キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

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高知市役所が来年度から研修を大幅に縮小する方向で動いています(以下PDFの26ページ目)
https://www.city.kochi.kochi.jp/uploaded/life/254392_1063460_misc.pdf

財源確保施策の最初に「研修や講演会に係る講師謝金を削減」が掲げられており、これだけで約1800万円も削減するとのこと。去年の9月に一度「研修講師を市職員に限定して講師料を削減」と報じられていた内容が、実際の予算案にも盛り込まれたようです。

高知市では、財源不足を理由に、このほかにも事業を大幅縮小しているとのこと。
職員研修は市民生活に直接影響あるわけではなく、役所側の一存でカットできる(住民や議会との調整がいらない)「切りやすい」分野ですし、切られてもやむなしなのでしょう。

社会保障関係費が青天井で膨らんでいく中、財源に頭を悩ませるのは全国どこも同じなので、これから高知市のように研修を縮小する自治体が続々と現れそうです。

とはいえ、OJTがうまく機能していない実態を踏まえると、研修は今後も必要だと思います。
お金をかけずに効果のある研修をやっていくことが必要でしょう。

この観点で僕がかねてから有効だと思っているのが、超長時間労働の研修——災害発生直後などに発生するほぼ徹夜での勤務を、擬似的に体験する研修です。

地方公務員の真価が問われる「いざ」に備える

地方公務員という仕事は、いざという時には超長時間労働を強いられます。

典型的なのは大災害の発生時です。所属する部署に関わらず、避難所運営など昼夜問わず働く必要がある仕事に動員されることになります。近年だと、新型コロナウイルス感染症への対応で、超長時間労働を経験することになった人も多いと思います。

市町村職員であれば選挙対応も大変と聞きます。(町役場職員の妻いわく)ひとたび選挙管理委員会に招集されてしまえば、平常業務に上乗せして選管業務もこなすことになり、選挙が終わるまで土日含めて泊まり込むのが普通だとか……。選管でなくても、投票日前後にはほぼ全職員が動員されて、早朝から明け方まで投票所運営や開票作業に従事することになります。

ほかにも、議会対応や予算折衝、年度末の会計業務のような毎年恒例の長時間拘束系業務もあります。
2徹くらいの労働強度であれば、10年くらい地方公務員をやっていれば、どなたも少なくとも一度くらいは経験したことがあるのではないかと思います。

徹夜のような超長時間労働をすると、誰であれ仕事のパフォーマンスが落ちます。
ただ、どんな形で顕在化するかは人それぞれです。
  • 文字情報が頭に入ってこなかったり(インプットに支障)
  • 手が動かなくなったりミスが多くなったり(アウトプットに支障)
  • イライラしやすくなったり(ストレス反応)
などなど、個性が表れます。

疲弊した際に表れてくる個性、つまるところ自分の弱点を自覚しないままでいると、致命的なミスを引き起こしかねません。
そのため、超長時間労働の際に自分はどのような変調をきたすのか、あらかじめ自覚しておくことは、働くうえで有効だと思います。
これが超長時間労働研修の目的です。

ちなみに僕の場合、スピードを優先しがちになり、チェックが甘くなります。
以前、災害対応と予算要求を並走せざるを得なくなった際、徹夜した後に作った予算要求書の要求額を1桁間違えていたことが後々判明して、上司と一緒に財政課へ謝罪行脚しに行きました。
この苦い経験を踏まえ、繁忙期に作った重要な書類は、ほかの人にダブルチェックしてもらうようにしています。

3日間の過酷労働体験

僕がイメージする「超長時間労働研修」は、3日間でワンセットです。

まず初日。定時内は自分の職場で普通に仕事をします。
定時まで働いてから、研修所に移動。食事や入浴を済ませ、22時頃〜26時(AM3時)くらいまでグループワークをやってもらいます。早々と休むのはNGで、AM3時頃までは全員必ずワークしてもらいます。
グループワークの中身はなんでもいいのですが、5人くらいのグループを作って、調べ物をうえで何かしら発表する形式のものだとやりやすいかなと思います。

2日目も、日中は自分の職場で普通に仕事をしてもらいます。
疲労感と眠気でパフォーマンスが落ちると思いますが、この状況を作り出すのが狙いです。
「コンディションが万全でない状態で日常業務をやろうとすると、どういう支障が出るのか」を体験してもらうのが、まさにこの研修の目的の一つだからです。

そして定時まで働いたら研修所に移動します。食事や入浴を済ませ、22時頃からまたグループワーク開始。今回もAM3時頃までは必ずワークしてもらいます。
メンバーの疲労が蓄積して、グループによってはヒリつくと思いますが、これもまた目的です。過酷な状態では自分のメンタルはどう変化するのか、そんな状態でも円滑にコミュニケーションを進めるにはどうすればいいか、身をもって経験して考えてもらいます。

3日目は、午前中にグループワークの成果を各グループから発表してもらい、午後からは帰ってもらいます。午後からは必ず帰って休んでもらうのもまた研修の目的です。長時間労働の反動がどのように身体に現れてくるのか、体感してもらうためです。

地方公務員人生として働き続けるのであれば、この程度(ほぼ2徹)くらいの長時間労働はいずれ経験することになります。いきなり本番を迎えるよりも、あらかじめ「研修」という安全な形で練習して、自分がどれくらいやれるのかを把握しておいたほうがいいと思います。

しんどい研修になると思いますが、2徹分の時間外勤務手当がもらえるのであれば僕なら喜んでやります。

昨今、「キャリアは組織に委ねるものではなく、自ら切り拓くもの」という考え方が社会全体に浸透し、自己研鑽に励むビジネスパーソンが珍しくありません。
地方公務員も同様です。むしろ、「民間企業みたいなしっかりした研修体系が無いから、自主的にスキルアップしなければ」という危機感をも抱いているかもしれません。

しかし、いざ「成長したい」と志したとき、地方公務員の前には特有の壁が立ちはだかります。
それは、伸ばすべきスキルの選択が極めて難しいという問題です。

地方公務員には、部署をまたぐ「人事異動」がつきものです。ある部署で心血を注いで習得した専門的な法解釈や実務知識も、異動一つでその価値を失ってしまうことが少なくありません。
一方で、地方公務員として汎用的な知識技能(財務会計、公用文作成など)を磨き上げても、一歩組織の外へ出れば何の意味も持ちません。
地方公務員の中でも向上心の強い方々は、民間企業への転職も視野に入れているでしょうし、「できれば役所の外でも使えるスキルを伸ばしたい」と考えていると思います。

せっかくの努力を徒労に終わらせないためには、どのような部署に身を置いても、あるいはどのような職種に転じたとしても通用する「超汎用性なスキル」を身に付ける必要があります。

このようなスキルとして、「ファシリテーション」や「場づくり」のようなコミュニケーションスキルがこれまで提唱されてきましたが、僕は「家事スキル」が何より優先だと思っています。

プライベートを最適化・効率化すれば実務にも波及する

最初に断っておきますが、「家事ができるようになると仕事のパフォーマンスが底上げされる」と主張したいわけではありません。
このような副次的な効果もありますが(後述)、実務的な知識・技能を身につけるよりも、家事スキルを向上させてプライベート時間の最適化を図るほうが、よっぽど有意義なのではないか?というのが本旨です。

家事スキル向上の主な効果は、5つあると思っています。

第一に、圧倒的な「汎用性」です。
どんな生き方をしようとも、衣食住は欠かせません。異動しようが転職しようがセミリタイアしようが、家事スキルはずっと役立ちます。
文字通り「一生失われることのない財産」であり、どこへ行っても通用する「ポータブル・スキル」の筆頭と言えるでしょう。

第二に、このスキルは「決して廃れない」という点です。
どれほどテクノロジーが進歩し、便利な家電が登場したとしても、家事の原理原則は変わりません。
掃除と洗濯は今後も自動化が進むかもしれませんが、少なくとも料理は、人手が一切不要になることは無いと思います。

第三に、家事スキルは「人生の選択肢」を劇的に広げます。
地元で就職した地方公務員の中には、「家事できない/したくない」という理由で親元を離れない選択をした人が少なくないと思います。しかし、身の回りのことが自分で完結できるようになれば、住む場所も、働き方も、自らの意思で自由に選べるようになります。
「いざとなったらどこでも行ける」という安心感は、つらいときの支えにもなります。

第四に、家事スキルは他スキルを延ばす下地になります。
家事スキルが向上すると、生活の質が上がります。時間に余裕ができ、健康的な生活を送ることができるようになります。
そのため、次に何かのスキルを延ばそうとする際に、より多くのリソースを注げるようになるのです。

そして最後に、家事技能の向上を通して「マルチタスク能力」「タイムマネジメント能力」も養われます。
家事はマルチタスクの連続です。ひとつの家事を複数の工程に分解して、パズルのように組み合わせ、同時並行で進められるようになると、劇的に効率的できます。
このようなタスク整理のプロセスは、仕事にも活かせます。

とりあえず一人暮らし

家事スキルは、数をこなせば着実に向上していきます。
そして、手っ取り早く経験数を積み重ねるには、一人暮らしをするのがベストだと思います。
誰にも頼れない状況で、いかに仕事を終えてから寝るまでの数時間を効率的に運用するか。この「切実さ」こそが、思考を鋭利にして、試行錯誤の質を高めます。

さらに、複数の工程を逆算し、同時並行でタスクをこなす感覚は、ひとりで生活の全責任を負うことで初めて切実な課題として立ち上がってきます。

世の中には料理教室や家事セミナーも存在しますが、断片的な技術を学ぶことと、生活のすべてを回すことは全く別物です。掃除、洗濯、炊事、家事一式をひとりで一手に引き受ける責任ある立場に身を置くことで、実のある経験が積めると思います。おまけに家計管理もできるようになり、今後の資産形成にも役立つでしょう。

「一人暮らしはお金の無駄だ」と思う人もいるでしょうが、一生モノのスキルを養うための投資だと思えば、リターンは悪くないと思います。
僕が採用された頃は、初任給が17万円(手取りだと13万円くらい)で、一人暮らししたら赤字になるのが普通でしたが、最近は若手の給与水準も上がってきてますし、以前よりは随分やりやすくなっているはずです。

若い頃こそ自己投資に惜しまず資金を投じるべし——このような金言は、ビジネス書や各種セミナーで繰り返し説かれ、一種の真理として社会に浸透しています。
とりわけ地方公務員にとって、この言葉は一層重みを持つかもしれません。

「民間企業と違ってスキルアップの機会が限られている」
「人事異動のたびにキャリアがリセットされる」 
このような悩みを抱える地方公務員の方々が、自腹を切ってオンラインセミナーに参加したり、資格取得のために貴重な休日を犠牲にしたりする姿は珍しくありません。

僕自身、就職後にいくつか資格試験に挑戦しており、つい先日もITサービスマネージャ試験に挑んできました。
こつこつ試験勉強して少しずつ問題が解けるようになっていくのが快感なのと、試験本番のヒリヒリ感が癖になっているんですよね。

しかし、これまで十数年役所勤務してきた経験から率直に申し上げると、これまで取得してきた資格は、地方公務員稼業にはあまり役立っていません。
宅建だけは胸を張って「役立つ!」と断言できますが、そのほかは正直微妙なところです。少なくとも、私財とプライベートを投じるほどの価値があるとは思えません。

資格のみならず、自分自身のスキルアップに投資したとしても、地方公務員稼業にはそれほど寄与しないと思っています。
自分のキャリアを切り拓くために自己投資したとしても、「期待したほど報われない」可能性が高いのです。
 

一般的な自己啓発・自己投資のリターンは小さい

今更言うまでもなく、多くの自治体では定期的な人事異動が行われます。
だいたい2〜3年周期で部署が変わるため、ある分野の専門知識を習得したとしても、それを活かせる期間は限られています。

しかも、地方自治体の業務は多岐にわたっており、どんな部署でも幅広く活きるような汎用的専門知識があまりありません。
「地方公務員なら○○を勉強しておけばずっと役立つ」みたいな鉄板分野があればシンプルなのですが、今のところ僕には思いつきません。強いて言えば都市計画法くらいでしょうか……

さらに組織として、職員にはさほどの専門知識を求めていないとも思います。
多くの自治体は、特定分野の専門知識よりも、組織の中で円滑に業務を進められる調整力や人間関係構築能力を持つ人を高く評価します。出世コースを歩む職員を見ていると、この傾向は明らかです。

結果として、たとえ高度な専門知識やビジネススキルを獲得しても、それを活かす機会はごくごく限られますし、かつ職場での評価につながらないのです。
 

真に投資すべきは「地域探求」

キャリアアップを目指す地方公務員が、まず真っ先に時間とお金を投資すべきは、「勤務先自治体のことを知る」ための活動だと思います。
 
自治体職員として最も汎用性が高く、どの部署に異動しても活かせる知識とは、自らが勤務する地域についての深い理解です。
普通に働いていれば、勤務先の役所が実施している施策に関しては自然とわかるようになってきますが、さらなる高みを目指すのであれば、それだけでは不十分です。
地域の歴史や文化、産業構造、民間サービスの実態、住民の生活様式など、自分が関わっている地域を多角的な目線で地域を理解することが求められます。
 
この「地域を知る」という学びの旅には、明確なテキストもなければ、導いてくれるメンターも存在しません。何を学ぶべきか、どのように学ぶかを自ら設計し、行動に移す必要があります。
だからこそ習得が難しく、真似されにくい、自分だけの強みとなり得ると思います。
 

労働市場での価値が全てではない

もちろん、セミナーや資格取得を通じて知識を増やすことは、個人の人生を豊かにするでしょう。しかし、それらを地方公務員の業務に活かそうとするのは、現実的ではないと考えています。

地方公務員としての真のスキルアップを目指すならば、その地域にどっぷりと浸かることが近道です。
休日の旅行を減らし、代わりにローカルイベントに参加する。通販で全国各地の物産を楽しむより、地元の店舗を巡る。
そうした日常の小さな選択の積み重ねが、地域への理解を深め、結果として職務パフォーマンスの向上につながるのです。

つまるところ、日常生活のあらゆる場面が、 地方公務員として成長する「学びの場」なのだと思います。この認識こそが、地方公務員として真に価値あるスキルアップへの第一歩となるでしょう。


地方公務員という職業への評価は、外野と当事者で全然違います。

最近印象に残っているのは、3月下旬にXでバズっていた「Fランク大学卒にとって一番コスパ良い職業は地方公務員」という投稿です。

この投稿に対して、アンチ地方公務員の方々が賛同&公務員批判を展開する(Fラン卒をどうして税金で養わなきゃいけないんだ等)一方で、地方公務員を名乗るアカウントが反論のリプライを飛ばす……という光景が見られました。


ただ中には、外部と当事者で一致している評価もあります。
その一つが、「どれだけ頑張っても成長できない職業」という説です。


役所外部の方々は、
「そもそも地方公務員は仕事していない、ただ座っているだけ」
「思考停止状態で単純作業しかやっていない」
という理由を挙げて、地方公務員の成長を否定してきます。

そして地方公務員当事者も、
「業務に占める無駄な作業が多い」
「分野・職種をまたいで人事異動するせいで専門性が育たない」
といった現状をもとに、地方公務員としていくら頑張っても成長しないと嘆いています。

一方で僕は、地方公務員として経験年数を重ね、職位が上がるにつれて、確実に伸びていく能力があると確信しています。
それは「聞く力」、つまり幅広い層の話を正しく聞き取って理解する能力です。

この能力こそ、地方公務員固有の強みであり、社会的にも有用なスキルだと思っています。

顧客を選べない故の技能

役所が提供するサービスは、万人を対象としています。顧客の幅は、どんな業界よりも広いです。
そのため、地方公務員として働いていると、多様な人々とコミュニケーションをとることになります。
年齢や職業はもちろん、能力、経済状況、思想、健康状態や賞罰歴など、あらゆる面で異なる背景を持つ方々と接する機会があります。

もちろん部署によっては、施策の対象が限定されていて、特定の属性の人としか接しない場合もあります。 例えば、福祉系の部署であれば、高齢者や病気・障害のある方との接触が圧倒的に多く、学生や企業経営者のような活動的な層とはあまり接しないでしょう。


しかし、地方公務員は分野をまたいで人事異動を繰り返し、職業人生の中でさまざまな部局を経験していきます。
産業振興部局で経営者と日々意見交換していた職員が、次の部署ではケースワーカーとして生活保護受給世帯を訪問する……こうした変化は珍しくありません。
所属する部局が変われば、関わる人々の属性も変わります。 つまり地方公務員は、人事異動を繰り返すことで、社会の多様な層の人々と対面し、幅広い「聞く力」を培っていくのです。

「聞かざるを得ない」から成長する

地方公務員のコミュニケーションは、基本的には「受け身」という特徴があります。

民主主義という統治形態をとっている以上、公共サービスに対して誰もが意見を表明することができ、行政側もそれらの意見を尊重する義務があります。これが原則です。

実際に、役所には日々多様な意見が寄せられており、地方公務員はこれらの意見をまず正確に理解することが求められます。 きちんと理解したうえで、適切な返答を検討したり、採用の可否を判断したりすることになります。


広報のような能動的なコミュニケーションを担当する職種もありますが、全員がそうした業務を担当しているわけではありません。
一方で「受け身のコミュニケーション」は、どの部署でも発生する、地方公務員という職業に共通の特性です。
言い換えれば、「相手の意見・主張を聞き取って正確に理解する」という能力は、どんな部署で働くにしても必要となる地方公務員の必須スキルなのです。

さらに、あらゆる部署で日常的に使われるがゆえに、地方公務員として日々を過ごすだけでこの能力は着実に鍛えられていきます。
理論や技法を体系的に教えられるわけではありませんが、実践する機会が豊富で、かつ真剣に取り組まざるをえない状況が多いため、自然と身についていくのです。


行政機関には、各種カウンセラーや社会福祉士のような、クライアントの声を聞く訓練を受けた専門職の方もいます。
これらの専門職の「聞く力」は、一般の地方公務員とは比べものになりません。
ただし、これら専門職の方々の「聞く力」は、特定の属性の人に特化しているという特徴があります。

一方、老若男女問わず、健康な人から支援を必要とする人まで、あらゆる人に対してある程度対応できる地方公務員の「聞く力」は、他の職業ではなかなか育成されない貴重なスキルではないでしょうか。

市場価値は低くても「市場以外」のところでは役立つはず

地方公務員のキャリアパスについて、人事当局は「ジェネラリスト育成型」と説明していますが、当の地方公務員からは評判が芳しくありません。

「別分野の部局に異動したせいで仕事の進め方や必要な知識が全然違っていて辛い」というのは地方公務員の共通の悩みですし、冒頭にも挙げたとおり「部局をまたいで異動するせいでキャリアがリセットされる」ことも、地方公務員という職業のデメリットとして広く認識されています。

2~3年働いただけでその分野に精通し、人脈をしっかり築いて、次の部署の仕事に活かしていく……という、人事当局が理想とする「ジェネラリスト」になる職員もごく稀にいますが、大半の職員は「リセット」に悩まされているのが現実です。
僕自身も、なぜか1年スパンで異動することが多く、十分な知識や経験を積むことができないまま十数年働いてきました。

しかしそれでも、「聞く力」だけは確実に身についていると実感しています。
そして、この「聞く力」が、日々の業務に大いに役立っています。


ここ数年、地方公務員の広報スキルがやたらと注目されていて、書籍やセミナーも多数リリースされていますが、私は広報スキルよりも「聞く力」のほうがより本質的で重要だと考えています。
おそらく「聞く力」はノウハウ化しづらく、マネタイズに向いていないため、あまり注目されないのでしょう。

さらに、民間企業では十分に評価されにくいスキルかもしれません。もしこれが一般的なビジネススキルとして広く認知されるのであれば、地方公務員はもっと転職市場で高く評価されるはずです。

このブログの読者各位は、きっと仕事熱心で向上心のある方々なのだろうと思います。
そうでなければ、わざわざ余暇の時間を割いてまで地方公務員ネタに触れようとは思わないはずです。

そのような皆様は、地方公務員(元職含む)が書いた仕事術のような書籍(以下「地方公務員本」)も読まれているかもしれません。
あくまでも僕個人の感覚ですが、地方公務員本は、読み物としては面白いものの、実務ノウハウとして役立つかは怪しいと思っています。
過去にも、地方公務員本は眉に唾をつけて読んだほうがいいという趣旨の記事を書いています。



今回取り上げるのは、地方公務員本によく登場してくる「上司の視点に立って物事を考えよ」という助言です。

ヒラ職員ならば係長、係長ならば課長補佐、課長補佐ならば課長の視点を意識して仕事することが、自身の成長につながるし、組織内でもありがたがられる……という趣旨の助言であり、指定職や部局長のような高位役職経験者が書いた本によく登場します。

この助言のうち「ヒラ職員が係長の視点を意識する」という部分は、僕は危険だと思います。
職員個人としての成長には資するかもしれませんが、行政サービスの質は低下するでしょうし、組織としても誤った意思決定の原因になりかねないと思います。

「ヒラならでは」の大切な役割

ヒラ職員の仕事は、部署や職種によって様々です。
係長以上になると「組織を回す」「部下のマネジメント」といった共通点が出てきますが、ヒラ職員の仕事は本当に多岐にわたっています。ゆえに、ヒラ職員に共通する助言をすること自体、なかなか難しいことだと思います。

あえて共通する部分を挙げるなら、行政サービスを正しく提供することと、「世間」を正確に把握することだと思います。

前者は言わずもがな、担当する業務を誤りなく滞りなく処理して、行政サービスを提供することです。
一方、後者のほうはあまり意識されていないかもしれませんが、世間すなわち一般大衆(住民の大多数)の情報を、日々の業務を通して収集・把握することも、ヒラ職員の重要な役割だと思っています。ヒラ職員が集めたこのような情報をベースとして、役所は意思決定をしているからです。

ヒラ職員は、役所組織の中で最も「世間」と近いところにいます。
まず、物理的に近いです。窓口や電話越しに住民と直接接触する機会が多く、現場(=役所の外)で何が起こっているのかを一番把握できる立場にいます。
加えて精神的にも近いです。地方公務員歴が比較的短く、役所組織特有のバイアスや思考様式にまだ染まりきっていないので、現実をあるがままに見ることができます。

係長は係長、課長は課長で、それぞれ独自に「役所の外」とのパイプがあり、情報収集ができるのですが、「世間」すなわち一般大衆の情報を最も正確かつ大量に収集できるのはヒラ職員ならではの強みだと思います。

ヒラ職員が係長みたいに「情報の取捨選択」に手を出すと……?


先にも少し触れましたが、係長には「組織を回す」という役割があります。
組織を回すためには、(僕自身は係長の仕事をしたことがないのであくまでも推測ですが)、ヒラ職員から吸い上げた「世間」の情報を、組織として評価……例えば「組織として必要か否か」といった軸で情報を評価・選別しなければいけません。

ヒラ職員が収集した情報をそのまま上司や他部署に報告してしまうと、受け手側の負担が重くなります。受け手が判断を下しやすいように、係長が情報を評価したうえで取捨選択・再構築することで、組織は円滑に回るようになるのです。

「組織にとって必要な情報を見極める」というのは、係長にとって必須のスキルだと思います。
このスキルを習得することが、地方公務員の「成長」のひとつとも言えるでしょう。

しかし、ヒラ職員が係長の視点、つまり「組織にとって必要か」という視点で情報を選別し始めると、今後は「世間」をあるがままに理解しようとする人がいなくなってしまいます。
言い方を変えると、「役所組織のバイアス」がかかった情報しか入ってこなくなるわけであり、世間を正確に把握できなくなります。
正しい世間の情報を得られなくなれば、意思決定にも悪影響が出てくるでしょう。

「ヒラ職員は係長の視点に立って仕事せよ」という助言は、このような事態を助長しかねない、リスクの高い助言だと思われるのです。

(昔と違って)今のヒラ職員は忙しい

この助言も、平成中期くらいまでは有益だったのだろうと思います。
当時は今よりも職員数が多くて1人あたりの担当業務も少なく、かつヒラ職員の仕事は単純作業が中心でした。この時代なら、ヒラ職員には「世間」をちゃんと把握したうえで背伸びして、係長のように組織目線で情報を取捨選択してみるだけの余裕があったと思います。

しかし当時と比べ、今のヒラ職員はとても忙しいです。
役所の業務量は増える一方で、職員数は減っており、1人あたりの担当業務が増えています。
加えて、単純作業は非正規の方(会計年度任用職員)や外注で回すようになり、ヒラ職員でも管理者的な仕事をすることが多くなり、業務の質的にも負担が増しています。

しかも今は、デジタル化の急進展をはじめ、社会の変化が加速しています。
役所としても、激動する世間を正確に捉えることのほうが重要ではないでしょうか?
うかうかしているとすぐに「時代遅れ」になってしまう現代において、情報収集の重要性は一層増していると思います。

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