キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

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タグ:学歴

役所は「調整」という言葉が大好きです。
地方公務員であればどんな業務を担当していようともほぼ毎日のように口にする単語ですし、部署名にもよく使われます。
地方公務員向けの啓発でも必ず登場します。

ただ、「調整」の定義は人それぞれです。
各自がそれぞれの定義に基づいて持論を展開しています。

このブログの開設以来、僕もずっと「調整とは何か?」を考え続けてきたところなのですが、最近になってようやく考えがまとまってきたので、ここで一旦紹介します。

調整業務.001

単なる「合意形成」でも「交渉」でもない

地方公務員の調整業務とは
  1. 自陣営にとって有利な結論(落とし所)を
  2. 「客観的妥当性」と「住民感情へのケア」を確保しつつ
  3. 関係者を納得させて実現させる業務
だと思っています。

民間企業にしろ役所にしろ、組織における調整業務とは、単に合意を取り付けるだけではありません。
 
自陣営にとってお得な結果でなければ(損しか生じないケースの場合は損失が最小化される結果でなければ)、たとえ関係者との同意が達成できたとしても、意味がありません。
取りうる選択肢の中でも最善のものを選び取ろうとする、わずかでも自陣営に有利な結論へと誘導しようとする意地汚さが、調整業務においては非常に重要です。

*****

ただし役所の場合は、成果がどんなものであれ、その根拠が「正しい」ものでなければいけません。

「関係者が全員納得しているから問題ないのでは?」という理屈は、役所の場合は認められません。
民主主義の仕組み上、直接的な関係者のみならず、世間一般を納得させなければいけないのです。

「世間一般の納得」というものがまた面倒で、単に論理的・倫理的に正しく、良い結果がもたらされるだけでは足りません。
さらに「感情的な納得」という要素が必須です。

このため、地方公務員の調整能力には、「客観的妥当性の確保」と「住民感情のケア」が欠かせません。
民間企業の調整業務とは一風異なる、役所ならではの要素と言えるでしょう。

*****

もちろん、調整を成功させるためには、関係者の同意が絶対に必要です。
同意を取り付けるための交渉こそ調整業務の本番であり勘所であるのは、役所でも民間企業でも変わらないでしょう。
ただし役所の場合は、本番に先立つ準備のほうも、相当に重要なのです。

調整業務の3段階

調整業務の大まかな流れは前述のとおりであり、3つの段階に分かれます。

自陣営にとって有利な「落とし所」を探る

まずは「落とし所」、つまり「実現可能な選択肢のうち最善のもの」を設定するところから始めます。
 
この過程を通して、
  • 今回の調整において絶対に譲れないポイント
  • 優先すべき要素
  • 時間や費用、ルールなど制約
などの「条件」を整理していきます。

もちろん「落とし所」は、以降の調整プロセスの中でどんどん変わっていきます。
とはいえ最初に条件を整理して「最善手」が何なのかを把握しておかないと、調整過程全体の方向性が定まりません。

「客観的妥当性」と「住民感情へのケア」を満たす説明(根拠)を作る

「落とし所」の案が固まったら、次はこれを正当化するための説明(根拠)を作ります。
 
役所には「二枚舌」は許されません。
直接の交渉相手である関係者にも、無関係な世間一般に対しても、同一の説明を以って納得させなければいけません。
 
このような説明を準備するのは非常に大変で、考慮すべき要素がたくさんあるのですが、少なくともまずは論理的・倫理的に正しくなければいけません。
まず「正しい」ロジックを作ってから、案件ごとの個別性をふまえ、チューニングを加えていくことになるでしょう。

「正しい」説明ができたら、「感情面での適切さ」との両立を模索していきます。
いくら「正しい」説明であっても、感情的に許容できないサイコパスじみたものであれば、理解は得られません。

「論理的・倫理的な正しさ」と「感情面での適切さ」は、たいてい相反します。
バランスをうまく調節しなければいけません。

関係者と交渉して納得させる

調整≒交渉という理解をしている方も多いと思いますが、役所の調整業務に限っていえば、僕はむしろ交渉に臨むまでの準備段階(「落とし所」と「説明作り」)のほうが重要だし大変だと思っています。

とはいえ、関係者が納得してくれなければ調整は成立しないわけで、交渉段階が本番であることに変わりはありません。
 

あくまでも準備した「落とし所」と「説明」を極力そのまま相手に納得してもらうのが、交渉の最大の目的です。

交渉段階で頑張りすぎる(相手を納得させるためにアドリブ的に喋りすぎる等)と、事前に準備した説明内容から外れてしまい、後々に関係者から「説明が違う」「相手によって顔色を変えた、二枚舌だ」という攻撃を受けかねません。
このような批判は、民間企業であれば知らん顔できるのかもしれませんが、役所の場合は致命傷です。何としても避けなければいけません。
 


調整業務に必要な能力(調整能力)

上記の過程を達成するために必要な能力が、俗にいう「調整能力」です。
これを構成する要素として、「知識」「公務員的センス」「洞察力」「プレゼンスキル」があると僕は考えています。

調整案件に関する知識

知識は主に「落とし所を探る」段階で必要です。
 
調整案件に関する知識、例えば
  • これまでの経緯・背景
  • 他自治体の成功・失敗事例
  • 関係法規制などのルール
といった知識がなければ、そもそも「ベストな落とし所」を設定できませんし、「制約条件」を見落とす危険もあります。

公務員的なセンス

落とし所を探る際には、「自陣営にとって何が有利なのか?」という基準が必要です。
これには現時点での損得のみならず将来的な影響も考慮する必要があり、知識だけでは太刀打ちできません。

同様に、説明づくり段階には、「世間一般に通用する妥当性はどんなものか?」「世間一般が感情的に許容できるのはどこまでか?」という基準が必要です。
これも「世間一般」なる抽象的な存在を想定して考えなければならず、ロジカルシンキングが単に得意なだけでは上手くいかないと思います。

これらの能力は、地方公務員として働くうちに培われていくものだと思います。
「公務員的センス」というなんとも抽象的な名称を使わざるを得ず非常に心苦しいのですが、今のところこれ以上にしっくりくる言葉が思い浮かびません。

洞察力・プレゼンスキル

最後の二つは、まとめて「コミュニケーション能力」と称してもいいかもしれません。
 
いずれも主に最後の交渉段階で必要になるものですが、「洞察力」のほうは最初の「落とし所設定」でも重要です。
関係者の意向を最序盤に察することができれば、適切な制約条件を設定でき、より精度の高い「落とし所」が出来上がるでしょう。

プレゼンスキルは、わかりやすくて好感の持てる話し方や身振り手振り、相手の反応を伺いつつ話のペースを工夫する……といった一般的なものです。

奥深い「調整能力」

役所には「トークが上手いわけではないのに調整業務が得意」という方がたまにいます。
特に超有名大学出身の方に多いです。

こういう方は、きっと交渉の準備段階が完璧、つまり「落とし所」と「説明」が完璧なので、話術加算が無くとも関係者を納得させられるのだろうと思います。

「調整能力=交渉能力」という図式は、地方公務員界隈においては表面的すぎます。
地方公務員の調整能力はもっと複合的なもので、一朝一夕で身につくものでもなく、非公務員が即座に真似できるものでもないと思います。

僕と同じ年次に入庁した職員(いわゆる同期)の中には、東大・京大といった超高偏差値大卒業生が5人弱います。
(以下、入学偏差値の高い大学=上位大学、と表記します)

他愛ない雑談の中で、上位大学出身者には度々「○○大まで行ったのにどうして地方公務員になったの?」「せっかく○○大卒なのに地方公務員なんてもったいないよね~」という質問が投げかけられています。

個人的にこれはガチなタブー発言だと思っています。
上位大学出身者は、県庁が第一志望の就職先とは限りません。
国家総合職や民間大手企業、資格専門職(弁護士、公認会計士など)といった地方公務員よりも就職難易度の高い職にチャレンジしたものの敗退して、次善の策としてやむなく地方公務員になったのかもしれません。

そのため、自分自身が一番「どうして……」と思い悩んでいるかもしれませんし、本心では「もったいない」以上のドロドロした感情を抱いているかもしれません。
うかつに出身大学をネタにして軽口を叩いてしまうと、彼ら彼女らの心の傷を抉りかねないのです。

こうした発言には別の危険もあります。
「どうして?」「もったいないよね~」発言に対し、もし正直に「他が駄目だったから県庁に入った」と答えられてしまえば、県庁を第一志望に頑張ってきた多数派はプライドが引き裂かれてしまいます。
歓談の場が冷め切って、後にも尾を引く内部分裂が生じてしまいかねません。

僕の周囲にいる上位大学出身者は幸いにも人格者なので、同期どうしの宴席のような大勢が集まる場では「他が駄目だったから県庁に入った」とは決して言いません。
とはいえ面白い返しがあるわけでもなく、会話がストップして微妙な空気になります。

とはいえ「上位大学出身なのに地方公務員になるのはもったいない」と感じる気持ちはよくわかります。


地方公務員でなければ活かせるのに……

上位大学を卒業するメリットは、「○○大学卒」という肩書だけではありません。
人間関係、学識、習慣、思考方法、センス、振る舞い……等々、上位大学で学生生活を送り卒業しないと身につかないものがたくさんあると思います。

「○○大学卒」という肩書の価値は落ちてきているのかもしれませんが、こうした上位大学に身を置くこと
で得られる諸々の価値は、いまだ衰えていないでしょう。
 
  • 中位以下の大学だと何も見につかない
  • 中位以下の大学で身につくものは無価値or価値が低い
という意味ではありません。

価値の貴賤は置いといて、
  • 上位大学でないと身につかないものがある
  • それらが活きる場面は数多くある
というだけです。

しかし、地方公務員という仕事は、上位大学卒業者ならではの諸価値が活きにくい職業です。
学識や小難しい日本語の読解力は確実に役立ちますが、それ以外はなかなか日の目を浴びないでしょう。


特に田舎だと、せっかく築いた人間関係が全然活きません。
むしろ地元大卒業者の人間関係のほうがはるかに重宝されます。

極端な話、たとえ七大商社全てにコネクションがあろうとも、全然活きてきません。
それより地場スーパーとのコネクションのほうがずっと重要です。


僕が感じる「もったいない」ポイントはまさにここです。
地方公務員以外の仕事では大いに役立つはずの「上位大学卒業者ならではの諸価値」が、地方公務員になってしまったがために活かしきれないのです。

地方公務員稼業だけが人生ではない

とはいえ、あくまでも「これまで」活かせていなかっただけで、これからは活用のチャンスがあるのかもしれません。
それに何より、「上位大学卒業者ならではの諸価値」は、仕事だけでなくプライベートにも活きてくるものです。
 
仕事だけが人生ではありません。
「仕事で活きないから」という理由だけで一概に「もったいない」と決めつけるのは早計だと思います。
もったいないかどうかを決めるのは当人であり、まわりがとやかくコメントする案件ではないでしょう。


若手(20代)地方公務員の給与考察の続きです。
前回の記事では全国平均の数字を使いて、若手地方公務員の給与水準は同年代の民間勤務高卒者並みという結果を見ましたが、今回は地域別の数字を使って
  • 給与の構成要素(基本給・残業手当・賞与)ごとの影響も気になる
  • 高いor安いの感覚は、同一地域内での相対的順位にも大いに影響されそう
という直感的疑念について考えていきます。

賃金構造基本統計調査より


今回は賃金構造基本統計調査の数字を用います。



統計表はこちら。(総務省統計局)


このデータであれば、都道府県ごとのデータが使えます。
エクセルのランダム関数で対象都道府県を選んだところ、岡山県がヒット。
今回は岡山県のデータを使って検討していきます。

ちなみに岡山県は、同統計内の「所定内給与額」(≒諸手当除きの月給)が47都道府県中24位であり、ちょうど中間に位置します。
そのため、単県のデータではありますが、ある程度は全国普遍的な結論を導けるかもしれません。

今回は「若手」にフォーカスすべく、25~29歳のデータを取り出します。
さらに男女差が想定されるので、性別ごとにデータを集計。

この統計調査は民間事業者だけが対象のため、公務員のデータは含まれていません。
そこで、僕が実際にもらった金額をベースに、地方公務員のデータを追加します
地域手当は、岡山県岡山市(3%)を反映させました。
ただし残業代は水物なので、僕の実績をそのまま使うわけにはいきません。
そこで、総務省の「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査結果」中の都道府県職員の平均残業時間である12.5時間≒13時間、毎月残業すると想定し、13時間分の残業手当を「きまって支給する現金給与額」に盛り込んでいます。

残業手当単価は、所定内給与時給換算額×1.25で算出しました。

賞与は4.45か月分を計上しました。


男性:真ん中よりやや悪い

こうして出来上がった一覧表がこちら。
スライド1


右側2列の「所定内給与時給換算」と「年収」のみ、統計データから僕が算出したもので、その他は統計データからのコピペです。
この表を見ただけで、地方公務員の賞与額がかなり大きいことが見て取れます。

スライド2
一覧表を並べ替えて分析を進めていきます。
まずは基本給を比べていきます。

諸手当除きの月給、いわゆる基本給は、「所定内給与」に相当します。
ただし、これの実額で比較すると、対象となる労働時間(所定内実労働時間数)が産業ごとにまちまちで公平な比較になりません。
そこで今回は時給換算して公平性を確保しました。

この基準だと、公務員は51区分中の28位。真ん中よりも少し悪いあたりです。

続いては年収です。
公務員は51区分中の27位。基本給と同じく真ん中よりも少し悪いです。


女性:余裕で上位

続いて女性のデータも見ていきます。
スライド3
スライド4

元データにある民間企業では、どの産業区分でも男性より給与水準が低くなっています。
一方、地方公務員の場合、男女間の差は基本的にありません。
そのため、男性と比べ、相対的に地方公務員の順位が上昇しています。
時給も年収も、余裕で上位に食い込めています。

まとめ:ちょっと劣る

以上の結果をまとめると、岡山県の場合、
  • 平均的な若手地方公務員(男性)は、民間企業勤務の同世代男性よりも高給とは決して言えない。とはいえ薄給とも言えないし、特に賞与は確実に恵まれている。
  • 女性の場合は、同世代女性の中でも相当な好待遇。
といえるでしょう。

統計上の数字には現れていませんが、民間企業の場合は個人差がものすごく大きいことを忘れてはいけません。特に賞与。
つまり、同一区分の中でも相当なばらつき(分散)があると思われます。

一方、地方公務員は、残業代の多寡くらいでしか差がつきません。
20代のうちなら基本給の差も小さいですし、賞与は余程のことがない限り満額支給されます。

給与の安定感を重視する方にとっては、地方公務員の待遇は数字以上に魅力的に映るでしょう。

今回は岡山県のデータを使ってみましたが、都道府県ごとに特色が出ると思います。
お住いの地域のデータで自分の給与と比較してみたら、きっと発見があると思います。

出身大学比較(その2)

「30歳時点の想定年収」という出身大学別のデータも見つけました。
【2021/2/17 新しいデータがリリースされたので差し替えました】




「年収」の定義がよくわからないうえ、転職サイト登録者のデータをもとにしているようなので、どちらかといえば上振れしている気がします。

僕の場合、30歳時点(2020年)の年収は約440万円でした。
※内訳:基本給300万円+賞与110万円+残業手当+地域手当
ちなみに地域手当を東京23区水準(20%)まで引き上げると、約500万円になります。


このデータだけだと、
  • 東北大学→宮城県庁・仙台市役所
  • 九州大学→福岡県庁・福岡市役所
みたいな、地方の旧帝大を卒業してからの地方公務員という流れは、年収的には負け組のように見えます。実際は結構たくさんいそうな気がするのですが……

田舎社会は国公立大学を尊びます。
僕(中堅私立卒)の場合、特に婚活をしていると露骨に感じます。
「へー●●大学卒なんですか、よく県庁入れましたね、成り上りましたね」みたいに、露骨に冷めた反応をされることもしばしば……

地方の役所も田舎っぽい組織であることは間違いありません。
しかし、学歴に限っては違います。
出身大学が国公立であれ私立であれ、肩身が狭い思いをする機会は滅多にありません。

学歴関係なく同じ仕事をしている

役所に勤めているのは大卒者だけではありません。高卒の方もたくさんいます。

学歴区分に関係なく机を並べ、同じような仕事をしています。
年齢が一緒であれば、給与も昇進スピードも大差ありません。
そのため、学歴の違いを意識することが基本的にありません。

高卒/大卒の区別すら普段は意識に上らないくらいなので、国公立/私立の違いは言わずもがな。
職場でもし国公立大卒を尊重するような言動を取れば、思いっきり浮きますし、一気に敵を増やしてしまうでしょう。
調和を乱す言動にほかなりません。

実務能力とも関係ない

出身大学のランクと実務能力は直結しません。
役所で最も尊ばれるのは調整能力です。学識とは関係ありません。

勤務評価や出世とも関係ないと思われます。
僕の同期職員にも超有名国立大卒業者が何人かいますが、いずれもガチ出世コースからは外れています。

せっかくの学識を活かせていないだけという考え方もできますが……

いずれにせよ実務面でも待遇面でも、私立大卒だからといって全く支障ありません。

最終学歴の更新はできなくなる

学歴を負目に感じる方にとって、地方公務員はおすすめの職場だと思います。
役所内にいる限り、出身大学がプラスにもマイナスにも機能しないからです。

ただし、一旦役所に就職してしまうと上位学歴の取得がほぼ不可能になる点は留意しておくべきでしょう。
民間企業のような、大学院進学のための金銭的支援はありませんし、休職することへの理解も得られにくいです。
僕の知る限りでも、大学院進学のために地方公務員をやめた方が何人もいます。

今の学歴に満足しておらず、上位学位を取得して最終学歴を更新したいという野望があるのでしたら、地方公務員への就職は再考すべきでしょう。叶う見込みは極薄です。

事前面談会が大変なようで……当事者の皆様は本当にお疲れ様です。
ネット上にいろんな声が上がっていますが、僕の感覚では「まあそうなるよなぁ……」という感じで、正直驚きはありません。
表向きのルールを守らない流れなら、やっぱ今年も伝統行事「地上試験日拘束」やっちゃいそうですね……

事前面談会で深淵を垣間見た結果、国家総合職への就職を再考している方もいるかもしれません。
ただ、現時点で完全に見切りをつけられる方はごくごく少数でしょう。
そして大半は大いに迷っていることと思います。
特に「これまでの努力が無駄になってしまう」という葛藤と戦っているのでは?

この感情こそ、かの有名な「一貫性の法則」「サンクコストの錯誤」と呼ばれる人間の思考の癖です。
狩猟時代から人類の脳に刻まれた思考パターンであり、無意識のうちに人間の決定を方向付けます。
そしてときには不合理な決定をもたらし、後悔の素となるのです。
 
ファーストキャリアに国家総合職を選ぶかどうかは、人生において非常に重要な選択です。
認知の歪みに左右されることなく、合理的に考え抜いたうえで決定すべきです。

「一貫性の法則」や「サンクコストの錯誤」そのものの解説は別サイトに任せるとして、これらの思考の癖から解放されるためのヒントを考えてみます。


一貫性の法則:志望動機を冷静に深掘りしてみる

端的にいうと、「これまでずっと国家総合職を目指してきたから今更進路変更なんてしたくない」という気持ちを惹き起こすのが「一貫性の法則」です。

この法則の影響から逃れるためには、なぜ国家総合職を目指しているのかを今一度冷静に見つめ直して、「一貫性の法則」とは関係なく本心から国家総合職を志しているのかを問い直すのが効果的です。

  • 官僚というステータスに憧れている
  • 入庁後にやりたい仕事がはっきりしている

このように断言できるのであれば問題ありません。邁進してください。

断言できないのであれば、国家総合職を目指す動機を細分化してみることを勧めます。
 
前述の「官僚というステータスに憧れている」パターンでなければ、国家総合職への就職は目的ではなく手段です。

  • 目的を達成するための手段は、「国家総合職への就職」一択でしょうか?
  • または「国家総合職への就職」が利用可能な手段のうち最善の選択肢でしょうか?

どちらの問いもノーであれば、国家総合職への就職が必ずしも合理的とは言えません。
より志望動機を深掘りしていって、さらに問いを深めてみては?

その結果「国家総合職がベストだ」という結論に辿り着ければ問題ありません。

反対に「他の選択肢の方が良いんだけど、どうしても国家総合職を捨てきれない」という状態から脱せないのであれば、「一貫性の法則」のような認知の歪みが作用している可能性が高いです。
自分で悶々と考えていても仕方ないので、第三者の意見を仰ぐことを勧めます。
それか前掲の『影響力の武器』『ファスト&スロー』を読んでみて、自分の心理状態を客観的に見てみてください。

サンクコストの錯誤:そもそもサンクコストではない

「一貫性の法則」と若干被りますが、「今更国家総合職の道を止めるのは、これまでの過程を失敗とみなすことと同義だ。これまでつぎ込んできたお金・時間・労力などのコストを無駄にしたくない。だから国家総合職しか進路は無い!」という心理状態が「サンクコストの錯誤」です。

もしこういう風に考えているのでしたら、安心してください。
国家総合職を志して努力してきた日々は、少なくとも地方公務員になるのであれば、決して無駄にはなりません。

国と地方がうまく歩調を合わせられない理由の一つとして、官僚と地方公務員の間の絶望的な法令知識格差があると思っています。 
地方側に法令知識(中でも特に、民法と行政訴訟裁判例)が無いために、官僚の意図が正しく伝わっていないのです。
(いずれ別途記事にしようと思っています)
 
こういう構造的課題があるために、官僚並みに法令知識を備えている職員が地方側にいれば、国・地方の相当にとってものすごくありがたいのです。
過去の記事で「東大卒は人事異動のペースが遅い」と書きましたが、高学歴ならではの固有スキルである「知識の厚み」を活かして国と地方の仲介役という代替困難な役割を担っているために、異動させづらいのかもしれません。


 

公務員にならないにしても、国家総合職試験に向けて膨大なインプットをこなしてきたという経験はきっと役立つでしょう。
とにかく無駄にはなりません。

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