キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

タグ:組織

役所は「調整」という言葉が大好きです。
地方公務員であればどんな業務を担当していようともほぼ毎日のように口にする単語ですし、部署名にもよく使われます。
地方公務員向けの啓発でも必ず登場します。

ただ、「調整」の定義は人それぞれです。
各自がそれぞれの定義に基づいて持論を展開しています。

このブログの開設以来、僕もずっと「調整とは何か?」を考え続けてきたところなのですが、最近になってようやく考えがまとまってきたので、ここで一旦紹介します。

調整業務.001

単なる「合意形成」でも「交渉」でもない

地方公務員の調整業務とは
  1. 自陣営にとって有利な結論(落とし所)を
  2. 「客観的妥当性」と「住民感情へのケア」を確保しつつ
  3. 関係者を納得させて実現させる業務
だと思っています。

民間企業にしろ役所にしろ、組織における調整業務とは、単に合意を取り付けるだけではありません。
 
自陣営にとってお得な結果でなければ(損しか生じないケースの場合は損失が最小化される結果でなければ)、たとえ関係者との同意が達成できたとしても、意味がありません。
取りうる選択肢の中でも最善のものを選び取ろうとする、わずかでも自陣営に有利な結論へと誘導しようとする意地汚さが、調整業務においては非常に重要です。

*****

ただし役所の場合は、成果がどんなものであれ、その根拠が「正しい」ものでなければいけません。

「関係者が全員納得しているから問題ないのでは?」という理屈は、役所の場合は認められません。
民主主義の仕組み上、直接的な関係者のみならず、世間一般を納得させなければいけないのです。

「世間一般の納得」というものがまた面倒で、単に論理的・倫理的に正しく、良い結果がもたらされるだけでは足りません。
さらに「感情的な納得」という要素が必須です。

このため、地方公務員の調整能力には、「客観的妥当性の確保」と「住民感情のケア」が欠かせません。
民間企業の調整業務とは一風異なる、役所ならではの要素と言えるでしょう。

*****

もちろん、調整を成功させるためには、関係者の同意が絶対に必要です。
同意を取り付けるための交渉こそ調整業務の本番であり勘所であるのは、役所でも民間企業でも変わらないでしょう。
ただし役所の場合は、本番に先立つ準備のほうも、相当に重要なのです。

調整業務の3段階

調整業務の大まかな流れは前述のとおりであり、3つの段階に分かれます。

自陣営にとって有利な「落とし所」を探る

まずは「落とし所」、つまり「実現可能な選択肢のうち最善のもの」を設定するところから始めます。
 
この過程を通して、
  • 今回の調整において絶対に譲れないポイント
  • 優先すべき要素
  • 時間や費用、ルールなど制約
などの「条件」を整理していきます。

もちろん「落とし所」は、以降の調整プロセスの中でどんどん変わっていきます。
とはいえ最初に条件を整理して「最善手」が何なのかを把握しておかないと、調整過程全体の方向性が定まりません。

「客観的妥当性」と「住民感情へのケア」を満たす説明(根拠)を作る

「落とし所」の案が固まったら、次はこれを正当化するための説明(根拠)を作ります。
 
役所には「二枚舌」は許されません。
直接の交渉相手である関係者にも、無関係な世間一般に対しても、同一の説明を以って納得させなければいけません。
 
このような説明を準備するのは非常に大変で、考慮すべき要素がたくさんあるのですが、少なくともまずは論理的・倫理的に正しくなければいけません。
まず「正しい」ロジックを作ってから、案件ごとの個別性をふまえ、チューニングを加えていくことになるでしょう。

「正しい」説明ができたら、「感情面での適切さ」との両立を模索していきます。
いくら「正しい」説明であっても、感情的に許容できないサイコパスじみたものであれば、理解は得られません。

「論理的・倫理的な正しさ」と「感情面での適切さ」は、たいてい相反します。
バランスをうまく調節しなければいけません。

関係者と交渉して納得させる

調整≒交渉という理解をしている方も多いと思いますが、役所の調整業務に限っていえば、僕はむしろ交渉に臨むまでの準備段階(「落とし所」と「説明作り」)のほうが重要だし大変だと思っています。

とはいえ、関係者が納得してくれなければ調整は成立しないわけで、交渉段階が本番であることに変わりはありません。
 

あくまでも準備した「落とし所」と「説明」を極力そのまま相手に納得してもらうのが、交渉の最大の目的です。

交渉段階で頑張りすぎる(相手を納得させるためにアドリブ的に喋りすぎる等)と、事前に準備した説明内容から外れてしまい、後々に関係者から「説明が違う」「相手によって顔色を変えた、二枚舌だ」という攻撃を受けかねません。
このような批判は、民間企業であれば知らん顔できるのかもしれませんが、役所の場合は致命傷です。何としても避けなければいけません。
 


調整業務に必要な能力(調整能力)

上記の過程を達成するために必要な能力が、俗にいう「調整能力」です。
これを構成する要素として、「知識」「公務員的センス」「洞察力」「プレゼンスキル」があると僕は考えています。

調整案件に関する知識

知識は主に「落とし所を探る」段階で必要です。
 
調整案件に関する知識、例えば
  • これまでの経緯・背景
  • 他自治体の成功・失敗事例
  • 関係法規制などのルール
といった知識がなければ、そもそも「ベストな落とし所」を設定できませんし、「制約条件」を見落とす危険もあります。

公務員的なセンス

落とし所を探る際には、「自陣営にとって何が有利なのか?」という基準が必要です。
これには現時点での損得のみならず将来的な影響も考慮する必要があり、知識だけでは太刀打ちできません。

同様に、説明づくり段階には、「世間一般に通用する妥当性はどんなものか?」「世間一般が感情的に許容できるのはどこまでか?」という基準が必要です。
これも「世間一般」なる抽象的な存在を想定して考えなければならず、ロジカルシンキングが単に得意なだけでは上手くいかないと思います。

これらの能力は、地方公務員として働くうちに培われていくものだと思います。
「公務員的センス」というなんとも抽象的な名称を使わざるを得ず非常に心苦しいのですが、今のところこれ以上にしっくりくる言葉が思い浮かびません。

洞察力・プレゼンスキル

最後の二つは、まとめて「コミュニケーション能力」と称してもいいかもしれません。
 
いずれも主に最後の交渉段階で必要になるものですが、「洞察力」のほうは最初の「落とし所設定」でも重要です。
関係者の意向を最序盤に察することができれば、適切な制約条件を設定でき、より精度の高い「落とし所」が出来上がるでしょう。

プレゼンスキルは、わかりやすくて好感の持てる話し方や身振り手振り、相手の反応を伺いつつ話のペースを工夫する……といった一般的なものです。

奥深い「調整能力」

役所には「トークが上手いわけではないのに調整業務が得意」という方がたまにいます。
特に超有名大学出身の方に多いです。

こういう方は、きっと交渉の準備段階が完璧、つまり「落とし所」と「説明」が完璧なので、話術加算が無くとも関係者を納得させられるのだろうと思います。

「調整能力=交渉能力」という図式は、地方公務員界隈においては表面的すぎます。
地方公務員の調整能力はもっと複合的なもので、一朝一夕で身につくものでもなく、非公務員が即座に真似できるものでもないと思います。


就職活動中は「『やりたい仕事』は何なのか?」という自問自答を繰り返し、志望動機という成果品へと練り上げていきます。
一方、「やりたい仕事」を考える過程で、「やりたくない仕事」も明確になってくるでしょう。

地方公務員の場合、他の職業と比べて、配属される可能性のある業務の範囲がものすごく広いです。
そのため、「地方公務員になって〇〇の仕事をしたいけど、△△はやりたくない」というように、同じ公務員稼業の中でも好き嫌いが分かれると思います。

地方公務員の配属は運次第です。 
よくソーシャルゲームのガチャに例えられて「配属ガチャ」と呼ばれているとおりです。
ただ課金はできません。リセマラもできません。一発限りの運勝負です。
そのため、「やりたい」「やりたくない」どちらにしても、叶うとは限りません。

とはいえ、可能性を高めることは可能です。

「やりたい仕事」を担当する職員の割合が大きい自治体に就職すれば、自分が配属される可能性も高まります。
反対に、「やりたくない仕事」を担当する職員の割合が小さい自治体に就職すれば、自分が配属される可能性も下がります。


そこで、総務省が毎年実施している「定員管理調査」の数値をベースに、都道府県・市町村それぞれについて、地方上級試験の一般行政区分(いわゆる事務職)で採用された職員の部署ごとに割合を試算してみました。

この時期だと、都道府県と市区町村のどちらを優先するか迷っている方もまだいると思います。少しでも参考になれば(そして都道府県を第一志望に据えてもらえれば)至福の限りです。


部局別構成比の違い

画像用


都道府県>市町村の部局は赤色、都道府県<市町村の部局は青色で着色しています。
基本的には左側の「全体構成比」を見てください。右側の「一般行政構成比」は参考値です。

表の下にある注記でも触れましたが、この数字には技術職(土木、農林、保健師など)や現業職の方は入っていません。
あくまでも事務職だけです。

事務職が配属されなさそうな部署・ごく少数しか配属されないであろう部署(保育園とか)は、控除しました。

説明量が膨大になるので、具体的な算出方法は省略します。
結構頑張ったのでエクセルファイルをそのままアップしたいくらいなのですが、ブログシステム上無理っぽいです……

あくまでも全自治体の合計値をもとに算出した割合なので、職員数の多い大都市部の影響が色濃く出ているかもしれません。

部局別コメント


議会


いわゆる「議会事務局」の人数です。ほぼ同じ割合です。


総務・企画

市町村のほうが割合が大きいです。
住民票や戸籍管理を担当する「住民」部局の人数差が影響しています。
都道府県の「住民」部局って何なんでしょう?パスポート関係くらいしか思いつきません……

「広報広聴」が個人的に意外でした。
あくまで推測ですが、自治体の規模と広報広聴部局の人数は関係ない、つまり大きな自治体も小さな自治体も同じような人数で広報業務を回しているような気がします。

ちなみに、財政・人事・企画という出世コース御三家は、この区分に含まれます。
(財政と人事は「総務一般」、企画は「企画開発」) 


税務

都道府県のほうがやや大きいです。
出先機関(県税事務所など)の数が、都道府県のほうが多いためだと思われます。
本庁の人数だけに絞ると市町村のほうが大きくなりそうです。


民生(≒厚生労働省系の部局

市町村のほうがかなり大きいです。
国保や介護保険のような市町村特有の事業があるうえ、「民生一般」も大きくなっています。
よく話題に上る「生活保護のケースワーカー」も「民生一般」に含まれます。


衛生(≒環境省系の部署)

さほど差はありませんが、都道府県のほうが大きいです。
理由はよくわかりません。法定事務量の違い(特に許認可業務は都道府県のほうが多いはず)でしょうか?


労働

若年者の定着やUIJターン促進のような業務を担当する部署です。
労働局と一緒に仕事することが多いせいなのか、都道府県のほうが大きいです。
とはいえ全体から見ればかなり少数派です。


農林水産

都道府県のほうが大きいです。
ちなみに農林技師の人数を加算すると、都道府県と市町村の差がもっと開きます。


商工

観光はやや市町村のほうが大きく、観光以外は都道府県のほうが大きいです。
経済産業省系の法定事務を都道府県で担っているためだと思われます。


土木

都道府県のほうが大きいです。
特に用地買収は都道府県がトリプルスコアをつけています。


公営企業会計

市町村のほうが大きいです。
「公営企業会計って何?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、ざっくり「出先機関の一部で、なかなかまったりしているところ」だと思ってください。


教育

都道府県のほうが大きいです。
高校事務職員の影響が大きいです。


都道府県と市町村、どちらがいい? 

「何でも屋」が嫌なら市町村

全体構成比で見ると、市町村は上位2部局の「総務・企画」と「民生」だけで50%を超えます。
全職員の過半数がこの2部局に勤務しているわけです。

一方、都道府県は、上位2部局を足しても約42%で、5%〜10%の層にたくさんの部局が並んでいます。
市町村と比べると、都道府県のほうが職員のばらつきが大きいと言えるでしょう。

つまり、都道府県の場合はいろんな部署を転々とする可能性が高いのに対し、市町村の場合は「総務・企画」「民生」部局で過ごす期間が相対的に長くなると推測できます。

「地方公務員は数年おきに部署が変わるから専門性が身につかない!」と危惧するのであれば、市町村のほうが向いているかもしれません。

少なくとも「総務・企画」「民生」部局に関しては、都道府県職員よりも専門性が身につきやすいはずです。

具体的には戸籍関係、生活保護、国民健康保険、介護保険あたり。
将来的に公務員を辞めて士業で独立開業したり、金融関係の仕事に就きたいのであれば、このあたりの専門性が有利に働く気がします。
少なくとも、公務員でないと身につかないという意味で希少性があるでしょう。


民生関係の仕事をやりたいなら市町村、嫌なら都道府県

都道府県と市町村の差が大きく、かつ構成比も大きいのが「民生」部局です。
この分野の仕事に関心があるのなら市町村一択ですし、反対に避けたいのであれば都道府県を選んだほうが無難でしょう。


「防災」はあくまで専任職員の数

「防災」の構成比を見ると、僅差ではありますが都道府県のほうが若干大きくなっています。
この数字を見て、「防災関係は嫌だから市町村にしよう」と考えてはいけません。

この数字はあくまでも専任職員の数を集計したもので、災害発生時には部局にかからわず全職員が対応にあたります。
市町村は避難所運営のような対住民業務が多く、都道府県よりも負担が重いと思われます。

公務員である限り、防災関係業務からは逃れられません。
防災関係業務を避けたいのであれば、そもそも公務員は辞めておいたほうが無難です。


商工・観光は狭き門、民間就職も視野に入れては?

公務員志望者から人気のある商工関係部局ですが、都道府県であれば5%、市町村であれば4%しか配属されない競争率の高い部署であることをぜひ認識しておいてもらいたいです。
観光に至っては2%未満です。

商工・観光関係の仕事に就きたくて、かつ具体的にやりたいことが決まっているのであれば、公務員よりも民間に就職したほうがいいかもしれません。
「いつまで経ってもやりたい仕事に配属されない」という地方公務員人生の宿命的リスクに、わざわざ身を晒すことはありません。

地域経済全体の活性化なら金融機関・コンサル、個々の企業支援なら商工会・商工会議所、観光関連ならイベント会社……など、役所と似たような仕事をしている組織が民間にもたくさんあります。
役所でしか携われない仕事といえば、企業誘致くらいでは?


「どのガチャを引くか」を選ぶ

ソシャゲを実際に嗜んでいる方ならよくご存知でしょうが、一つのゲームの中にもいくつかのガチャがあります。
レアキャラが出やすかったり、特定のキャラクターがピックアップされていたり、普段より割安だったり…等々。
どのガチャを引くか、ユーザー達は条件を見ながら選択します。


地方公務員への就職、特に「都道府県か市町村か」の選択は、「どのガチャを引くか」の選択に近いものがあると思っています。
本記事で紹介したように、都道府県と市町村では、配属先の確率分布が異なります。
配属先そのものは運ゲーですが、運ゲーの前提にある確率分布は、志望者が選択できるのです。


ソシャゲ風に言うと、
  • 都道府県は通常ガチャ(ピックアップなし)
  • 市町村は「総務(特に住民)・企画」「民生」ピックアップガチャ
と表現できるでしょう。

ソシャゲと比較していただければ、配属ガチャのクソゲーっぷりもよくわかってもらえると思います。
人気SSRである「観光」を引くためには、一発勝負のガチャで1.3%(都道府県の場合)を引き当てなければいけないわけです。

ポケモン黄のトキワのもりでピジョンが出現する確率が確か1%だったはず。
都道府県職員として観光部局に配属される確率は、ピジョンの出現率と大差無いのです。
(アラサーしかわからない肌感覚かもしれませんが……)

広報に至っては0.6%です。まともにやってられません。

この記事を書いていて、改めて配属に真剣になったほうの負けだと痛感しました。 
どこに配属されようともそれなりに楽しくやる「楽観的達観」が役所人生には欠かせないでしょう。

自分が出世コース入りしているのかどうか、30歳を過ぎる頃になれば自然と分かってきます。
同期職員の間でも業務内容の差が広がり、忙しい職員と暇な職員にはっきり分かれるからです。

過去にも紹介したとおり、出世コースに入るか否かは20代のうちに確定すると僕は考えています。


役所の出世コースは明確で、「誰が出世コースに乗っているのか」は人事録を数年分見ればおおよそわかります。

出世競争最大の謎
であり役所人事の神秘は、その前段階である出世コース入りを賭けた2次選抜過程です。
誰が参戦しているのか傍目にはわかりませんし、戦っている当人すら自覚が無いかもしれません。

今回はこの「2次選抜」の真相に迫ってみます。
7割方妄想なので脱力して読んでください。

2次選抜過程=調整能力と激務耐性を試す

出世コースに乗るためには、少なくとも「事務処理能力」「調整能力」「激務耐性」の3つが欠かせません。
ここでいう「激務耐性」とは、忙しい時期でも仕事のパフォーマンスが落ちないという意味です。

このうち「事務処理能力」は、担当業務がどんなものであれ測定可能な指標です。
役所の仕事において、事務処理能力が求められないものはありません。

そのため、採用直後からの数年間にわたる1次選抜の過程では、主に「事務処理能力」を測定していると思われます。
「事務処理能力」が高いと評価された職員が、2次選抜に進みます。

2次選抜では、残る2要素である「調整能力」と「激務耐性」が主に測られます。
つまり、「調整能力」と「激務耐性」が試されるポストに配置されれば、自分が2次選抜にかけられていると判断できます。

20代後半の段階で、延々と事務作業が続くポストやほぼ定時で帰れるようなポストに配置されたとしたら、残念(幸運?)ながら2次選抜には進めなかったのだと思われます。

具体的な2次選抜ポストは自治体ごとにバラバラであり、人事録を読み込んで分析するしかありません。
しかし役所は役所であり、若手に任せても問題なくて「調整能力」と「激務耐性」をテストできるポスト、つまり2次選抜向けのポストは、ある程度は似通ってくると思います。

2次選抜ポストの典型例

予算担当

課の予算担当ポストや、部局の予算調整ポストは、言わずもがな庁内調整業務の要であり、来年度当初予算の編成時期(11月~2月)には激務を強いられます。

しかも部や課ごとに最低一人は配置されるポストであり、庁内全体で見れば相当な人数が存在します。
つまり、仕事の出来を比較でき、能力評価しやすいです。
「調整能力」「激務耐性」を測定するのにうってつけのポストと言えるでしょう。


前任者がもっと上位の職員だったポスト

これまで30代半ばの職員が担当していた業務の後任者として起用された場合も、2次選抜入りしている可能性が高いと思われます。

役所では基本的に、職位が上の職員ほど難しい仕事を割り当てられます。
歴代ずっと30代の職員が担当している業務は、若手職員では務まらない理由があるのです。
(例外もたくさんありますが……)

逆にいえば、これまで30代職員が担当してきた業務を難なくこなせる若手職員がいたとすれば、その若手職員は間違いなく優秀といえるでしょう。

ベテラン担当ポストにあえて若手を配置することで、その若手職員を試すのです。

部局長との接触機会が多いポスト

そもそも出世コース入りの可否を見極めているのは一体誰なのでしょうか?
職員の人事はもちろん人事課が決めているわけですが、いくら人事課といえども「調整能力」「激務耐性」のような抽象的な能力まで測定・把握できるとは思えません。

僕の見立てでは、出世コース入りの鍵を握っているのは部局長です。
部局長はいわば出世コースの大先輩であり、出世する職員に求められる資質を自らの経験をもって熟知しています。
人事課としても、部局長たちの意見を大いに参考しているのではないでしょうか?

とはいえ部局長ともなると普段は個室で仕事しており、若手職員を観察する機会がなかなかありません。
そのため、特に注目されている職員は部局長の目に入るポストに配置され、日々評価されているのだと思います。
 
具体的にはこのあたりが典型でしょう。
  • 各課・各部局の予算担当(予算や議会のヒアリングで確実に接触する)
  • 各部局の総括担当課(部局長の秘書的な業務がある)
  • 部局長へのヒアリングを頻繁に行う事業の担当(ヒアリングが多い=目玉事業でもあり、激務かつ調整も多い)


本省出向はあくまで2次選抜の序章

国家本省への出向も2次選抜プロセスの一部だと思っています。
1次選抜で「事務処理能力あり」と認められた職員でなければ、出向しないでしょう。
 
ただし、本省出向そのものが2次選抜の結果を左右するとは思いません。
本省への出向中は、だれもその仕事ぶりを直接観察できず、「調整能力」も「激務耐性」も測定できないからです。

本省出向の目的は、1次選抜で「特に見込みあり」と認定された本命職員をさらに成長させることなのではと思っています。

2次選抜の本番は出向から帰ってきた後であり、本省出向を経験したから出世ルート当確とは限りません。
本省出向者はあくまでも1次選抜の成績が良かっただけで、2次選抜で巻き返される可能性は十分ありえます。

真相がわからないなら勝手に解釈してもいい

自分がどう評価されているかなんて、正直よくわかりません。
正解がわからないのであれば、自分に都合よく解釈してしまえばいいと思います。

仕事で成果を出したいのであれば、「自分は出世候補者だ、組織から見込まれているんだ」と勝手に思い込むのも大いにアリだと思います。
自然とやる気が溢れてきて、仕事が楽しくなるかもしれません。



去年いろいろあってペンディングになっていた公務員の定年延長関係の法案が、今の国会で再度提出されています。
地方公務員に関しては、「地方公務員法の一部を改正する法律案」の中で、国家公務員に準じて定年が延長される形になるようです。

定年が何歳になろうが、僕には直接関係ありません。
僕が定年退職するのはずっと先であり、今後もっと大きな改革がなされていくでしょう。
不利な方向に……

ただ、「61歳以上の職員が増える」という事象からは、ものすごく影響を受けると思っています。
マイナスの影響です。当たりのポストが奪われてしまいます。

単なる「後ろ倒し」ではない

まず定年延長の具体的な中身に触れておきます。
総務省ホームページに昨年度の資料が掲載されていて、これを見ればだいたい中身がわかります。
報道されている限りでは、施行日が一年遅れて「令和5年4月1日」になる以外は、ほとんど中身は変わっていないようです。
 
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役職定年制(管理監督職勤務上限年俸制)の導入

定年が61歳以上に延長されても、管理職手当がもらえるレベルの職位に就いていられるのは60歳までで、61歳以降は非管理職のポジションでないと原則働けないようです。

役所みたいなガチガチ年功序列な組織で単純に定年が延長されるだけだと、出世のペースがそのまま後ろ倒しになりかねません。
このような状況を未然に防止し、組織の新陳代謝を確保し「上が詰まる」状況を避けるための規定なのでしょう。

定年前再任用短時間勤務制の導入

61歳以降も役所で働きたいけど、フルタイム勤務は体力的に厳しい……という職員は、希望すれば65歳までは短時間勤務のポジションに就けるようです。

フルタイムではなくとも、年金支給開始まではちゃんと雇用を確保するという意味合いなのでしょう。

情報提供・意思確認制度の新設

事前にちゃんと情報提供しますよ、という規定です。
具体的な話をどこまでするのか(担当業務や待遇まで示すのか)気になるところです。

給与に関する措置

給料月額(俗にいう基本給)は、60歳までの額の7割まで落ちるようです。つまり3割減少します。
 60歳時点の給与月額がどんなものなのかは知りませんが、3割減は相当痛いと思います。

ちなみに僕の場合、今の給料月額が約25万円なので、3割減ったら17.5万円になります。
初任給と同じくらいの水準です。8年分の昇級が吹き飛ぶわけですね……

定年延長後の世界(想像)

現状でも「再任用」という仕組みがあり、定年退職した職員は「再任用職員」として65歳まで働けます。
定年退職した職員全員が再任用で働き続けるわけではなく、結構な割合がすっぱり役所と縁を切っています。

そのため、定年が65歳まで延長されたとしても、全員が定年まで勤め上げるとは思えません。
60歳段階でそれなりの割合が退職し、役所に残った職員も途中で辞めていき、65歳まで残る人数はあまり多くないでしょう。

つまり、現状の「再任用職員」が「61歳以上の正規職員」に置き換わり、今よりも人数が若干増える程度で、役所組織が激変するまでは至らないと思っています。

閑職ポストが奪われ、若手は全員激務に回される……?

しかし、僕みたいな楽したいタイプにとっては、「61歳以上の正規職員」は脅威でしかありません。
彼ら彼女らは競合相手であり、わずかでも増えられたら困ります。

「61歳以上の正規職員」が就くポストは限られます。

残業上等の激務ポストや、主要施策担当、内部調整役のような重要ポジションには、まず充てがわれないでしょう。
体力的な懸念がありますし、若手職員の成長機会を奪ってしまいます。

となると、「61歳以上の正規職員」の職員が担当するのは、それほど忙しくないルーチンワーク中心の業務になると思われます。(現状の再任用職員も、たいていこのような仕事をしています。)

僕みたいな楽したいタイプは、こういうポスト(業務)を常に狙っています。 
しかし、「61歳以上の正規職員」が増えるほど、このポストを彼ら彼女らに当てなければいけなくなり、若手〜中堅職員の取り分は減って行きます。
美味しい(=暇な)ポストが「61歳以上の正規職員」に奪われて、はずれ(=忙しくてきつい)ポストを引くリスクが高まるわけです。まさに脅威というほかありません。 

さらに、こういうポストは、新規採用職員を置いたり、産休や病休明けの職員に「ならし運転」してもらったり……などなど、調整弁としても利用されています。
 
しかし、こうしたポストを「61歳以上の正規職員」に割り振ってしまうと、従来のように調整弁として使えなくなります。
 
つまり、「バリバリ働かせられない若手〜中堅」向けのポストを「61歳以上の職員」に明け渡してしまうことで、これまで配慮されていた方がいきなり実戦投入されてしまいかねなくなるのです。




僕の勤務自治体だけなのかもしれませんが、本庁課長以上に出世した職員は再任用を選択しません。
俗にいう「天下り」していくのか、別の働き口を見つけているのか、疲れ果てて完全リタイアしているのか……とにかく役所からは離れていきます。

そのため、「元上司が再任用職員になり部下として配属された」という複雑な関係が生じません。
再任用職員になる方は、たいてい部下を持つポジションを経験せずに定年まで勤め上げます。


定年が伸びて、「管理職経験者」も役所内に残るようになったら、「元上司が部下」みたいなややこしい関係が増えて、職場の雰囲気が変わるかもしれません。
人間的にも役所思考に染まった方が増えて、もっと堅苦しくなるのかも…… 

他のブログやSNSでは「再任用職員が仕事してない」みたいな愚痴も見かけますが、僕はそういう経験が一切無く、むしろ再任用の方に大変お世話になってきました。

このブログの中身も、再任用の方から聞いた話がかなり盛り込まれています。
特に苦情対応関係はほぼ受け売りみたいな状態です。




新規採用者数は減るのでは?

新規採用にも少なからず影響があるのではないかと思っています。
法案によると「2年に1歳ずつ」段階的に定年を伸ばしていくようですが、この延長期間中(10年間)は、2年に1回、定年退職者が発生しない年度があります。

この年度も通常通りに新規採用していたら、一時的に総職員数が増えてしまいます。
辞めないのに採用するからです。

公務員への風当たりが強い昨今、「公務員総数が増える」という事態を、世間が許すでしょうか?

「公務員が増えるのはけしからん!」という住民の怒声を予想して、あらかじめ採用数を減らすのが、自然な対応のような気がしてなりません。

定年延長に関して、公務員試験界隈の方が沈黙しているのが不思議でなりません。
「定年延長で採用減!公務員になるなら今しかない!」みたいな触れ込みで不安を煽って教材買わせたりスクール通わせたりできそうなのに……


県庁における圧倒的出世コースといえば、財政課(予算編成担当)と人事課(人事異動担当)です。
異論を挟む余地がありません。いずれかに乗ってしまえば、部局長クラスが見えてきます。

問題(そして格好の話題)は、出世コース候補者がしのぎを削る選抜ポストと、惜しくも圧倒的出世コースから漏れてしまった職員がしのぎを削るそこそこ出世コースです。
こちらは自治体ごとに大きく異なるのでしょう。インターネット上の情報でも、書き手によって答えが異なります。

中でも評価が割れているのが「市町村課」です。
財政・人事に次いで出世に近いとの高評価を下す人もいれば、そもそも触れもしない人もいます。

僕は「選抜ポスト」「圧倒的出世コース」いずれでもないと考えています。

本稿を読む前に、この記事を読んだほうがわかりやすいかもしれません。


業務面:小難しい

市町村課の主な仕事は、総務省・財務省・内閣府と市町村の中継ぎです。
都道府県のホームページでは、市町村課の業務として「市町村行財政の指導」みたいなことが書かれていますが、都道府県が何らかの意図を持って指導するわけではありません。
あくまでも国家本省から通知された内容に従います。いわば現場監督です。

このほか、市町村そのものの存在に関わる手続き(自治体間の境界変更など)、一部事務組合のような広域行政に関する業務も、市町村課の役割です。
選挙管理委員会を兼ねている自治体も多いようです。

これらがコア業務であり、自治体によっては、ふるさと納税や移住促進あたりも所管しています。

あくまでも国家本省と市町村の中継役なのであって、県庁内各課と市町村の中継役ではないところが重要です。

市町村課という名前だけ見ると、県庁の事業課と市町村の橋渡し役を務めるかのように思えるかもしれませんが、市町村課は他課の業務には関与しません。 
ある意味、市町村課は、庁内では浮いた存在です。他課との関わりがほぼありません。

基礎能力の高い職員しか配置できない

市町村課の職員には、国が作った膨大なルールやマニュアルを解読して咀嚼する「理解力」、市町村からの質疑に応じる「記憶力」「解説力」が必要です。
いずれも公務員であれば必須の能力ではありますが、市町村課の場合は取り扱う分量が非常に多く、しかも小難しいものばかりなために、高い水準が求められます。

しかも、普段やりとりするのは、市町村の人事課や財政課という、市町村職員の中でも選りすぐりのエリートばかりです。
パッとしない職員は舐められて丸め込まれてしまい、指導監督役が務まりません。

こういった事情ため、もともと実績があって高く評価されている職員でないと、市町村課には配置しづらいのではないかと思います。

職員配置面:県庁職員以外がたくさんいる

市町村課には、たいてい市町村からの派遣職員がいます。
どういう基準で派遣職員を選んでいるのかは不明ですが、僕の勤務する県庁の市町村課には期待のホープが送られてくると言われています。

総務省からも、たびたび若手職員が派遣されてきます。
こちらも詳細は不明です。総合職だけなのか、一般職でも来られるのか……

市町村や国と人事交流している部署は他にもあります。
ただし、派遣職員の人数では、市町村課が圧倒的最多です。

コミュ力の高い職員しか配置できない

派遣職員のいる部署では、彼ら彼女らのマネジメント業務(業務配分、進捗管理、指導など)も、県庁生え抜き職員の仕事です。
しかも市町村課は派遣職員が多いため、年齢にかかわらず、ほぼ全員がマネジメント業務に携わることになるでしょう。

そのため、しっかりコミュニケーションが取れる職員でないと、市町村課の仕事は勤まりません。
自分の仕事だけに没頭するのではなく、常に周囲の職員の様子を見て、的確にサポートできるタイプでないといけません。

派遣職員が多いということは、生え抜き県庁職員の割合が少ないということでもあります。
そのため、首長発の政治的案件のような派遣職員には任せられない突発的業務が発生したら、わずかな生え抜き職員で対応せざるを得ません。

つまるところ、職員配置面から考えても、それなりに評価の高い職員しか配置できないと思われます。

出世コースとは本質的に異なる

まとめると、市町村課には以下のような特徴があると思われます。
  • 業務内容・人員体制の特徴的に、それなりに高評価の職員でないと配置できない
  • 役所運営の根幹である行財税政と選挙の知識が身につく
  • 年齢に関係なくマネジメント業務を経験できる
これだけ見ると、有能な職員が配置され成長の機会も与えられている環境、つまり出世コースのように見えます。

しかし、正真正銘の出世コースである財政課や人事課と比べると、根本的な違いがあります。
市町村課では、出世に不可欠である「庁内調整能力」が身につきません。

市町村課の役割は、あくまでも国(総務省・内閣府)と市町村の仲介役であり、市町村課が何らかの意思決定を下すことは滅多にありません。
部局長や首長の判断を仰がなければいけない大仕事も比較的少ないでしょう。

加えて、市町村課の業務が庁内他課に影響を及ぼすことも少なく、ほとんどの業務が課内で完結するため、庁内での利害関係調整もありません。

これらの事情のために、市町村課では、庁内調整能力が求められる機会に乏しく、育まれることも無いと思われます。

本流出世コースである財政課や人事課では、庁内調整能力を徹底的に鍛えられます。
将来的に部局長として役所を回していく際に、この能力が必要不可欠だからです。
逆に言えば、庁内調整能力が身に付かない市町村課は、出世コースたり得ないのです。

結論:20代前半までに配属されたら期待大

新卒入庁で最初の配属先が市町村課だったり、1回目の人事異動で市町村課に配属された場合は、人事から期待されている可能性が高いです。

市町村課の業務を無難にこなせば、基礎能力は合格点です。
ただ、最重要評価項目である「庁内調整能力」は、まだ一切評価できていない状態です。 
次の人事異動で「選抜ポスト」、つまりは庁内調整能力を試される部署に配置されて、そこでも無難に仕事をこなせれば、晴れて出世コースに入れるでしょう。

20代後半以降に配属された場合は、少なくとも一軍メンバーからは脱落していると思います。
ただし、基礎能力が高く評価されていることは間違いありません。
そうでなければ、そもそも市町村課に配置されないでしょう。

とはいえインターネット上には「市町村課は出世コース!」と断言しているサイトも複数あるので、自治体によっては出世コースなのでしょう。人事録を遡ってみると面白そうです。 

ちなみに僕は市町村課にかなり興味があります。ブログネタの宝庫でしょう。
話し下手コミュ障なので絶対あり得ないでしょうが……

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