キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

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タグ:財政

ここ最近、地方公務員の個人賠償案件が立て続けにニュースになっています。



 


行政のミスについて公務員に個人負担を求める案件は、以前から度々ありました。
プールの栓の閉め忘れは毎年のように発生していますし、去年だと常陸太田市の連帯責任的減給が一番話題になったでしょうか。

大抵の場合、報道側も受け手(国民)も「公務員が自腹を切るのは当たり前」というスタンスなのですが、今年の案件ではなぜか地方公務員に同情的な報道が目立ちます。

個人的には、個人負担うんぬんよりもマスコミの手のひら返っぷりが一番腹立つんですよね……
プールの水とか電気あたりは、あなた方が全国津々浦々の事例をいちいち全国ニュースで大々的に報道して「賠償して然るべき」だと騒ぎ立てるから個人賠償するのがスタンダード化したんですけど?
自分で「問題」を作っておいてそれを他者のせいにして別の「問題」に仕立て上げるとは、見事な死の商人っぷりです。

……私怨は置いといて、個人賠償が増える流れ


もともと個人賠償は潜在的にリスクだった

地方自治法上、地方自治体が職員に対して個人賠償を課すこと自体は、違法ではありません。


地方自治法
(職員の賠償責任)
第二百四十三条の二の二 会計管理者若しくは会計管理者の事務を補助する職員、資金前渡を受けた職員、占有動産を保管している職員又は物品を使用している職員が故意又は重大な過失(現金については、故意又は過失)により、その保管に係る現金、有価証券、物品(基金に属する動産を含む。)若しくは占有動産又はその使用に係る物品を亡失し、又は損傷したときは、これによつて生じた損害を賠償しなければならない。(以下略)
 


つまり、地方公務員が業務上のミスを自腹で補償するのは、地方公務員という職業に内在するリスクと言えます。
法令上決められていることなので、賠償させられること自体に文句を言うのは筋違いなのでしょう。

実際に働いていると、手違いのために物品を損傷してしまうケースはままあります。
職場のパソコンに飲み物をぶちまけて壊してしまうとか、ホッチキスの針がついたまま書類をコピー機に突っ込んで壊してしまうとか……

とはいえ、こういうミス全てに対して賠償請求されているわけではありません。
損害賠償の条件となる「故意または重大な過失」は、かなり限定的に解釈運用されていると思われます。
法令上存在する「個人賠償リスク」が、組織の温情によって相当程度軽減されているとも言えるでしょう。少なくとも従来はそうでした。

ただここ最近は、個人賠償を求められるケースが増えています。
背景や経緯は別にして、この現象だけを捉えると、これまでは潜在的だった個人賠償リスクが顕在化してきたということなのでしょう。



地方公務員が個人負担を負わされることについて、「かわいそう」という見方もできますが、僕はあくまでも個人賠償は法に則った適法な措置であり、感情面とは切り離して考えるべきだと思っています。

地方公務員の個人賠償を「かわいそう」という理由で否定するのは、感情的な理由で法令逃れを正当化しようとする方々……例えば、官有地を長年不法占拠してきた人に対して「かわいそう」といって反発してくる市民団体とか、飲酒運転がバレた際に「今日は仕方なかったから見逃してくれ」と懇願してくる酔っ払いと変わりありません。

これまでは無視していても問題なかった潜在的リスクが、とうとう顕在化して襲ってきた……という理解が一番妥当かと思っています。

「賠償責任保険の値上がり」という身近な懸念

とはいえ、地方公務員が個人賠償するケースは、まだまだごく少数に止まっています。
顕在化しつつあるとはいえ、それほど神経質になる必要も無いのかと思います。とりあえず今は。

僕が目下心配しているのは、地方公務員向けの賠償責任保険の値上がりです。

地方公務員が業務上のミスやトラブルが原因で個人賠償責任を負った場合に、賠償金や弁護士費用を補償する保険が、いくつかの損害保険会社からリリースされています。
どこの会社も保険料はかなり控えめで、安いコースであれば一月あたりスタバ一杯分くらいの金額で加入できます。

この公務員向け賠償責任保険は、自動車保険などと同じく、損害保険の一種です。
損害保険の保険料は、保険金が出るケースの数によって大きく左右されます。
自動車保険の場合、(ここ最近の中古自動車関係のニュースでも取り上げられていましたが)自動車事故の数が増えれば増えるほど、保険料は全体的に上がっていきます。

となると、公務員向け賠償責任保険の場合も、保険金が出るケース、つまり公務員が個人賠償するケースが増えれば増えるほど、保険料が上がっていくと考えられます。
先述のとおり、これまでは賠償するケースがごく少数だったため保険料も安く抑えられていましたが、これから賠償事例が増えていけば(増えると見込まれれば)、保険料はどんどん上がっていくでしょう。

賠償事案が増えるにつれて、賠償責任保険のニーズは高まると思います。
しかし同時に、今は安価でお手頃に見える保険料も、今後どんどん上がっていくかもしれないのです。

さらに、保険に加入する地方公務員が増えるほど、役所側としては個人賠償を課しやすくなるのでは?という懸念もあります。

ひょっとしたら今後、
  1. 個人賠償する案件が増える
  2. 保険に加入する職員が増えると同時に保険料が上がる
  3. 役所側が「どうせ保険金が出て懐は痛まないんだから個人賠償しよう」と考える
  4. 1に戻る……
という負のスパイラルが始まってしまうかもしれません。

地方公務員の自腹で住民が潤う

地方公務員の個人賠償案件が増えることで損をするのは、もちろん地方公務員です。
下手をすれば全財産が吹き飛ぶレベルの賠償を強いられるのは言うまでもなく、来る損害賠償に備えて保険に加入するにしても、自腹で保険料を支払わなければいけません。
今は安価ではありますが、これから値上がりするんじゃないかと僕は思っています。

一方、住民は得をします。
地方公務員個人から賠償金を取ることで自治体の歳入(=自分達に還元される財源)が増えるのはもちろんのこと、職員が自腹で保険に入るだけでも、損害賠償を取りやすくなるという意味で、住民は間接的に得をします。

民間企業であれば、業務上発生しうる損害への保険は、会社の経費で加入するんじゃないかと思うのですが、地方自治体の場合は職員の個人負担で加入するのがスタンダードになりつつある、とも言えるでしょう。

どのような見方をするにしても、地方公務員の勤務環境が一段階悪化したのは間違いありません。
何度も触れているとおり、個人賠償を求められること自体は、地方自治法上どうしようもなく、地方公務員という職業に内在する如何ともし難いリスクです。
「労働基本権が制限されている」「副業が厳しく規制されている」あたりと同列のデメリットとして、就職前に留意すべきポイントと言えるでしょう。

地方自治法の法令の条文を改めて読んでいると、運用上なあなあにされているために問題視されていないものの、厳格に適用すると大事件になりかねない条文が他にもあったりします。
地方公務員という職業には、今回の「個人賠償責任」の他にも、潜在的なリスクがたくさんあるのでしょう。
 

前回記事(職員数編)に続き、地方公務員の待遇のファクトを見ていきます。

地方公務員の職員数は、ざっくり以下のような特徴があります。
  • 平成6年度のピーク、平成30年度がボトム。令和元年度以降は微増傾向。
  • 一般行政職員だけで見ると、平成25年度に底打ちしてから微増傾向。ただし地域差がかなりある。
  • 平成25年頃から採用者数は高止まりしており、組織に占める若手職員の割合が高まりつつある。
  • 女性職員の割合は一貫して上昇している。

今度は主に、人件費の金額を見ていきます。

総額23兆円

総務省がとりまとめている「地方財政状況調査(決算統計)」によると、地方公務員の人件費総額は約23兆円です。
地方公共団体の歳出総額のうち約2割が人件費にあたります。

01 決算内訳

 
人件費のうち、職員に広く支払われている給与や報酬が約75%を占め、残りは共済(≒社会保険料)や退職手当があります。
「高すぎる」とよく批判されている議員報酬や特別職給与は、人件費総額から見ると非常に小さいです。
財政健全化という観点で見れば、たとえ100%カットしようとも焼け石に水です。あくまでもパフォーマンスにすぎないと言えるでしょう。

23兆円という莫大な数字だけを見ていても実感が湧いてこないので、自分たちにとって馴染み深い「一般職の給与」をさらに分解してみます。(左下の表・右側の円グラフ)
 「任期の定めのない職員」は、一般職(=特別職以外)の職員のうち、任期付職員、再任用職員、会計年度任用職員以外の職員です。いわゆる正規職員です。

給与の内訳では給料が最も大きく、約6割を占めます。
次いで大きいのが期末手当(約14%)、勤勉手当(約11%)と続きます。

自治体によって支給状況が大きく異なるであろう時間外勤務手当は、約4%程度です。
手当の中では大きいほうではありますが、人件費全体で見れば決して大きくはありません。
時間外勤務手当をカットしたところで、さほど財政事情が改善されるとはいえないでしょう。

これでも平成以降は右肩下がり

「地方公務員の待遇はどんどん劣化している」と嘆かれているところですが、実際のところどうなのでしょうか。人件費の推移を見てみます。

02 決算統計推移
 
人件費のピークは平成11年度で、そこからゆるやかに減少を続けています。
直近の令和3年度では、ピーク年度と比較すると、約21%も人件費が減少しています。

人件費総額は、大きく2つの要因で決まります。
「職員1人あたり人件費」と「職員数」です。

平成11年度から令和3年度は、職員数も約13%減少しています。
職員数が減り、1人あたりの人件費も減り……という二重の要因で、人件費が減少しているのです。

歳出決算総額に占める人件費率を見てみると、一番高い平成元年度から、直近の令和3年度にかけて10ポイントも低下しています。
ただし令和2年度~3年度は新型コロナウイルス対策のために歳出が爆増しているので、異常値だと考えたほうが良さそうです。
コロナ直前の数字を見るに、役所の人件費率はだいたい20%と考えるのが妥当でしょう。

(悲報?朗報?)時間外勤務手当は確実に増えている

「地方公務員の待遇はどんどん劣化している」のは、どうやら定量的に見ても事実と言えそうです。
その要因を探っていくべく、続いて内訳別の推移を見ていきます。

03-1 人件費内訳
03-2 人件費内訳

総額ベースでも1人あたりでも、給料と期末勤勉手当と退職手当は減少している中、時間外勤務手当だけは増えています。

1人あたりの額を見ると、地方公務員の待遇水準がめきめき落ちているのがよくわかります。
給料が減少しているのは、職員年齢構成の若返りも一因なのでしょうが、昇級抑制の影響も小さくないと思われます。
期末勤勉手当は給料以上に減少していますが、これは支給月数が減少(4.95か月→4.3か月)しているためでしょう。
退職手当は、2012年と2017年に支給水準が引き下げられた影響がもろに出ています。

一方、時間外勤務手当はぐんぐん増えています。
「昔と比べて職員1人あたりの負担が増大している」という認識は、定量的に見ても間違いないといえるでしょう。

ただなぜか、令和2年度だけ時間外勤務手当が大幅に落ち込んでいるんですよね。
令和2年度といえばコロナ禍が始まった年度であり、残業時間は確実に増えているはずです。
それなのに時間外勤務手当は減っているのです。
 
当時は「経済が長期停滞して税収が減り、財政破綻する自治体が出てくるぞ」みたいな警戒論も盛んに主張されていましたし、少しでも財政負担を抑えるべく、コロナ対応で残業が増えても時間外勤務手当を支払わない自治体が多かったのでしょうか……


今回数字を調べてみた平成元年〜令和3年という約30年間は、日本全体で経済が伸び悩んだ時代であり、公務員のみならず、多くの民間企業サラリーマンの待遇も劣化していると思われます。
ひょっとしたら、公務員よりも民間サラリーマンのほうがひどく劣化しているのかもしれません。

防衛費1兆円のために増税するかどうか、国会で盛んに議論されているところです。
もし増税ではなく歳出削減で1兆円を賄うことになったら、公務員人件費もターゲットにされそうです。
「公務員のボーナスをたった●ヶ月分カットするだけで増税は不要になる!」みたいな、ポピュリズムを煽る論調にならないことを祈ります。

このブログの読者層にとっては公然の事実でしょうが、公立学校教員には残業代が支給されません。
代わりに「教員調整手当」なる手当が支給されていますが、大した額ではありません。

公立学校教員に残業代を支給すべきか否かは、定期的に話題になります。
ただ支給賛成派も反対派も感情論に終始している感じがして、具体的な金額はあまり論じられていない気がしています。

特に「もし支給されることになったら、国全体でどれくらいの財政負担が生じるのか」というマクロな数字は見覚えがありませんし、インターネットで検索してみても全然ヒットしません。
 
というわけでざっくり試算してみました。

年間1.8兆円!?

計算方法は、以前の記事で「年齢別の年収」を作った際の方法をアレンジしています。

まずは総務省「給与実態調査」を使って「経験年数ごとの人数」と「経験年数ごとの残業代単価」を算出します。
管理職はそもそも残業代の対象外なので、人数からは差し引きます。

「経験年数ごとの残業代単価」に「残業時間」を乗じて「1人あたり残業代」を算出し、最後に「経験年数ごとの人数」を乗じて、国全体のマクロな残業代を求めていきます。

ビジュアル用(教員残業)

その結果、小中学校分で約1.4兆円、高校分で約0.4兆円、合計約1.8兆円というとんでもない数字になってしまいました。

1.8兆円というと最早感覚が全然つかめません。
そこで自治体の予算規模と比較してみたところ、令和3年度の宮城県の総予算額(一般会計+特別会計)がだいたい1.5兆円と結構近い額になりました。

教員の残業代だけでそこそこ大きい県の予算規模を余裕で超えると理解すればいいと思います。

どこかでミスった?

我ながら信用できない数字が生まれてしまいました。

僕が使った「人数」には、産休などで休んでいて残業するわけない人も一部含まれていると思われるので、上振れしているのかもしれません。
とはいえ休日出勤分の時間外手当割増を考慮せず「一律25%加算」で計算しているので、下振れする要素もあります。

とりあえず「約1.8兆円」は正しいとして、どうしてこんなに高くなるのかを考えていきます。


残業時間が長い

残業時間は年間1,000時間という設定です。
月あたりに換算するとだいたい85時間。
事務職地方公務員だと相当なハードなほうです。

こんな長時間労働が蔓延しているとは思いたくないのですが、公表データを使うとこの結果になりました。

年間1000時間は、「週あたり21時間15分」 × 「48週間」=1008時間 ≒ 1000時間という流れで算出しています。

「週あたり21時間15分」 の出典は、文部科学省が実施した「教員勤務実態調査」です。
この中で「週あたりの勤務時間は、小学校だと55〜60時間、中学校だと60〜65時間の層が一番多い」との記述があることから、間をとって60時間に設定しました。

60時間から、定時勤務時間である38時間45分を差し引いて、週あたり残業時間である21時間15分を算出しました。

スクリーンショット 2021-10-30 11.46.52(2)

僕が恣意的に残業時間を長めに設定しているわけではなく、実態調査の結果「事務職地方公務員だと上位数%レベルの長時間労働が当たり前」と設定せざるを得ないのです。

人数が多い

総務省の資料(PDFへのリンクです、30ページ参照)によると、公立学校の教員は全国でだいたい85万人くらいいます。
一般事務職員(約76万人)よりも多いです。
人数が多いために、全国総額も大きくなります。

公務員の残業代支給の適正化といえば、「本省勤務の国家公務員」が真っ先に思い当たります。
「暗黙の了解事項だった本省のサビ残が改善されたんだから、教員も改善を!」という主張を見かけますが、本省勤務職員と教員だと人数があまりに違いすぎます。

一人あたりの不払い残業代という意味では、教員よりも本省職員のほうが大きいかもしれませんが、全国総額で考えると桁違いのインパクトがあるでしょう。


触れないほうがいい

正確な金額は置いといて……教員の時間外勤務手当をきちんと支給すると凄まじい財政負担が発生するのは、間違いないと思います。
「一人あたりの残業時間」も半端ないですし、「教員の数」も半端ないのです。

ざっくり試算してみて、誰も真剣に全国マクロの金額を推計しない理由がわかりました。
途方も無い金額になるせいで、国民の理解を到底得られないからなのでしょう。

「毎月80時間も残業している」までなら同情を誘えるでしょうが、「現状を改善するには〇〇兆円必要です」という情報が加わると、途端に国民の反応が変わり、世論は教員叩きに流れると思います。
「そもそも働き方が悪い」「人材の質が落ちている」みたいな。
残業代についての問題提起が、かえって自らの首を締めてしまいかねないのです。

当面はとにかく、残業代支給については触れずに、教員の労働時間を減らす方向しか取れないのだと思います。


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