キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

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若い頃こそ自己投資に惜しまず資金を投じるべし——このような金言は、ビジネス書や各種セミナーで繰り返し説かれ、一種の真理として社会に浸透しています。
とりわけ地方公務員にとって、この言葉は一層重みを持つかもしれません。

「民間企業と違ってスキルアップの機会が限られている」
「人事異動のたびにキャリアがリセットされる」 
このような悩みを抱える地方公務員の方々が、自腹を切ってオンラインセミナーに参加したり、資格取得のために貴重な休日を犠牲にしたりする姿は珍しくありません。

僕自身、就職後にいくつか資格試験に挑戦しており、つい先日もITサービスマネージャ試験に挑んできました。
こつこつ試験勉強して少しずつ問題が解けるようになっていくのが快感なのと、試験本番のヒリヒリ感が癖になっているんですよね。

しかし、これまで十数年役所勤務してきた経験から率直に申し上げると、これまで取得してきた資格は、地方公務員稼業にはあまり役立っていません。
宅建だけは胸を張って「役立つ!」と断言できますが、そのほかは正直微妙なところです。少なくとも、私財とプライベートを投じるほどの価値があるとは思えません。

資格のみならず、自分自身のスキルアップに投資したとしても、地方公務員稼業にはそれほど寄与しないと思っています。
自分のキャリアを切り拓くために自己投資したとしても、「期待したほど報われない」可能性が高いのです。
 

一般的な自己啓発・自己投資のリターンは小さい

今更言うまでもなく、多くの自治体では定期的な人事異動が行われます。
だいたい2〜3年周期で部署が変わるため、ある分野の専門知識を習得したとしても、それを活かせる期間は限られています。

しかも、地方自治体の業務は多岐にわたっており、どんな部署でも幅広く活きるような汎用的専門知識があまりありません。
「地方公務員なら○○を勉強しておけばずっと役立つ」みたいな鉄板分野があればシンプルなのですが、今のところ僕には思いつきません。強いて言えば都市計画法くらいでしょうか……

さらに組織として、職員にはさほどの専門知識を求めていないとも思います。
多くの自治体は、特定分野の専門知識よりも、組織の中で円滑に業務を進められる調整力や人間関係構築能力を持つ人を高く評価します。出世コースを歩む職員を見ていると、この傾向は明らかです。

結果として、たとえ高度な専門知識やビジネススキルを獲得しても、それを活かす機会はごくごく限られますし、かつ職場での評価につながらないのです。
 

真に投資すべきは「地域探求」

キャリアアップを目指す地方公務員が、まず真っ先に時間とお金を投資すべきは、「勤務先自治体のことを知る」ための活動だと思います。
 
自治体職員として最も汎用性が高く、どの部署に異動しても活かせる知識とは、自らが勤務する地域についての深い理解です。
普通に働いていれば、勤務先の役所が実施している施策に関しては自然とわかるようになってきますが、さらなる高みを目指すのであれば、それだけでは不十分です。
地域の歴史や文化、産業構造、民間サービスの実態、住民の生活様式など、自分が関わっている地域を多角的な目線で地域を理解することが求められます。
 
この「地域を知る」という学びの旅には、明確なテキストもなければ、導いてくれるメンターも存在しません。何を学ぶべきか、どのように学ぶかを自ら設計し、行動に移す必要があります。
だからこそ習得が難しく、真似されにくい、自分だけの強みとなり得ると思います。
 

労働市場での価値が全てではない

もちろん、セミナーや資格取得を通じて知識を増やすことは、個人の人生を豊かにするでしょう。しかし、それらを地方公務員の業務に活かそうとするのは、現実的ではないと考えています。

地方公務員としての真のスキルアップを目指すならば、その地域にどっぷりと浸かることが近道です。
休日の旅行を減らし、代わりにローカルイベントに参加する。通販で全国各地の物産を楽しむより、地元の店舗を巡る。
そうした日常の小さな選択の積み重ねが、地域への理解を深め、結果として職務パフォーマンスの向上につながるのです。

つまるところ、日常生活のあらゆる場面が、 地方公務員として成長する「学びの場」なのだと思います。この認識こそが、地方公務員として真に価値あるスキルアップへの第一歩となるでしょう。


地方公務員という職業への評価は、外野と当事者で全然違います。

最近印象に残っているのは、3月下旬にXでバズっていた「Fランク大学卒にとって一番コスパ良い職業は地方公務員」という投稿です。

この投稿に対して、アンチ地方公務員の方々が賛同&公務員批判を展開する(Fラン卒をどうして税金で養わなきゃいけないんだ等)一方で、地方公務員を名乗るアカウントが反論のリプライを飛ばす……という光景が見られました。


ただ中には、外部と当事者で一致している評価もあります。
その一つが、「どれだけ頑張っても成長できない職業」という説です。


役所外部の方々は、
「そもそも地方公務員は仕事していない、ただ座っているだけ」
「思考停止状態で単純作業しかやっていない」
という理由を挙げて、地方公務員の成長を否定してきます。

そして地方公務員当事者も、
「業務に占める無駄な作業が多い」
「分野・職種をまたいで人事異動するせいで専門性が育たない」
といった現状をもとに、地方公務員としていくら頑張っても成長しないと嘆いています。

一方で僕は、地方公務員として経験年数を重ね、職位が上がるにつれて、確実に伸びていく能力があると確信しています。
それは「聞く力」、つまり幅広い層の話を正しく聞き取って理解する能力です。

この能力こそ、地方公務員固有の強みであり、社会的にも有用なスキルだと思っています。

顧客を選べない故の技能

役所が提供するサービスは、万人を対象としています。顧客の幅は、どんな業界よりも広いです。
そのため、地方公務員として働いていると、多様な人々とコミュニケーションをとることになります。
年齢や職業はもちろん、能力、経済状況、思想、健康状態や賞罰歴など、あらゆる面で異なる背景を持つ方々と接する機会があります。

もちろん部署によっては、施策の対象が限定されていて、特定の属性の人としか接しない場合もあります。 例えば、福祉系の部署であれば、高齢者や病気・障害のある方との接触が圧倒的に多く、学生や企業経営者のような活動的な層とはあまり接しないでしょう。


しかし、地方公務員は分野をまたいで人事異動を繰り返し、職業人生の中でさまざまな部局を経験していきます。
産業振興部局で経営者と日々意見交換していた職員が、次の部署ではケースワーカーとして生活保護受給世帯を訪問する……こうした変化は珍しくありません。
所属する部局が変われば、関わる人々の属性も変わります。 つまり地方公務員は、人事異動を繰り返すことで、社会の多様な層の人々と対面し、幅広い「聞く力」を培っていくのです。

「聞かざるを得ない」から成長する

地方公務員のコミュニケーションは、基本的には「受け身」という特徴があります。

民主主義という統治形態をとっている以上、公共サービスに対して誰もが意見を表明することができ、行政側もそれらの意見を尊重する義務があります。これが原則です。

実際に、役所には日々多様な意見が寄せられており、地方公務員はこれらの意見をまず正確に理解することが求められます。 きちんと理解したうえで、適切な返答を検討したり、採用の可否を判断したりすることになります。


広報のような能動的なコミュニケーションを担当する職種もありますが、全員がそうした業務を担当しているわけではありません。
一方で「受け身のコミュニケーション」は、どの部署でも発生する、地方公務員という職業に共通の特性です。
言い換えれば、「相手の意見・主張を聞き取って正確に理解する」という能力は、どんな部署で働くにしても必要となる地方公務員の必須スキルなのです。

さらに、あらゆる部署で日常的に使われるがゆえに、地方公務員として日々を過ごすだけでこの能力は着実に鍛えられていきます。
理論や技法を体系的に教えられるわけではありませんが、実践する機会が豊富で、かつ真剣に取り組まざるをえない状況が多いため、自然と身についていくのです。


行政機関には、各種カウンセラーや社会福祉士のような、クライアントの声を聞く訓練を受けた専門職の方もいます。
これらの専門職の「聞く力」は、一般の地方公務員とは比べものになりません。
ただし、これら専門職の方々の「聞く力」は、特定の属性の人に特化しているという特徴があります。

一方、老若男女問わず、健康な人から支援を必要とする人まで、あらゆる人に対してある程度対応できる地方公務員の「聞く力」は、他の職業ではなかなか育成されない貴重なスキルではないでしょうか。

市場価値は低くても「市場以外」のところでは役立つはず

地方公務員のキャリアパスについて、人事当局は「ジェネラリスト育成型」と説明していますが、当の地方公務員からは評判が芳しくありません。

「別分野の部局に異動したせいで仕事の進め方や必要な知識が全然違っていて辛い」というのは地方公務員の共通の悩みですし、冒頭にも挙げたとおり「部局をまたいで異動するせいでキャリアがリセットされる」ことも、地方公務員という職業のデメリットとして広く認識されています。

2~3年働いただけでその分野に精通し、人脈をしっかり築いて、次の部署の仕事に活かしていく……という、人事当局が理想とする「ジェネラリスト」になる職員もごく稀にいますが、大半の職員は「リセット」に悩まされているのが現実です。
僕自身も、なぜか1年スパンで異動することが多く、十分な知識や経験を積むことができないまま十数年働いてきました。

しかしそれでも、「聞く力」だけは確実に身についていると実感しています。
そして、この「聞く力」が、日々の業務に大いに役立っています。


ここ数年、地方公務員の広報スキルがやたらと注目されていて、書籍やセミナーも多数リリースされていますが、私は広報スキルよりも「聞く力」のほうがより本質的で重要だと考えています。
おそらく「聞く力」はノウハウ化しづらく、マネタイズに向いていないため、あまり注目されないのでしょう。

さらに、民間企業では十分に評価されにくいスキルかもしれません。もしこれが一般的なビジネススキルとして広く認知されるのであれば、地方公務員はもっと転職市場で高く評価されるはずです。

このブログの読者各位は、きっと仕事熱心で向上心のある方々なのだろうと思います。
そうでなければ、わざわざ余暇の時間を割いてまで地方公務員ネタに触れようとは思わないはずです。

そのような皆様は、地方公務員(元職含む)が書いた仕事術のような書籍(以下「地方公務員本」)も読まれているかもしれません。
あくまでも僕個人の感覚ですが、地方公務員本は、読み物としては面白いものの、実務ノウハウとして役立つかは怪しいと思っています。
過去にも、地方公務員本は眉に唾をつけて読んだほうがいいという趣旨の記事を書いています。



今回取り上げるのは、地方公務員本によく登場してくる「上司の視点に立って物事を考えよ」という助言です。

ヒラ職員ならば係長、係長ならば課長補佐、課長補佐ならば課長の視点を意識して仕事することが、自身の成長につながるし、組織内でもありがたがられる……という趣旨の助言であり、指定職や部局長のような高位役職経験者が書いた本によく登場します。

この助言のうち「ヒラ職員が係長の視点を意識する」という部分は、僕は危険だと思います。
職員個人としての成長には資するかもしれませんが、行政サービスの質は低下するでしょうし、組織としても誤った意思決定の原因になりかねないと思います。

「ヒラならでは」の大切な役割

ヒラ職員の仕事は、部署や職種によって様々です。
係長以上になると「組織を回す」「部下のマネジメント」といった共通点が出てきますが、ヒラ職員の仕事は本当に多岐にわたっています。ゆえに、ヒラ職員に共通する助言をすること自体、なかなか難しいことだと思います。

あえて共通する部分を挙げるなら、行政サービスを正しく提供することと、「世間」を正確に把握することだと思います。

前者は言わずもがな、担当する業務を誤りなく滞りなく処理して、行政サービスを提供することです。
一方、後者のほうはあまり意識されていないかもしれませんが、世間すなわち一般大衆(住民の大多数)の情報を、日々の業務を通して収集・把握することも、ヒラ職員の重要な役割だと思っています。ヒラ職員が集めたこのような情報をベースとして、役所は意思決定をしているからです。

ヒラ職員は、役所組織の中で最も「世間」と近いところにいます。
まず、物理的に近いです。窓口や電話越しに住民と直接接触する機会が多く、現場(=役所の外)で何が起こっているのかを一番把握できる立場にいます。
加えて精神的にも近いです。地方公務員歴が比較的短く、役所組織特有のバイアスや思考様式にまだ染まりきっていないので、現実をあるがままに見ることができます。

係長は係長、課長は課長で、それぞれ独自に「役所の外」とのパイプがあり、情報収集ができるのですが、「世間」すなわち一般大衆の情報を最も正確かつ大量に収集できるのはヒラ職員ならではの強みだと思います。

ヒラ職員が係長みたいに「情報の取捨選択」に手を出すと……?


先にも少し触れましたが、係長には「組織を回す」という役割があります。
組織を回すためには、(僕自身は係長の仕事をしたことがないのであくまでも推測ですが)、ヒラ職員から吸い上げた「世間」の情報を、組織として評価……例えば「組織として必要か否か」といった軸で情報を評価・選別しなければいけません。

ヒラ職員が収集した情報をそのまま上司や他部署に報告してしまうと、受け手側の負担が重くなります。受け手が判断を下しやすいように、係長が情報を評価したうえで取捨選択・再構築することで、組織は円滑に回るようになるのです。

「組織にとって必要な情報を見極める」というのは、係長にとって必須のスキルだと思います。
このスキルを習得することが、地方公務員の「成長」のひとつとも言えるでしょう。

しかし、ヒラ職員が係長の視点、つまり「組織にとって必要か」という視点で情報を選別し始めると、今後は「世間」をあるがままに理解しようとする人がいなくなってしまいます。
言い方を変えると、「役所組織のバイアス」がかかった情報しか入ってこなくなるわけであり、世間を正確に把握できなくなります。
正しい世間の情報を得られなくなれば、意思決定にも悪影響が出てくるでしょう。

「ヒラ職員は係長の視点に立って仕事せよ」という助言は、このような事態を助長しかねない、リスクの高い助言だと思われるのです。

(昔と違って)今のヒラ職員は忙しい

この助言も、平成中期くらいまでは有益だったのだろうと思います。
当時は今よりも職員数が多くて1人あたりの担当業務も少なく、かつヒラ職員の仕事は単純作業が中心でした。この時代なら、ヒラ職員には「世間」をちゃんと把握したうえで背伸びして、係長のように組織目線で情報を取捨選択してみるだけの余裕があったと思います。

しかし当時と比べ、今のヒラ職員はとても忙しいです。
役所の業務量は増える一方で、職員数は減っており、1人あたりの担当業務が増えています。
加えて、単純作業は非正規の方(会計年度任用職員)や外注で回すようになり、ヒラ職員でも管理者的な仕事をすることが多くなり、業務の質的にも負担が増しています。

しかも今は、デジタル化の急進展をはじめ、社会の変化が加速しています。
役所としても、激動する世間を正確に捉えることのほうが重要ではないでしょうか?
うかうかしているとすぐに「時代遅れ」になってしまう現代において、情報収集の重要性は一層増していると思います。

本ブログのアクセス数には明確に周期があり、毎年3月にピークを迎えます。
Googleアナリティクスによると、1月~4月にかけて20代前半のアクセス数が激増しており、4月から働き始める新規採用職員予備軍の方々が本ブログを読んでくれているのだろうと思われます。

就業を控えたこの時期は、多くの人が不安を感じるものです。
僕自身も俗にいう「内定ブルー」みたいな状態になっていて、ひたすらアニメを見て気を紛らわせていました。

数か月後に生活が激変するのは確実なのに、準備しようがないというもどかしさ。
できることといえば、情報収集くらいでしょうか。
もどかしさのあまり、本ブログみたいな信憑性の疑わしい情報すら目を通してしまうんですよね……

勤務開始目前の方々にとっての最大の関心事は、自分の配属先だと思います。
地方公務員界隈で「配属ガチャ」という言葉が罷り通っているとおり、どこに配属されるか発表まで全然わかりませんし、当たり外れの差も大きいです。

地方公務員人生には人事異動がつきもので、初任の配属先に骨を埋めるわけではありません。どうせ数年で別の仕事をすることになります。
全然興味が無い分野に配属されたとしても、数年我慢すればいいだけです。
逆に、希望する部署に行けたとしても、その幸運は数年限りです。

しかしそれでも、地方公務員人生における最初の配属先の影響は非常に大きいと思います。
業務内容はさておき、地方公務員という職業や、役所という職場に対する好き嫌いは、最初の職場での経験でかなり決まってくるからです。

初任配属先の業務内容や雰囲気、人間関係が合わなかったために、採用1年目にして仕事への意欲を失う職員は少なくありません。
意欲を失う程度ならまだマシなほうで、心身を壊して休職したり退職してしまう人もいるくらいです。

反対に、採用直後は全然やる気が無かったのに、周囲に感化されてモチベーションが上がったり、能力を開花させる人もいます。
僕自身、そこそこ楽しく地方公務員稼業を続けられているのは、初任の配属先がいいところだったからだったと思います。

また、役所を見限って転職するにしても、最初の配属先での経験を「自分の強み」としてPRしていかなければいけません。
転職活動の成否すらも、最初の配属先にかかっていると言えるでしょう。

では、実際に新規採用職員にとって働きやすく、キャリアにとっても有益な「当たり部署」とはどのようなものか。僕の経験をもとに、独断と偏見で考察してみます。

人数が多い

僕が最も重要だと思う要素は、配属先部署の正規職員数です。
初任の配属先は、正規職員が多ければ多いほうが良いと思います。

より正確にいうと、正規職員が少ない職場は心身の健康を損なうリスクが比較的大きく、最初の職場としてはなかなか厳しいと思います。

職員数の少ない職場は、人間関係も狭くなりがちで、一人でもやばい職員(パワハラ野郎など)がいると、その人の雰囲気に吞み込まれます。
分母が少ない分、全員に占めるやばい職員の影響力がどうしても強くなってしまうんですよね。

人数が多い職場であれば、善良な職員たちで集まって別コミュニティを作ってお互いを守りあうことが可能ですが、少人数職場ではこういう対処が難しいです。


加えて、何らかの事情で急に職場全体の仕事量が増えた場合や、職員が減ってしまった場合に、職員数が少ないと負担の分散ができません。

年度途中で急に業務が増えるケースは多々あります。
  • 首長や議員の発案で新規事業を立ち上げることになった
  • クレーマーに目をつけられて連日大量の公文書開示請求が舞い込んできた
  • 制度改正があった
  • 訴訟を起こされた
などなど、現役地方公務員の方であればどれか一つは経験があると思います。

このような事態が生じた際に、人数の多い職場であれば複数人で分担できますが、少人数の職場だと一人で対応する羽目になりがちです。
もっとシンプルに、分母となる職員数が少ないので1人あたりの負担増が大きいともいえるでしょう。

年度途中で職員が減ってしまった場合も同様です。
同僚が心身を病んで休職してしまったものの補充されず、欠員状態のまま年度末まで仕事を回すという事態はもとから常態化していますし、最近では若手職員がいきなり退職するケースも出てきました。
こうした場合、いなくなった職員の分の仕事を他の職員が引き継ぐことになります。
職員数が少ないほど、1人あたりの引継分が多くなり、負担が増えることになります。


役所内ルールを執行する仕事

業務内容では、庶務や部局内調整のような、役所内ルールを執行する仕事が「当たり」だと思います。

役所にはいろんなルールや作法があります。
代表的なものとして、会計経理や議会答弁の作成、契約手続き、補助金の交付手続きなどが挙げられます。
こういった業務にはマニュアルが用意されており、ある程度の年次になると『知っていて当然』とされますが、実際に担当しなければ細かな手続きを理解することは難しいものです。
早い段階でこれらの知識を身につけておくことは、公務員としてのキャリアを築く上で大きな助けとなるでしょう。

また、こうした行政の内部ルールを知っていることは、民間企業への転職においても強みになりえます。
近年、行政の業務を外部に委託するケースが増えており、役所内部の実務に精通した人材は、民間企業にとっても貴重な存在です。
例えば、役所相手のコンサルティング業務や、公共事業のプロポーザル参加など、行政経験を活かせる分野は少なくありません。

さらに、内部ルールの執行は、単なる事務作業ではなく組織運営の一環とも言えます。
転職活動の際には「マネジメント経験」としてアピールできるでしょう。
実際に、僕が過去に転職活動を試行した際も、エージェントからは「組織の管理に関わる経験があるか」と問われました。営業や経理のような実務スキルを持っていない地方公務員をあえて採用する場合、企業側はきっと「組織を動かす能力」を期待するのだろうと思います。

結局は人間関係

ここまで色々書いてきましたが、結局は人間関係が全てだと思います。
正直どこの部署であれ、新人の担当する仕事は大差ありません。




新規採用職員の皆様も、そろそろ「出先」と「本庁」の違いを理解しつつある頃合いではないかと思います。
採用されたばかりの頃は、「出先機関=当たり」「本庁=ハズレ」なんだろうと漠然と思っている人が大多数だと思いますが、この半年間の自分の経験を踏まえ、異なる感想を抱いている方もいるでしょう。

とはいえ、「本庁勤務のほうがむしろアタリ!」などと宗旨替えする人はごく稀で、出先配属の人は「やっぱ当たりだわ」と胸を撫で下ろし、本庁配属の人は「なんで自分はこんな不幸な目に遭わされてるんだ……」と嘆いているのではないかと思います。
僕自身、初任で本庁配属になり、出先に行った同期よりも圧倒的に残業も休日出勤も多くて、ゲンナリしていた記憶があります。

ただ今となっては、新人の頃に本庁配属されて良かったと思います。
新人の頃に築いた人間関係ーーつまり人脈に、今かなり助けられているからです。

「実力」の7割くらいは「人脈」なのではないか

役所の事務職は、専門知識や技能がさほど求められない代わりに、他者と上手くコミュニケーションをとって仕事を円滑に進めることが求められます。
特に組織内部の人、庁内の別職員とのコミュニケーションは、担当業務が何であれ日常的に発生します。
つまり、組織内部のコミュニケーションがうまくとれる人は、どんな部署に配属されても、どんなポジション・職位であろうとも、優位に仕事を進められます。

このためには、頭の回転速度やトーク力のような所謂「コミュニケーション能力」に加えて、人間関係のストック……つまり人脈も重要です。
組織内部に味方が多ければ多いほど、間違いなくコミュニケーションは取りやすくなります。


ない世界では、個々人の能力よりも、いかにスムーズに組織を動かし、仕事を進めていくかのほうが業務遂行に直結するからです。



専門知識がある職員よりも、庁内で顔の広い職員の方が評価されますし、仕事もしやすいです。
新規採用職員として本庁勤務することが、量・質ともに有益な人脈を築けます。

「量」も「質」も本庁のほうが有利

役所内における人脈には、「量」「質」の2つの側面があると思います。

人脈の「量」とは、知り合いの多さです。
知り合いがたくさんいるほうが何事も進めやすいのは、言うまでもないでしょう。

人脈の量を稼ぎやすいのは、圧倒的に本庁勤務です。
出先機関と比べて本庁は単純に職員数が多いですし、業務内容的にも他課との調整業務が多く、多くの職員と関わることになります。
自発的に動かなくても自然と人脈が広がっていくのです。

人脈の「質」とは、役立つ職員と知り合うことです。
役立つ人というのは、具体的には、以下のような職員です。
  • 助けてくれる人
  • これから出世していく人
  • 学ぶところの多い人、お手本になる人
「仕事ができて、かつ人格的にも優れている職員」と言い換えても良いでしょう。

特に若いうちは、お手本にできる優秀な先輩職員と出会うことが非常に重要だと思います。
地方公務員は、研修や教育を受ける機会が皆無に等しく、OJTもあまり機能していません。

そのため、「教わる」ことができない新人は、まず誰かの「真似」をすることになります。
ここで、「誰の真似をするか」が非常に重要になってきます。
きちんとしたお手本たりうる優秀な職員の真似をできれば問題ありませんが、周囲に変な職員しかいない場合には、間違った仕事の進め方を習得してしまうことになりかねません。

質の高い人脈を築けるのも、出先ではなく本庁だと思います。
30代以上になると、職員の選別もだいぶ進んできて、同世代の中でも比較的優秀な職員が本庁に残るようになります。
そのため、出先にいるよりも、本庁にいる方が、優秀な職員と出会える可能性が高いです。

「新人ボーナス」で好感度を荒稼ぎ

人脈を築くためには、単に人と出会うだけでは不十分です。
相手から好感を持ってもらうことが重要であり、敵とみなされるようなことがあれば、逆に人脈を築くどころか悪影響を及ぼしてしまいます。
特に仕事の世界では、信頼関係が好感の基盤となるため、相手に「この人とはまた一緒に仕事したい」と思ってもらうことが不可欠です。

新人の場合、この好感を得ることは容易です。
多少のミスがあっても「新人なら仕方ない」と寛容に見てもらえることが多いからです。

また、近年の傾向として、若手が仕事に対して消極的な印象を持たれやすいため、やる気を見せるだけでも良い印象を与えることができます。
少しの積極性や努力を見せることで、周囲に「あの新人は頑張っている」と評価され、自然と好感度が高まります。

たとえ認知されなくても有益

ただし、往々にして優秀な職員には仕事が集中し、わざわざ新人を個別に認知する余裕は無いかもしれません。
当然のことながら、お互いがお互いの存在を認知しなければ、人脈たり得ません。
「自分だけが相手のことを一方的に知っている」という状態は、正確には人脈とは言えません。

しかし、認知されることが全てではありません。
新人にとって最重要の恩恵、つまり優秀な職員から得られる「学び」は、相手が自分を認識していなくても享受できるものです。

優秀な人々の仕事ぶりを観察し、彼らから無意識のうちに得られる知識やスキルは、新人にとって貴重な経験となります。こうした学びの積み重ねが、長期的に自分のキャリアにプラスとなるのです。

したがって、相手に認知されるかどうかに焦点を当てるよりも、自分がどれだけの意欲を持って学び、成長し続けるかが、最終的には重要な鍵となるでしょう。



世間的にはいまだに、公務員の仕事=書類にハンコを押す単純作業……という印象を持たれていますが、このような単純作業は、最近は外注したり、会計年度任用職員に任せることがほとんどです。
その代わり、正規職員の業務に占めるコミュニケーションの割合が、どんどん大きくなっています。

このような状況において、もちろん一番重要なのはコミュニケーション能力になりますが、ストックとしての人脈もまた重要です。
これからの役所は、ますます単純作業が減っていって、同時に庁内人脈が重要になっていくと思います。
そのためには、新人ボーナスをフル活用して、若いうちから人脈形成しておくことが重要だと思うのです。

本庁配属の方は、恵まれた環境にいることをフル活用してもらえればと思います。

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