キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

タグ:給料

今月は地方公務員関係の気になるニュースが多かったので、まとめて言及します。

本当にこんなに賃上げできるのか?(人事院勧告)



過去最大の引き上げ幅になるということで、とてもありがたいです。
ただ、賃上げの財源はどこの自治体も厳しいと思われ、人事当局はなんとか骨抜きにして人件費総額を抑えようと工夫するんじゃないかと思っています。

期末勤勉手当の支給月数はごまかせないとしても、昇給昇格ペースを遅らせたりすれば、月給引上げの影響は少しは誤魔化せるんじゃないかと。
そのため僕は、自分自身の収入増にはあまり関心がありません。期待もしていません。

それよりも、政治家やメディアが「公務員の賃上げ」をどのように取り扱うのか、気になっています。

日本を牛耳る高齢者世代にとって、公務員の賃上げほど無意味な施策はありません。
自分たちに恩恵が無いどころか、自分たちに割ける財源の縮小とほぼ同義だからです。まさに百害あって一利なし。
そのため、政治家やメディアは、「公務員の賃上げなど言語道断!」と一喝すれば、高齢者世代の人気を簡単に獲得できると思います。
支持者を一気に増やせるわけです。

一方で、「賃上げが必要」という風潮もかなり強いです。
いくら嫌われ者の公務員とはいえ、うかつに「賃上げ不要」と主張すれば、主に現役世代から叩かれかねません。

教職調整額の引上げも相まって、来年度は公務員人件費が爆増すると思われます。
そのため、例年以上にニュースバリューがあるので、いろんな人や組織が公務員人件費に言及してくるのではないでしょうか?
百家争鳴のごとく議論が盛り上がるのはないかと期待しています。

地域手当があるところはギスギスしてそう(他人事)

地域手当の率の見直しも興味深いです。
  • 北関東各県の12~16%エリアが結構下がってる
  • 一方で神奈川県が躍進していて、これまで0%だった自治体も12%の最低保証へ。藤沢市は12→16に上昇
  • 群馬県では、県庁所在地の前橋市3%に対し、ライバル高崎市が6%でダブルスコアをつけていたところ、今回の見直しでどちらも4%に揃う
特にこのあたりは、当事者の方々には悲喜こもごもありそうで、内心どのように思っているのか気になるところです。
田舎県庁職員的には、地域手当が出るだけで嫉妬してしまいます。


男性激減による女性割合増(国家一般職の合格人数)



国家一般職の合格者に占める女性の割合が過去最高を記録したとのこと。
ここ数年、地方公務員でも、合格者に占める女性割合が上昇してきており、「女性職員割合の増加」は公務職場に共通する現象なのだと思われます。

ただ、よく見ると、女性の合格者の頭数が増えているわけではなく、単に男性の合格者が減っているだけなんですよね……

記事では「女性にとって働きやすい職場環境作りが進んでいる影響」と分析されていますが、これはあくまでも「男性と比べて女性の減少幅がなぜ小さいか」を分析しているものです。
「公務の職場は、女性にとって働きやすい環境なんだ」と理解するのは非常に危険だと思います。

そもそもの大前提として、公務員試験の受験者は激減しています。
男女ともに敬遠されつつある中で、あくまでも相対的に、女性のほうが残っているというだけなんですよね……

辞めたくなる気持ちはよくわかる



自治労が調査した結果、能登半島地震で大きな被害を受けた5市町で、なんと6割の職員が発災後に「辞めたい」と思ったとのこと。
僕も対口支援で現地入りましたが、辞めたくなる気持ちはよくわかります……
セルフネグレクトのような投げやり状態になっている方が少なくありませんでした。

総務省「定員管理調査」によると、調査対象になった5市町の一般行政職員は1,049人(R5.4.1時点)。
ネットの反応を見ていると、「自治労の調査はサンプルがおかしいしバイアスかかりまくりだから意味が無い」という意見も多いようですが、このアンケートの回答者は211人なので、自治労実施のアンケートにしては結構回答率が高いのでは?と思います。

果たして県庁は大丈夫なのでしょうか……


ネットでバズってる地方公務員がカスハラを助長している?

職場内回覧物の定番、時事通信社の「地方行政」。
僕はざっと目次を見て、興味のある記事だけ読んでいるのですが、先日の号に大変興味深い記事がありました。
【2024年08月01日 第11312号】掲載の「新時代を生き抜く公務員講座 (23)カスタマーハラスメント防止対策」という記事です


なんとなんと、「自治体職員の中に『カスハラ応援団』が存在する」とのこと。
詳しくはぜひ本文を読んでいただきたいのですが、「自治体職員がネット上で、国や自分が属していない自治体を一方的に批判する行為が、カスハラを助長している」という見解で、「単に私憤を表明しているだけなのに『自分は公務員である』という優位性を主張することで注目を浴びる行為」という何とも痛快な評価まで下しています。

X上に、こういう方いますよね……
己の知識と経験に基づいて持論を開陳するのは、確かに快感なので、やりたくなる気持ちはよくわかります。
ただ、怒りや批判で終わるのではなく、もっと生産的な形に落とし込めばいいのにと思います。

もしかしたら、本人としては「私憤」ではなく「義憤」だとか、怒っているわけではなく「正論」を説いているだけなんだと思っているかもしれません。
ただ、この思考回路こそハードクレーマーあるあるであり、全国の地方公務員を日々苦しめています。
地方公務員を苦しめる存在に、当の地方公務員が堕してしまう……これこそまさに「悪堕ち」だと思います。

僕は絶対に「カスハラ応援団」には堕ちないよう、気を付けていきます。

「あけましておめでとうございます」という挨拶すら不謹慎と糾弾されるという、ショッキングなスタートを切った2024年。
お亡くなりになられた方々にお悔やみ申し上げますとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

新年一発目の記事は、今年も「地方公務員界隈の今年の展望」でお送りします。
例年、陰謀論めいた暗い話題になりがちなので、今年くらいは明るい話題にしたいなと思いトピックを探したのですが、全然見つかりません……
なので、今年も初っ端から暗い話題でお送りします。

今年はとにかく「給料が高い」と批判され続ける一年になると思っています。

久方ぶりの人件費増加

このブログでも以前取り上げましたが、地方公務員(正規職員)の人件費は、これまで減少を続けてきました。


しかし、地方公務員の人数が増加に転じていること人事院勧告でプラス改定が続いていることから、令和6年度はついに増加に転じてしまうようです。

総務省が毎年作成している「地方財政収支見通し」によると、給与関係経費が前年よりも増加しており、資料の本文中でも、歳出増加要因の一つとして、「社会保障関係費」と並んで、「人件費」が列記されています。


さらに、会計年度任用職員の勤勉手当も支給されることになり、正規職員のみならず会計年度任用職員の人件費も大幅上昇します。
全体ひっくるめた人件費は、よほどの人員削減をしない限り、増加してしまうでしょう。

地方公務員の人件費が増えれば、議会やマスコミ、住民から確実に反発を食らいます。
まずは各自治体の当初予算案が発表される1月下旬~2月上旬あたりで、全国的に地方公務員批判が活性化するのではないかと思っています。

令和6年度の当初予算では、ちょうどコロナ関係で焼け太りした補助金が諸々カットされるでしょうし、「役人どもは住民サービスを削って私腹を肥やしている」みたいなセンセーショナルな見出しつきで叩かれるんでしょうね……

田舎地方公務員は四面楚歌に追い込まれる

今回、地方公務員の人件費が上昇するのは、人事院勧告のプラス改定による影響が大きいです。
人事院勧告は、公務員給与と民間給与を比較してその差を埋めようとする趣旨で、プラス改定されるのは民間給与が上がっているからです。
つまり、民間企業で賃上げされているから、公務員もつられて上昇しているという仕組みです。

民間企業の賃上げは、昨年からたくさん報道されています。
地方公務員の賃上げ幅なんて相手にならないくらい、大幅上昇を決めている企業もたくさんあります。

ただ、これが全国的な現象かというと、どうやら違うようです。

少なくとも僕が住んでいる田舎県では、株式上場している大手企業(地銀や地場メーカー等)であっても、ボーナスは多少弾んだようですがベースアップは全然実現していません。
初任給を引き上げた企業は若干あるものの、その分だけ昇給幅を抑制していて、30歳にもなると全く昇給していないとのこと。
僕くらいの年齢でまともにベースアップしたのは地方公務員だけ……という悲惨な状態です。

そのため、今回の人件費増加では、もともと地方公務員に悪感情を抱いている方々から「無駄に人件費を食いやがってけしからん!」と怒られるのみならず、これまで地方公務員人件費に無関心だった方々(主に現役サラリーマン)からも「我々は上がっていないのに何故地方公務員ばかり上がるんだ!」と不満を持たれることになるでしょう。

要するに、地方公務員に対する潜在的な敵意が、いつになく渦巻く一年になるのだと思います。


今年どんな批判を浴びるのかは未知数ですが、ベースアップしたのは事実です。
賃上げされた分をどう使うのかを考えるのが精神衛生上良いのだろうと思います。
ちょうど新NISAも始まることですし、ベースアップ分は全部投資や貯蓄に回すのもアリな気がします。

前回記事(職員数編)に続き、地方公務員の待遇のファクトを見ていきます。

地方公務員の職員数は、ざっくり以下のような特徴があります。
  • 平成6年度のピーク、平成30年度がボトム。令和元年度以降は微増傾向。
  • 一般行政職員だけで見ると、平成25年度に底打ちしてから微増傾向。ただし地域差がかなりある。
  • 平成25年頃から採用者数は高止まりしており、組織に占める若手職員の割合が高まりつつある。
  • 女性職員の割合は一貫して上昇している。

今度は主に、人件費の金額を見ていきます。

総額23兆円

総務省がとりまとめている「地方財政状況調査(決算統計)」によると、地方公務員の人件費総額は約23兆円です。
地方公共団体の歳出総額のうち約2割が人件費にあたります。

01 決算内訳

 
人件費のうち、職員に広く支払われている給与や報酬が約75%を占め、残りは共済(≒社会保険料)や退職手当があります。
「高すぎる」とよく批判されている議員報酬や特別職給与は、人件費総額から見ると非常に小さいです。
財政健全化という観点で見れば、たとえ100%カットしようとも焼け石に水です。あくまでもパフォーマンスにすぎないと言えるでしょう。

23兆円という莫大な数字だけを見ていても実感が湧いてこないので、自分たちにとって馴染み深い「一般職の給与」をさらに分解してみます。(左下の表・右側の円グラフ)
 「任期の定めのない職員」は、一般職(=特別職以外)の職員のうち、任期付職員、再任用職員、会計年度任用職員以外の職員です。いわゆる正規職員です。

給与の内訳では給料が最も大きく、約6割を占めます。
次いで大きいのが期末手当(約14%)、勤勉手当(約11%)と続きます。

自治体によって支給状況が大きく異なるであろう時間外勤務手当は、約4%程度です。
手当の中では大きいほうではありますが、人件費全体で見れば決して大きくはありません。
時間外勤務手当をカットしたところで、さほど財政事情が改善されるとはいえないでしょう。

これでも平成以降は右肩下がり

「地方公務員の待遇はどんどん劣化している」と嘆かれているところですが、実際のところどうなのでしょうか。人件費の推移を見てみます。

02 決算統計推移
 
人件費のピークは平成11年度で、そこからゆるやかに減少を続けています。
直近の令和3年度では、ピーク年度と比較すると、約21%も人件費が減少しています。

人件費総額は、大きく2つの要因で決まります。
「職員1人あたり人件費」と「職員数」です。

平成11年度から令和3年度は、職員数も約13%減少しています。
職員数が減り、1人あたりの人件費も減り……という二重の要因で、人件費が減少しているのです。

歳出決算総額に占める人件費率を見てみると、一番高い平成元年度から、直近の令和3年度にかけて10ポイントも低下しています。
ただし令和2年度~3年度は新型コロナウイルス対策のために歳出が爆増しているので、異常値だと考えたほうが良さそうです。
コロナ直前の数字を見るに、役所の人件費率はだいたい20%と考えるのが妥当でしょう。

(悲報?朗報?)時間外勤務手当は確実に増えている

「地方公務員の待遇はどんどん劣化している」のは、どうやら定量的に見ても事実と言えそうです。
その要因を探っていくべく、続いて内訳別の推移を見ていきます。

03-1 人件費内訳
03-2 人件費内訳

総額ベースでも1人あたりでも、給料と期末勤勉手当と退職手当は減少している中、時間外勤務手当だけは増えています。

1人あたりの額を見ると、地方公務員の待遇水準がめきめき落ちているのがよくわかります。
給料が減少しているのは、職員年齢構成の若返りも一因なのでしょうが、昇級抑制の影響も小さくないと思われます。
期末勤勉手当は給料以上に減少していますが、これは支給月数が減少(4.95か月→4.3か月)しているためでしょう。
退職手当は、2012年と2017年に支給水準が引き下げられた影響がもろに出ています。

一方、時間外勤務手当はぐんぐん増えています。
「昔と比べて職員1人あたりの負担が増大している」という認識は、定量的に見ても間違いないといえるでしょう。

ただなぜか、令和2年度だけ時間外勤務手当が大幅に落ち込んでいるんですよね。
令和2年度といえばコロナ禍が始まった年度であり、残業時間は確実に増えているはずです。
それなのに時間外勤務手当は減っているのです。
 
当時は「経済が長期停滞して税収が減り、財政破綻する自治体が出てくるぞ」みたいな警戒論も盛んに主張されていましたし、少しでも財政負担を抑えるべく、コロナ対応で残業が増えても時間外勤務手当を支払わない自治体が多かったのでしょうか……


今回数字を調べてみた平成元年〜令和3年という約30年間は、日本全体で経済が伸び悩んだ時代であり、公務員のみならず、多くの民間企業サラリーマンの待遇も劣化していると思われます。
ひょっとしたら、公務員よりも民間サラリーマンのほうがひどく劣化しているのかもしれません。

防衛費1兆円のために増税するかどうか、国会で盛んに議論されているところです。
もし増税ではなく歳出削減で1兆円を賄うことになったら、公務員人件費もターゲットにされそうです。
「公務員のボーナスをたった●ヶ月分カットするだけで増税は不要になる!」みたいな、ポピュリズムを煽る論調にならないことを祈ります。

地方公務員の待遇関係の主張は、役所当事者側も反行政側も、往々にして印象論に終始しがちです。
説得力のある主張をするのであれば、双方ともにしっかり事実に基づくことが必要でしょう。

僕自身「地方公務員は減っている」とか「手当が削減されている」あたり気軽に書きそうになるのですが、ちゃんと事実に基づくべく、現時点のファクトを確認しておきたいと思います。
本記事ではまず、地方公務員の人数について見ていきます。

全国総数約280万人(うち一般行政は約93万人)

まずは最新時点の地方公務員数を確認していきます。
今入手できる最新のデータは、総務省「定員管理調査」の令和4年4月1日時点版です。
 
01_R4.4.1部門構成

総務省の「定員管理調査」データによると、令和4年4月1日時点の地方公務員の人数は約280万人です。
部門別では、一般行政職員が約94万人、教育部門が約106万人、警察部門が29万人、消防部門が約16万人、公営企業等が約35万人います。
こうしてみると、教育部門の割合がかなり大きいです。一般行政部門の職員は1/3にすぎません。
 

02_団体区分別構成

団体区分別にみてみると、都道府県職員が約143万人、市町村等(一部事務組合を含む)職員が137万人います。
人数だけ見ると大差ありませんが、部門別の構成比は全然違います。
都道府県は教育部門が過半数を占めており、一般行政部門はわずか約16%にすぎません。
一方で市町村等では、一般行政部門が過半数を占めています。

地方公務員関係の統計データを見るときには、部門ごとの構成比に留意が必要です。
特に、「都道府県の一般行政部門」のことが知りたい場合、都道府県職員全体に占める一般行政部門の割合はかなり小さいので、都道府県職員全体のデータだけを見ていても「都道府県の一般行政職員」の傾向は読み取れません。


最近は増加に転じている

続いて、職員数の推移を見ていきます。
こちらの出典も総務省「定員管理調査」の令和4年4月1日時点版です。
 

03_4.1職員数推移

地方公務員の人数は、平成6年度にピークに達した後に減少に転じており、平成30年度に底を打ってからは微増しています。
特に平成17~22年度にかけては、「集中改革プラン」に基づく定員純減という国主導の地方公務員削減が行われており、減少人数も大きいです。
 
令和元年以降は増加傾向に転じており、令和元年度から令和4年度にかけて約7万人増えています。
地方公務員の人数は長らくずっと減少し続けてきたので、そのトレンドが今も続いているかのように錯覚してしまいがちですが、実際は増加に転じているのです。
もちろんピーク時と比べると大幅に減少していますが……

 
特に増えているのが臨時的任用職員で、令和元年度から令和3年度にかけて約4万7千人増えています(総務省「給与実態調査」より)。
臨時的任用職員は、原則として1年未満の期間だけ正規職員の代替として採用される職員で、年度途中に産休に入った職員の穴埋め要員あたりが典型です。

ただし、この期間の定員管理調査によると「任用の適正化による臨時的任用職員の増加」(多分「空白期間」の解消)という説明がなされていて、実際に人数が増えたかどうかは正直よくわかりません。
 
臨時的任用職員のうち、各種統計で「職員数」としてカウントされるのは、何らかの理由で12月以上継続勤務している人数だけに限られます。
任用の「空白期間」が解消されたことで、統計上の位置付けが変わっただけ(これまで職員数にカウントされていなかった人がカウントされるようになった)による影響が大きいような気がします。


ちなみに、「地方公務員が減ったのは民主党のせい」という主張をする方がいますが、先述の「集中改革プラン」を推し進めたのは小泉政権です。
民主党はそのプランを継承しただけで、「地方公務員を減らすぞ!」と決断したのは、むしろ自民党のほうです。

一般行政部門だけでも微増傾向

一般行政職員だけを抽出したのが下表です。参考に採用数も掲載しています。
(以下「定員管理調査」ではなく「給与実態調査」の数字を使っていきます。そのため冒頭の「部門別職員数」とズレが生じます。)
表(一般行政推移)


一般行政部門だけでみると、職員数は平成25年度に底打ちして、以降は微増傾向にあります。
 
一方、採用者数の推移を見てみると、平成17・18年度で激減、H19以降は増加傾向にあります。
平成20年代は団塊世代前後が定年を迎える時期で、退職者数が高止まりしていたので、採用者が増えたところで退職者も多かったため、職員数は増えなかったようです。
 
令和元年以降は、大量退職が収束しつつある一方で採用者数が高止まりしたままなので、職員数が増加に転じたのでしょう。

地域によって明暗くっきり

「都会の自治体ほど財政力に余裕があるから、職員数をカットせずに済んでいる」という説もたびたび見かけます。
この説を検証すべく、都道府県の一般行政職員の自治体別内訳を見てみます。

 表(都道府県別)
H15からH25にかけては、どの団体でも職員数が減少しています。
減少率はバラバラです。
青森・秋田・千葉・岐阜のように20%以上減少しているところもあれば、10%未満の自治体もあります。 

H25からH30にかけては一層バラツキが広がり、引き続き減少している自治体と増加に転じる自治体に分かれます。
東京都が大幅増しているのは、オリンピック開催が決まったためでしょう。
一方、大阪府・兵庫県では大幅減が続いています。これが維新の会による改革の結果なのかもしれません。
 
H30からR3にかけては、増加する自治体のほうが多数派になりますが、さらに減少を続けている自治体もあります。

全国総数で見ると先述のとおり「平成25年度に底打ちして、以降は微増傾向」なのですが、引き続き職員数削減を続けている自治体もあるようです。


「若者」と「女性」が増えている

続いて職員の年齢構成を見ていきます。

表(年齢構成)

20代職員の人数は、採用動向とほぼリンクしていると言えるでしょう。
平成10年台の採用抑制の結果、H20の20代職員数はかなり少ないです。
平成20年半ば頃から採用数が増えた結果、H30時点では1.4倍ほどに増えて、直近の令和3年度時点ではさらに増えています。

一方、40~59歳の職員はどんどん減少しています。
平成一桁代以前の大量採用時代の職員が定年を迎えて辞めていき、採用抑制時代の職員に置き換わっていくことで、自然と減少しているのだと思われます。

60歳以上の職員は爆発的に増加しています。
ほとんどが再任用職員のはずですが、年金支給開始年齢が引上げられた影響が大きいのでしょうか?


最後に男女比です。(R3のデータは見つかりませんでした)
性別1(都道府県)
性別2(市町村)
 
都道府県・市町村ともに、女性職員が増える一方で男性職員が減少しています。
これらが相まって、女性職員の割合が大きくなっています。

年代別に見ると、若い世代ほど女性職員の割合が高まっています。
結婚や出産のタイミングで離職する人が多いともいえるでしょうし、社会全体で徐々に女性の正規職就労が進んだ結果なのだろうとも思われます。
とはいえ、相変わらず男性のほうが多い職種であることには変わりありません。

個人的に気になったのが、24~27歳の若手層で女性職員割合が高まっている点です。
近年「公務員試験の受験者が減っている」「倍率が下がっている」と嘆かれているところですが、ひょっとしたら「公務員離れ」は男性に顕著な事象で、女性はそれほどではないのかもしれません。


ある一年度の年齢別・男女別職員数のデータだけを使って「30代半ばから女性職員の人数が激減している!地方公務員もマタハラで女性が辞めている!」という主張をする方が一定数いますが、これは誤解です。
今の30代以降はそもそも男女ともに採用数が少ないので減って当然ですし、今の30代中盤以降の職員が採用された時代は採用時点から女性比率が低く、この特徴が今も引き継がれているだけです。

年初の記事で「今年こそ『コロナ訴訟』と『採用抑制』で盛り上がる」と予想したところなのですが……
これらが霞んでしまうビッグニュースが早速飛び込んできました。
会計年度任用職員への勤勉手当支給です。



公務員のボーナスは「期末手当」と「勤勉手当」に分かれており、割合はほぼ半々です。
会計年度任用職員は、このうち「期末手当」しか支払われていませんでした。
一般職員のだいたい半分の月数分しか支給されていなかったわけです。

現在提出されている改正法案では、会計年度任用職員に「勤勉手当」も支給できるようになります。
詳しくは後述しますが、ボーナスの支給月数がざっくり倍増すると思われます。

個人的には大賛成なのですが(特に保育士や司書のような専門職)、これから国会での法案審議が本格化していくと、「公務員の待遇」に対する世間のイメージが生々しく表れてきそうで恐ろしいです。

「非正規」という追い風 vs 「公務員」という向かい風 

マスコミ報道では通常、会計年度任用職員は「非正規公務員」と表現をされることが多いです。
今回の「会計年度任用職員への勤勉手当支給」も、すでに一部のマスコミ報道では「非正規公務員の処遇改善」という表現に変換されています。

「非正規公務員の処遇改善」という表現の中には、世間一般の方々にとって、好印象/悪印象どちらの要素も含まれています。
 
「処遇改善」の一言であれば、誰もが賛同するでしょう。
「非正規の処遇改善」であれば、賛同の声はさらに強くなるはずです。
しかし、さらにここに「公務員」という単語が加わり「非正規公務員の処遇改善」になると、途端に印象が悪化します。
 
公務員の給与の大元は税収であり、公務員の賃上げは税負担増加(または公共サービスの縮小)に直結しかねません。
公務員が潤う代わりに、公務員以外は損をするわけです。
単なる「公務員の処遇改善」であれば、マスコミも世間も猛反発するでしょう。

ただし今回は、単なる「公務員の処遇改善」ではなく「非正規公務員の処遇改善」です。
非正規労働者を安く使う慣行が色々な社会問題の元凶として認識されている以上、無碍にはできないと思います。
特にマスコミは叩きづらいでしょう。

このように、「非正規公務員の処遇改善」には、国民感情にとって
・「非正規労働者の処遇改善」というプラス要素
・「公務員の処遇改善」というマイナス要素
いずれもが織り混ざっています。
ゆえに、容易には判断を下せないように思われます。

結果的に世論が賛成/反対どちらに傾くか次第で、どちらの要素が強いかわかります。
ここでもし反対に傾けば、「非正規だろうが何だろうが公務員の処遇改善は断じて許されない」という判断を世間が下したわけで、公務員に対する悪感情が今後も末永く持続することが確定します。

財源捻出が結構大変なのかもしれない

完全に皮算用ですが、会計年度任用職員に勤勉手当を支給することでどれくらいの財政的インパクトがあるのか推計してみます。

地方財政状況調査(決算統計)によると、会計年度任用職員分のボーナス支給額は、令和3年度で約1,872億円。これは期末手当分だけです。
 
期末手当は勤務期間に応じて支給されるもので、ここでは2ヶ月分と仮定します。
支給月数は自治体によってバラバラですが、おおよそ任用1年目であれば1.7ヶ月分、2年目であれば2.2ヶ月分くらいのはず。任用期間の割合はわからないので、ざっくり2ヶ月分ということにします。

一方、新たに支給される見込みの勤勉手当は、勤務実績に応じて支給されます。
とはいえ実際そんなに差はつかないので、こちらも2ヶ月分と仮定します。

要するに、勤勉手当が支給されるようになると、ボーナス支給額が倍になります。
つまり、全国ベースで1,872億円≒約1,900億円、人件費が増えると見込まれます。

全国総額で約1,900億円……と言われても全然ピンとこないので、同じく地方財政状況調査の中から、近しい数字を探してみました。
  • 住居手当総額 約1,600億円
  • 管理職手当 約1,700億円
  • 時間外勤務手当 約5,600億円 →1/3すると約1,900億円
人件費関係だと、このあたりが近しいです。

つまるところ、会計年度任用職員への勤勉手当支給は、
  • 住居手当や管理職手当を倍増する
  • 時間外勤務手当が3割上乗せされる
くらいの財政的インパクトがあるといえます。
こう考えると相当大きな影響です。 

ただし、令和3年度の地方公務員の人件費総額は約23兆円で、会計年度任用職員の勤勉手当相当分は約1%にすぎません。
率ベースで見ると、大した影響ではないのかもしれません。

一般職員の待遇に波及してくる可能性もゼロではない?

個々の自治体レベルでは、会計年度任用職員への勤勉手当支給に必要な財源をどう確保するか、そして財源確保方法を議員や住民にどう納得してもらうかが課題になるでしょう。
 
いくら法改正が原因とはいえ、「人件費が増える」のは非常にウケが悪いものです。
「法改正が原因だから仕方ない」と押し切るか、別のところで人件費をカットして総額は増えないように調整するか……議員や住民の顔色を伺いながら各自治体で判断することになりそうです。
 
人件費をカットして財源捻出する場合、採用を減らしたりがっつり勧奨退職したりして職員数を減らす方法が一番手っ取り早いでしょう。

一般職員の待遇を落とすという方法もあり得ます。
その場合は、 先述した「住居手当や管理職手当がゼロになる」「時間外勤務手当3割カット」並のドラスティックな改革が必要になってきます。やばいですね……

法改正に伴う人件費増ということで、交付税で措置されることを切に望みます。 

会計年度任用職員への勤勉手当支給は、「早くても令和6年度」からとのこと。
個々の自治体で議論になるのは、令和6年度予算審議が本格化する今年度後半になるでしょうか。
ちょうど12月のボーナス支給時期と重なりますし、「公務員の12月ボーナスは〇〇万円、来年度はさらに増える模様」みたいな感じでセンセーショナルに報道されるんでしょうね……
 
とりあえずは目下の国会審議の動向を眺めつつ、マスコミの反応をウォッチしていきたいです。

 

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