キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

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タグ:受験生向け

多くの地方自治体では、職員数削減やコストカットのために、業務の民間委託を進めてきました。
 
これまでは技能労務職(運転手やごみ収集など)の業務委託や公共施設の指定管理のような現業職的な外注が中心でしたが、最近はさらに、これまで正規の事務職員が従事していたような頭脳労働分野まで外注し始めています。
 
加えて、外注という関係性のみならず、役所の施策と類似したサービスを民間企業が独自に提供し始める……いわば役所の役割を侵略するような案件もちらほら出てきています。


公共領域への民間企業進出という現象は、現役の地方公務員にとっては当たり前の事実なのですが、役所の外側、特に学生からはなかなか見えづらいです。

しかし、地方公務員志望の学生こそ、民間企業がいかに公共領域に進出してきているか入念に調べる必要があると思います。
貴重な学生生活を試験勉強に割いて地方公務員になったのに、やりたかった仕事が実は民間企業に全面外注されていて、正規職員になってしまったがゆえに金輪際携われない……という悲劇を防止するためです。

受注と独自進出

民間企業の公共領域への進出には、大別して二つのパターンがあります。

ひとつは外注案件です。
これまで自治体の正規事務職員が担当してきた業務の一部が切り出されて、業務委託という形で外注されるものです。

具体的には、
  • 出納会計のようなルーチン的事務作業
  • 補助金事務局のような突発的業務
  • 統計調査や広報のような専門技能が必要な業務
あたりが挙げられます。

最近ではさらに、各種の中長期計画の策定のような役所特有の業務まで外注したり、大型新規事業のような目玉事業を丸投げするようなケースもままあります。
先進事例や成功事例としてメディアに取り沙汰されている事業が、実は民間企業に丸投げしてある案件だった……というケースも少なくないようです。

僕の住んでいる県内でも、ユニークな早期教育事業に取り組んでいて結構注目されている自治体があるのですが、その実態は民間企業に丸投げ(有力議員の親族がいるコンサルに仕事を回してるだけ)だったりしています。


もうひとつは、役所の施策と重複するサービスを民間企業が独自にリリースするパターンです。
具体的には、以下のような業務が挙げられます。
  • 中小企業の販路開拓、新商品開発、事業承継あたりの支援
  • 観光事業者とメディア・交通事業者との連絡調整、広域観光の連絡調整
  • 移住希望者と就業先のマッチング
こういった役所でも一応実施している事業を、民間企業ならではの専門性と自由度を活かして、役所以上のレベルで提供しています。もちろん有料です。

役所が無料で提供している内容と被るものを、わざわざ有料で提供する……ということは、それだけ既存の行政サービスがしょぼくて利用者のニーズを満たせていないということなのでしょう。
いわば、役所が提供している「安かろう悪かろう」のサービスの代わりに、より高品質なサービスを有料で提供しているのです。

こういった業務は、役所の中でも前向きな仕事であり、若手職員からも人気のある「花形」であり、配属される職員も比較的優秀な人ばかりです。
とはいえ、所詮人事ローテーションで回ってきただけで知識も経験も乏しいですし、いくら頑張っても限界があるのでしょう。 
やる気のある地方公務員にとっては、これまで花形と言われてきた仕事が「安かろう悪かろう」扱いをされているわけで、悔しがっている人もいます。

主要アクターはコンサルとシンクタンク

公共領域への進出を強めているのは、主にコンサルタントシンクタンクです。
特に会計系のコンサルが多い気がしています。

これらの業種が公共領域に進出しているという話題は以前からニュースにもなっていますし、転職サイトを見ていても公共領域要員を多く募集しています。

公共領域で活躍する民間企業の情報は、詳しく調べてみないとなかなかヒットしません。
少なくとも、普通に公務員就活をしているだけでは全然見えてこないでしょう。
こういう企業はたいてい東京に本社があるので、地方の学生にとってはさらに情報収集しづらいかもしれません。

しかし、公共領域における民間企業の存在感はどんどん強まるばかりですし、現役職員目線では民間企業が手がける事業のほうが楽しそうでやりがいがあるように映ります。
公益のためにバリバリ働きたい!という志があるなら、試験勉強の時間を割いてでも調べる価値があると思います。
この一手間が人生を分つかもしれません。

僕が新卒就活をしていた頃(2010年代前半)は、体育会系神話がまだまだ健在でした。
「体育会系は就活で強い」というやつです。
大学一年生の頃から就活を見据えて体育会系部活動に入る人もいましたし、人間関係トラブル等で居づらくなっても「就活のためだから」と嫌々ながら部活動を続けている人もいました。

今はどうなのでしょう?新型コロナウイルスのせいで、大学のサークル文化や、体育会系部活動自体が存亡の危機にあるという話も聞きますが……

僕の同期職員にも、何人か体育会系部活動出身者がいます。
入庁当時は皆さん見た目からしてバリバリの体育会系でしたが、30代になった今は人それぞれです。
そして、役所内でのポジションも、明暗が分かれています。

役所は体育会系組織?

Wikipediaによると、体育会系とは「精神論や根性論、上下関係、体力の重視」を特徴としている人や組織のことを指します。
個人的にはさらに、「組織のために滅私奉公するのが当たり前」というポイントも追加したいところです。

またWikipediaによると、公務員組織は典型的な体育会系らしいです。




公務員組織においては特に顕著に見られ、国家公務員・地方公務員ともに上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないことが公務員法で明確に規定されており、公務員には上司の適法な職務上の命令に服従する義務があることから、公務員組織は厳格な上意下達型の命令系統を重視する体育会系の組織文化である。


 
 ※2022年9月10日閲覧



この定義に照らしてみると、僕の勤務先自治体は体育会系ではありません。
上位下達なのは間違いないありません。
ただ、上下関係が厳しいとか、根性論がまかり通っているといった他の特徴は当てはまらないです。
(何事も人海戦術で解決したがる傾向はありますが、それを「体育会系だから」と理由付けするのは何か違う気がしています)

組織の小さい市町村役場だと、お偉いさん一人のキャラクターで組織文化が決まってくるので、体育会系のところもあるのかもしれません。
ただし県庁くらい組織が大きいと、構成員の属性も様々ですし、さほど体育会系にはならないのではないかと思います。

体育会系職員は少数派

個人レベルで見ると、年齢問わずバリバリ体育会系な職員もいますが、かなり少数派です。

地方公務員試験を突破するには、そこそこ長い準備期間(試験勉強期間)が必要です。
そのため、体育会系部活動と並行して公務員試験対策をするのは時間的に難しく、そもそも選択肢として入りづらいのだろうと思われます。
(部員は「部活最優先」の大学生活を強いられるので、「試験勉強に時間を割く」なんて自分勝手な判断は許容されないと思われます)

明暗が分かれる体育会系職員

僕の勤務先自治体だと、体育会系の職員は、役所組織に順応している人としていない人に、くっきり分かれています。

体育会系成分をうまくコントロールできている人は、組織にばっちり馴染めています。
こういうタイプは、いざという時にしか精神論や根性論を持ち出しません。
周囲を励ましたい場面や、もう一踏ん張り必要な場面など、限られた局面でのみ、打算的に体育会系っぽく振る舞います。

一方、精神論や根性論を全面に押し出してくる典型的体育会系タイプは明らかに浮いてしまいます。
20代前半のうちは「元気な奴」として歓迎されもするのですが、アラサーになり部下や後輩ができる頃になると、彼/彼女の体育会系気質が組織の和を乱し始めます。
上司からすれば扱いづらい奴、同僚からすれば面倒な奴、後輩からすればパワハラ予備軍です。


見体育会系経験者の視点(下級生・上級生理論)

ここからは完全に伝聞です。
同期の体育会系部活動出身者が、「どうして体育会系は役所内で浮くのか」を以前語っていました。

大学の体育会系部活動では、「下級生は家畜」「上級生は人間」「OBは神」というヒエラルキー構造があるようです。
下級生には一切の自由が認められず、上級生の指示に従うしかありません。
上級生は下級生を好き放題使えますが、とはいえさほど自由は無く、OBのわがままに振り回されます。

このヒエラルキー構造は役所とそっくりです。
下級生が大半の職員、上級生が管理職、OBが住民・議員・マスコミに相当します。

こう考えると、体育会系は役所生活に馴染めそうな気がします。
それなのに一定数が「異分子」になってしまうのは、彼ら彼女らが「勘違い」をするからです。

体育会系部活動はせいぜい4年間ですが、地方公務員人生は30年以上続きます。
しかも組織の構造上、圧倒的に「下級生」時代が長いです。
「上級生」になるには、本庁の課長クラスまで上り詰めなければいけません。
このことに気づかず、単に後輩ができた程度で自分を「上級生」だと勘違いしてしまう人が少なくないのです。

体育会系部活動出身者としては、「上級生」としてしっかりと成果を出してきたことが自身のアイデンティティであり、早く「下級生」を脱して「上級生」になりたく思うのでしょう。
しかし、役所組織における「下級生」期間は、部活動よりもずっと長いのです。

下級生期間(奴隷生活)に耐えられたのなら役所生活も耐えられる

役所はいわゆる体育会系組織ではなく、バリバリの体育会系人材にとって過ごしやすい環境とは言えませんし、体育会系部活動経験がそのまま活かせるとも思えません。

ただし、ひたすら周囲からの指示に耐え忍ぶ生活が長年続く、つまり他律性が強いという意味では、体育会系部活動における「下級生」と酷似しています。



「上級生」として部活動を引っ張っていった経験は活かせなくとも、「下級生」として辛酸を舐めた経験は、きっと自分の助けになるでしょう。
役所生活にはいろいろ理不尽がつきものですが、体育会系部活動の「下級生」に対する仕打ちに比べれば随分マシなのだろうだと思います。

前々から「公務員or民間のどっちが向いているか」を判定するフローチャートみたいなものを作ってみたいと思っており、最近はよく就職対策本を読んでいます。

たびたび触れているとおり、僕は民間就活で惨敗して地方公務員に逃げ込んだタイプの人間です。
そのため就職対策本を見かけるたびに当時の恐怖が蘇ってきていたのですが、最近になってようやくトラウマを克服しつつあるのか、手に取ることができるようになりました。

今回紹介するのも広義の就職対策本で、公務員試験にチャレンジする本人「以外」を対象にした公務員試験対策本というユニークな位置付けの一冊です。

「公務員になる」と決断した後のプロセスではとても有益

現役の予備校講師の方が著者であり、公務員試験対策の部分はおおむね当たっていると思います。
特に第5章の人物試験対策のパートは、エントリーシートに書くネタの調達方法から面接本番対策まで、幅広く基本事項が紹介されていて、ものすごく参考になります。
僕が就職活動をしていた頃は、こういう基本的事柄を知らないままに面接に臨んで玉砕していたんですよね……

タイトルに「親の本」と冠している本書ではありますが、公務員試験対策に伴走する役割を担う人であれば、教師であれ先輩であれリクルーターであれ、どんな立場の人にも役立つでしょう。


一方、「公務員をすすめる」という観点、つまり「役所は良い就職先だ」という前提に立っているからなのか、公務員の魅力を誇張しすぎに思われます。

例えば、地方公務員の平均給与月額や平均年収の例として、東京都庁のデータを用いている点。
東京都庁は、全国で最も高い20%の地域手当が支給され、給料(基本給)や期末勤勉手当(ボーナス)、時間外勤務手当(残業代)などが田舎自治体よりも20%高いです。

この圧倒的地域手当のために、東京都庁の平均給与月額や平均年収は、全国平均よりもかなり高いです。
しかし本書では、地域手当加算に一切言及することなく、東京都庁のデータを用いています。
現役地方公務員(特に田舎民)がこの部分を読んだら、僕でなくとも違和感を抱くでしょう。
「アニメ映画の標準的興行収入」として「鬼滅の刃 無限列車編」のデータを提示されてるかのような……

また、「承認された残業代はすべて支払われます」と断言している部分にも違和感があります。
この表現、裏を返せば「残業したところで『承認』されなければ残業代は支払われない」ということにほかならず、これは間違いありません。
ただ、一旦承認された残業であったとしても、予算制約のために支給されないケースがままあるのが現実であり、この記述は誇大に思えてしまいます。

「親からすすめられて」公務員になることの危うさ

本書のコンセプトとは逆行してしまいますが、僕は個人的に、親から勧められて地方公務員を選択するのは悪手だと思っています。
地方公務員という職業は、「どうしてなりたいのか」を徹底的に自分で考えて、自分なりに納得できる理由を見出した上で選択肢すべき職業であり、「親から勧められてなんとなく良さそうだから」という軽い理由で選択してしまうと、後々苦しむと思うからです。

地方公務員として働いていると、いずれ必ず「民間のほうがよかったかも……」という迷いが生じるものです。
民間勤務の友人知人と自分を比較したり、役所叩き・公務員叩きを食らいすぎて気分が萎えたり、民主主義の都合で理不尽な仕事をやらされたりすると、かつての決断を呪いたくなってきます。

こうなったとき、自分が地方公務員を選択した理由、つまりは職業選択にあたっての価値観がはっきりしていれば、冷静に状況を考察して判断を下せます。
続けるにしろ辞めるにしろ、判断基準が明確なわけです。


一方、「親に勧められたから」みたいな理由で深く考えずに地方公務員になってしまうと、職業選択の価値観がうまく確立できません。
そのため、苦境に陥ったときに依るべき判断基準がなく、ゼロから悩む必要があるでしょう。
もちろん、親から勧められた後にしっかり自分で考え抜けば問題ないのですが…… 

地方公務員であれば、誰しも少なくとも一度は「公務員じゃなくて民間に行けばよかった」と嘆くものです。
他の職場が羨ましく思えてしまうのは、地方公務員に限らず、労働者全般に共通する本性だと思います。
ことわざにある通り、隣の芝は青く見えるものです。

ただ、地方公務員(特に新卒で役所に入った人)の場合は、「隣の芝は青い」効果のみならず、さらに特有の原因も上乗せされて、より一層「公務員はやめとくべきだった」という後悔を拗らせていると思っています。

この原因とは……就職前の自己分析不足です。
地方公務員の多くは、「働く」ということについて徹底的に考え抜くべき大学3年生の時期を試験勉強に費やしてしまうせいで、自分自身の「やりたい仕事」「歩みたい職業人生」を特定できないまま働き始めてしまうために、就職後にギャップに苦しみがちなのだと思っています。

受験勉強のせいで情報収集も自己分析もやってる暇がない

民間就活組と公務員試験組の、大学3年生の一年間のスケジュールを比較してみると、わかりやすいと思います。

民間就活組の場合、大学3年生の春頃からぼちぼち情報収集を開始して、夏〜秋にかけてインターンや説明会に参加、冬の後半頃から本格的に採用プロセスに臨み始める……という流れを辿ることになります。
同時に、自分の「職業選択の軸」や「職業的適性」を深掘りすること、いわゆる「自己分析」も行います。

いろんな業界・企業の情報を収集して比較検討(=業界・企業研究)しつつ、自分自身の希望や適性を見定める(=自己分析)……というプロセスを、1年間かけてじっくり進めるわけです。


他方、公務員試験組の場合は、大学3年生の春〜夏頃から公務員試験対策を始めます。
だいたいこの時期から大学主催の学内講座や予備校のコースが始まりますし、独学勢であっても「試験対策は1年前から」という目安で動く人が多数派のようです。

あとはひたすらずっと受験勉強優先の日々が続きます。
説明会やインターンに参加したり、受験候補自治体の情報収集したり、自己分析したりもするでしょうが、試験勉強の負担があるせいで民間就活組ほどには時間も労力も割けないでしょう。


民間企業を知らないのにどうして「公務員のほうがいい」と判断できるのか?

民間就活組と比べると、公務員受験組は、量的にも質的にも自己分析が不足しがちです。

量的は不足は、先述したとおり、受験勉強に時間と労力を奪われるせいです。
民間就活組が約1年かけてじっくり自己分析するところ、公務員試験組はエントリーシートを書く段階に至ってようやく自己分析に着手……なんて場合すらあるでしょう。

質的な不足は、情報収集の幅が狭いせいです
情報収集と自己分析は、別物ではなく一体的に進めるものです。
より正確にいうと、情報収集をしなければ、自己分析はうまくいかないと思います。

「自己分析」というと、ひたすら自分の過去や内面を掘り下げていくイメージがあるかもしれません。
ただし、就職活動における自己分析とはあくまで適職を見出すための分析です。
 
学生時代までの経験だけであっても「バリバリ稼ぎたい」「プライベートを優先したい」程度の大枠は特定できるかもしれませんが、具体的にどういう業界・職業に就くのがベストかを考えようとすると、どうしても材料が足りません。
世の中にはどういう仕事が存在するのか、つまりどういう選択肢が存在するのかをインプットしなければ、分析は行き詰まるでしょう。

民間就活も公務員試験も、就職するためのプロセスという意味では同一であり、やるべき自己分析も同じです。
しっかり自己分析するためには、幅広い業界・職業情報が不可欠です。

特に公務員就職の場合、「どうして民間ではなく公務員なのか」を深掘りするためには、公務員の情報のみならず民間の情報も幅広く必要なはずです。
しかし実際のところ、ちゃんと民間企業の情報を収集して業界・企業分析を経たうえで公務員を選択する人は、ごくわずかだと思います。

自己分析が甘いまま地方公務員になっちゃうと……

つまるところ、地方公務員の多くは、学生時代に民間企業の情報収集を怠ったせいで、自己分析が浅いまま働き始めてしまうのです。
 
そして、地方公務員として働く中で遅ればせながら自己分析が深まっていき、「やりたい仕事」や「歩みたい職業人生」が明確化されていきます。
その結果、人によっては「民間のほうがよかった」と本気で後悔し始めるのです。

大学3年時の苦労が一生を救う?

公務員試験対策を始める大学3年生の大半は、しっかりと情報収集や自己分析を済ませたうえで公務員を選択しているわけではなく、「今のうちから勉強を始めないと間に合わないから」着手するのでしょう。
たとえこの時点で「絶対公務員になるぞ!」と固く決意していたとしても、情報収集がまだまだ足りていないと思います。

情報が足りない中で下した判断は、正しいとは限りません。
なので僕は、少なくとも大学3年生の冬頃までは、受験勉強と並行して民間企業についても幅広く情報収集することを強くお勧めします。

国家公務員か地方公務員か、特別区か政令市か、都庁か地元県庁か……みたいな官官比較だけでなく、ちゃんと民間企業も選択肢に含めて就職先を比較検討することで、自己分析が深まり、後悔の少ない決断ができるはずです。



「『やりたい仕事』を明確化・具体化すべき」というアドバイスは、就職活動(特に新卒)の鉄板です。

地方公務員の場合も同様で、
  • ただ「地方公務員になりたい」だけでは不十分
  • 採用後にどんな分野でどのような仕事をしたいのか、具体的に考えるべき
  • 具体的に考えるための情報収集が欠かせない

というアドバイスが、一般的になされています。

「具体的にどんな仕事がしたいか」という質問は面接でも定番で、誰もが考えなければいけないポイントです。
ただ僕は、このポイントはあくまでも面接対策として必要なだけで、「地方公務員を目指すか、それとも民間就職するか」を決断する段階では、無意味だと思います。

民間就職ではなく地方公務員になる理由は、「具体的に〜〜したい」ではなく、「地方公務員になりたい」であるほうが、健全だと思うのです。

むしろ、採用前に「やりたい仕事」を具体化・明確化してしまうほど、採用後のミスマッチがひどくなり早期離職を引き起こすのでは……とすら思っています。

まず考えるべきは地方公務員という職業そのものの特異性であり、これに魅力を感じるか否かを徹底的に吟味したほうがいいと思います。

「やりたいこと」が実現できるわけない

日本は民主主義国家であり、行政は民主主義的決定事項を執行(実行)する立場にあります。
「何をするか」「どのようにするか」を決めるのは主権者たる国民であり、行政ではありません。

この原理原則はもちろん地方自治体にも適用されます。
役所(=地方公務員)の仕事のラインナップは住民が決めるわけで、地方公務員が決めるわけではありません。
役所の仕事の多くは法令に基づいていますが、法令はまさに民主主義的決定の結果であり、法令に基づく仕事は「住民が決めた仕事」の代表例です。

法令に基づかない仕事(例えば観光振興とか広報あたり)は、一見すると役所の裁量で動かしているように思われるかもしれません。
しかし実際は、議会や業界団体や地域住民の意見に従って進められており、役所の意向で動かせるわけではありませんし、担当職員の考えを挟む余地はほぼありません。

つまるところ、役所は職員個々人の「やりたい仕事」を実現できる環境ではありません。

「やりたい仕事」が実在しても担当できるとは限らない

もちろん、役所の仕事ラインナップの中に、自分の「やりたい仕事」が含まれている場合もあり得ます。
しかし今度は、「ジェネラリスト志向」とかいう人事異動の仕組みが立ち塞がります。
異動希望はほぼ通りませんし、通ったとしても数年でまた異動させられます。
「やりたい仕事」を担当できるかどうか未知数であるうえ、担当できるとしてもせいぜい数年なのです。
僕は今年でちょうど入庁10年目になりますが、同期入庁職員の中でこれまで「やりたい仕事」に配属されたことがあるのは、だいたい3割くらいです。

人事異動の無理ゲーっぷりを定量的に知りたければ、こちらの記事をどうぞ。

 

地方公務員の仕事は刻一刻と変わっていく

そもそも、役所が手がける仕事のラインナップ自体、どんどん変わっていくものです。
わずか数年後ですら、現時点では想像もしないような仕事を一般事務職員が担っているかもしれません。

新型コロナウイルス感染症の流行前後の激変っぷりが、まさに好例です。
コロナ前の自治体はインバウンドブームでした。
「訪日外国人観光客をいかに呼び込むか」が重要課題であり、ハード・ソフトともに新規事業がバンバン展開されていました。
「これからの地方公務員は英語で日常会話できるのが当然」なんて主張もなされていました。

もし当時にタイムスリップして、「2020年に新型感染症が世界中で流行して、一般事務職員が夜な夜な居酒屋を回って会食マナーを指導したり、ホテルに駐在して患者に弁当を配るよ」なんて言おうものなら、確実に頭がおかしいと思われるでしょう。

しかしこれが現実……

「地方公務員の特異性」に魅力を感じますか?

地方公務員の面接における「やりたい仕事は何ですか?」という質問、僕は本当にナンセンスだと思います。


採用された途端に、まるで「千と千尋の神隠し」冒頭のごとく
「贅沢な名だね、今からお前の名前は『主事』だ。いいかい主事だよ。わかったら返事をするんだ『主事』!」
と言わんばかりに没個性化を強いるのに、面接段階では個性を主張させようとする。何なんですかね。


多分、この質問が「ちゃんと下調べしているか」を測るのに好都合だからなのでしょうが、受験生的には「具体的に考えるのが大事なんだ!」「熱意が重要なんだ!」と勘違いしてしまいかねません。
そもそも採用側が虚飾だらけの情報しか公表していないのに、「やりたい仕事」を明確化・具体化しろと受験生に強いるほうがおかしい気すらしてきます。

「やりたい仕事」を具体的に考えるのは、面接対策の直前期だけで十分です。 
「やりたい仕事」は、面接を通過するための方便・手段に過ぎず、真剣に考えたところで何の役にも立ちません。
特に「地方公務員になるか、国家公務員になるか、民間就職するか」という根本的進路選択には、まず役立ちません。むしろ害悪です。
 
代わりにじっくり考え抜くべきなのは、
  • 地方公務員という職業は、国家公務員・民間勤務とどう異なるのか(=地方公務員の特異性)
  • 地方公務員の特異性に対し、魅力を感じるか

この2点だと思います。
地方公務員の特異性は、すでに多くの人が論じており、書籍でもインターネット上でもいろいろな説が提唱されています。
先にも触れたとおり、役所が「何を」「どのようにするか」を決めるのは住民であり役所に自己決定権は無いという性質……俗にいう「他律性」も、地方公務員の特異性の一つです。
「原則クビにならない」「病気休暇を取得しやすい」等の勤務条件も特異性の一つでしょう。

このような地方公務員の特異性を見つけるためには、地方公務員のみならず国家公務員や民間企業のことも詳しく調べて、比較することが欠かせません。


他職種と地方公務員を冷静に比較していくと、地方公務員のメリットが実はあんまりないことにきっと気がつくと思います。
それでも「地方公務員になりたい」と思えるのであれば、それこそ真のモチベーションです。
薄っぺらな「やりたい仕事」とは段違いに深みのある、本音の「志望動機」です。 

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