キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

タグ:組織

弊ブログを以前から読んでいる方は薄々勘づいているかもしれませんが、僕の勤務先自治体には「昇進試験」なるものがありません。
そこそこの年齢になると、ほぼ全員が横並びで昇進していきます。

よく出世ネタを取り上げているわりに、昇進試験に関して一切言及していないのは、昇進試験がどんなものなのか全然わからないからです。
「昇進試験対策本」みたいな書籍も、実物は見たことがありません。
昇進試験制度を有している自治体が県内には(多分)存在しないので、需要が無いのでしょう。

実態を全然知らない身からすれば、昇進試験は良いものに映ります。
「試験の出来不出来と実務能力は関係無いから、やるだけ無駄」という意見があるのも承知していますが、昇進試験という制度が存在するだけで相当メリットがあるように思われるのです。

「昇進しない」という選択肢が生まれる

昇進試験最大のメリットは、昇進試験を受けないことで「昇進しない」という選択肢をとれる点だと思っています。

昇進したくないと思っている若手職員は少なくありません。
僕の周囲だと、20代のうちは単に「苦労したくない」「割に合わない」という甘ったれた理由が多かったのですが、30代も半ばに差し掛かってくると、自分の心身に変調をきたしたり、親御さんの介護などの家庭事情のために、労働強度を落としたくなる職員がちらほら出てきます。

昇進試験が無い場合、職員本人の意向とは関係なく、年齢や年次が一定程度に達すると自動で昇進します。
昇進しないためには、再起不能なほどに心身を壊して頻繁に休職するしかありません。
つまり、普通の健康な人生を送るのであれば、昇進は避けられないのです。

もちろん、昇進しても楽なポスト(係長級だけど業務内容はヒラ職員並み)は存在していて、運良くそこに配属されれば労働強度を落とせますが、そういうポストはごくわずかです。
さらに、これから定年延長が始まると、61歳以降の役職定年してきた職員がそういうポストにどんどん着任していくだろうと思われます。


やや皮肉ですが、昇進試験があれば「昇進しない人生」を選択できるようになります。
昇進試験が無い自治体では、そもそもこの選択肢が存在しません。
この違いはかなり大きいです。


成長の機会になる

試験には試験勉強がつきものです。
昇進試験の場合も、相当の時間とエネルギーを試験対策に注ぎ込むことになるでしょう。

過去の記事でも何度か触れていますが、地方公務員は試験勉強というインプットが比較的得意な人種です。(得意でなければ、公務員試験を突破できていないはずです)



現状、採用後の研修は配属先でのOJTが中心で、「見て学べ」「慣れて覚えろ」というスタイルです。
配属先固有の知識や技能のみならず、コミュニケーションやマネジメントのような一般的スキルも、全てOJTです。
本来ならテキストを使って「読み書き中心」でインプットする機会を設けたほうが効果的に研修できる気もするのですが、現状そのような運用をする余裕が無く、せっかくの人材的な強みを活かせていないと思われます。

昇進試験は、仕事に必要な実務的知識を、試験勉強という地方公務員の得意分野で習得させるという、効率的な職員育成手段なのではないかと思われます。

職員個人レベルで見ても、昇進試験対策でみっちり勉強することで、自身の成長を実感できるのではないかと思われます。
昇進試験を受けて主任になった職員と、僕みたいに何もせず自動的に主任になった職員では、相当の能力差がついていることでしょう。

「昇進させない」合理的理由になる

アラサーになる頃には、「こいつを昇進させたら危険なのでは……?」という職員がちらほら出てきます。
典型的なのがパワハラ上司予備軍です。20代のうちから後輩を潰しだす職員はざらにいます。

昇進試験が無い自治体だと、こういう危険分子も自動で昇進していきます。
もし昇進させないとしたら、相当の理由が必要です。
一人二人潰しただけでは、単に相性が悪かったとか、潰れた側に非があるという可能性も否定できず、昇進させない理由としては弱いでしょう。

一方、昇進試験があれば、こういう危険分子を「試験不合格」を理由にして昇進させないことが可能だと思われます。
一旦昇進を保留して、本当に昇進させても問題ないのかをもう1年かけてチェックするという時間稼ぎができるのです。
組織運営上、これは相当なメリットなのではないかと思っています。

人間関係がギスギスしそうな気も若干する

最初に触れたとおり、昇進試験制度が存在する場合、あえて昇進しないことが可能になります。
昇進試験を受けるかどうかで、仕事に対する自分のスタンスが可視化されるわけです。

しかも、昇進試験を受ける/受けないという単純明快な二分法です。
つまるところ、昇進試験を受ける職員と受けない職員の間で断絶が生じて、職場の人間関係がギスギスするのではないかと思われるのです。

国家公務員のように総合職と一般職で最初から住み分けされているわけではなく、最初は対等の立場だったのに昇進試験時期を境に分断されると、余計に人間関係で揉めそうです。

昇進試験のメリットを3つ、デメリットを1つ挙げてみましたが、いずれも完全に推測です。
「他にもメリットありますよ」「実際そんなにうまくいきませんよ」みたいな実体験コメント、お待ちしています。

地方公務員界隈では、国家本省への出向は出世コースだと認識されています。

僕は個人的に、出世コースそのものというよりは、出世コース候補者たちをさらに選別する二次選抜過程の一部だと思っています。
本省出向を無事乗り切っても、出世コースに乗らない人が一定数存在するからです。


 
本省へ出向する(させられる)職員は、出向前時点では間違いなく評価が高かったはず。
そのはずなのに、実際に出世コースに突入する職員は、本省出向経験者ばかりではありません。
僕の勤務先県庁の場合、むしろ出向せずに庁内で頑張っていた職員のほうが多いくらいです。

つまるところ、本省出向の前後で評価順位の逆転現象が生じている……より直接的に言ってしまうと、本省出向したせいで相対的に評価が下がってしまう職員がいるわけです。

僕の同期職員や、年次の近い先輩後輩の事例を思い返しつつ、本省出向したのに出世コースに乗らない職員の特徴を考えていきます。

「割り揉め」の鬼

まず挙げられるのが、組織内の縦割りにこだわり、些細なことでも割り揉めする職員です。
どんな些細な仕事であっても「なぜ当課/自分が応じなければいけないのか」という理由や根拠にこだわります。
しかも往々にして、相手から理由や根拠を示されても徹底的に抗弁して、仕事を引き受けたがりません。

議会答弁とかマスコミ対応みたいな対外的業務で割り揉めするのは、むしろ正確に業務遂行するために必要なプロセスなのですが、
  • 所管している法令の解釈について教えてほしい
  • 過去の資料を見せてほしい
  • 備品を貸してほしい
  • 外部から問合せが来ているので対応してほしい
この程度の単発かつ単純な依頼であっても、法令や覚書のような根拠文書を要求してきたり、必要性について資料を作ってレクしに来いと指示してきたりします。

もちろん、割り揉めが必要な場面もあります。
責任の所在を明確化するのは勿論大切ですし、むやみやたらに他部署を巻き込んで仕事を増やす迷惑職員がいるのも事実です。
「なぜその仕事を引き受けなければいけないのか」という入口部分を徹底的に詰めることで、こういうトラブルを未然防止したい……という意図なのかもしれません。

しかし、ごく些細な仕事でもいちいち割り揉めされると、業務効率が激落ちします。
本人としては最適解なのかもしれませんが、組織の全体最適という意味では悪手としか思えません。

圧倒的に出世する職員に求められるのは、自分に危害が及ばないよう徹底的に割り揉めして守りを固める姿勢ではなく、むしろ快く引き受ける度量の広さ、姉御肌や兄貴分気質のほうだと思われます。


後輩・同僚に対して塩対応

本省出向から戻ってくると、若くても20代後半。
同じ係内に後輩がいることも多いです。

本省出向経験者の中には、後輩の面倒見が悪いというか、意図的に後輩を突き放す職員がいます。
後輩から相談されない限り一切助言しなかったり、助けを請われてもそっけなかったり……
こういう職員は大概、同僚に対しても非協力的です。

あまりの塩対応を見かねて、他の職員がフォローに入ることも多いです。
僕自身、本省出向経験者と後輩との間に入り、緩衝材と化していた時期が何度かありました。
(自慢ではありませんが、僕がいなかったら退職してただろうな……と思われる後輩すらいます) 

本人に「もうちょい干渉したほうがいいんじゃないの?」と促したことも何度かあります。
すると、「これくらい自力で出来て当然」と言い切る職員もいれば、「苦労させることが本人のためになる」と自慢げに語る職員もいました。

本省では「自力解決」が鉄則であり、出向者であれ他者の助力は得られないと聞きます。
そのような環境を乗り切った、つまり何事も自力でやり切ったという経験を、出向の成果・成長の証明と認識しているのかもしれません。
そして、本省のような「自力解決」を後輩に強いることで、自分と同じように成長させたいのかもしれません。

しかし、本省出向させてもらえる(させられる)職員は他の職員よりも優秀であり、誰もが彼や彼女のようにタフではありません。
ご自分では「当たり前」と思っていることが、他の職員にとっては「大変なこと」かもしれません。
この事実に気づかない、あるいは意図的に無視して自分が楽しようとする姿勢は、他の職員を傷つけます。

職員は能力的にも性格的にも様々であり、塩対応で十分な人もいれば、優しく丁寧に接しなければいけない人もいます。
このような多様性を気にかけず、自分に都合の良いコミュニケーションしか取ろうとしない職員は、いくら自身が優秀であったとしても、組織運営上は害悪になりかねません。


キレ芸を使う

地方公務員であれば誰しも、怒りの感情をぶつけてくる相手と対峙したことがあるでしょう。
こういう相手には、本気で怒っている人もいれば、怒っているふりをしているだけの人もいます。
怒声や攻撃的言動をちらつかせることでプレッシャーをかけ、自分に有利なように交渉を進めようという魂胆です。

本省出向経験者の中には、こういうテクニック、つまるところ「キレ芸」を平気で使う人がちらほらいます。
他部署や後輩に対してキレる姿を見せつけて、自分の意向に従わせようとするのです。

キレ芸は、相手と対等な立場であれば交渉手段たりえますが、格下の相手に対して用いればパワハラにほかなりません。
ある程度出世した後ならまだしも、若手の時点からキレ芸に頼るようでは、「調整能力なし」とみなされて出世コース候補者から落選して当然だと思います。

本省出向のせいとは言い切れないものの……

今回挙げたような特徴は、本省出向経験者に限った話ではありません。
出向していなくても該当する職員はたくさんいます。
 
ただ実際のところ、本省出向を経てこういう性質が身についてしまう職員が少なくありません。
出向前は気の良い同僚だったのに、出向から帰ってくると別人のように面倒臭くなっている……というケースが後をたたないのです。
「〇〇課の▲▲さんってキモオタ君の同期(元同僚)だよね?あいつマジでなんなの!?」と現同僚からクレームを受けるたび、フォローしたくてもできなくて悲しくなります。


ここからは完全に推測です。
「徹底的な割り揉め」「後輩・同僚への塩対応」「キレ芸」いずれにしても、もしかしたら本省では当たり前の処世術であり、むしろ推奨されるスキルなのかもしれません。
本人としては、本省出向で習得したスキルを、職場に還元しようとしているのかもしれません。

これらのスキルは、本省のようなタフガイ集団であれば、効率的なコミュニケーション手法として有効な気もします。

しかし、本省と自治体では、職員の質が全然違います。
自治体職員は、本省職員のように皆が優秀で心身ともにタフなわけではなく、気弱な人もいれば無能な人もいます。
優秀な職員だけで組織運営できるほど人材が豊富なわけではなく、そうでない職員をうまく活用して、組織を回さなければいけません。
職員の質が違えば組織の雰囲気も異なってきますし、そうなると求められるコミュニケーションスキルも変わってきます。
 
つまるところ、本省出向で習得したコミュニケーションスキルを素直に自治体に導入しようとすると、組織の雰囲気・環境・条件の違いゆえに周囲との軋轢が避けられず、自身の評価を落としかねないのです。なんとも皮肉です。

本省出向を経て出世コースに到達するには、本省の雰囲気に感化されることなく、自治体組織運営でも使えそうな部分を「いいとこ取り」するくらいの度量が必要なのでしょう。

つい先日、同期の職員から刺激的な話を聞きました。
大学時代のゼミの恩師から、「地方公務員になったゼミOB達が近年離職しまくっている、何故なんだ?」と相談されたというのです。

そのゼミは地元大学法学部にあり、国家公務員・地方公務員を毎年大量輩出しています。
より正確にいうと、これまで蓄積された試験対策ノウハウやOBとの接点を求めて、公務員志望の学生が続々入門してきます。田舎国公立大学あるあるです。
そのゼミ生達……つまり公務員になりたくて仕方なかったはずの方々が、せっかく公務員になれても結局辞めているというのです。

若手離職の話は過去記事でも取り上げていますが、正直これまであんまり現実味を感じていませんでした。
ただ今回の話を聞いて、急に切迫感を覚えました。


離職防止策を考えていたところ、ちょうど最近リリースされた「新人地方公務員の組織適応」というテーマの論文を見つけました。



論文PDFはこちら
ぜひ本文を読んでいただければと思いますが、かいつまんで紹介します。

論文のあらすじ:適応成功職員を分析

この論文は、2020年10月〜 11月にかけて、福岡県内の自治体に勤務する勤続年数1〜3年目の職員14名を対象として実施したインタビューをもとにしています。
コロナ感染拡大後の情報に基づいているので、現時点でも十二分に通用すると思われます。

また、インタビュイーうち「これまで一度でも離職や転職を考えたことがある」と回答した人が14人中わずか2名に止まることが付言されています。
著者はこの点をもって、インタビュイーの属性を「組織にそれなりにうまく適応できている人々」と評価しています。

この見方には僕も完全同意です。
1〜3年目といえば、民間勤務の同世代との待遇格差(給料安い、研修無い、残業代不支給など)を痛感して辛酸を舐める時期であり、具体的な不満が無かったとしても辞めたくなってくるものです。

分析結果 ー4つの課題と4つの対処方策ー

インタビュー結果を分析した結果、新人職員が主に直面する組織適応上の課題として、
  • OJTの機能不全
  • やりがいの希薄化
  • 仕事や職場への戸惑い
  • 住民に対する葛藤
という4つのカテゴリを抽出しています。

さらに、これらの課題への対処法策として、
  • 受け入れ・割り切り
  • 主体的な学習
  • 現状の変革
  • 人間関係の構築
という4点を提示しています。

それぞれの項目の具体的な内容は、論文本体を読んでみてください。
インタビュー中の実際の発言も多数引用されていて、生々しくて面白いです。

日々の業務に展開するには

正直なところ、「4つ課題」にも「4つの対処方策」にも、目新しい項目はひとつもありません。
誰もが薄々感じている事柄が改めて立証されたというのが率直な感想です。

とはいえ、このように整理されることの意義は大きいです。
具体的な対策を考えやすくなります。

当事者(新人地方公務員):肩の荷を下ろせるか

「4つの課題」として挙げられた項目は、新人であれば誰もが直面する課題と言えるでしょう。
この辺りの課題に実際に悩まされている方がいたら、「自分が悪い」と背負いこむ必要はありません。
「役所あるある」なのです。
こう捉えれば、いくらか気が楽になるはずです。

上司・先輩:サポートの視点

ある程度経験を積んだ職員にとって、「4つの課題」はいずれも「仕方ないこと」として受容されています。
あまりに当たり前すぎて「新人にとっては躓きポイントである」ことを忘れがちなので、改めて意識し直したほうが良いでしょう。

加えて、新人職員が「4つの対処方策」を実践するサポートもできればいいでしょう。
特に、新人職員が「現状の変革」に乗り出そうとしている兆候があれば、しっかり監視したほうがいいと思います。
3年目くらいの職員が思いつく改革案には、だいたい致命的な見落としがあります。
そこをうまく指摘して補強させたり、時には諦めさせるのも重要でしょう。


ここからは完全に個人的感想です。
インタビュイー各位の発言を読むに、皆さん「自助だけでなんとか乗り切った」という認識のようで、「周囲の職員に助けられた」というコメントが皆無なのが大変印象的でした。

引用箇所があくまでインタビューの一部だけで、引用されていない部分にはこういう趣旨の発言もあったのかもしれませんが、もし本気で「自分一人で新人期の危機を乗り切った」と信じているなら、それは危険な誤解だと思います。
誰かしらサポートしてくれているはずなのに、視野が狭くて気づいていないだけなのでは……?

周囲の厚意に気づかず、悲劇のヒーロー/ヒロインぶる若手は、役所でなくとも煙たがられます。

さらに、こういうマッチョ思考は、後輩への塩対応(自分は独力でなんとかできたから、お前もできるだろ?)につながりかねません。

勤続年数3年目までの時点では「組織にうまく適応している」かもしれませんが、数年後は危ういなと正直思いました。


「『やりたい仕事』を明確化・具体化すべき」というアドバイスは、就職活動(特に新卒)の鉄板です。

地方公務員の場合も同様で、
  • ただ「地方公務員になりたい」だけでは不十分
  • 採用後にどんな分野でどのような仕事をしたいのか、具体的に考えるべき
  • 具体的に考えるための情報収集が欠かせない

というアドバイスが、一般的になされています。

「具体的にどんな仕事がしたいか」という質問は面接でも定番で、誰もが考えなければいけないポイントです。
ただ僕は、このポイントはあくまでも面接対策として必要なだけで、「地方公務員を目指すか、それとも民間就職するか」を決断する段階では、無意味だと思います。

民間就職ではなく地方公務員になる理由は、「具体的に〜〜したい」ではなく、「地方公務員になりたい」であるほうが、健全だと思うのです。

むしろ、採用前に「やりたい仕事」を具体化・明確化してしまうほど、採用後のミスマッチがひどくなり早期離職を引き起こすのでは……とすら思っています。

まず考えるべきは地方公務員という職業そのものの特異性であり、これに魅力を感じるか否かを徹底的に吟味したほうがいいと思います。

「やりたいこと」が実現できるわけない

日本は民主主義国家であり、行政は民主主義的決定事項を執行(実行)する立場にあります。
「何をするか」「どのようにするか」を決めるのは主権者たる国民であり、行政ではありません。

この原理原則はもちろん地方自治体にも適用されます。
役所(=地方公務員)の仕事のラインナップは住民が決めるわけで、地方公務員が決めるわけではありません。
役所の仕事の多くは法令に基づいていますが、法令はまさに民主主義的決定の結果であり、法令に基づく仕事は「住民が決めた仕事」の代表例です。

法令に基づかない仕事(例えば観光振興とか広報あたり)は、一見すると役所の裁量で動かしているように思われるかもしれません。
しかし実際は、議会や業界団体や地域住民の意見に従って進められており、役所の意向で動かせるわけではありませんし、担当職員の考えを挟む余地はほぼありません。

つまるところ、役所は職員個々人の「やりたい仕事」を実現できる環境ではありません。

「やりたい仕事」が実在しても担当できるとは限らない

もちろん、役所の仕事ラインナップの中に、自分の「やりたい仕事」が含まれている場合もあり得ます。
しかし今度は、「ジェネラリスト志向」とかいう人事異動の仕組みが立ち塞がります。
異動希望はほぼ通りませんし、通ったとしても数年でまた異動させられます。
「やりたい仕事」を担当できるかどうか未知数であるうえ、担当できるとしてもせいぜい数年なのです。
僕は今年でちょうど入庁10年目になりますが、同期入庁職員の中でこれまで「やりたい仕事」に配属されたことがあるのは、だいたい3割くらいです。

人事異動の無理ゲーっぷりを定量的に知りたければ、こちらの記事をどうぞ。

 

地方公務員の仕事は刻一刻と変わっていく

そもそも、役所が手がける仕事のラインナップ自体、どんどん変わっていくものです。
わずか数年後ですら、現時点では想像もしないような仕事を一般事務職員が担っているかもしれません。

新型コロナウイルス感染症の流行前後の激変っぷりが、まさに好例です。
コロナ前の自治体はインバウンドブームでした。
「訪日外国人観光客をいかに呼び込むか」が重要課題であり、ハード・ソフトともに新規事業がバンバン展開されていました。
「これからの地方公務員は英語で日常会話できるのが当然」なんて主張もなされていました。

もし当時にタイムスリップして、「2020年に新型感染症が世界中で流行して、一般事務職員が夜な夜な居酒屋を回って会食マナーを指導したり、ホテルに駐在して患者に弁当を配るよ」なんて言おうものなら、確実に頭がおかしいと思われるでしょう。

しかしこれが現実……

「地方公務員の特異性」に魅力を感じますか?

地方公務員の面接における「やりたい仕事は何ですか?」という質問、僕は本当にナンセンスだと思います。


採用された途端に、まるで「千と千尋の神隠し」冒頭のごとく
「贅沢な名だね、今からお前の名前は『主事』だ。いいかい主事だよ。わかったら返事をするんだ『主事』!」
と言わんばかりに没個性化を強いるのに、面接段階では個性を主張させようとする。何なんですかね。


多分、この質問が「ちゃんと下調べしているか」を測るのに好都合だからなのでしょうが、受験生的には「具体的に考えるのが大事なんだ!」「熱意が重要なんだ!」と勘違いしてしまいかねません。
そもそも採用側が虚飾だらけの情報しか公表していないのに、「やりたい仕事」を明確化・具体化しろと受験生に強いるほうがおかしい気すらしてきます。

「やりたい仕事」を具体的に考えるのは、面接対策の直前期だけで十分です。 
「やりたい仕事」は、面接を通過するための方便・手段に過ぎず、真剣に考えたところで何の役にも立ちません。
特に「地方公務員になるか、国家公務員になるか、民間就職するか」という根本的進路選択には、まず役立ちません。むしろ害悪です。
 
代わりにじっくり考え抜くべきなのは、
  • 地方公務員という職業は、国家公務員・民間勤務とどう異なるのか(=地方公務員の特異性)
  • 地方公務員の特異性に対し、魅力を感じるか

この2点だと思います。
地方公務員の特異性は、すでに多くの人が論じており、書籍でもインターネット上でもいろいろな説が提唱されています。
先にも触れたとおり、役所が「何を」「どのようにするか」を決めるのは住民であり役所に自己決定権は無いという性質……俗にいう「他律性」も、地方公務員の特異性の一つです。
「原則クビにならない」「病気休暇を取得しやすい」等の勤務条件も特異性の一つでしょう。

このような地方公務員の特異性を見つけるためには、地方公務員のみならず国家公務員や民間企業のことも詳しく調べて、比較することが欠かせません。


他職種と地方公務員を冷静に比較していくと、地方公務員のメリットが実はあんまりないことにきっと気がつくと思います。
それでも「地方公務員になりたい」と思えるのであれば、それこそ真のモチベーションです。
薄っぺらな「やりたい仕事」とは段違いに深みのある、本音の「志望動機」です。 

世間的には「人は見た目が9割」と言われておりますが、田舎役所というクローズドな環境下だと
  • コミュニケーション能力 6割
  • 見た目 3割
  • 事務処理能力 1割
くらいのバランスじゃないかと思っています。 
圧倒的に大切なのはコミュニケーション能力です。 

とはいえ見た目も重要です。
少なくとも事務処理能力よりは、はるかに重視されます。

僕は老け系のオタク顔です。
いわゆる「チー牛」のような童顔オタクではなく、もっとおっさんくさい感じです。

民間企業勤務だとマイナスにしかならない容貌なのでしょうが、地方公務員としては結構有利に働いています。
ひと目見て「いかにも融通効かなさそう」と思われるのか、住民からあまりゴネられません。
電話だと人並みにゴネられるものの、対面だと(さんざん嫌味は言われますが)早々に帰ってもらえます。

一方、童顔の地方公務員は、老け顔よりも苦労が多いと思います。

年功序列文化では下に留め置かれる

「年功序列」というといかにも役所の専売特許のように思われがちですが、実際は日本社会の至るところに染み付いています。

役所に来る住民の方々も同様です。
対応する職員が自分よりも年上か年下か次第で、態度が一変します。
より正確にいうと、年下だと認定した職員に対しては、態度が大きくなりがちです。

童顔の職員は「年下」認定されやすく、住民から攻撃的な物言いをされることもしばしばです。
特に童顔の男性職員は大変そうです。
住民に対して「男だから少々強めに当たってもいいだろ」「年下なら遠慮しないぞ」という二枚の免罪符を与えてしまい、攻撃行為の心理的ハードルを引き下げます。

たとえば、制度の詳細をわかりやすく正確に説明したとしても「本当か?常識的に考えておかしくないか?」などと食いつかれたり、些細な言葉遣いをネチネチ指摘されたり……こういう細かいトラブルに遭いがちです。

もちろん、ガチなクレーマーは性別も年齢も関係ありません。
職員の属性に合わせて臨機応変に弱点を突いてきます。
童顔が不利なのは住民対応一般の話です。


「油断させて本心を引き出す」という固有スキル

童顔の職員は、相手から大きな態度を取られがちで、そのせいで苦労が増えるといえます。
しかし、見方を変えると、「相手に大きな態度を取らせられる」というのは、武器にもなり得ます。

「大きな態度を取られる」ということは、「相手を油断させられる」ことでもあります。
年下認定した職員に対してマウントを取ろうとするのは、相手を見くびっているからです。
「反撃されるかも」という警戒を怠り、ついつい口が軽くなっている状態ともいえます。

「相手を油断させて口を滑らせる」というスキルは、地方公務員人生でかなり重宝します。
役所に限った話ではありませんが、組織外の人と協業する場合には、「相手が信用できる人物であるか」を見極める必要があります。

地方自治体は、「役所」であり「田舎」という、馬鹿にされがちな要素を兼ね備えています。
一見友好的な相手であっても、内心どう思っているかわかりません。
そのため、あえて油断させて本性を引き出すという策が大変効果的です。
童顔の職員は、相手を油断させやすいため、相手の本性に迫りやすいとも言えるでしょう。

もちろん、単に相手を油断させるのみならず、口を滑らせて本性を暴き出すためには、高度なコミュニケーション能力が欠かせません。
外見とコミュ力の両方が揃うことで、スキルとして確立するのです。


地方自治体にはいろいろな仕事があり、老け顔が活きる職場もあれば童顔が活躍する職場もあります。
どちらにしても「強み」として活かせるので、まずは自分がどちら寄りなのかを考えてみると良いでしょう。

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