文字通り「生身の人間」を相手にしているという感覚があります。
僕の思い違いかもしれませんが、打算ではない「本心」を感じます。
感謝されたら嬉しいですし、力になれなかったら凹みます。


比率の違い

県庁も市役所・町役場も、「オンの人」「オフの人」両方を相手にします。
ただし、その割合は大きく異なります。
県庁であれば「オンの人」、市役所・町役場では「オフの人」相手の仕事が多いでしょう。

どちらの仕事が向いているかは、完全に人それぞれです。
「どちらが楽か」「どちらがやりがいがあるか」とも一概には言えません。

インターネット上には「県庁の仕事は住民のためになっている実感が無く、やりがいが感じられない」という意見が多数ありますが、これは「オンの人」対応が多いという県庁の性質の帰結なのかもしれません。

僕は圧倒的に「オンの人」相手のドライな仕事のほうが性に合っていて、県庁を選んで正解だったと思っています。

地方公務員の仕事はよく「マニュアル仕事」と言われて揶揄されます。
「決まった手順通りにやれば誰でもできる簡単な仕事」「画一的で柔軟性欠ける」「単純なルーチンワーク」というイメージが強いのでしょう。

役所の仕事は基本的に法令という(広義の)マニュアルに基づいて執行されるものであり、なんでもありの民間企業と比べれば間違いなくマニュアル仕事です。

ただし、役所が参照するマニュアルは、業務の手順が全て書かれている親切丁寧なものではありません。

地方公務員は日々、マニュアルの行間を埋めて具体的な作業へと落とし込んで行くプロセス、つまりマニュアルの解釈に膨大な時間と労力を注いでいます。
 
「マニュアルの解釈」の方法を説いたマニュアルはありません。ケースバイケースかつコミュニケーション能力が問われる仕事です。

地方公務員の仕事は「作業ゲー」というよりは、むしろ「作業ルールの解釈ゲー」です。



「要綱」「要領」「手引き」「ガイド」「詳説」「解釈指針」「心得」などと題される、業務の手順や判断基準を説明した文書のことを、便宜上全部ひっくるめて「マニュアル」と称します。

マニュアルは不完全、だから事後的コミュニケーションで補完する

役所の仕事はとにかく「正確さ」を追求します。

マニュアルに書かれていない例外事案が生じた場合、どんなに些細な事象であっても決して無視しません。
 

民間企業であれば「その例外事案について真剣に検討することのコスパ」をまず考え、ごくわずかな影響しかない事象であれば無視するでしょうが、行政は違います。
どれだけの労力がかかろうとも、正確に把握しようとします。

良し悪しは別にして、役所らしいポイントだと思います。


そのため役所は、マニュアルに書かれていない例外事案と日々格闘しています。

マニュアルの文言を拡大解釈して適用しようと試みたり、例外事象そのものを深く調べて本当に例外なのかを確認したり……

どんな方法を採るにしても、一人では完結しません。

マニュアルの作成者をはじめ、いろんな関係者とのコミュニケーションが生じます。



さらにそもそも「読めば誰でも作業できる」ような親切なマニュアルを作成するのは、ものすごく大変です。実際にマニュアルを作ったことがある方なら重々ご存知でしょう。

個人的には作業を文章化することが大変に困難です。
単語の定義は人それぞれです。
どれだけ言葉を尽くして丁寧に文章に認めたとしても、文章を構成する個々の単語の意味が異なれば、文章の意味も変わってしまいます。

マニュアル作成者としては単純作業のレベルまで落とし込んだつもりでも、作業者にとっては曖昧な表現にしか映らない。こういうケースが頻繁に生じます。

マニュアルの文意が汲み取れないのであれば、作業の進めようがありません。
作成者に解説してもらうしかありません。

マニュアルを補完するコミュニケーション

  • マニュアルに書かれていない事態が生じている
  • マニュアルの文章の意味がわからない、または複数パターンの解釈が可能でどちらが正しいのかわからない
マニュアルを解釈するプロセスでは、こうしたマニュアルに対する疑義が頻繁に生じます。
自力ではどうしようできません。疑義を解消するにはマニュアルの作成者に尋ねるしかありません。

ここでコミュニケーションが必要になります。
マニュアル作成者に疑義内容を伝え、回答を求めるのです。
自分が現に直面している状況を正確に伝えるだけの説明能力が問われます。

県庁職員は「疑義に答える」側でもある

市町村役場職員と県庁職員との大きな違いの一つが、マニュアル解釈に関係する業務の中身かもしれません。

市町村職員は、主にマニュアルを解釈して作業する立場です。
 
一方、県庁職員は、マニュアルを解釈して作業するだけでなく、市町村職員からの疑義に答える立場でもあります。
県庁(特に本庁)では、市町村役場にマニュアルを送って作業してもらい、作業結果を集計・分析するという業務がたくさんあります。
県庁主体で実施している業務もあれば、国の事業を仲介しているだけの場合もありますが、いずれにしても県庁はマニュアルを司る側であり、市町村役場からの疑義に答える立場です。
県内の各市町村役場から寄せられる疑義を正確に把握し、回答しなければいけません。

国の事業を県が仲介して市町村に作業してもらう場合でも、市町村からの疑義は県が答えなければいけません。
市町村が直接国に質問するのはご法度です。
市町村も怒られますし、県も怒られます。

疑義にまつわるコミュニケーションの量は、市町村役場よりも県庁のほうが圧倒的に多くなります。
県庁には県内全市町村からそれぞれ疑義が寄せられ、ひとつひとつ対応していきます。
ざっくり市町村数の分だけ疑義数が倍増し、疑義数増に伴ってコミュニケーション量が増えます。

「マニュアル→作業へと具体化するためのコミュ力」こそ地方公務員の適正

地方公務員の仕事の多くが何らかのマニュアルに従って行われているのは、まぎれもない事実です。
ただし、マニュアルに書かれているとおりの作業を淡々とこなしているだけではありません。
マニュアルの解釈に相当の時間と労力を割いています。

マニュアルの解釈は、自分一人で完結するプロセスではありません。
他者とのコミュニケーションが必ず生じます。

一見するとただの単純作業のような業務であっても、自分一人で最後まで仕上げられるとは限りません。
手順に疑義が生じるたびにコミュニケーションが生じます。
そして、「自分の疑義を正確かつわかりやすく相手に伝える」というコミュニケーション能力が求められます。

さらに県庁職員の場合は、「相手が抱いている疑義を正確に把握し、わかりやすく説明して疑義を解消する」というコミュニケーション能力が必要です。

公務員志望者の中には、「マニュアルに従って淡々と作業するのが役所の仕事、自分はマニュアルを理解するのが得意で作業スピードにも自信がある、だからきっと公務員適性があるはずだ」と考えている方もいるかもしれません。

文章読解能力や作業速度が公務員適性のひとつであることは間違いありません。
ただ、前述したようなコミュニケーション能力のほうがもっと重要です。
他者とのコミュニケーションを経なければ、やるべき作業の中身が特定できず、作業に着手することすらできないのです。

こういう「作業内容を確認するためのコミュニケーション」を無駄だと思うなら、きっと地方公務員には向いていません。
何をするにも煩わしく感じられ、ストレスが溜まるでしょう。 

最近の流れを見ていると、マニュアルに基づく作業は今後どんどん会計年度任用職員に任せるようになり、正規職員の役割は「マニュアル作成」「マニュアルの解釈を会計年度任用職員に教える」ほうへとシフトしていく気がしています。


直近だと、札幌市が「比較的簡単な手続き業務」を民間委託するとニュースになっていました。

こういう流れがどんどん進んでいくような気がしています。



こういう路線で実際に進んでいけば、正規職員の仕事に占めるコミュニケーションの割合が大きくなり、より一層コミュニケーション能力が要求されるでしょう。

黙々と作業したいタイプの方にとっては働きづらい環境になるかもしれません。



弊ブログをご愛読いただいている方は薄々感づいているかもしれませんが、僕は自治体の広報業務に対してアンビバレントな感情を抱いています。
 
大事な業務であることは間違いないが、喫緊の課題解決にはならないし、住民の直接的便益(お金がもらえるとか、負担軽減になるとか)にも繋がらない。そのため優先順位はどうしても劣る。

要するに、役所としては注力したい分野だけど、住民は特段欲していない。
住民からすれば「無駄」に映りがちな事業。
こういう埋めがたいギャップのある業務だと思っていました。

しかし最近は考えを改めつつあります。
役所が自ら手がける広報業務に対し、住民側のニーズの高まりを感じます。
これまで行政関係の情報を住民に提供してきたマスコミが、その役割を果たさなくなってきたからです。

一次情報が伝わらない時勢柄

新型コロナウイルス感染症が流行し始めてからというもの、マスコミは行政サービスそのものはろくに紹介せず、行政サービスに対する批評ばかりを取り上げています。
一部のマスコミは以前からこういうスタンスを貫いていましたが、今となってはほぼ全てのマスコミがこんな感じです。

  • 新設された補助金の詳細は一切取り上げず、他自治体よりも給付額が少ないことだけ報じる
  • 新サービスが始まってから時間をおいて報じることで、出遅れ感を出す
  • 新サービスに対する関係者・有識者の見解だけを報じて、サービスの中身は取り上げない

行政が伝えたいのは、サービスの具体的な内容、利用方法、提供期間、対象者、利用条件……といったサービスそのものの情報です。
しかしマスコミは、サービスそのものの情報はばっさり割愛し、代わりにサービスに対する意見や考察ばかりを報じます。
つまるところ、行政が住民に伝えたい情報を、マスコミは伝えてくれないのです。


「せっかくサービスを準備したのに、マスコミがろくに取り上げないせいで、全然広まらない……むしろマスコミが叩くせいでサービス対象者が尻込みしてしまい利用されない……」
こういうジレンマをおそらく地方公務員の9割は感じているのでは?

このような報道スタイルを否定するつもりは毛頭ありません。
マスコミは営利企業=利益につながる行動を選択するのが当然であり、行政を叩けば利益が湧いてくるのであれば、そうするのが当然の選択です。
 
もし「行政を叩いておけば安定して儲かる」という図式が成立しているのであれば、むしろ僕自身投資したくなるくらい魅力を感じます。
行政という存在は当面無くなりません。 飯の種が尽きないのです。

ニーズとのギャップ

サービス自体は一切取り上げず批評ばかり報じるという報道スタンスは、行政にとっては非常に迷惑です。
余計な揉め事に煩わされますし、何よりせっかくサービスを整えても周知できず、住民に気づいてもらえません。


行政だけでなく住民も不利益を蒙ります。
自分にとって有益な行政サービスがリリースされているかもしれないのに、これを知る機会が不足しますし、取り上げられたとしても肝心の中身がわからないのです。

今更僕が取り上げるまでもなく、このような感覚は全国的に見られています。
つまり、行政サービスそのものの情報に対する住民側からのニーズが高まってきているのです。

住民が欲している情報=行政サービスそのものの情報を、民間企業(マスコミ)が提供していないという現状は、一種の「市場の失敗」なのかもしれません。
「市場の失敗」を補完するのは行政本来の役割です。

本記事の序盤で、広報業務は「大事な業務であることは間違いないが、喫緊の課題解決にはならないし、住民の直接的便益(お金がもらえるとか、負担軽減になるとか)にも繋がらない。そのため優先順位は劣る。」と書きましたが、
  • 住民からのニーズがある
  • 市場の失敗の補完である
となると前提が変わります。本腰を入れて取り組まなければいけません。

マスコミを使うか、内製化するか

広報を強化する方法は、大きく2つに分かれると思います。

ひとつはマスコミを利用する方法です。
マスコミにお金を払って広告枠を買い取り、広告として情報発信します。

もうひとつは自らメディアを運営し、マスコミを介さず直接住民にアプローチする方法です。
ホームページや広報誌のような従来媒体をさらに充実させたり、SNSで公式アカウントを運営したり、公共施設に掲出したり……
最近はデジタルな手法ばかり注目されがちですが、アナログな手法もまだまだ活用の余地があると思います。

どちらの路線をとるにしても相当なコストがかかります。
前者は言わずもがな広告掲出料が発生しますし、後者はメディア維持費・コンテンツ制作費のような経費面での負担のみならず、広報技能を持ったスタッフを確保しなければいけません。
さらに後者の路線を採ると、「民業圧迫だ」「戦前の大本営発表に回帰するのか」といった外部からの批判も避けられないでしょう。

結局は政治的判断であり、自治体職員に決定権限はありません。
もちろん個人的には圧倒的に後者推しです。

マスコミから学びたい


情報に対する印象は、「見せ方」次第で大きく変わります。
印象操作テクニックを駆使し、「受け手がどういう認識・感情を抱くのか」を予測しコントロールする技能においては、マスコミには誰も敵わないでしょう。素直に賞賛します。

「見せ方」においては、役所はとうていマスコミに勝てません。
そのため、住民の目に映る役所像、つまり役所の「見え方」は、完全にマスコミに掌握されています。


こんな状態でも従来はなんとかなってきたものの、最近は役所側・住民側ともに不利益が大きくなってきました。
今こそ反旗を翻すときなのかもしれません。


どこの自治体の職員採用パンフレットにも「現役職員へのインタビュー」が載っています。
内容は様々ですが、「仕事のやりがい」「一日のスケジュール」「プライベートの過ごし方」あたりはどの自治体でも共通していると思います。

パンフレットの読者である公務員志望者にとって、一番関心のある情報は「一日のスケジュール」ではないかと推測しています。

「仕事のやりがい」はあくまでも職員個人の主観的な感想で人それぞれですし、「プライベートの過ごし方」も同様です。
「一日のスケジュール」のみ客観的事実で、入庁後の自分を想像するヒントになります。

しかし残念なことに、パンフレットに載っている「一日のスケジュール」はほぼ嘘です。
少なくとも、定時出勤・定時退社していたら確実にフェイクです。
採用パンフレットに載るような花形部署が定時勤務できるわけがありません。
(退庁時刻が20:00を過ぎているようだったら信用できます)

そこで、リアルな実例として、閑職県庁職員である自分の一日を紹介します。
暇さ具合でいえば、フルタイム勤務の平職員の中でも上位10%に入る自信があります。

出勤〜定時まで

定時(9:00)の20分くらい前には出勤して、地方紙とネットニュースに目を通し
  1. 自分の業務に関係あるニュース
  2. 職場内で話題になりそうなニュース
  3. 議員や公務員の不祥事(地方・国政問わず)
あたりをチェックします。

①②は入庁当時から続けているルーチンで、僕に限らずたいていの職員が実践しています。
 
③は今年に入ってから新たに加わった習慣です。
新型コロナウイルス感染症の流行以後、自分の担当業務に関係なく行政全般への苦情をぶつけられる状況であり、こういう情報を知らないと苦情主から「意識が低い」と更に叱責されるため、否応無くチェックしている状態です。 

定時内

9:00 業務スタート

まずはメールチェックから始めます。
だいたい夜のうちに5件くらいはメールが届いており、それらを読んでいきます。
自分の個人アドレスだけでなく、課の共有アドレスもチェックします。
 
「朝一のメールチェックはNG」と説くビジネス書もありますが、地方公務員の場合は始業時のメールチェックが不可欠です。
前日の定時後に発出→本日AM10:00期限の作業依頼のような急件がたびたびあり、こういう案件に限って重要だからです。

メールチェックの次は課全体のスケジュール確認です。
特に管理職の予定は必ず確認します。

地方公務員の仕事には、自分一人では完結せず、管理職の了承が必要なものがたくさんあります。
朝のうちに予定を確認しておかないと、「今日中にチェックしてもらいたいのに、午後から管理職が外出しててチェックしてもらえない、詰んだ」という事態に陥りかねません。

課全体の慌ただしさを把握しておくことも重要です。
もしかしたら急に応援を求められ、自分の作業ができなくなるかもしれないからです。

9:15 本日のタスクに着手

課全体のスケジュールを頭に入れた上で、本日のタスクを確認します。
一日の大まかな流れを決めて、優先順位の高い順に取り掛かっていきます。

本日の場合、真っ先にこなすべき案件は、本日17:00締切の調査ものです。
しかも16:00から来客のアポがあるので、実質16:00までに回答しなければいけません。 

定時内であれば、だいたい20分に1回くらいは電話がかかってきます。
よほどの急件を抱えていない限りは、作業の手を止めて電話に応じます。
メールも同様です。定期的にチェックします。

他の職員の書類決裁も、すぐに見て回すようにしています。
僕の手元に留めておくメリットが皆無だからです。

10:30 上司から急件

予定通り作業を進められる日なんて滅多にありません。
毎日少なくとも3件くらいは突発案件が舞い込んできます。
 
本日の1件目は上司から資料作成依頼。議員からの問合せに答えるため、過去のデータをまとめてビジュアル化します。
管理職のチェック・修正指示を経て、資料を仕上げる頃には午前が終わっていました。

12:10〜13:00 昼休み

ちょっと遅れて昼休みに入ります。
自席で昼食(仕出し弁当)をいただき、愛読しているブログ類をスマートフォンで読んでから、仮眠に入ります。

13:00 国からの通知文を読む

午前中の急件対応中、国から通知文が届いていました。突発案件2つ目です。
どうやら僕の担当している制度の運用ルールが今後変わるようです。
幸いにも大した変更ではないので、特段上司には説明せず、通知文を課内供覧に回します。

13:30 作業再開

本日のタスクを再開します。順調にいけば定時内に終わりそう。

14:00 他課から突発案件

本日3件目の突発案件。他課(A課)から、とある資料を至急提供するよう、電話で依頼されました。
個人情報もりもりのデータのため、そもそも他課に提供していいものか僕単独では判断できません。
「課内で検討したい」と回答して一旦電話を切り、係長に相談。
係長的にはOKだが、念のため課長にも相談することになり、課長に諮るための簡単な打合せペーパーを作成。

14:30 課長にヒアリング

先の急件について課長の意向を伺います。
課長的にもOKだが、どうしてA課が突然そんなデータを求め始めたのか、その背景を気にしている様子。
 
まともな職員ならA課から依頼があった時点で違和感を察して背景を尋ねておくべきところ、こういうところで気が利かないから僕は出世競争早々脱落なんだよなーと反省しつつ、ヒアリングから離席してA課担当に電話。
結果、「部長からオーダーされた」との一点張りで、明確な答えは貰えません。
 
明らかに怪しいので、A課に対しては「個人情報なので絶対に庁内限り、職員のみ閲覧可」という条件を強く念押しして情報提供することになりました。

こういう仕事が、公務員がよく言う「調整業務」の一例です。

15:30 作業再開

今日やるべき作業に三たび着手します。
午前中に仕上がるはずだった17:00締切の調査ものすら、まだ出来ていません。
さすがに焦って作業します。

眼精疲労と空腹を感じ始める頃合いで、作業効率が落ちてきます。 

16:00 打合せ

X市役所の担当者が来て、来年度からの新規事業について説明を受けます。
財政的支援を求められますが、そんなものは無いと回答。

残業タイム

17:45 定時終了

あと少しで全タスクを終えられそうなので、そのまま残業に突入します。
定時を過ぎると電話が減り、作業効率が上がります。

18:00 作業依頼メール

他課(B課)からの作業依頼メールが届きました。4件目の突発案件です。
期限は明日AM10:00。作業量自体は大したことないものの、課長の確認が必要です。
本日中に仕上げて、明日の朝一番に課長に見てもらうことにします。


18:45 本日の作業終了

もともと予定していた本日のタスクを完了。
B課から依頼された作業に移り、こちらも完了。
明日マストのタスクをメモして、机の上とデスクトップを整理して、さっさと退庁します。

普通はもっと忙しい

繰り返しになりますが、これはあくまでも閑職のケースです。
90%のフルタイム勤務職員はこれより忙しいです。
忙しい部署だと突発案件がもっと増えるうえ、しかも締切の短い急件ばかりなので、一日中ずっと急かされているような状態になります。

公務員志望の方で、この一日を見て「思ったより忙しそう……」と思うなら、考え直したほうがいいかもしれません。


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