キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

カテゴリ: 公務員の仕事術

弊ブログ読者の中には、ひょっとしたらブログ執筆に興味のある方がいるかもしれません。
そういう方に向けて、地方公務員ネタ中心で約5年間ブログを書いてみた率直な感想をお届けします。

ブログ執筆を趣味とするメリットは?

僕の場合、1記事書くのに大体3時間くらいかかります。
累計だと1500時間程度、20代後半から30代前半にかけての貴重な時間をこのブログに費やしているわけです。
地方公務員法抵触リスクを恐れて広告は貼っていないので、いくら書いても収入はゼロです。
金銭的に見れば時間の浪費にほかなりません。

しかしこの時間は、僕の成長に間違いなく寄与しています。無駄だったとは思いません。

文章力の向上

ブログを書き続けたおかげで、堅めの文章を書くスキルは確実に向上しました。
1文1文の表現力はまだまだ未熟ですが、文章全体の構成力や論理展開のほうは随分マシになったと思います。詳しくは後述します。

正確な知識の定着

ブログを書くために制度要項や統計データを調べていると、意外な発見がたくさんあります。
初めて知る事実だったり、勘違いだったり……いずれにしても「ググればわかる」ことを案外知らないものだと、日々痛感させられています。
職場で恥をかくまえに誤解を正せて良かったと思います。

日常が面白く見える

普段から「ネタ探し」という観点で役所内を眺めるようになり、役所内で過ごす時間が少し楽しくなりました。
別部署との衝突とか問題職員とのやりとりみたいな面倒な仕事も、「格好のネタ」と捉えられるようになり、以前ほど億劫には感じられません。

自律性の回復

ここまでブログを書き続けてこられたのは、ひとえに楽しいからです。
特に、調べて考えて文章化する……という一連のプロセスの達成感に取り憑かれています。
ひたすら他律的であることを強いられる仕事とは違い、ブログが好き放題書けるおかげで、平日ゴリゴリ削られた自律性を回復できている実感もあります。

 



ブログ執筆のデメリットは?

ブログ執筆のプラス面は上述のとおりで、手軽かつローコストで始められる手段としてはかなりリターンが大きいと思います。
ただし、地方公務員をネタにしてブログを書こうとすると、特有のデメリットが生じてきます。

オフの時間も仕事のことを考える羽目になり気分転換できない

地方公務員をネタにブログを書くということは、仕事について休日にも真剣に考えることにほかなりません。ある意味セルフ休日勤務です。
「せっかくの休日を潰して仕事のことを考えなければいけない、しかも無賃」と捉えると、地方公務員ブログは苦行そのものです。
僕自身、「どうして休日なのに役所のことを考えなきゃいけないんだろう?」と虚しくなってきて、執筆を中断することも時々あります。

正直、僕がこの虚しさに耐えられているのは、
  • 田舎なので娯楽が少ない
  • 他の娯楽を楽しむだけのお金が無い
  • 独身ゆえに時間に余裕があり休日を持て余しがち
という条件が重なっているおかげだと思います。
もし僕が都会に住んでいたら、このブログよりも別の娯楽に流れていることでしょう。

ネガティブな情報を収集せざるを得ず鬱々としてくる

地方公務員をネタにするなら、どうしても社会のダークサイドに触れざるを得ません。
役所の仕事の多くはマイナスをゼロに近づける仕事であり、今現在どのような惨状が存在するのかをまずは情報収集して理解しないと、記事は書けません。
まちづくりや地域振興のような前向きな話題であっても、必ずダークサイドは存在します。 

地方公務員に向けられる軽蔑や嫌悪感も、役所の意思決定や地方公務員の価値観に大きな影響を及ぼしており、無視できません。
ブログを書くためには、地方公務員がどのように叩かれているのかを詳細に把握する必要があります。
せっかくの休日にわざわざ社会のダークサイドを調べたり、ネット上の公務員叩きを眺めたりしていると、どんどん気分が悪くなってきます。
ブログをやらなければ知らずに済んだはずのネガティブ情報を知ってしまい、余計にストレスを抱えているわけです。
精神的自傷と言っても過言ではないでしょう。

もちろん、ネガティブな情報を一切省いて、ひたすら明るく仕上げることも可能ではあります。
しかし、地方公務員界隈はネガティブなファクトがてんこ盛りであり、これらを無視して地方公務員ネタの記事を書こうとすると、相当工夫しない限り薄っぺらくなるでしょう。
素材が全然足りないのです。

文書力を向上させるにはどうすればいいのか?

趣味でブログを書くことの効用として、「文章力の向上」がよく挙げられます。
文章力が身につくことで、本業のみならず副業にも役立つ……という文脈が多いでしょうか。

地方公務員の場合、普段から仕事でそれなりに文章を読み書きしています。
そのためわざわざブログを書かずとも相当程度の文章力が備わっているものです。
そこからさらに文章力を高めていくためには、ただひたすら記事を量産していくのみならず、文章力とは何なのかを改めて考えて、意識的に練習する必要があると思います。

文章力=語彙力×構成力

俗にいう文章力は、語彙力構成力の2つに大別されると思っています。
 
語彙力は、適切な単語と表現を扱えることです。
構成力は、文章全体の流れを整えることです。

文章力の構成要素には他にもいろいろあるのでしょうが、この二つを高めることで、正確でわかりやすく、読者の心に残る文章が書けるようになるはずです。

語彙力:たくさん読む

語彙力のほうは、よく言われるように、たくさん読んで、使える単語や表現のストックを増やしていくしかないと思います。
特に、自分が書きたいテーマに関する単語や表現を中心に、網羅的に収集していけばいいでしょう。

さらに語彙力は、物事をより深く理解し考察する助けにもなります。
単語は概念であり、思考や分析のツールでもあります。
ある物事に属する固有名詞をたくさん知っていれば、それだけその物事を細かく分類・分析できるわけですし、ある物事を描写する形容詞をたくさん知っていれば、それだけその物事を多角的に観察できるわけです。

例えば、雨についての単語をたくさん知っていれば、それだけ雨を細かく分類できる、つまり雨について深く考察できます。
より身近な例だと、「公務員」という単語しか知らない人と、「会計年度任用職員」「臨時的任用職員」「任期の定めのない職員」「フルタイム再任用職員」「短時間再任用職員」などの公務員の細目を知っている人とでは、同じく公務員批判をするにしてもレベルが段違いのはずです。

語彙力が伸びれば、文章力向上につながるのみならず、思考力もどんどん増していき、文章の中身自体がより面白くなります。

構成力:参考書を読みながら練習する

ブログ執筆により磨かれるのは、語彙力よりも構成力のほうだと思います。

文章の構成といえば「起承転結」や「序破離」あたりが有名ですが、これらが万能というわけではありません。
文章のフォーマット次第で、求められる構成力は異なります。

地方公務員の日常業務でも、メール、通知文、議事録、挨拶文、議会答弁……などなど、いろいろなフォーマットの文章を書きます。
我々はこれらを同じ方法論で書いているわけではなく、それぞれの書き方のコツを無意識に使い分けています。

話の舞台を役所実務から文章全般に敷衍しても、状況は同様です。
世の中にはたくさんのフォーマットがあり、フォーマットに応じた作文のコツ、つまり構成力が存在します。
つまるところ、自分が書きたい文章のフォーマット次第で、習得すべき構成力も変わってくるわけです。

とはいえ、多数のフォーマットで適用できる汎用的な構成力も存在します。
こういう構成力を身につければ、文章力が飛躍的に向上します。

僕の経験では、
  • ロジカルな文章
  • 脚本(ストーリー)
  • エッセイ
この三種類はかなり応用が効きます。

おすすめ参考書

構成力の養成方法自体は単純です。
定評のある参考書を入手して、それに従って練習するのみです。

ロジカルな文書だと『考える技術・書く技術』が一押しです。



超有名な本なので、すでに読んだことのある方も多いでしょう。
僕が学生の頃は「就活中にマスターすべき一冊」とも言われていました。
Amazonのレビューだと「読みにくい」という声が多数ですが、地方公務員なら難なく読めると思います。
ちなみにこのブログも、2019年2月頃から本書のメソッドに従って書いています。


脚本(ストーリー)だと、このあたりでしょうか。
ストーリー
ロバート・マッキー
フィルムアート社
2019-05-24


SAVE THE CATの法則 SAVE THE CATの法則
ブレイク・スナイダー
フィルムアート社
2018-08-03


「感情」から書く脚本術
カール・イグレシアス
フィルムアート社
2018-08-03



ストーリーの力を借りると、事実をわかりやすく印象的に伝えることができます。
「創作趣味も無いのにストーリーを書く技術がどうして必要なのか?」と思う方もいるかもしれませんが、ちょっと齧ってみるだけでも案外役に立つものです。

エッセイはいまだにピンとくる参考書に出会えておらず、どう書けばいいのかよくわかりません。
自分が経験した事実と感情を淡々と描写しつつ、さりげなく自分の主義主張を織り交ぜて読者の思想を誘導するのがエッセイの極意だと思っているのですが、その塩梅が難しいです。

地方公務員ネタでブログを書く際のコツとは?

インターネット上では、日々いろんなメディアが地方公務員について論じていますし、当事者(現役・元職の地方公務員)が運営しているブログもたくさんあります。
そんな中でこれからブログを開始し、価値ある情報を発信していくには、地方公務員として得た知識や経験を用いて、市井の人々よりもう一段階深掘りすることが重要だと思っています。

一般的なブログ運営手法とは真逆だと思われますが、地方公務員ネタのブログに限っては、僕はむしろ著者をブランディングせずに「凡百の一地方公務員」という立場で書くほうが面白くなるとも思っています。
大多数の地方公務員が感じたり考えたりしそうな事柄を、普通の人よりもう一段階深掘りするだけで、十分読み応えが出ますし、オリジナリティも宿るからです。
さらに「物事を深掘りする」という行為自体が、自分自身の成長につながります。

「地方公務員的には常識だけど世間には知られていない」情報だけで十分差別化できる

「役所の常識は世間の非常識」という定型句があります。
公務員の人格を非難する文脈で頻出の表現ですね。

実際、役所の常識と世間の常識は大きく乖離しています。
ただ、常識が乖離している理由は、一般的に言われるような人格的問題よりも情報の非対称性が大きいと思っています。
お互いに保有している情報が違うせいで「当たり前」も食い違うのです。
  • 制度の仕組み
  • 施策の背景や経緯
  • 公的統計情報
あたりは、今やググればすぐにわかるとはいえ、世間一般には案外知られていないものです。
そもそも「ググったら誰でもわかる」という認識すら無いかもしれません。
こういう「地方公務員以外にはあまり知られていない行政関係情報」をきちんと押さえたうえで世の中を眺めてみると、インターネット上の多数説とは異なる発想が見えてきます。
これが地方公務員ならではの付加価値であり、地方公務員ブログを面白くする要素になると思います。

たとえば、今年話題になった「マイナンバーカード取得率の普通交付税算定への反映」だと、
  • 自治体間の競争を無駄に煽る
  • 国の責任を自治体に押しつけるな
  • マイナンバーカード取得の事実上の強制だ
みたいな主張が盛んになされていますが、地方公務員ならではの強み、例えば地方交付税制度の知識を踏まえると、新しい視点が見つかります。

以下、ネットで見つけた某自治体の研修資料を見ながら書いてみました。

地方交付税の目的は、地方交付税法第1条で規定しているとおり「財源の均衡化」と「財源の保障」です。
要するに、税収の少ない自治体でもきちんと行政機能を維持できるように、国が「地方交付税」という財源を配分するのが、地方交付税という仕組みです。

ただし、何でもかんでも財源保障するわけではありません。
地方財政計画に計上されている「標準的な歳出」、つまり
    • 法令に定められている事業(生活保護、ごみ収集など)
    • どんな自治体でも実施している事業(道路の維持補修など)
あたりを中心に財源保障しており、
    • 自治体公式Youtubeチャンネルの運営経費
    • 地域のお祭りへの補助金
みたいな、一部自治体しか実施していなかったり、義務づけ度の低い事業に対しては財源保障していません。

また、地方交付税は国税の一部(消費税の33.1%など)を原資としており、税収に応じて毎年度総額が決まっています。
総額をいかに配分するかを決めるのが総務省の仕事で、今回「マイナンバーカードの取得率を反映させる」と決めたわけです。

このような地方交付税の性質を踏まえると、
    • 現時点ではマイナンバーカードを活用した施策なんて一部先進自治体でしか実施されていないのに、地方交付税で財源保障すべき「標準的な歳出」と言えるのか?
    • もっと優先して財源保障すべき経費がたくさんあるのでは?保健所職員の時間外勤務手当とか……
    • 「一般財源同水準ルール」が適用されている現状では、地方交付税の総額を増やすのは困難であり、マイナンバーカード事業分を新たに財源保障する分だけ、他の事業の財源保障をカットして財源捻出することになるのでは?
あたりの批判が可能でしょう。
 

行政関係のファクトをきちんと押さえておけば、スーパー公務員の方々のような個性的卓見を持たなくとも、それなりにユニークな内容に仕上げられるものです。
いちいち調べるのは面倒ですし時間もかかりますが、その分だけ自分の血肉になりますし、無駄ではないでしょう。


深掘りの練習方法

物事を深掘りしていく手法は、コンサルタントやシンクタンク向けの書籍が参考になります。
一般的な分析・思考のフレームワークをちょっと使ってみるだけでも、新しい視点が得られます。
僕はこのあたりの書籍をよく参照しています。

ロジカル・シンキング Best solution
岡田 恵子
東洋経済新報社
2013-05-02



新版 問題解決プロフェッショナル
齋藤 嘉則
ダイヤモンド社
2015-01-19




地方公務員ならではの「行政実務にまつわる知識と経験」を使って、世間一般とは異なる切り口で物事を眺めたり、世間一般よりも深掘りすることで、新規性のある中身に仕上がるはずです。

「わかりやすい文章を書かねばならない」という規範は、今やほぼ全地方公務員が共通して意識していると思います。
専門用語を言い換えたり、主語述語の対応を明確化したり、一文を短くしたり……等々、具体的なテクニックもしっかり共有されています。

ただ役所には、あえて小難しい単語を多用して堅苦しい文章を書く仕事もあります。
首長の挨拶文や寄稿文のゴーストライティング用務あたりが典型です。


 
議会答弁でも、具体的な施策ではなく「首長の政治理念」みたいな抽象的なことを答弁する際は、あえて難解な単語を盛り込みます。
あえて堅苦しく飾り立てることで、文章の格調を高め、ひいては語り手を権威づけるのが目的です。

つまるところ、地方公務員は、平易な言葉遣いでわかりやすい文章を書くスキルのみならず、難解な単語を操るスキルも併せ持つ必要があるのです。

僕の備忘録も兼ねて、役所実務で頻出する必須難読単語を紹介していきます。
各単語の意味は「デジタル大辞林」から引用しました。

重要度A 初任者研修レベル

暫時(ざんじ)/漸次(ぜんじ)


ざん‐じ【暫時】
少しの間。しばらく。副詞的にも用いる。「暫時の暇いとまをいただきたい」「暫時休憩する」
ぜん‐じ【漸次】
[副]しだいに。だんだん。「老齢人口が漸次増加する」
ついどちらも「ざんじ」と読みたくなってしまいますが、「漸次」は「ぜんじ」です。
どちらも両方とも時間に関する表現で、だいたいの文脈で「暫時」でも「漸次」でも文章が成立してしまうせいで、一言間違えるだけで面倒な誤解を引き起こします。

たとえば
・暫時、アニメ視聴を止めます。
・漸次、アニメ視聴を止めます。
どちらも文章として意味が通りますが、意味が全然違ってくるんですよね。

畢竟(ひっきょう)


ひっ‐きょう〔‐キヤウ〕【×畢×竟/必×竟】
[名]《〈梵〉atyantaの訳。「畢」も「竟」も終わる意》仏語。究極、至極、最終などの意。
[副]さまざまな経過を経ても最終的な結論としては。つまるところ。結局。「―人は死を免れえない」
「つまり」を格好良く言い換えるため、文章の締めで使います。
「ひっきょう」と読む熟語が他には存在せず誤解されにくいので、書き言葉のみならず話し言葉としても使います。

膾炙(かいしゃ)


かい‐しゃ〔クワイ‐〕【×膾×炙】
[名](スル)《「膾」はなます、「炙」はあぶり肉の意で、いずれも味がよく、多くの人の口に喜ばれるところから》世の人々の評判になって知れ渡ること。「人口に膾炙する」
個人的「字面から読み方がイメージしにくい単語」ナンバーワン。
「人口に膾炙」という言い回しがほとんどです。
言い換えようとすると冗長になりがち(似た熟語が無い)なので、つい使ってしまいます。

弥縫(びほう)


び‐ほう【▽弥縫】
[名](スル)失敗や欠点を一時的にとりつくろうこと。
「彼の生活はもう…―することも出来ない程あまりに四離滅裂だったのだ」〈梶井・瀬山の話〉
議会答弁で「弥縫策にとどまらず、抜本的な見直しを図ってまいりたい」みたいな言い回しをよく使います。
これも言い換えが難しい(「その場しのぎ」みたいな気の抜けた表現になりがち)ので、難読ながらも使ってしまいます。

平仄(ひょうそく)


ひょう‐そく ヒャウ‥【平仄】
?名?
① 平声(ひょうしょう)と仄声(そくせい)。また、平字と仄字。また、漢詩において、音律上の調和を目的とした句中における平字と仄字の排列の規定。転じて、漢詩のこと。
※詩律兆(1758)一「夫詩之学多端、然基下於依二平側一以中青白上、則在二初学一、此之為二急務一」
② (漢詩を作る時一定のきまりに合わせ平字仄字を配することから) つじつま。筋道。

※この単語だけ「精選版 日本国語大辞典」から引用です。
文章中の言葉遣いを統一するという意味合いで、企画課や財政課あたりがよく「平仄を合わせろ」と指示してきます。
国からのメールや通知文でもよく見かけます。(「申請書中の文言の平仄をよく確認すること」みたいな注意喚起)
一般的な用法というよりは、役所用語の一種かもしれません。


重要度B 1年目のうちに習得したい

瀟洒(しょうしゃ)


しょう‐しゃ〔セウ‐〕【×瀟×洒/×瀟×灑】
[形動][文][ナリ]すっきりとあか抜けしているさま。俗っぽくなくしゃれているさま。「―な身なり」「―な洋館」
「おしゃれ」を格好良く表現する際に用います。
レトロ系の建築物を賞賛する際の定番表現です。
今のところはジェンダー色がついておらず、人物を評する際にも使いやすいです。
僕と同年代のオタクなら「完全で瀟洒なメイド」でお馴染みなのですが、もっと若い世代には縁遠い単語かもしれません。
本当に便利な形容表現なので、覚えておいて損はありません。

敷衍(ふえん)


ふ‐えん【敷×衍/布×衍/敷延】
[名](スル)《「衍」はのべる意》
1 おし広げること。
「それを種にして、空想で―した愚痴」〈宇野浩二・蔵の中〉
2 意味・趣旨をおし広げて説明すること。例などをあげて、くわしく説明すること。「教育問題を社会全般に―して論じる」
自身の経験や持論を別分野に拡張していく際に使います。
「敷衍」の次に続くパートが文章の核心部分にあたることが多く、書き手も読み手(聞き手)も注目する単語です。
これも書き言葉のみならず話し言葉でも使います。

胡乱(うろん)


う‐ろん【×胡▽乱】
[名・形動]《唐音》
1 正体の怪しく疑わしいこと。また、そのさま。「胡乱な者がうろついている」
2 確かでないこと。真実かどうか疑わしいこと。また、そのさま。
「誤を正したり、―な所は字書を引いて見たりして」〈風葉・恋ざめ〉
3 乱雑であること。また、そのさま。
「かき本は字が―ですぢない字どもをかきをけども」〈史記抄・高祖本紀〉
「胡乱な目」という言い回しが多いです。
かつて新しいことを始めた際には「胡乱な目」で見られたものだが、しっかり成果を出すことで信頼を勝ち得た……みたいな、サクセスストーリーの前段部分で用いられます。
漢字で書くと難読ですが、音だと不思議と通じます。

雑駁(ざっぱく)


ざっ‐ぱく【雑×駁】
[名・形動]雑然として統一がないこと。また、そのさま。「雑駁な知識」
これも国からのメールでよく使われます。
書類を提出して「雑駁な表現は改めてください」と指摘されたら、要するに「出直してこい」という意味合いです。
一般的な用語ではありませんが、字面的にも音的にも意味が伝わりやすく、ついつい使ってしまうのでしょう。

重要度C 知ってると格好いい

駐箚(ちゅうさつ)


ちゅう‐さつ【駐×箚】
[名](スル)外交官などが任務のためにしばらく外国に滞在すること。駐在。
国からの通知文や、法令の逐条解説にときどき出てきます。
人事給与系の仕事ではよく見かける単語らしいのですが、僕は過去数回しかお目にかかったことがありません。
知らないとまず読めないし意味もわからない単語です。

警衛(けいえい)


警衛要則
第二条 警衛は、天皇及び皇族の御身辺の安全を確保するとともに、歓送迎者の雑踏等による事故を防止することを本旨とする。
第三条 警衛は、都道府県警察が実施する。


辞書的には「警戒警備すること、またはその役を担う人」という意味で掲載されていますが、役所でいう警衛は「自治体が行う皇室関係の警戒警備」という特殊な意味合いを帯びます。
皇室関係の行事に関わることがあれば、必ず知っておきたい単語です。
法令上の定義がある以上、「皇族の警護」みたいな表現をしてしまうと、完全に間違いになってしまいます。


ほかにも気づいたら随時追加していきます。

つい先日、同期の職員から刺激的な話を聞きました。
大学時代のゼミの恩師から、「地方公務員になったゼミOB達が近年離職しまくっている、何故なんだ?」と相談されたというのです。

そのゼミは地元大学法学部にあり、国家公務員・地方公務員を毎年大量輩出しています。
より正確にいうと、これまで蓄積された試験対策ノウハウやOBとの接点を求めて、公務員志望の学生が続々入門してきます。田舎国公立大学あるあるです。
そのゼミ生達……つまり公務員になりたくて仕方なかったはずの方々が、せっかく公務員になれても結局辞めているというのです。

若手離職の話は過去記事でも取り上げていますが、正直これまであんまり現実味を感じていませんでした。
ただ今回の話を聞いて、急に切迫感を覚えました。


離職防止策を考えていたところ、ちょうど最近リリースされた「新人地方公務員の組織適応」というテーマの論文を見つけました。



論文PDFはこちら
ぜひ本文を読んでいただければと思いますが、かいつまんで紹介します。

論文のあらすじ:適応成功職員を分析

この論文は、2020年10月〜 11月にかけて、福岡県内の自治体に勤務する勤続年数1〜3年目の職員14名を対象として実施したインタビューをもとにしています。
コロナ感染拡大後の情報に基づいているので、現時点でも十二分に通用すると思われます。

また、インタビュイーうち「これまで一度でも離職や転職を考えたことがある」と回答した人が14人中わずか2名に止まることが付言されています。
著者はこの点をもって、インタビュイーの属性を「組織にそれなりにうまく適応できている人々」と評価しています。

この見方には僕も完全同意です。
1〜3年目といえば、民間勤務の同世代との待遇格差(給料安い、研修無い、残業代不支給など)を痛感して辛酸を舐める時期であり、具体的な不満が無かったとしても辞めたくなってくるものです。

分析結果 ー4つの課題と4つの対処方策ー

インタビュー結果を分析した結果、新人職員が主に直面する組織適応上の課題として、
  • OJTの機能不全
  • やりがいの希薄化
  • 仕事や職場への戸惑い
  • 住民に対する葛藤
という4つのカテゴリを抽出しています。

さらに、これらの課題への対処法策として、
  • 受け入れ・割り切り
  • 主体的な学習
  • 現状の変革
  • 人間関係の構築
という4点を提示しています。

それぞれの項目の具体的な内容は、論文本体を読んでみてください。
インタビュー中の実際の発言も多数引用されていて、生々しくて面白いです。

日々の業務に展開するには

正直なところ、「4つ課題」にも「4つの対処方策」にも、目新しい項目はひとつもありません。
誰もが薄々感じている事柄が改めて立証されたというのが率直な感想です。

とはいえ、このように整理されることの意義は大きいです。
具体的な対策を考えやすくなります。

当事者(新人地方公務員):肩の荷を下ろせるか

「4つの課題」として挙げられた項目は、新人であれば誰もが直面する課題と言えるでしょう。
この辺りの課題に実際に悩まされている方がいたら、「自分が悪い」と背負いこむ必要はありません。
「役所あるある」なのです。
こう捉えれば、いくらか気が楽になるはずです。

上司・先輩:サポートの視点

ある程度経験を積んだ職員にとって、「4つの課題」はいずれも「仕方ないこと」として受容されています。
あまりに当たり前すぎて「新人にとっては躓きポイントである」ことを忘れがちなので、改めて意識し直したほうが良いでしょう。

加えて、新人職員が「4つの対処方策」を実践するサポートもできればいいでしょう。
特に、新人職員が「現状の変革」に乗り出そうとしている兆候があれば、しっかり監視したほうがいいと思います。
3年目くらいの職員が思いつく改革案には、だいたい致命的な見落としがあります。
そこをうまく指摘して補強させたり、時には諦めさせるのも重要でしょう。


ここからは完全に個人的感想です。
インタビュイー各位の発言を読むに、皆さん「自助だけでなんとか乗り切った」という認識のようで、「周囲の職員に助けられた」というコメントが皆無なのが大変印象的でした。

引用箇所があくまでインタビューの一部だけで、引用されていない部分にはこういう趣旨の発言もあったのかもしれませんが、もし本気で「自分一人で新人期の危機を乗り切った」と信じているなら、それは危険な誤解だと思います。
誰かしらサポートしてくれているはずなのに、視野が狭くて気づいていないだけなのでは……?

周囲の厚意に気づかず、悲劇のヒーロー/ヒロインぶる若手は、役所でなくとも煙たがられます。

さらに、こういうマッチョ思考は、後輩への塩対応(自分は独力でなんとかできたから、お前もできるだろ?)につながりかねません。

勤続年数3年目までの時点では「組織にうまく適応している」かもしれませんが、数年後は危ういなと正直思いました。

ここ数年、地方公務員が書いた本(以下「公務員本」)が増えてきている気がします。
読み手をかなり選ぶ(同業者しか買わなさそう)ジャンルだと思うのですが、継続的に出版されているところを見るに、案外売れているのでしょうか?

公務員本には現役地方公務員にとって興味深いテーマの著作が多く、お値段も手頃で、文章も柔らかく、長すぎず短すぎず、一見とっつきやすいジャンルに見えます。

ただ僕は、公務員本は上級者向けの読み物だと思っています。
鵜呑みにするのは危険ですし、勿体無いです。

公務員本≒伝記・回顧録

公務員本には、著者の個人的経験(サクセスストーリー)に基づく主観論に終始したものが多いです。
ジャンル的には政治家や経営者の自伝・回顧録に近いと思います。

あくまでも材料は特定の自治体の一定期間のエピソードであり、定量的な分析や学術的な裏付けがあるわけではありません。

本を出版できるような地方公務員は、言うまでもなく成功者です。
成功者の意見である以上、多少根拠が弱かったところで、参考になるのは間違いありません。

とはいえあくまでも経験ベースの主観論である以上、普遍的な真理ではありません。
著作中で紹介される手法やノウハウは、著者が勤務した自治体では成功を収めたかもしれません。
しかし、読者が置かれた状況下でも同様にうまくいくという保証はどこにもありません。

タイトルと中身のミスマッチ

公務員本のタイトルには、あたかも普遍的真理を説くかのような文言が使われがちです。
「〜の教科書」とか「〜の基本」みたいな。こういうタイトルのほうが売れるのでしょうか?

反対に、経験談であることを前面に打ち出した著作はあまりありません。

つまるところ公務員本では、中身は経験論&主観論なのにタイトルは普遍的真理っぽい……というミスマッチが生じがちといえます。

批評的読書が必要

公務員本を読むなら、似たようなタイトルの本を複数冊読むことを勧めます。
「同じようなタイトルの本を何冊読んでも、内容が重複していてお金も時間も無駄なのでは?」と思うかもしれませんが、心配無用です。
似たタイトルであったとしても、著者が異なれば、中身はかなり違ってきます。
ここが公務員本の面白いところです。

もし重複する内容が見つかれば、それこそ大きな収穫です。
それぞれ異なる境遇に置かれた成功者達が、共通して「重要だ」と考えたということは、それは普遍的真理に近い内容なのです。


また、著者の主張の中でも、特に納得できない点に注目するのも有益だと思います。
公務員本で語られるサクセスストーリーの中には、直感的に「おかしくない?」と反論したくなる展開もたくさんあります。
  • 地域住民が最初から好意的
  • 周囲の職員のモチベーションがなぜかやたら高い
  • 人員も予算も増えるのに、人事課も財政課も反対してこない
具体的にはこのあたりでしょうか。

たとえ読者が納得できなかったとしても、著作中のサクセスストーリーは紛れもない事実です。
著者が勤務する自治体では、それで成功しているわけです。
見方を変えれば、読者が納得できなかった箇所は、読者の自治体固有の課題ともいえます。
こういう性質の課題を表面化させるだけでも、公務員本を読む価値があると思います。

単に文面を追いかけるだけでなく、「納得できない」という直感を働かせながら読む、つまり一種の批評的読書をすることで、公務員本はより一層役に立つはずです。

新規採用職員の方は、採用から半年が経過して、そろそろ「自分の実務能力」のレベルが見えてくる頃合いかと思われます。
中には「自分は仕事ができない……」と落ち込んでいる方もいるでしょう。

あくまで僕の体感ですが、役所の仕事は慣れるしかないものです。
どれだけ高学歴だろうと、地頭が良かろうと、輝かしい経歴を持っていようと、最初は通用しないと思います。(もちろん「慣れ」のスピードは地頭次第で大きく差が開くでしょう)

今はうまくいかなくとも、ひたすら数をこなして慣れるしかありません。
めげずに続けているうちに、いずれ慣れて楽になってくるはずです。 

答えを出した「後」が重要

地方公務員の仕事(特に新人が担当する仕事)の多くは、法令や要綱などのルールを運用するものです。
何か疑問が生じた場合には、自分で考えるのではなく文書を紐解いて答えを探します。
ある意味、あらかじめ答えが用意されている仕事であり、答えに到達するだけなら、他の業界と比べても相当に楽だと思われます。

ただ、地方公務員の仕事は「答えを出す」だけではありません。
見出した答えを上司や役所外部の方々(住民など)に説明して、納得させるところまでが仕事です。
むしろこういう「答えを出した後のプロセス」のほうが、時間もエネルギーも消費します。
僕の体感では、ヒラ職員の仕事の約7割が「答えを出した後のプロセス」です。

上司にしても役所外部の方々にしても、基本的にヒラ職員のことを信用していません。
そのため、いくらヒラ職員が「法令にこう書かれています」と率直に説明しても、なかなか納得してもらえません。
「法令の読み方を間違えているのでは?」「見落としがあるのでは?」と疑られているわけです。
そこでヒラ職員は、過去事例や裁判例、法令制定時の考え方のような関連情報を収集して、説明を補強していく必要があります。

また、答えそのものがたとえ正しいとしても、感情的に受け入れ難いケースも多々あります。
この場合は、感情的に納得させるための工夫が必要です。
説明の言葉遣いを練り上げて感情的不和を緩和したり、感情的反発を押し切れるくらいにロジックを固めたり……などなど、方法はいろいろです。


こういった「答えを出した後のプロセス」には、ルールもマニュアルもありません。
他の職員から教わったり、見よう見まねで実践したりして、職員個々人が経験を積まない限り、なかなか習得できない領域です。
最初は出来なくて当然ですし、そもそもこういうプロセスの存在すらわからないかもしれません。

さらに困ったことに、先輩や上司からすると、このプロセスはとにかく教えにくいものです。
あまりに慣れきってしまっているために、なかなか言語化できないのです。
「地頭次第だから教えても無駄」だと認識しており、若手から請われても「自分で考えろ」と軽くあしらう職員も少なくありません。

教本無し、師も頼りない……となると、自分でなんとかするしかありません。
幸運にも教えてくれる人がいれば最大限利用しつつ、基本的に自分で試行錯誤するしかないのです。

知識よりも経験を補給

地方公務員の採用プロセスでは、民間企業と比べてかなり重い筆記試験を課されます。
そのため、「地方公務員は知識が重要な仕事だ」と考えている方もいるかもしれません。

しかし実際のところ、地方公務員の実務では、知識よりも経験のほうが圧倒的に重要です。
若手職員の中には「もっと知識を身につければ仕事がうまくいくはずだ」と考え、公務員本を買い漁ったりセミナーに参加しまくったりする人もいますが、それでうまくいくかは疑問です。

経験は一朝一夕で積み上げられるものではなく、それなりに時間をかけて場数を踏むことでしか得られません。
 
唯一の近道は、他者の経験を「他山の石」として活用する、たとえば
  • 周囲の職員が何をしているのか(特に上司との打合せ)を盗み聞き
  • 共有サーバーに入っている他人の資料を盗み見
こうやって他者の経験を追体験すれば、少なからず経験値の足しになると思います。

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