僕の勤務先県庁では、2年前くらいからチャットツールを導入しています。
導入当初はいろいろトラブルが相次いだらしい(僕は外部機関に出向していたので詳細知らない)のですが、今となっては無くてはならないコミュニケーションツールとして重宝されています。
従来ツールの間隙を埋めてくれる
これまでの役所内コミュニケーションツールには、電話やメールがありましたが、どちらも問題を抱えていました。
電話は言わずもがな、相手の時間を奪ってしまうという問題があります。
緊急の場合には有効な手段ではありますが、些細な用件でも電話をかけると、相手に時間的・精神的な負担をかけてしまいますし、なかなか電話がつながらないせいで時間のロスが発生するとか、うっかり電話するのを忘れていて手遅れになるなどのトラブルも発生していました。
メールを使えば、相手の時間を奪わずに済むものの、今度はキャパシティの問題が生じます。
メールボックスの容量が小さくてすぐにパンクしたり、添付ファイルの上限が小さくてやりとりできるデータの容量に限度があったり……メールというツールそのものの問題ではありませんが、職員向けの設備投資に割ける予算がごくごく限られる地方自治体組織において、メールシステムのキャパシティ不足は如何ともしがたい問題です。
そこでチャットツールが登場し、電話とメールの利点を兼ね備えたコミュニケーションが実現しました。
チャットなら、リアルタイムで双方向のやりとりができ、相手に過度な時間的負担もかけません。
添付ファイル容量の大きさも随分改善されました。チャットシステム自体が目新しいサービスなので、デフォルトでキャパシティが大きいです。
内部のやりとりはチャット、外部とのやりとりはメール……という形で使い分けることで、メールボックスがパンクすることも減りました。
従来も、電話やメールの代わりに手書きメモでコミュニケーションをとる職員数が一定数いましたが、チャットはこれに近いと思います。
職員の意識改革
チャットシステム導入の副次的効果として、職員のコミュニケーションに対する意識の変革という効果もありました。
従来は、個人個人が使い慣れた方法でコミュニケーションをとる傾向がありました。
会議をたくさん開く人、とりあえず電話をかける人、メールを重んじる人などです。
僕自身、極力メールで万事こなそうとするタイプでした。
僕は忘れっぽいので何事も文章に残しておかないと不安になりますし、かつ庁内でも自分は比較的暇なほうなので、電話で相手の時間を奪いたくありません。
我ながらこの方法は悪くないと思っています。ちゃんと文章に残しておいたことで後々助かったことも多いですし、文句を言われたこともありません。
ただ、メールを作文する時間が長くなり過ぎて、効率が悪かったことを反省しています。
1通のメールに1時間以上かかることもザラでした。
僕はちゃんと目的を持って意識的にメールばかり使っていましたが、実際のところ、先述したような各コミュニケーション手段の一長一短を意識している職員は少数派だったと思います。
そんな中、チャットシステム導入は、各職員が「コミュニケーションとは何か」を立ち止まって考える良い機会となりました。
チャットという新しいツールを使う中で、従来のツールの特徴を見直すことになり、「電話は相手の時間を奪う」などの基本事項にようやく気付いてきたのです。
コミュニケーションツールごとの特徴に意識が向いた結果、コミュニケーションの目的や分量、関係者人数などの条件を踏まえ「どの手段を取るのが最も効率的なのか」を都度考える習慣が生まれつつあり、適切なコミュニケーション手段が選択されるようになってきています。
ネチケットの復活?
一方、チャットツールにまつわる問題というか課題も生じています。
まず、謎のチャットマナーを主張する職員の出現です。
出典不明のルールを持ち出してきて、「その使い方は失礼じゃないか」みたいな指摘をしてきます。
最近見かけたものは、以下のような感じです。
- 体裁の指定(1行○文字まで、1投稿あたりの行数上限、句読点の打ち方)
- 添付ファイルの種類に制限を設ける(PDFしか投稿してはいけない 等)
- 未読時間の上限(○分以内に既読をつけるのが常識 等)
- 目上の職員にチャットするときは事前に電話すべき
このようにネチネチ指摘してくる職員がいるので、特に若手を中心に安全策を取る人が増えています。
- 「お世話になっております。○○課の△△です。」などの定型挨拶文から入る
- 本文はガチガチに公文書ルールを遵守(送り仮名、1行の文字数など)
- 締めにも「よろしくお願いします。」などの定型文を入れる
つまるところ、外部に送るようなメールと同じような作法で、文章を作文しています。
そのせいで本文よりも定型文のほうが長くなることもしばしばあり、せっかく即時性あって手軽なコミュニケーションがとれるというチャットの利点を損なっている気がしています。
(僕がこのような主張すること自体、「謎のチャットマナーを持ち出す」行為にほかならないわけですが……)
事実上の週7日勤務になるのか
もう一点、労務管理上の懸念も払拭しきれません。月曜日に出勤すると、休日出勤していた職員からだいたい5~10件ほどチャットが入っています。
僕の勤務先県庁では今のところ、ライセンス数の都合上、一部の職員しか私用のスマートフォンにチャットシステムを入れておらず、「休日はチャットを確認できない」という前提があります。
そのため、チャットツール導入後にありがちな「休日にも仕事の指示が飛んでくる」という事態にはまだ陥っていません。
ただ、これから順次、全職員の私用スマートフォンにチャットシステムを入れられるようライセンスを追加調達する予定らしく、そうなれば、ひょっとしたら休日でも仕事を押し付けられるのではないかという懸念が生じてきます。
すでにチャットシステムを入れている職員に確認したところ、既に「月曜日でいいから対応してほしい」という指示がたびたびあるとのこと。
発信元としては休日出勤を強いる意図は全く無いのでしょうが、しかしこの場合でも、受信側としては、通知が届いた時点で中身を確認しなければいけません。
休日に対応しなければいけない急件なのか、週明けで十分な案件なのか、チャット本文を見ないと確認できないのです。
実際の作業までは求めなくとも、このような確認作業を強いている時点で、れっきとした「仕事の押し付け」ではなかろうか……と思ってしまいます。