キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

タグ:組織

僕の勤務先県庁には「主任」という職位があります。
ヒラの主事と係長の中間に位置する職位です。
試験は無く、だいたい30歳前後でみんな横並びで昇進します。

一般的に「主任」といえば、ヒラ係員たちをまとめる役割だったり、係員業務の中でも比較的ヘビーな仕事を任せられたりするポジションにあたると思われますが、僕の勤務先県庁ではヒラとほぼ同じ扱いです。
「主任しか就かない席」はほとんどありませんし、主任と主事が入れ替わる(主任の後任が主事だったり、主事の後任が主任だったり)ことも日常茶飯事です。

入庁以来いわば「名ばかり」の主任たちを眺めてきて、「主任って何のためにいるんだろう?」と常々思ってきました。
そして今、僕自身が主任になり数年が経ち、ようやく主任の役割が見えてきました。

主任の役割、それは「疑う」ことだと思います。
ヒラの主事と比べて役所生活が長くて仕事に慣れている分、心にゆとりが生まれているはずです。
そのゆとりを活かして、目の前の現実に疑問を呈するのです。

「後輩」を疑う

まず真っ先に疑うべき相手は、職場の後輩です。
後輩の仕事ぶりを常に疑いの目で眺めて、腑に落ちない点があればどんどん指摘していけばいいと思います。

ただし、あくまでも「口を出す」だけです。
後輩を疑うところまでは主任にも許されていますが、後輩が間違っていると結論づけたり、後輩の言動を抑止する権限は、主任にはありません。ここまでくると上司の権能です。

後輩に対して疑義を提示して、少し足踏みさせて考えを深めさせる。
こうすることで、後輩の仕事が少なからずブラッシュアップされて組織に迷惑かけずに済むでしょうし、(迷惑に思うかもしれませんが)後後輩自身の成長にもつながるでしょう。

「上司」を疑う

上司の役割はいろいろありますが、主要な役割として「判断を下す」ことが挙げられます。
判断を下す瞬間、上司は完全なる「正しい存在」でなければいけません。

入庁当時と比べると、主任になる頃には上司との心理的距離が随分近づいて、上司の気持ちがわかるようになってきているはずです。
「正しい判断を下さねば」というプレッシャーの重さにも、少なからず勘付いていることと思います。

上司が下した判断を部下がすんなり受け入れる場合、判断が正しいか否かの責任は、全面的に上司にあります。
一方、上司の判断に対して部下がやんわりと疑問を挟み、わずかでも議論をした瞬間、部下に対しても責任が共有されます。
正しいか否かの判断過程に、部下も関わることになるからです。

このようにして部下と責任を共有できることで、気分が楽になる上司も少なくないでしょう。
上司の心理的プレッシャーを緩和するのも、ヒラ主事と比べて上司との距離が近い主任の役割だと思います。

もちろん、部下からの異論を忌避するタイプや、自分一人で判断を下すことに快感を覚えるタイプの上司もいるので、相手を見ながら必要に応じてやればいいでしょう。

「組織」を疑う

次に疑うべき相手は組織です。
常々「おかしい」「間違ってる」と感じている事柄のみならず、これまで盲目的に信用してきたことも含めて、幅広に疑ってかかればいいと思います。

重要なのは、愚痴や批判に終始するのではなく、きちんと疑問を抱くことです。
何かが「嫌だ」とか「ダメだ」とか喚くだけではなく、「なぜそうなっているのか」を徹底的に問い詰めていくのです。

主任にもなると、役所在籍年数が長くなり、過去の因縁や陰の権力者といった裏要素が見えてくるものです。
主任には、既存のルールに違和感を覚えるだけのフレッシュさと、既存のルールの一層深掘りするための基礎知識が備わっています。
これらを両立できるのは主任のうちだけでしょう。
 
奇しくも今はDXの時代です。ルールを変えることのハードルが下がっています。
「組織を疑う」ことの価値も高まっているはずです。

「住民」を疑う

正直なところ、主事と主任の間には大して能力差は無いと思います。
職位の差よりも個人差のほうが顕著でしょう。
例えば、出世コース候補の3年目主事と、主任3年目の僕を比べれば、前者のほうが圧倒的に優秀です。

ヒラ主事と主任との間で差が開くスキル、つまり役所生活が長ければ長いほど身につくスキルといえば、住民対応くらいでしょう。
より正確に言えば、攻撃的な言動を浴びせられても一定の冷静さを保てる(むしろ罵倒されればされるほど冷静に思考を回せる)技能です。

単に苦境を申し立ててくるのみならず、執拗に役所組織や職員個人を攻撃してくる住民の方々には、何らかの目的があるものです。
一方的に怒鳴ったり机を叩いたり椅子を蹴ったりしてくる住民に対して、ヒラ主事であれば、その場を収束させるだけで精一杯かもしれません。
しかし主任であるからには、住民の主張を鵜呑みにせず(もちろん話は聞きつつ)、その背後にあるカネや権力構造を探るくらいの付加価値をつけたいところです。



現状に対する不平不満を垂れ流すだけなら、ヒラ主事はもちろんのこと、非常勤職員の方々や外注先・出入りの業者さんにだって可能です。
不平不満を単に発散させるのではなく抱えたままにして、「なぜ」という方向に思考を深めてこそ、主任なのだと思います。

今年もそろそろ新規採用職員の方々から「放置されている」という怨嗟が漏れ聞こえてくる頃合いでしょうか……
 
研修が適当な理由は過去にも記事にしています。


「4月1日付で一斉に人事異動」「議会のスケジュール」「出納整理期間」といった制度的な理由のために、役所はどうしても新人教育に注力する余裕がありません。

組織的なOJTが機能しづらいからこそ、直属の上司のみならず先輩ポジションの職員が草の根的に新人をサポートする必要があると思います。
しかし、新人の怨嗟が止まないということは、こういうサポートもうまく機能していないのでしょう。

先輩によるサポートが機能していない理由は、昔と今とで異なります。
以前は「サポート役がそもそもいない」という組織構成が原因でしたが、最近は「ノウハウ不足」というより低レベルな原因に堕しています。

かつて:先輩がいない

僕が採用された頃(2013年頃)は、「先輩」と呼べる職員が周囲にほとんどいませんでした。
平成10年代後半に総務省主導で厳しく採用抑制されたせいで、ちょうど先輩にあたる世代(20代後半〜30代)の採用人数が極端に少ないからです。
僕が配属された職場だと、僕の次に若い職員が「40代前半」の係長でした。

つまるところ、新人をサポートしてやれる先輩的なポジションの職員がそもそもいなかったのです。
先輩ポジションがいる職場であっても、先輩一人当たりの新人数が多すぎて、十分なサポートができていなかったでしょう。

僕の場合、たまたま補佐級のおじさんたちがみんな面倒見が良かったおかげで色々助けてもらえましたが、同期入庁職員の多くは見事に放置プレイを食らっていたようで、当時は飲み会のたびに愚痴が飛び交っていました。

今:サポートスキルが無い

平成20年代後半からは採用数も増えてきて、今はどんな職場でもそれなりに「先輩的ポジション」のアラサー職員が在籍しています。
新人をサポートする人的体制は相当改善されたといえるでしょう。

しかし今度は「新人をサポートするスキルが不足している」という新たな問題が生じています。

今のアラサー職員は「先輩にサポートしてもらった」という経験に乏しいです。
そのため、何をどのように教えればいいのかよくわかっていません。
頼りになるのは自分の経験だけであり、サポートするにしても単なる経験談の押し売りになりがちです。

経験談ベースのサポートだと、情報が体系化されていなくて抜け漏れだらけですし、少しずつ段階を踏んで教えていくという観点が抜け落ちていたりします。
いずれにしても新人職員のためにはなりませんし、かえって余計に混乱させてしまうかもしれません。

経験談はあくまでも「一事例」であり、定石とは限りません。
それなりに経験を積んだ職員であれば役立てるかもしれませんが、判断能力に乏しい新人職員にとっては毒にもなりかねません。

何より問題なのが、今のアラサー職員には「自分は誰からもフォローされなかったがなんとかなった、だから新人のフォローはそもそも不要」というマッチョ思考な職員が少なくない点です。
つまるところ、指導するスキルも無ければ、指導する気も無いのです。 
これは典型的な生存バイアスでしょう。


今回取り上げたのは、あくまでも僕の勤務先県庁で生じている事案です。
ただ、原因の大元は「平成10年代後半に採用数を極端に絞ったこと」であり、これは全国共通の事象なので、同じような事態が全国で発生しているのではないかとも思います。

かつては先輩という立場から新人に伝授されていた「アンオフィシャルな仕事のノウハウ」みたいなものが存在したようなのですが、僕らの世代には引き継がれていません。
一旦ノウハウが途絶えてしまうと、復活させるのは本当に難しいです。
 
とはいえ、役所は日々変化していますし、新人職員の性質も変わってきています。
今と昔では、新人に教えるべき事柄も教え方も、ずいぶん違うでしょう。
新しいサポートのあり方を考えていく良い機会なのかもしれません。

地方公務員の待遇関係の主張は、役所当事者側も反行政側も、往々にして印象論に終始しがちです。
説得力のある主張をするのであれば、双方ともにしっかり事実に基づくことが必要でしょう。

僕自身「地方公務員は減っている」とか「手当が削減されている」あたり気軽に書きそうになるのですが、ちゃんと事実に基づくべく、現時点のファクトを確認しておきたいと思います。
本記事ではまず、地方公務員の人数について見ていきます。

全国総数約280万人(うち一般行政は約93万人)

まずは最新時点の地方公務員数を確認していきます。
今入手できる最新のデータは、総務省「定員管理調査」の令和4年4月1日時点版です。
 
01_R4.4.1部門構成

総務省の「定員管理調査」データによると、令和4年4月1日時点の地方公務員の人数は約280万人です。
部門別では、一般行政職員が約94万人、教育部門が約106万人、警察部門が29万人、消防部門が約16万人、公営企業等が約35万人います。
こうしてみると、教育部門の割合がかなり大きいです。一般行政部門の職員は1/3にすぎません。
 

02_団体区分別構成

団体区分別にみてみると、都道府県職員が約143万人、市町村等(一部事務組合を含む)職員が137万人います。
人数だけ見ると大差ありませんが、部門別の構成比は全然違います。
都道府県は教育部門が過半数を占めており、一般行政部門はわずか約16%にすぎません。
一方で市町村等では、一般行政部門が過半数を占めています。

地方公務員関係の統計データを見るときには、部門ごとの構成比に留意が必要です。
特に、「都道府県の一般行政部門」のことが知りたい場合、都道府県職員全体に占める一般行政部門の割合はかなり小さいので、都道府県職員全体のデータだけを見ていても「都道府県の一般行政職員」の傾向は読み取れません。


最近は増加に転じている

続いて、職員数の推移を見ていきます。
こちらの出典も総務省「定員管理調査」の令和4年4月1日時点版です。
 

03_4.1職員数推移

地方公務員の人数は、平成6年度にピークに達した後に減少に転じており、平成30年度に底を打ってからは微増しています。
特に平成17~22年度にかけては、「集中改革プラン」に基づく定員純減という国主導の地方公務員削減が行われており、減少人数も大きいです。
 
令和元年以降は増加傾向に転じており、令和元年度から令和4年度にかけて約7万人増えています。
地方公務員の人数は長らくずっと減少し続けてきたので、そのトレンドが今も続いているかのように錯覚してしまいがちですが、実際は増加に転じているのです。
もちろんピーク時と比べると大幅に減少していますが……

 
特に増えているのが臨時的任用職員で、令和元年度から令和3年度にかけて約4万7千人増えています(総務省「給与実態調査」より)。
臨時的任用職員は、原則として1年未満の期間だけ正規職員の代替として採用される職員で、年度途中に産休に入った職員の穴埋め要員あたりが典型です。

ただし、この期間の定員管理調査によると「任用の適正化による臨時的任用職員の増加」(多分「空白期間」の解消)という説明がなされていて、実際に人数が増えたかどうかは正直よくわかりません。
 
臨時的任用職員のうち、各種統計で「職員数」としてカウントされるのは、何らかの理由で12月以上継続勤務している人数だけに限られます。
任用の「空白期間」が解消されたことで、統計上の位置付けが変わっただけ(これまで職員数にカウントされていなかった人がカウントされるようになった)による影響が大きいような気がします。


ちなみに、「地方公務員が減ったのは民主党のせい」という主張をする方がいますが、先述の「集中改革プラン」を推し進めたのは小泉政権です。
民主党はそのプランを継承しただけで、「地方公務員を減らすぞ!」と決断したのは、むしろ自民党のほうです。

一般行政部門だけでも微増傾向

一般行政職員だけを抽出したのが下表です。参考に採用数も掲載しています。
(以下「定員管理調査」ではなく「給与実態調査」の数字を使っていきます。そのため冒頭の「部門別職員数」とズレが生じます。)
表(一般行政推移)


一般行政部門だけでみると、職員数は平成25年度に底打ちして、以降は微増傾向にあります。
 
一方、採用者数の推移を見てみると、平成17・18年度で激減、H19以降は増加傾向にあります。
平成20年代は団塊世代前後が定年を迎える時期で、退職者数が高止まりしていたので、採用者が増えたところで退職者も多かったため、職員数は増えなかったようです。
 
令和元年以降は、大量退職が収束しつつある一方で採用者数が高止まりしたままなので、職員数が増加に転じたのでしょう。

地域によって明暗くっきり

「都会の自治体ほど財政力に余裕があるから、職員数をカットせずに済んでいる」という説もたびたび見かけます。
この説を検証すべく、都道府県の一般行政職員の自治体別内訳を見てみます。

 表(都道府県別)
H15からH25にかけては、どの団体でも職員数が減少しています。
減少率はバラバラです。
青森・秋田・千葉・岐阜のように20%以上減少しているところもあれば、10%未満の自治体もあります。 

H25からH30にかけては一層バラツキが広がり、引き続き減少している自治体と増加に転じる自治体に分かれます。
東京都が大幅増しているのは、オリンピック開催が決まったためでしょう。
一方、大阪府・兵庫県では大幅減が続いています。これが維新の会による改革の結果なのかもしれません。
 
H30からR3にかけては、増加する自治体のほうが多数派になりますが、さらに減少を続けている自治体もあります。

全国総数で見ると先述のとおり「平成25年度に底打ちして、以降は微増傾向」なのですが、引き続き職員数削減を続けている自治体もあるようです。


「若者」と「女性」が増えている

続いて職員の年齢構成を見ていきます。

表(年齢構成)

20代職員の人数は、採用動向とほぼリンクしていると言えるでしょう。
平成10年台の採用抑制の結果、H20の20代職員数はかなり少ないです。
平成20年半ば頃から採用数が増えた結果、H30時点では1.4倍ほどに増えて、直近の令和3年度時点ではさらに増えています。

一方、40~59歳の職員はどんどん減少しています。
平成一桁代以前の大量採用時代の職員が定年を迎えて辞めていき、採用抑制時代の職員に置き換わっていくことで、自然と減少しているのだと思われます。

60歳以上の職員は爆発的に増加しています。
ほとんどが再任用職員のはずですが、年金支給開始年齢が引上げられた影響が大きいのでしょうか?


最後に男女比です。(R3のデータは見つかりませんでした)
性別1(都道府県)
性別2(市町村)
 
都道府県・市町村ともに、女性職員が増える一方で男性職員が減少しています。
これらが相まって、女性職員の割合が大きくなっています。

年代別に見ると、若い世代ほど女性職員の割合が高まっています。
結婚や出産のタイミングで離職する人が多いともいえるでしょうし、社会全体で徐々に女性の正規職就労が進んだ結果なのだろうとも思われます。
とはいえ、相変わらず男性のほうが多い職種であることには変わりありません。

個人的に気になったのが、24~27歳の若手層で女性職員割合が高まっている点です。
近年「公務員試験の受験者が減っている」「倍率が下がっている」と嘆かれているところですが、ひょっとしたら「公務員離れ」は男性に顕著な事象で、女性はそれほどではないのかもしれません。


ある一年度の年齢別・男女別職員数のデータだけを使って「30代半ばから女性職員の人数が激減している!地方公務員もマタハラで女性が辞めている!」という主張をする方が一定数いますが、これは誤解です。
今の30代以降はそもそも男女ともに採用数が少ないので減って当然ですし、今の30代中盤以降の職員が採用された時代は採用時点から女性比率が低く、この特徴が今も引き継がれているだけです。

弊ブログを以前から読んでいる方は薄々勘づいているかもしれませんが、僕の勤務先自治体には「昇進試験」なるものがありません。
そこそこの年齢になると、ほぼ全員が横並びで昇進していきます。

よく出世ネタを取り上げているわりに、昇進試験に関して一切言及していないのは、昇進試験がどんなものなのか全然わからないからです。
「昇進試験対策本」みたいな書籍も、実物は見たことがありません。
昇進試験制度を有している自治体が県内には(多分)存在しないので、需要が無いのでしょう。

実態を全然知らない身からすれば、昇進試験は良いものに映ります。
「試験の出来不出来と実務能力は関係無いから、やるだけ無駄」という意見があるのも承知していますが、昇進試験という制度が存在するだけで相当メリットがあるように思われるのです。

「昇進しない」という選択肢が生まれる

昇進試験最大のメリットは、昇進試験を受けないことで「昇進しない」という選択肢をとれる点だと思っています。

昇進したくないと思っている若手職員は少なくありません。
僕の周囲だと、20代のうちは単に「苦労したくない」「割に合わない」という甘ったれた理由が多かったのですが、30代も半ばに差し掛かってくると、自分の心身に変調をきたしたり、親御さんの介護などの家庭事情のために、労働強度を落としたくなる職員がちらほら出てきます。

昇進試験が無い場合、職員本人の意向とは関係なく、年齢や年次が一定程度に達すると自動で昇進します。
昇進しないためには、再起不能なほどに心身を壊して頻繁に休職するしかありません。
つまり、普通の健康な人生を送るのであれば、昇進は避けられないのです。

もちろん、昇進しても楽なポスト(係長級だけど業務内容はヒラ職員並み)は存在していて、運良くそこに配属されれば労働強度を落とせますが、そういうポストはごくわずかです。
さらに、これから定年延長が始まると、61歳以降の役職定年してきた職員がそういうポストにどんどん着任していくだろうと思われます。


やや皮肉ですが、昇進試験があれば「昇進しない人生」を選択できるようになります。
昇進試験が無い自治体では、そもそもこの選択肢が存在しません。
この違いはかなり大きいです。


成長の機会になる

試験には試験勉強がつきものです。
昇進試験の場合も、相当の時間とエネルギーを試験対策に注ぎ込むことになるでしょう。

過去の記事でも何度か触れていますが、地方公務員は試験勉強というインプットが比較的得意な人種です。(得意でなければ、公務員試験を突破できていないはずです)



現状、採用後の研修は配属先でのOJTが中心で、「見て学べ」「慣れて覚えろ」というスタイルです。
配属先固有の知識や技能のみならず、コミュニケーションやマネジメントのような一般的スキルも、全てOJTです。
本来ならテキストを使って「読み書き中心」でインプットする機会を設けたほうが効果的に研修できる気もするのですが、現状そのような運用をする余裕が無く、せっかくの人材的な強みを活かせていないと思われます。

昇進試験は、仕事に必要な実務的知識を、試験勉強という地方公務員の得意分野で習得させるという、効率的な職員育成手段なのではないかと思われます。

職員個人レベルで見ても、昇進試験対策でみっちり勉強することで、自身の成長を実感できるのではないかと思われます。
昇進試験を受けて主任になった職員と、僕みたいに何もせず自動的に主任になった職員では、相当の能力差がついていることでしょう。

「昇進させない」合理的理由になる

アラサーになる頃には、「こいつを昇進させたら危険なのでは……?」という職員がちらほら出てきます。
典型的なのがパワハラ上司予備軍です。20代のうちから後輩を潰しだす職員はざらにいます。

昇進試験が無い自治体だと、こういう危険分子も自動で昇進していきます。
もし昇進させないとしたら、相当の理由が必要です。
一人二人潰しただけでは、単に相性が悪かったとか、潰れた側に非があるという可能性も否定できず、昇進させない理由としては弱いでしょう。

一方、昇進試験があれば、こういう危険分子を「試験不合格」を理由にして昇進させないことが可能だと思われます。
一旦昇進を保留して、本当に昇進させても問題ないのかをもう1年かけてチェックするという時間稼ぎができるのです。
組織運営上、これは相当なメリットなのではないかと思っています。

人間関係がギスギスしそうな気も若干する

最初に触れたとおり、昇進試験制度が存在する場合、あえて昇進しないことが可能になります。
昇進試験を受けるかどうかで、仕事に対する自分のスタンスが可視化されるわけです。

しかも、昇進試験を受ける/受けないという単純明快な二分法です。
つまるところ、昇進試験を受ける職員と受けない職員の間で断絶が生じて、職場の人間関係がギスギスするのではないかと思われるのです。

国家公務員のように総合職と一般職で最初から住み分けされているわけではなく、最初は対等の立場だったのに昇進試験時期を境に分断されると、余計に人間関係で揉めそうです。

昇進試験のメリットを3つ、デメリットを1つ挙げてみましたが、いずれも完全に推測です。
「他にもメリットありますよ」「実際そんなにうまくいきませんよ」みたいな実体験コメント、お待ちしています。

地方公務員界隈では、国家本省への出向は出世コースだと認識されています。

僕は個人的に、出世コースそのものというよりは、出世コース候補者たちをさらに選別する二次選抜過程の一部だと思っています。
本省出向を無事乗り切っても、出世コースに乗らない人が一定数存在するからです。


 
本省へ出向する(させられる)職員は、出向前時点では間違いなく評価が高かったはず。
そのはずなのに、実際に出世コースに突入する職員は、本省出向経験者ばかりではありません。
僕の勤務先県庁の場合、むしろ出向せずに庁内で頑張っていた職員のほうが多いくらいです。

つまるところ、本省出向の前後で評価順位の逆転現象が生じている……より直接的に言ってしまうと、本省出向したせいで相対的に評価が下がってしまう職員がいるわけです。

僕の同期職員や、年次の近い先輩後輩の事例を思い返しつつ、本省出向したのに出世コースに乗らない職員の特徴を考えていきます。

「割り揉め」の鬼

まず挙げられるのが、組織内の縦割りにこだわり、些細なことでも割り揉めする職員です。
どんな些細な仕事であっても「なぜ当課/自分が応じなければいけないのか」という理由や根拠にこだわります。
しかも往々にして、相手から理由や根拠を示されても徹底的に抗弁して、仕事を引き受けたがりません。

議会答弁とかマスコミ対応みたいな対外的業務で割り揉めするのは、むしろ正確に業務遂行するために必要なプロセスなのですが、
  • 所管している法令の解釈について教えてほしい
  • 過去の資料を見せてほしい
  • 備品を貸してほしい
  • 外部から問合せが来ているので対応してほしい
この程度の単発かつ単純な依頼であっても、法令や覚書のような根拠文書を要求してきたり、必要性について資料を作ってレクしに来いと指示してきたりします。

もちろん、割り揉めが必要な場面もあります。
責任の所在を明確化するのは勿論大切ですし、むやみやたらに他部署を巻き込んで仕事を増やす迷惑職員がいるのも事実です。
「なぜその仕事を引き受けなければいけないのか」という入口部分を徹底的に詰めることで、こういうトラブルを未然防止したい……という意図なのかもしれません。

しかし、ごく些細な仕事でもいちいち割り揉めされると、業務効率が激落ちします。
本人としては最適解なのかもしれませんが、組織の全体最適という意味では悪手としか思えません。

圧倒的に出世する職員に求められるのは、自分に危害が及ばないよう徹底的に割り揉めして守りを固める姿勢ではなく、むしろ快く引き受ける度量の広さ、姉御肌や兄貴分気質のほうだと思われます。


後輩・同僚に対して塩対応

本省出向から戻ってくると、若くても20代後半。
同じ係内に後輩がいることも多いです。

本省出向経験者の中には、後輩の面倒見が悪いというか、意図的に後輩を突き放す職員がいます。
後輩から相談されない限り一切助言しなかったり、助けを請われてもそっけなかったり……
こういう職員は大概、同僚に対しても非協力的です。

あまりの塩対応を見かねて、他の職員がフォローに入ることも多いです。
僕自身、本省出向経験者と後輩との間に入り、緩衝材と化していた時期が何度かありました。
(自慢ではありませんが、僕がいなかったら退職してただろうな……と思われる後輩すらいます) 

本人に「もうちょい干渉したほうがいいんじゃないの?」と促したことも何度かあります。
すると、「これくらい自力で出来て当然」と言い切る職員もいれば、「苦労させることが本人のためになる」と自慢げに語る職員もいました。

本省では「自力解決」が鉄則であり、出向者であれ他者の助力は得られないと聞きます。
そのような環境を乗り切った、つまり何事も自力でやり切ったという経験を、出向の成果・成長の証明と認識しているのかもしれません。
そして、本省のような「自力解決」を後輩に強いることで、自分と同じように成長させたいのかもしれません。

しかし、本省出向させてもらえる(させられる)職員は他の職員よりも優秀であり、誰もが彼や彼女のようにタフではありません。
ご自分では「当たり前」と思っていることが、他の職員にとっては「大変なこと」かもしれません。
この事実に気づかない、あるいは意図的に無視して自分が楽しようとする姿勢は、他の職員を傷つけます。

職員は能力的にも性格的にも様々であり、塩対応で十分な人もいれば、優しく丁寧に接しなければいけない人もいます。
このような多様性を気にかけず、自分に都合の良いコミュニケーションしか取ろうとしない職員は、いくら自身が優秀であったとしても、組織運営上は害悪になりかねません。


キレ芸を使う

地方公務員であれば誰しも、怒りの感情をぶつけてくる相手と対峙したことがあるでしょう。
こういう相手には、本気で怒っている人もいれば、怒っているふりをしているだけの人もいます。
怒声や攻撃的言動をちらつかせることでプレッシャーをかけ、自分に有利なように交渉を進めようという魂胆です。

本省出向経験者の中には、こういうテクニック、つまるところ「キレ芸」を平気で使う人がちらほらいます。
他部署や後輩に対してキレる姿を見せつけて、自分の意向に従わせようとするのです。

キレ芸は、相手と対等な立場であれば交渉手段たりえますが、格下の相手に対して用いればパワハラにほかなりません。
ある程度出世した後ならまだしも、若手の時点からキレ芸に頼るようでは、「調整能力なし」とみなされて出世コース候補者から落選して当然だと思います。

本省出向のせいとは言い切れないものの……

今回挙げたような特徴は、本省出向経験者に限った話ではありません。
出向していなくても該当する職員はたくさんいます。
 
ただ実際のところ、本省出向を経てこういう性質が身についてしまう職員が少なくありません。
出向前は気の良い同僚だったのに、出向から帰ってくると別人のように面倒臭くなっている……というケースが後をたたないのです。
「〇〇課の▲▲さんってキモオタ君の同期(元同僚)だよね?あいつマジでなんなの!?」と現同僚からクレームを受けるたび、フォローしたくてもできなくて悲しくなります。


ここからは完全に推測です。
「徹底的な割り揉め」「後輩・同僚への塩対応」「キレ芸」いずれにしても、もしかしたら本省では当たり前の処世術であり、むしろ推奨されるスキルなのかもしれません。
本人としては、本省出向で習得したスキルを、職場に還元しようとしているのかもしれません。

これらのスキルは、本省のようなタフガイ集団であれば、効率的なコミュニケーション手法として有効な気もします。

しかし、本省と自治体では、職員の質が全然違います。
自治体職員は、本省職員のように皆が優秀で心身ともにタフなわけではなく、気弱な人もいれば無能な人もいます。
優秀な職員だけで組織運営できるほど人材が豊富なわけではなく、そうでない職員をうまく活用して、組織を回さなければいけません。
職員の質が違えば組織の雰囲気も異なってきますし、そうなると求められるコミュニケーションスキルも変わってきます。
 
つまるところ、本省出向で習得したコミュニケーションスキルを素直に自治体に導入しようとすると、組織の雰囲気・環境・条件の違いゆえに周囲との軋轢が避けられず、自身の評価を落としかねないのです。なんとも皮肉です。

本省出向を経て出世コースに到達するには、本省の雰囲気に感化されることなく、自治体組織運営でも使えそうな部分を「いいとこ取り」するくらいの度量が必要なのでしょう。

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