キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

タグ:成長

新規採用職員の皆様も、そろそろ「出先」と「本庁」の違いを理解しつつある頃合いではないかと思います。
採用されたばかりの頃は、「出先機関=当たり」「本庁=ハズレ」なんだろうと漠然と思っている人が大多数だと思いますが、この半年間の自分の経験を踏まえ、異なる感想を抱いている方もいるでしょう。

とはいえ、「本庁勤務のほうがむしろアタリ!」などと宗旨替えする人はごく稀で、出先配属の人は「やっぱ当たりだわ」と胸を撫で下ろし、本庁配属の人は「なんで自分はこんな不幸な目に遭わされてるんだ……」と嘆いているのではないかと思います。
僕自身、初任で本庁配属になり、出先に行った同期よりも圧倒的に残業も休日出勤も多くて、ゲンナリしていた記憶があります。

ただ今となっては、新人の頃に本庁配属されて良かったと思います。
新人の頃に築いた人間関係ーーつまり人脈に、今かなり助けられているからです。

「実力」の7割くらいは「人脈」なのではないか

役所の事務職は、専門知識や技能がさほど求められない代わりに、他者と上手くコミュニケーションをとって仕事を円滑に進めることが求められます。
特に組織内部の人、庁内の別職員とのコミュニケーションは、担当業務が何であれ日常的に発生します。
つまり、組織内部のコミュニケーションがうまくとれる人は、どんな部署に配属されても、どんなポジション・職位であろうとも、優位に仕事を進められます。

このためには、頭の回転速度やトーク力のような所謂「コミュニケーション能力」に加えて、人間関係のストック……つまり人脈も重要です。
組織内部に味方が多ければ多いほど、間違いなくコミュニケーションは取りやすくなります。


ない世界では、個々人の能力よりも、いかにスムーズに組織を動かし、仕事を進めていくかのほうが業務遂行に直結するからです。



専門知識がある職員よりも、庁内で顔の広い職員の方が評価されますし、仕事もしやすいです。
新規採用職員として本庁勤務することが、量・質ともに有益な人脈を築けます。

「量」も「質」も本庁のほうが有利

役所内における人脈には、「量」「質」の2つの側面があると思います。

人脈の「量」とは、知り合いの多さです。
知り合いがたくさんいるほうが何事も進めやすいのは、言うまでもないでしょう。

人脈の量を稼ぎやすいのは、圧倒的に本庁勤務です。
出先機関と比べて本庁は単純に職員数が多いですし、業務内容的にも他課との調整業務が多く、多くの職員と関わることになります。
自発的に動かなくても自然と人脈が広がっていくのです。

人脈の「質」とは、役立つ職員と知り合うことです。
役立つ人というのは、具体的には、以下のような職員です。
  • 助けてくれる人
  • これから出世していく人
  • 学ぶところの多い人、お手本になる人
「仕事ができて、かつ人格的にも優れている職員」と言い換えても良いでしょう。

特に若いうちは、お手本にできる優秀な先輩職員と出会うことが非常に重要だと思います。
地方公務員は、研修や教育を受ける機会が皆無に等しく、OJTもあまり機能していません。

そのため、「教わる」ことができない新人は、まず誰かの「真似」をすることになります。
ここで、「誰の真似をするか」が非常に重要になってきます。
きちんとしたお手本たりうる優秀な職員の真似をできれば問題ありませんが、周囲に変な職員しかいない場合には、間違った仕事の進め方を習得してしまうことになりかねません。

質の高い人脈を築けるのも、出先ではなく本庁だと思います。
30代以上になると、職員の選別もだいぶ進んできて、同世代の中でも比較的優秀な職員が本庁に残るようになります。
そのため、出先にいるよりも、本庁にいる方が、優秀な職員と出会える可能性が高いです。

「新人ボーナス」で好感度を荒稼ぎ

人脈を築くためには、単に人と出会うだけでは不十分です。
相手から好感を持ってもらうことが重要であり、敵とみなされるようなことがあれば、逆に人脈を築くどころか悪影響を及ぼしてしまいます。
特に仕事の世界では、信頼関係が好感の基盤となるため、相手に「この人とはまた一緒に仕事したい」と思ってもらうことが不可欠です。

新人の場合、この好感を得ることは容易です。
多少のミスがあっても「新人なら仕方ない」と寛容に見てもらえることが多いからです。

また、近年の傾向として、若手が仕事に対して消極的な印象を持たれやすいため、やる気を見せるだけでも良い印象を与えることができます。
少しの積極性や努力を見せることで、周囲に「あの新人は頑張っている」と評価され、自然と好感度が高まります。

たとえ認知されなくても有益

ただし、往々にして優秀な職員には仕事が集中し、わざわざ新人を個別に認知する余裕は無いかもしれません。
当然のことながら、お互いがお互いの存在を認知しなければ、人脈たり得ません。
「自分だけが相手のことを一方的に知っている」という状態は、正確には人脈とは言えません。

しかし、認知されることが全てではありません。
新人にとって最重要の恩恵、つまり優秀な職員から得られる「学び」は、相手が自分を認識していなくても享受できるものです。

優秀な人々の仕事ぶりを観察し、彼らから無意識のうちに得られる知識やスキルは、新人にとって貴重な経験となります。こうした学びの積み重ねが、長期的に自分のキャリアにプラスとなるのです。

したがって、相手に認知されるかどうかに焦点を当てるよりも、自分がどれだけの意欲を持って学び、成長し続けるかが、最終的には重要な鍵となるでしょう。



世間的にはいまだに、公務員の仕事=書類にハンコを押す単純作業……という印象を持たれていますが、このような単純作業は、最近は外注したり、会計年度任用職員に任せることがほとんどです。
その代わり、正規職員の業務に占めるコミュニケーションの割合が、どんどん大きくなっています。

このような状況において、もちろん一番重要なのはコミュニケーション能力になりますが、ストックとしての人脈もまた重要です。
これからの役所は、ますます単純作業が減っていって、同時に庁内人脈が重要になっていくと思います。
そのためには、新人ボーナスをフル活用して、若いうちから人脈形成しておくことが重要だと思うのです。

本庁配属の方は、恵まれた環境にいることをフル活用してもらえればと思います。

今更言うまでもなく、地方自治体の人事ローテーションはうまく機能していません。
要配慮者を負担の軽いポストへとうまく配置したり、NGな組合せを避けるだけで精一杯で、それ以外の職員は単なる玉突きの穴埋めでしか配置できていないのが現実でしょう。

戦略的に人材育成している民間企業とは雲泥の差がありますし、同じ官公庁でも、国は一定の「コース」を設けて若いうち選抜&育成を図っています。
他の職場と比べても、地方自治体の人事はおざなりと評されて然るべきだと思います。

この原因は多分ですが、職員数に比して人事部門の人数が少ないせいだと思っています。
人事は典型的な間接部門であり、主権者たる住民からすれば、自分達に何の恩恵ももたらさない「無駄」なセクションです。

ゆえに、「人事部門を充実する」のは至難の業だと思いますし、人員配置の代わりにコストを投じてタレントマネジメントみたいな外部サービスを利用するのも困難でしょう。
地方自治体の人事異動のあり方を抜本的に改善するのは、民主主義体制を敷いている以上、不可能だと思います。

とはいえ、リソースを追加せずとも、現状の異動のあり方を少し変更することで、今よりはまだマシにできるのでは?とも思います。

「部署」または「職務」どちらかだけを変える

地方公務員のポストは、ざっくり「部署」「職務」「職位」の3つの要素から構成されます。
「部署」は配属される部署のこと、「職務」は担当業務の中身(庶務、窓口、許認可、内部調整など)、「職責」は立場(ヒラ、主任、係長など)のことです。
他にも色々な要素がありますが、主だったものはこの3つだと思います。


例えば、自分の仕事を他者に説明するときは、だいたいこの3つを取り上げないでしょうか?
新たに異動した部署で自己紹介することになったり、久々に顔を合わせた元上司から「今は何やってるの?」と聞かれたり、合コンで「どんなお仕事してるんですか?」と質問されたり……このあたりのシーンを思い出してみてください。
「農業振興の部署で、農地関係の許認可の担当をやってます」みたいに、部署&職務&職位のセットで喋りませんか?



多くの自治体の人事異動では、「部署」「職務」「職位」の3要素が一切連動せずに、バラバラに変更されます。
このうち「職位」は、年齢や昇級昇格、組織定数といったルール、つまり人事異動とは別のルールで決まるので、今回は無視します。

一方、「部署」「職務」は、人事異動の際に決める要素であり、まだ工夫の余地があるはずです。
そこで、「部署」「職務」の両方を同時変更するのは極力避けて、いずれかを固定して、片方だけを変更するような異動形態にすればいいのでは?と思います。

具体例を挙げると、
  • 農業系部署の許認可担当 → 福祉系部署のケースワーカー → 観光系部署の庶務担当 
みたいに、「部署」「職務」どちらも異動のたびに変更するのではなく、

  • 農業系部署の許認可担当 → 福祉系部署の許認可担当 → 福祉系部署のケースワーカー
みたいに、「部署」「職務」のうち片方だけを変更する形のほうがよいのでは?と思うのです。

異動負担の軽減&専門性の醸成

インターネット上の投稿を見ていると、現状の地方公務員の人事異動のあり方に対する問題提起が多数なされていますが、その中身はおおよそ
  • 人事異動のたびに全く経験したことのない業務をやらされることになり、かつ即座に習得しなければならず、学習負担が重い
  • 数年おきに全く違う仕事をやらされて、キャリアに一貫性が無く、専門性が身につかない
という意見に集約されます。

これらの事象は、「部署」「職務」の両方を同時に変更するのを止めて、片方だけの変更に止めれば、かなり軽減されるはずです。

まず、前者の「異動時の学習負担の軽減」は、これまでは「部署」の学習(=新たに携わることになる分野の基礎知識の勉強)と、「職務」の学習(=具体的な業務処理方法の勉強)という二重苦が課せられていたところ、片方だけになるので、間違いなく軽減されます。

後者の「専門性の欠如」についても、部署ごと・職務ごとの経験年数が長くなることで、今よりは改善されるはずです。

一つのポストだけを長年担当していても専門性は身に付かない

現行の人事異動では、一つの部署で一つの業務しか担当せずに異動するケースが多く、どうしてもその「部署」(分野)への理解が表面的に終わっていると思います。

例えば、観光系部署で5年間にわたりイベント運営を担当していた職員がいるとします。
彼/彼女は、イベント準備の段取りやイベント当日の進行、安全管理あたりについては間違いなく詳しいでしょう。
しかし、だからと言って「観光に詳しい」と評しても良いのでしょうか?

イベント運営だけを担当していては、観光に関するその他の論点については、さほど詳しくなれないでしょう。
観光に関する他の施策のことを知らず、施策体系の中に「イベント開催」がどのように位置付けられるかもよくわかっていないとすれば、「イベントに詳しい」とすら言えなくなってきます。

このように、現行の人事異動では、自分の携わる分野に、限られた視点からしか携わることができず、結果的に分野への理解が浅いまま終わっていると思います。
ここで、イベント担当を2年くらいにとどめておいて、別の業務(例えばマスコミへの売り込みなど)を2年間担当させたほうが、トータルの在籍期間は1年短くなっても、観光分野に関してはより詳しくなれると思います。

「職務」についても同様です。
農業系部署で5年間庶務担当をしている職員がいるとします。
彼/彼女は、ハード事業の積算や国庫支出金の処理に関しては非常に詳しくなっていると思います。会計検査院の相手も余裕でしょう。

ただ、だからと言って庶務全般に精通できるわけではありません。
ソフト事業の積算や、施設設備の運営費管理のような、他部署の庶務担当であれば当たり前にこなしている日常業務は、さほどうまく処理できないと思います。

つまるところ、「専門性の欠如」の原因の一つは、一つの部署で一つの職務しか担当できずに転々と異動させられることであり、一つの部署でいくつかの職務を経験する(あるいは一つの職務を複数の部署で経験する)ことで、今よりは専門性が身につくのではないか?と思うのです。


複数の「専門性」を備えるのが正規職員ならではの役目

何か一つの「部署」や「職務」の専門性を極めるのは、もはや地方公務員の役割ではないのだと思います。

これまでも、「部署」(分野)の専門性が欲しい場合、外部有識者にヒアリングしたりアドバイザーとして起用したり、業務を丸ごと委託して、専門性を確保してきました。
加えて、ここ数年でコンサルがどんどん行政分野に進出してきていて、「職務」の専門性すら外注できるようになりました。
これまで役所特有だった「職務」、例えば会計処理や予算編成、条例制定のような業務すら民間委託できるようになってきています。

限られた分野・職務の専門性が欲しいだけなのであれば、民間委託すれば済みます。
正規職員を任用するよりも手早く、かつ安上がりでしょう。

これから地方公務員に求められるのは、専門性の掛け合わせなのだろうと思います。
行政に関する分野・職務に関して複数の専門性を備えている人間は、今のところ正規の地方公務員しか存在しません。
俗に言う「縦割りの弊害の解消」「分野横断的な問題の解決」には、複数の専門性を兼ね備えた人間が必要であり、これこそが地方公務員に求められる役割だと思います。

60点くらいの専門性をいくつか身に付けて、それらを掛け算することでオリジナリティを発揮していく。
入庁してから係長として部下を持つまでの間に、だいたい6ポストくらいを経験して、この過程で4〜5個くらいの専門性を身に付けられたらいいんじゃないかと思っています。

僕の世代(30代半ば)を見ていると、活躍している職員がまさに、これまでの異動遍歴の中で複数の「専門性」を身に付けて、それらを掛け合わることでオンリーワンの存在として存在感を発揮しています。
僕みたいに1〜2年スパンで異動を繰り返し、何の専門性も身につかないまま年次だけ重ねてきた職員にとって、彼ら彼女らは眩しすぎます。

正社員でもアルバイトでも、働いたことがあれば一度は「できない理由を考える暇があったら、どうすればできるのか考えろ」という叱咤激励を受けたことがあるでしょう。

「できない理由、禁止」という標語は社内教育用のポスターとしても販売されているようで(しかも人気上位)、どれだけ世の中に浸透しているか窺えます。


この標語は、民間企業のみならず、今や役所内でも定番です。
「無能なくせに『できない理由』を取り繕うことだけは得意」という地方公務員叩きの常套句がありますが、同じような指摘が上司から部下にも度々下されます。

「できない理由」を考えるのは時間の無駄であり、どのように実現するか具体的に方法を詰めていくかを考えていくほうが前向きで有意義だというのです。

ただ僕は、役所においてこの標語に金科玉条のごとく掲げるのは非常に危険だと思っています。
「できない理由」を考えることは非常に重要ですし、ひたすら「できる方法」を追い求めていると、単にトラブルを招くだけだと思います。

「できない理由」を考えることは生産的な営み

そもそも、何か新しいことを実施・実現するための正攻法は、「できない理由」をひとつひとつ潰していくことだと思います。
「できない理由」をしっかり考え抜いたうえで、どうすれば「できない理由」を解決できるのか具体的な方法を考えていく……これこそが正攻法であり、「できない理由」を軽視して「できる方法」だけを考えるのは、一休さんの「とんち」の現代版を作ろうとするかのような、抜け道的な手法だと思います。

「できない理由」とは、表現を変えると「課題」です。
何かを実施しようとする際に、まず「できない理由」の分析整理、つまり「課題の洗い出し」から始めることは、果たして無駄なのでしょうか?

また、ビジネス書などでは、解決すべき致命的な課題のことを「イシュー」と表現して、イシューを正確に捉えたうえで対策に移るべきだと指摘しています。
「できない理由」を考えるのは、まさに「イシューを設定する」ことに直結すると思うのです。

「できない理由」を顧みずに「できる方法」を探して実施するのは、現状存在している課題を放置することに他なりません。
いわば「臭いものに蓋」をして、目を背けるわけです。

このような物事の進め方は、柔軟で機動的な行動が許容される個人や民間企業ならまだしも、役所という敵だらけの組織体が行うにはリスクが大きすぎます。
見出した「できる方法」が奏功して何か新しい価値を実現できたとしても、課題を放置したことに対して激しい非難が寄せられるに決まっています。

もちろん、「できない理由」を放置したままで、即効性のある「できる方法」に着手するケースもたまにはあるでしょう。
しかしこれには非常にリスクの高い判断であり、それなりに責任を持てる人でないと下してはいけないと思います。

「できない理由」で論破するために

下っ端の地方公務員の職責は、「できない理由」を徹底的に考え抜き、「できない理由は聞きたくない」と唱えてくる方々をを説得することだと思います。
ただ実際のところ、この説得がうまくいっていないがために、役所内でも「できない理由、禁止」という風潮が罷り通っているのでしょう。

「できない理由」不要論者の方々の多くは、「できない理由」のことを「言い訳」だとみなしてきます。
できない理由が言い訳じみてしまうのは、2パターンあると思っています。

一つは単純に深掘りが足りないパターンです。
即座に反論できるような理由しか提示されなければ、受け手側には「言い訳」のように映ってしまい、「できない」と納得することもできなくて当然です。

「できない理由」を突き詰めていくと、お金、時間、人手、法規制、倫理、過去のしがらみ、住民感情あたりに行き着くと思います。
どのような類型に該当するのかを意識しながら現状を整理していけば、理路整然として説得力のある「できない理由」を構築できるのでは?と思っています。

もう一つは、「本当はできるけどやりたくない」ことを、「できない」と言いたいがために、無理やりこじつけているせいで、説得力が損なわれているパターンです。
文字化すると大変不誠実な姿勢なのですが、実際このような状況に陥るケースはとても多いです。

この場合でも、「やりたくない理由」を深掘りしていけば、どこかで「できない理由」との接点が見えてくるはずで、こうやって炙り出した「できない理由」を整理していくしかないと思います。

例として、住民から「A公園の草刈りをもっと頻繁にやってくれ」と要望が来たケースを考えてみます。
この場合、草刈りを増やすこと自体は不可能ではありませんが、実現するためには
  • 財政課に対して予算の増額要求
  • 草刈り業者の確保
  • 別の公園についても「草刈りを増やせ」と言われた際の対応を考える
  • A公園を地盤とする議員への事前説明(要望主がこの議員の反対勢力だったりしたら、実現してはいけないので)
  • 草刈りをしないことで恩恵を受けている人がいないかの調査(別の住民がヤギを飼っていて定期的にA公園の草を食べさせており、除草されると困る など)
などの面倒な作業が色々必要になり、実施したくないとします。

こうやって「やりたくない理由」をリストアップしていくと、まず「お金が無い」「人手が無い」という「できない理由」がすぐに見つかります。
さらにそれぞれを突き詰めていくと、もっと別の「できない理由」にも至れるはずです。


明かされざる「地道な準備」こそ「スーパー公務員」の真髄?

僕の勤務先県庁では、「ボトムアップ提案」とか「若手主導の事業」という触れ込みで始まった新規事業が、半年も経たないうちに頓挫してしまうケースが続出しています。
その理由がまさに、これまで実施してこなかった事情や背景の分析、つまり「できない理由」の検討不足です。
「どうして今まで実現できなかったのか」を冷静に分析することなく、「この方法ならできるかもしれない」という一筋の希望だけを頼りに事業化してみた結果、うまく回っていないようなのです。

彼ら彼女らは「スーパー公務員」の事例を参考に意気揚々と取り組んできているようなのですが、見事に足元を掬われています。

「スーパー公務員」の方々の成功事例が紹介される際、たいていは「とんち」みたいな斬新な手法ばかりが着目されていますが、きっとその斬新な手法を実行する前に、きちんと「できない理由」を整理して、その手法で問題ないことを確認しているだと思います。
このような地道な下準備を経ているからこそ、成功を収めているはずです。

今年のゴールデンウィーク、読者各位は何日ほど出勤しましたか?

僕は前半三連休・後半四連休合わせて3日間出勤で済みました。
庶務系の仕事をしていると、前年度分の支払い処理にラストスパートをかけたり、決算額をまとめたり、6月議会の準備に向けて資料を準備したり……等々、この時期はどうしても出勤せざるを得ません。

今年の4月に採用されたばかりの職員の中にも、さっそくこのゴールデンウィークで休日出勤デビューした方もいるでしょう。
ゴールデンウィークみたいな大型連休であれば、多少出勤してもストレスを感じる程度で済みますが、普通の週末土日に出勤すると、身体にも負担がかかります。
労働時間が増えると同時に回復時間が削られるわけで、まさにジリ貧です。

もちろん休日出勤せずに済むように効率的に仕事をこなすのが重要なのですが、地方公務員という仕事はどうしても休日出勤から逃れられません(詳細は後述)。
そのため、誰もが休日出勤のコツを習得する必要があると思っています。

こういう知恵こそ、先輩や上司からOJTで学ぶ経験知のひとつなのですが、運悪く(運良く?)休日出勤とは無縁の環境に置かれた新人職員向けに、僕なりの休日出勤のコツを紹介します。

※本稿で取り上げる「休日出勤」は、行事やイベント業務ではなく、平日の残務処理です。

何をするのか事前に決めておく

休日出勤において最も重要なのは「計画性」です。

休日出勤している時点で計画性が無いのでは?という至極ごもっともな指摘は置いといて……
  • 休日出勤してどのような仕事をするのか
  • 何時に出勤して何時に帰るのか(何時間働くのか)
あらかじめ決めておくことを強く推奨します。

平日と同じように仕事できるわけではなく、いろいろな制約があります。

まず、休日出勤では、他人の手を借りることができません。
よほどの繁忙期でもない限り、休日出勤してくる人は少数派です。
休日の業務は、基本的に一人でやらなければいけません。

見方を変えると、休日にこなせる業務は、一人で完結する範囲に限られます。
例えば、疑問点を上司に相談したり、別部署から資料を貰ったりすることができません。

加えて休日は、設備面でも制約が課されるケースがありえます。
例えば、庁内システムがバッチ処理のために使えなかったり、倉庫や会議室が使えなかったり……等々。

せっかく出勤してきたのに作業できないと「詰み」です。
僕にも苦い思い出があります。
かつて観光部局にいた頃、大量のパンフレットの袋詰めを土曜日にやろうと思い出勤してきたら、パンフの在庫を仮置きしていた会議室が休日は施錠されていて中に入れず、結局作業できずに帰る羽目になりました……(結局月曜日徹夜して作業しました)

休日出勤する場合は、遅くとも前日の午前中くらいにはタスクを洗い出して、
①平日のうちに絶対やらなければいけないこと
②休日でもできること
③無理に休日中にやらなくてもいいこと
に分類したうえで、①はその日のうちに優先的に処理、②は休日に回す、③は先送り……というふうに計画を立てておけば、「やろうと思っていた作業ができない」という窮地に陥ることなく、かつ無際限に休日勤務してしまう事態にも陥らずに済むと思います。

6時間が目安

休日出勤の時間はもちろん短ければ短いほうがいいのですが、時間外勤務勤務手当が支給されるのであれば、6時間以内を目安にすればいいと思います。
労働基準法上、勤務時間が6時間を超えると休憩時間を入れなければいけなくなり、実質タダ働き時間が生じるからです。



労働基準法
第三十四条 使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。



例えば6時間1分の残業だと、45分間の休憩をとったことにしなければならず、時間外勤務手当が支給されるのは5時間16分だけ。
休日出勤中に45分もしっかり休憩取っていれば損はしないものの、そんなに休憩するくらいならさっさと帰りたいと思うのが自然な心情であり、しっかり休む人はいないと思います。
その結果、休憩分の45分はタダ働きになってしまいます。

6時間以内であれば休憩時間も不要で、ただ働きは発生しません。

シングルタスクを心がける

先述のとおり休日出勤にはいろいろな制約がありますが、一方でメリットもあります。
他者からの邪魔が入らず、集中できる点です。

役所の執務室は、集中できる環境とは到底言えません、
  • 誰かのしゃべり声(ときには怒鳴り声)で騒がしい
  • 鳴りやまない電話
  • メール通知(最近であればチャットも)
  • じろじろ見てくる来庁者
などなど、集中を乱す要素で満載です。

加えて、上司や別部署から急件が仕事が降ってきて、作業を中断させられるケースも多発します。
いわば終始マルチタスクを強制されている状態であり、ひとつのことに集中するのは本当に難しいです。

集中できない環境になっている原因は、ひとえに他者の存在です。
職員であれ来庁者であれ、他者がたくさんいるせいで騒がしくなりますし、新しい仕事が生まれて自分の元へ飛んできます。

休日になれば出勤してくる職員が激減しますし、来庁者も来ませんし、電話も基本的にかかってきません。
集中を乱す原因が一斉に排除されるわけです。

このメリットを最大限に活かすべく、休日出勤はシングルタスクに徹するべきだと思います。
あらかじめリストアップしたタスクを、一つ一つ潰していく。
ある意味、当たり前のことなのですが、地方公務員稼業でこれを実践できるのは、休日出勤時だけです。

週明け以降の業務負担見込み次第で短距離走・持久走モードを使い分ける

休日出勤すると、平日の出勤以上に疲れます。
上司も住民もいないので、職場環境的にはずっと楽なはずなのですが、やはり集中できるぶんだけ脳が疲れるのだと思います。

当然のことながら、休日に出勤した分だけ休みが減るわけで、翌週は疲れを残したまま平日5日間の勤務を乗り切らなければいけません。

特に、予算編成時期のような長丁場になると、何週間も休日出勤を続けなければいけません。
よほどの鉄人でもない限り、ペース配分を考えないと途中でバテてしまいます。
(財政課のような休まない人たちは、このへんの調整がものすごく上手です)

翌週はさほど忙しくないのであれば、全力で休日出勤しても特に問題ないでしょう。
ただし、平日もずっと残業せざるをえなかったり、次の週末もまた休日出勤しなければいけないようなハードな日々が続くのであれば、一度の休日出勤で体力を使い果たすわけにはいきません。
労働時間も集中度合いもセーブして、疲労の蓄積を抑えていく必要があります。

長時間残業は地方公務員の宿命

地方公務員という仕事の性質上、夜間休日を問わず働き続けなければいけない場面があります。
災害発生時なんかはまさにその典型ですし、新型コロナウイルス感染症みたいな謎の脅威が生じたときもこうなります。

能登半島地震では、非管理職の1/5相当にあたる約500人が、月100時間以上の残業をしたようです。


このように、本人の意向にかかわらず、誰しもがいきなり長時間残業を強いられるかもしれないのです。
これは地方公務員の宿命と言えるでしょう。

自分の長時間労働耐性は、やってみないとわかりません。
いきなり緊急事態に突入する前に、自分がどれくらい耐えられるか、試す機会があればいいと思います。

新型コロナウイルス感染症が一段落して、送別会や歓迎会が解禁された職場も多いと思います。
僕の勤務先では「能登半島地震に応援に行っている職員がいる」という理由で、送別会も歓迎会も中止でしたが……多分単なる言い訳です。管理職が飲み会嫌いなんだと思われます。

一般に、地方公務員はあまり飲酒をしない人が多いように思われがちです。
確かに、民間企業で営業職として酒を酌み交わす機会の多い方と比べれば、そういった印象は否めません。
地方公務員に就職した理由に、「民間のように酒を酌み交わす必要がない」ということを挙げる人もいるでしょう。

実際、実際、地方公務員として働くにあたり、頻繁に飲み会に参加する必要はありません。
ただ一方で、お酒を飲むこと自体は、地方公務員家業をやっていくにあたり必須だと思います。

主要顧客の気持ちがわかる

近年、日本人の飲酒量は着実に減少傾向にあります。
厚生労働省によると、日本の成人一人当たりのアルコール消費量は平成4年度の101.8lがピークであり、2019年度には78.2lまで減少しています。

しかし、これは飲酒者の減少を意味するものではありません。
厚生労働省の国民健康・栄養調査(2019年)によれば、生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合は、男性で14.9%、女性で9.1%となり、過去10年間で男性は横ばい、女性は有意に上昇しています。



こうした"ハイリスク飲酒層"は、役所でもおなじみの存在です。
窓口業務を担当したことのある人ならもちろんのこと、普段は住民対応をしない職員であっても、役所内で酩酊した人が大声をあげているシーンに一度は出くわしたことがあると思います。

行政サービスの利用者は、社会的に弱い立場の方々が多いです。
そのような方々の中にはアルコール浸りの人々も多く、お話を伺っていると「今抱えている問題の根本原因は、酒だな……」と思わざるを得ない人も少なくありません。

例えばこんなことがありました。
先月、ある男性がふらふらとカウンターに現れ、大声で「仕事をくれ!」と怒鳴り散らしました。
よくよく話を聞くと、酒に手を染めたことがトラブルの発端で、妻子と離れ離れになり、職を失っていたのです。

このような案件、役所側にできることはありません。
聞くだけ聞いて帰ってもらうしかありません。
強いて言えばアルコールを抜いて冷静になるよう勧めるだけです。

このような事案で、こちら側も酒飲みであれば、お酒を飲んだときの感情の高ぶりや身体的変化がわかります。
つまり、酒飲みの地方公務員は住民対応で重宝されると言えるのです。


「酒を語る」のは地方公務員の重要な仕事

日本は、地域ごとに様々な名産のお酒に恵まれた国で、清酒、焼酎、ワイン、ビールなど、その種類は豊富です。
役所の仕事でも、地酒を宣伝する機会は少なくありません。
特に広報部局や観光部局の職員であれば、地酒ネタは必須の知識です。

各地域では原料や製法にこだわり、風土や気候風土に適した味わいを作り上げてきました。
役所側が宣伝するときも、このような観点で説明することが多いです。

しかし、消費者が知りたいのは、そうした原料や製法の詳細よりも、美味しさ、つまり「味」そのものです。
日本酒造組合中央会の調査によれば、消費者が日本酒を選ぶ際の最重要ポイントは「おいしさ」で71%にものぼります。
「原料米の種類」や「製造方法」を挙げた人はわずか4%にすぎません。

お酒の味は、絶対的なものではなく相対的なものです。同じ酒を飲んでも、人によって「美味い」か「まずい」かで感じ方は異なります。
しかも、個人の体調や気分によっても味の感じ方は変わってきます。
だからこそ、本当においしいお酒を見つけるには、様々な銘柄を飲み比べる必要があるのです。

私にはそのよい例があります。大学3年の春、同級生数人と地元の酒蔵を巡る「酒廻り」をしました。
朝から夕方まで10軒以上はお酒を飲み歩きましたが、正直最初の数軒では味の違いがよくわかりませんでした。
しかし、4、5軒目を過ぎた頃から、ようやく舌が酒の味に慣れ、それぞれの個性が口に広がるようになってきたのです。
結局、仲間内でも一番おいしいと感じた銘柄は人によってバラバラでした。

このようにお酒の美味しさを語るには、豊富な飲酒経験が何より大切なのです。
原料や製法をいくら熟知していても、実際に舌で味を知らなければ通用しません。
だからこそ、地方公務員にとって、日々お酒を飲んで舌を肥えさせることが必須といえるのです。

酒は文化の重要なパーツ

お酒は、単なる飲み物ではありません。
全国各地に根付く伝統的な食文化や祭事、芸能など、様々な文化と深く結びついてきました。

まず食文化との関係です。
沖縄の泡盛は、沖縄料理に欠かせません。
泡盛に漬け込んだ豚の三枚肉や、泡盛を使った煮魚など、泡盛なしには成り立ちません。
また、新潟の日本酒は越後味噌と相性抜群で、日本酒で味噌を割ったり、日本酒で煮詰めた味噌を使うなど、相互に影響を与えあってきました。

お酒と祭り事の関係も深いです。
全国の神社仏閣で行われる「酒初め」は、新酒を神前に供え、製造者や信徒に振る舞う重要な神事です。

さらに、酒造りと伝統工芸品との関係も指摘できます。
焼物や漆器には、必ず酒器がラインナップされています。
お酒の香りや口当たりを活かすような形状になっていたり、その地域でお酒をふるまう祭事用にことが多いです。

このように、お酒は食や祭り、工芸など、地域の文化と密接に関わってきました。
地域の文化を解説した資料や書籍は(役所が自ら作っているものも含め)多数ありますが、真に文化を理解するには、自分自身が文化の「当事者」として、文化の中で生きるしかありません。

つまり、お酒によってはぐくまれた食文化や祭事、工芸を理解するには、自分自身もお酒を飲まなければいけないのです。

土地の文化を理解して継承していくことも、地方公務員の責務です。
地方公務員がお酒を嗜むことは、単なる嗜好を超えた意味があるのです。
「酒好き」「アルコール耐性」という属性は、ガタイが良いとか強面であるとかと同じく、地方公務員適正の一つだと思います。

このページのトップヘ