キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

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タグ:防災

ここ最近、全国各地で激しい災害が相次いでいます。
特に豪雨災害が顕著で、常襲地域のみならず、これまで水害を経験したことのない地域でも被害が発生しています。

過去にも何度か触れていますが、僕の初任の配属先は防災部局でした。
当時(10年ちょっと前)は、豪雨シーズンといえば「7月~9月」の3か月間であり、6月の議会が終わった直後に「気合い入れ式」、10月に入ったら「お疲れさん会」などと称して、職場で焼肉に行った記憶があります。
今はいつ豪雨に見舞われるかわからず、このような精神的な区切りも無いので、すっかり廃れてしまったとのことでした。

災害が頻発・激甚化するのに対し、防災や災害復旧に対する制度や財政措置も拡充されています。
特に、被災した個人や民間企業を直接支援する制度が、令和に入ったあたりから急速に充実してきていると思います。

しかし、支援制度が拡充されたとしても、その分だけ復旧復興が加速するわけではありません。
むしろ「どうしてカネはあるのに遅いのか」「地方公務員の仕事の遅さがボトルネックだ」という形で、地方公務員叩きの材料にされているのが現状です。


(誰も報じないけど)充実していく被災者支援

まず、最近の被災者支援制度がいかに充実してきているか、よく話題に上るものを紹介します。

ひとつは住宅の再建支援です。
現在(令和8年春)、能登半島地震の被災者で、住宅が全壊した人の場合、総額1,000万円を超える支援が受けれられるとのこと。
このうち500万円は、この地震に際して新たに創設された国の制度です。
直近の大地震である平成28年熊本地震の際は、僕が調べた範囲では500万円にも届いておらず、大幅に拡充されていることがわかります。

<石川県の資料>
<熊本県の資料>

もうひとつは民間企業向けの「なりわい再建支援補助金」です。
被災した民間企業を直接支援する制度としては、東日本大震災の際に創設された「中小企業等グループ補助金」がありました。
民間企業の財産再取得に公金を支出するという前代未聞の制度で、当時はすさまじい大盤振る舞いだと話題になっていましたが、制度の利用にあたっては地域の中小企業で「グループ」を組成して、地域の復興を民間企業集団としてどのように進めていくのか計画策定する必要がありました。
要するに企業単体では利用できず、自社事業の都合だけを盛り込むわけにもいきませんでした。

しかし現在は、個社・個人でも申請できる「なりわい再建支援補助金」が創設されて、自社都合最優先での補助金利用が可能となっています。

このほか、地方自治体に対する財政支援も大幅に拡充されており、災害を原因に財政が急激に悪化するような事態は激減しています。

一方、このように支援制度が年々拡充されていることは、報道ではほとんど取り上げられません。
地方公務員であっても、災害復旧の実務に携わったことがない人であれば、現在の制度がどうなっているかは知っていても、拡充の過程までは把握していないかもしれません(僕も厚生労働省関係の施策はよくわかりません)。

むしろ近年は、「お金が足りない」という声よりも、「役所の対応が遅い」という苦情・苦言が激増しているように感じています。

実際、僕が防災部局にいた頃と比べて、復旧が遅くなったとは思いません。
とはいえ早くなったかと言われると……大して変わっていないと思います。

復旧復興の「遅れ」は地方公務員による人災なのか

世論が主張するとおり、「どれだけ予算があっても、地方公務員の仕事が遅いから復旧復興が進まない」というのも、一理あると思います。
復旧復興に予算はもちろん必要ですが、同じくマンパワーが必要です。 いくらお金が増えようとも、マンパワーも増えなければ、執行できずにお金を滞留させてしまうのは間違いありません。

とはいえ、応援派遣などで被災自治体の地方公務員数を頭数を揃えれば万事解決するわけでもありません。
復旧復興には、多数の民間事業者も携わっており、民間事業者のマンパワーが不足しているために復旧復興が進まないという実態もあります。

さらに、復旧復興には被災者のマンパワーも必要です。
各種インフラの復旧工事や、公共施設を再建、災害公営住宅の建設には、その前提として、被災者との合意が必要です。
ただでさえ被災して自分のことだけで精一杯なところ、役所からの説明を聞いて意思決定をするには、大変なエネルギーが必要です。

地域としての意見をまとめるとなるとますます大変です。
災害のせいで疲弊してストレスが溜まっている状況下では、なかなかうまくコミュニケーションがとれず、協議の場を設けることすら困難なケースも散見されます。
役所側ではいつでも事業開始できるよう準備しているのに、住民側がまとまらないので着手できない……という事例もよくあります。
このような場合、外部から「早くしろ」と叩かれても、正直に「住民側がボトルネックです」などと言うわけにはいかず、役所が矢面に立って批判を受けることになり、何とも言えないやるせなさを感じるものです。

つまるところ、復旧復興の早さを決めるのは、今はマンパワーなのだろうと思います。
そして、自治体のマンパワーは応援派遣で増やせても、民間事業者や被災者のマンパワーを増やすのは難しく、役所だけではどうしようもない面も多々あるのです。



やや不謹慎かもしれませんが、僕は防災関係の業務が結構好きです。
「人命最優先」という旗印の下、官民が一致団結して仕事に取り組めるからです。
人によって方法論は分かれるにしても大義は同じなので、よくある利害関係の衝突にとどまらない、建設的な議論もできます。

だからこそ、どれだけ頑張っても「遅い」と叩かれざるを得ない昨今の状況には、ほかの公務員批判とは異なり、怒りや呆れというよりは「もどかしさ」を感じます。 被災者が直接非難されるよりは、役所が身代わりになるほうがまだマシだと思って、盾役を務めるしかないのだろうと思います。

「自助・共助・公助」というフレーズは、防災の心得として社会にすっかり定着しています。
「行政が責任を回避するための方便にすぎない」などと冷ややかに捉えている人が多数ではありますが、こうした批判や違和感が語られること自体、この言葉が広く共有され、前提知識として浸透している証左であると思います。

ただ、実際に災害が発生すると、この三つのうち「共助」はなかなか機能するものではありません。
とりわけ、多くの被災者が避難所で寝泊まりしている期間、いわゆる「応急期」においては、「共助」には期待できません。


僕自身が能登半島地震の被災地に派遣されてから約2年が経過し、当時感じた「ぼんやりとした絶望感」をようやく言語化できたので、忘れないうちに記録しておきたいと思います。

共助=互恵的な関係

「共助」とは、読んで字のごとく、ともに助け合うことです。単なるお手伝いや人助けとは異なります。
各人が持つリソースを持ち寄り、足りない部分を補完し合う関係性があって、はじめて「共助」と呼べます。

ここで重要なのは、「全員がリソースを出し合う」という点です。
個々人はそれぞれの属性(年齢、性別、経歴など)に応じて、異なる種類・量のリソースを持っており、それらが相互に噛み合うことで支え合いの循環が生まれます。これが「共助」です。
リソースを供出する側と享受する側が固定されている「支援」や「搾取」とは異なる互恵的な関係です。
互恵的な関係、「お互い様」の精神に基づいたものゆえに、持続性があり、感情的にも実践しやすいのです。

災害の応急期とは、端的に言えば「大勢の人が、同時に、突然、不慣れで過酷な環境に放り出される」状況です。
避難所での生活はその典型例でしょう。限られた空間に多くの人が集まり、日常とは全く異なる条件のもとで、生活水準を維持しなければなりません。

この応急期に必要とされるのは圧倒的な体力と腕力です。
応急期は一時的にあらゆるインフラが(ハード面でもソフト面でも)停止するので、その代替としてマンパワーに頼らざるを得ません。
具体的には、被災者の救助や負傷者の手当て、物資の運搬、生活空間の設営、食事の準備、清掃、心身の不自由な人の介助・介護などなど……こういった膨大な力仕事を不眠不休で続けることが、否応なく求められます。

このような応急期のあり方は「共助」ではなく、「体力・腕力のある人が無い人を支える」という、一方的な「支援」に他なりません。

災害応急期に必要なリソースは若者しか持っていない

そしてこの図式は、「若者が高齢者を助ける」と言い換えることもできます。
高齢者の方々は、体力や腕力はどうしても若者に劣り、助けられる側に甘んじざるを得ません。


ここで僕は「高齢者は社会のお荷物」などと主張するつもりは一切ありません。
高齢者には、若者に無いリソースをたくさん持っています。

特に、高齢者ならではの「自由な時間」というリソースは、災害の復旧期~復興期にはとても重要だと思います。

ただし、災害発生直後の応急期には、高齢者が持つリソースは極めて活きづらいのです。

これまでの災害では、地域の現役世代&被災自治体の職員がマンパワーを供出することで応急期を乗り切ってきました。
しかし今回の能登半島地震では、高齢化率が高い地域で発災したために、地域の現役世代+被災自治体職員だけではマンパワーが圧倒的に不足していたのでしょう、避難所立上げの際にいろいろなトラブルが発生したと報道されています。
その後、全国の自治体からの対口支援職員が到着してからは軌道に乗ったと認識していますが(僕が対口支援で現地行った際は順調に回っていました)、発災初期のトラブルは今もなお当て擦られ続けられており、被災自治体のイメージダウンを引き起こしています。

今後さらに高齢化が進めば、応急期の対応体制はいっそう逼迫することは避けられません。
避難所運営に割かれる人的・時間的リソースは膨らみ、結果としてインフラ復旧や各種支援の立ち上げが遅れがちになるでしょう。 避難所運営のルールが定着してルーチン化するまでにも時間がかかり、「応急期が伸びる」という言い方もできると思います。

この課題への対策として、これまでの論調だと「平時から地域の絆を深めておいて、共助をより充実すべき」というのが教科書的な答えなのでしょうが……僕は絵に描いた餅としか思えません。
地域の若者の人数がどんどん減っていく中、この対策では「そもそもマンパワーが足りない」というボトルネックを解消できません。

現実を見て「諦念」を受け入れる

僕がまず必要だと考えるのは、「応急期の共助には限界がある」という現実認識を社会全体で共有し、そのうえで「応急期の公助」を強化することです。

この前提を冷静に共有することが、現実的で持続可能な防災体制を考えるうえで欠かせないと思います。 能登半島地震では、全国から多くの公務員が対口支援として現地に入り、純粋な「労働力」として投入されました。この仕組みは、応急期というフェーズの特性に非常によく適合していたと、僕は感じています。

応急期に求められるのは何よりも「体力」、そして文句を言わずに淡々と苦役をこなす「従順さ」と「忍耐力」であり、この点で公務員という存在は適材適所です。この仕組みが効果的であったことが、今後もっと取り上げられればいいなと思っています。

次に重要なのは、応急期というフェーズをできるだけ早く終わらせることだと思います。
インフラ等の応急復旧を速やかに終わらせて、物流を安定化し、避難所生活を早々に安定させる。そのために何がボトルネックになるのかを、平時から冷静に検証しておく必要があるでしょう。
「公助」が重要な期間=応急期を短縮して、その短い期間に大量の「公助」を投入する……という、メリハリの利いた体制が理想なのかと思います。

応急期には高齢者が中心となって地縁ベースで「共助」が機能する……というイメージを抱いている方もいるかもしれませんが、高齢化が本格化している今、これは幻想です。
どれだけ地縁が強固であろうとも、高齢者ばかりの地域では労働力が足りません。

「初期対応には単純労働力が必要であり、高齢化の進展により最早地域内では労働力を賄いきれないから、外部から調達してくるしかない」という現実こそ、能登半島地震の重要な教訓だと思います。

令和6年能登半島地震から半年が経過しました。
最近はめっきり報道されなくなっていましたが、発災から半年が経過したということで、再びメディアを賑わせています。

実は僕も、3月頃に対口支援として現地に派遣されていました。

具体的な場所や時期は伏せますが、僕が対口支援に行った頃には既に人命救助フェーズは終わっていて、避難所運営や罹災証明書発行のような被災者支援施策の質と量をいかに改善していくかというフェーズでした。
対口支援職員の役割は、いったん確立したルーチンを回しつつ改善していくこと。比較的楽な時期だったと思います。

「能登はやさしや土までも」

従事期間中、「能登はやさしや土までも」というフレーズを何度も見聞きしました。
今回の震災で拵えられた造語ではなく、昔からある言葉のようです。

実際、被災者の方々は皆さん優しかったです。
約1週間の従事期間中、被災者の方々が声を荒げるところは一度も見かけませんでしたし、ちまちま文句や嫌味を言われることもありませんでした。
僕の経験上、被災地に行くと「お前もどうせすぐいなくなるんだろ?本気で支援するつもりなんて無いんだろ?」という定番フレーズで嫌味を言ってくる方が一定数いらっしゃるものなのですが、今回は一人も遭遇しませんでした。

一方、支援者の方々(特に非公務員の方々、現地入りしているボランティアの方々など)は、かなりフラストレーションが溜まっているようでした。
役所に来て、現地のプロパー職員なり対口支援職員なりを捕まえて思いの丈をぶつけていく方は連日いらっしゃいましたし、被災者の方の前で愚痴をこぼしている方も少なくありませんでした。

例えば、避難所で炊出しボランティアをしている方々が、被災者の方々に「冷たいおにぎりしか持って来ない役所と私たちは違いますからね」みたいなことをわざわざ吹き込んで回ったり。
もちろんこそこそと陰口のように言うのではなく、避難所運営をしている公務員にも聞こえるように、はっきりとおっしゃいます。

役所や自治体職員の悪口を言うこと自体は、僕は構わないと思っています。
特に応援職員はいずれいなくなる立場なので、被災者のストレス軽減につながるのであれば、多少暴言をぶつけても差支え無いとすら思っています。

先のケースでも、ボランティアの方々が役所の悪口ネタを持ち出して、被災者の方々がそれに同調して盛り上がってくれるのであれば、別に問題ないと思います。

僕がひっかかるのは、被災者の方々がどう見ても乗り気でないのに、ボランティアの方々が役所叩き・公務員叩きを延々続けていたところです。
ボランティアの方々の熱意と、被災者の方々の心情がマッチせず、ボランティア側の内輪のノリを押し付けているかのように見えて、居たたまれなくなりました。

悪口を聞きながら食べるご飯は、たとえ温かくとも本当に美味しいのだろうか……と疑問を抱かざるをえませんでした。


発災直後の「被災地への不要不急の移動を控えて」発言がいまだに尾を引いている

今回の震災では、発災直後に、県知事が「被災地への不要不急の移動を控えてほしい」と発信し、話題になりました。


この発言自体は1月5日。
僕が対口支援に行った時点では既に2か月近く経過していて、既に自由に往来できるようになっていました。

ただ、現地入りしているボランティアの方々を中心に、いまだにこの発言が機能していると捉えている方が少なくありませんでした。
「自分たちは県知事の命令に背くというリスクを冒してでも被災地の役に立ちたい」みたいな被害者意識・自己犠牲精神を持っていたり、この発言を拡大解釈して「県はボランティアを禁止している」などと憤っていたり……

単に「被災地の復旧復興に携わりたい」「被災者を助けたい」という善意のみならず、ヒロイックな使命感や義憤、政治や行政への敵意を抱いて活動している方が本当に目立ちました。


特に石川県庁への敵意は凄まじかったです。
「県庁のせいで復旧が遅れている」だの「県庁は被災地よりも万博優先」だの「私たちが県庁から被災地を救わなければいけない」だのという話を、先述したように被災者の方々の前で大声で唱えているんですよね。

繰り返しになりますが、役所や公務員に文句を言うこと自体は、僕は否定しません。
ただ、悪口や怒鳴り声は、基本的に心地よいのものではなく、被災者の中には聞きたくない方もいらっしゃると思います。
そのような被災者の内情に配慮せず、自分自身の怒りの感情を被災者に見せつけるのは、ボランティアとして如何なものか……と思わざるを得ません。

これまでの経験上、大災害発生時には誰かしら「悪者」が設定されるものなのですが、今回はどうやら県庁がターゲットになってしまったように思われます。同業者として本当に気の毒です。

被害が出てるのは能登半島だけではない

被災地派遣から約2ヶ月後のゴールデンウィーク期間中にも、石川県に行ってきました。
今後はオタク用務です。



加賀友禅コラボが非常に良かったです。ざっくりいうと、
  • 現役の加賀友禅(着物)作家が、キャラクターに着せる着物の図柄デザインを「受注」して、加賀友禅の特徴や技法に沿ったデザインを作成
  • そのデザインをもとに、実際にミニチュアの着物を作るのみならず、デザインを完成させるまでの過程(モチーフを決めるまでのアイデアメモ、ラフスケッチなど)まで展示公開する
という、可愛いイラストを眺めているうちに、伝統工芸の作家さんが実際にやっている仕事の流れを勉強できてしまう……という画期的な企画でした。

オタクとして大満足なのに加えて、伝統工芸振興施策としても上手い取組だと思いました。
これまで今ひとつ理解できていなかった「美術」と「工芸」の違い「工芸」という産業のあり方がよく分かりましたし、「工芸」という産業が今も生存している石川県という地の特異性にも興味が湧き、急遽そのまま近隣の伝統工芸関係の施設をはしごしてしまいました。




ネット上にはいくつかこの企画のレポートも載っているので、観光や産業振興の仕事をしている方は、一度見てみるといいと思います。参考になるはずです。

……話を本筋に戻します。
スタンプラリーのために1泊2日で金沢市内を歩き回ったところ、歩道も車道も陥没しまくっていました。特に金沢駅の西口側が酷い。

最近マスコミが「観光需要が早々に戻ったおかげで、金沢市民は震災を忘れて立ち直れた」などと皮肉を報じていますが、日々使う道路がベコベコな状態では、震災を忘れられるわけがないと思います。
外野が好き勝手に、被災地をおもちゃにしているとしか思えません。


ボランティアにしろマスコミにしろ、「被災者のため」という大義名分を掲げつつ実際は「自分の私利私欲のため」に活動すること自体は、否定しません。
ただ、被災者に対しては、本音を隠し通してほしい。
私利私欲は見せず、徹頭徹尾、利他的な存在として振る舞ってほしい。

僕の経験上、被災者の方々は、実利が伴わずとも、「善意」を向けられるだけで気持ちが救われます。
それが「被災者の気持ちに寄り添う」ことだと思います。

能登半島地震から3週間近くが経過しました。

報道ベースで見聞きする限りでは、人命救助のフェーズから復旧フェーズに移行しつつあるようで、事務職員の業務負担がますます高まってきているのではないかと思います。
被災自治体の職員の方々には、心からお見舞い申し上げます。

今回の災害を機に、防災行政に興味が湧いてきた方もいるかもしれません。

災害対応は「経験の積み重ね」であり、過去の事例をもとにケーススタディするのが一番勉強になります。
内閣府などが資料をまとめており、それらを見るだけでも十分なのですが……元防災部局職員として、あまり大っぴらにはできないノウハウを紹介していきます。

閻魔帳(ブラックリスト)づくり

自治体の仕事の中には、色々な分野の著名人とタイアップするものがあります。
  • 有識者として意見を伺う
  • セミナーやシンポジウムの講師や、パネリストとして招聘する
  • 観光PRをお願いする
あたりが典型的でしょうか。

著名人の人選はなかなか難しいです(政治的にゴリ押しされることも多々あり)。
事業としてきちんと成果が出る「適任」を選ぶ必要があるとともに、メディアや住民の感情的理解を得られる人でなければいけません。
人選を誤ると易々と炎上します。いわゆる「受け」ですね。

加えて、行政に対するスタンスも重要です。
著名人の中には、行政を嫌っている人も相当数いらっしゃいます。
彼ら彼女らもビジネスなので、たとえ嫌いであっても仕事自体は受けてくれるものですが、依頼どおりに動いてくれなかったり、逆にダメ出しをしまくってきたりと、事業の進捗に支障が出かねません。
とはいえ、なかなか個々人の行政に対するスタンスなんて、事前にはわからないものです。


災害後はなぜか物申したくなるもの

大災害の発生後は、著名人の「受け」と「行政に対するスタンス」を見定めるチャンスです。

著名人の中には、大災害をチャンスと捉えて自分のことを売り込もうとする人がたくさんいます。
政治家はもちろんのこと、芸能人、学者、企業経営者、メディア関係者、その他もろもろの専門家などなど……一見関係なさそうな領域の方々も、思い思いに自説を展開します。

彼ら彼女らの主張を紐解いていくと、「行政に対するスタンス」が見えてきます。
たとえば、ひたすら行政の粗探しをして叩き続ける芸能人なんかは、完全な役所嫌いですし、役所の人的・財政的リソースを一切考慮せず理想論ばかり唱える学者なんかは、皮肉な意味での「学者肌」です。
こういった方々は、いくら知名度が高かったとしても、役所側から仕事を依頼するには不適切です。


また、彼ら彼女らの中には、真っ当な主張をして株を上げる人もいれば、突拍子もない主張をして炎上する人もいます。
自分を売り込もうなんて意図が無くとも、災害に関する何気ない発言が大炎上してしまうこともあります。

一旦炎上してしまった人は、当面は「受け」が悪くなり、迂闊にタイアップすると再度炎上しかねません。仕事を頼むのは危険すぎます。


炎上する理由は様々ですが、主張内容自体が原因であることは少なく、TPOを弁えない(タイミングが悪い)ことが多いです。
TPOを読めない人は、仕事の依頼先としては不適切です。余計なリスクを抱え込むだけです。
この意味でも、炎上してしまった人をタイアップ候補から外すのは、合理的だと思います。


「行政に対するスタンス」が敵対的である方々や、炎上して「受け」が悪くなった方々をリストアップしておくことで、今後の人選に大いに参考になります。

新型コロナ対応の際にも、このような「閻魔帳」づくりは推奨されていました。
どんな部署でも役に立つ、まさに一生ものの財産になるでしょう。


マスコミが被災自治体を叩くときの「論点」を学ぶ

「一次災害」と「二次災害」まではしっかりした定義がありますが、「三次災害」までくると人によって見解が異なります。

僕が思う「三次災害」は、大手マスコミが被災自治体の災害対応を否定的に報道して、苦情や非難が全国から殺到して業務が回らなくなる……つまり「炎上」です。

人命救助フェーズがひと段落した頃、具体的には「発災2週間後」と「発災1ヶ月後」に否定的報道のビッグウェーブが来て、炎上リスクが高まる……というのが、僕が防災部局勤務だった頃の経験知でした。
これまでの災害事例を見ていても、そこそこ当たっていると思います。

あくまでもきっかけは「大手マスコミ」、具体的にはテレビのキー局各社の報道です。地元メディアではありません。

キー局による被災自治体叩きでは、どんな災害であっても、だいたい似たような論点が取り沙汰されます。
多分、現地取材ベースではなく、キー局の内部でスポンサー等の意向を拾いながらシナリオを作っているのでしょう。
そのため、現地では深刻な課題については一切触れず、現地では特段課題になっていない論点を執拗に叩いたりします。

結果、叩かれている自治体側はもちろんのこと、被災住民にとっても疑問符が浮かぶ内容に仕上がります。
ミスリードはおろか、誤った内容を拡散されることもしばしばあります。

論点が似ている……ということは、過去の災害における論点が、次の災害でも再び取り沙汰されるということに他なりません。
いわば過去の災害が「過去問」となるのです。

どんな論点で被災自治体が叩かれているのかをリストアップする(=過去問集を作っておく)ことで、実際に災害に遭った時に非常に役立ちます。


いずれにしても、報道やSNSをしっかりチェックして、材料を集めなければいけません。
気が滅入り作業ではありますが、それでもやる価値は十分あると思います。

自治体広報には「全員にもれなく理解させなければならない」という原則があります。
これを達成するためにはアナログな手法をベースにせざるを得ません。
デジタルな方法だと、ツールをうまく使えない人に対して、情報を伝達できないためです。

とはいえSNSアカウントの運用のような、今時のデジタルな広報も、間違いなく重要です。
手間もコストも、発信に至るまでの時間も大幅に削減できます。
使える手段も増えて、内容も充実させられます。

デジタルな広報業務を担う職員は、地方公務員の中でも圧倒的少数です。
多分、1000人に1人くらいでは?
担当者は一から独力で勉強し、誰にも相談できず、孤軍奮闘する羽目に陥りがちです。

僕も観光の仕事をしていたとき、公式SNSを運用していた時期がありました。
幸いにも僕の場合、2ちゃんねるに始まり、ふたば、爆サイ、mixi、facebook、twitter、instagram、マストドンなどなど、それなりにインターネットでのコミュニケーションに触れてきた経験があったおかげで、ネット上の作法には自信がありましたし、すぐに「それっぽい」運用ができました。
最近のギスギス具合を見ていると、「リナカフェなう、誰か氏〜」とか言ってた頃のTwitterが本当に懐かしくなります。

しかし、こういう予備知識がない人間がいきなりSNSを任されたら、かなり大変だと思います。
前述のとおり圧倒的少数派であり、庁内にも仲間がいないので、疑問があっても誰にも相談できないのです。
自分の力でなんとかするか、自治体をまたいだ横のつながりを作るしかありません。

そんな悩める広報担当職員にぜひお勧めしたいのが、先月発刊された『まちのファンをつくる 自治体ウェブ発信テキスト』です。


今年読んだ役所本の中でも暫定ナンバーワンです。
若手よりも、ある程度役所の常識が染み付いてきた職員のほうが、心に響くと思います。

ひたすら具体的でわかりやすい

よくあるビジネス書だと、抽象的な概念図や数式を用いて、広報のコツを紹介しています。
民間企業のサラリーマンであれば、普段から身近にマーケティングのことを考えているために、概念を説明されるだけで自らの経験とリンクできて腹落ちするのかもしれません。
 
しかし公務員の場合、そんな素地がありません。
抽象的な一般論を説明されても、字面を追うのに必死で、理解できるとは限りません。

本書はひたすら事例ベースで具体的です。抽象概念や専門用語が無く、すっと理解できます。
読んだらすぐに実践できる事柄も多数取り上げています。

これからの予算要求にぴったり

本書で取り上げているのは、全国の自治体が実施している先進事例・成功事例です。
まさにこれからの来年度予算要求にも大いに役立つと思います。
新規施策のヒントにしたり、予算折衝の材料に使ったり……全部で100事例も掲載されているので、きっと参考になるものが見つかるでしょう。
発刊のタイミングが絶妙です。


職員が疑問に思うポイントを的確に押さえている

僕がSNS運用に関わったのは半年弱でした。
2ちゃんねる(大学受験サロン)でコテハンやっていた頃と同じ感覚で、何より炎上しないように節度を保ちつつ、応援したくなるような誠実さ・好感度を演出するように投稿していたのですが、本当にこれでいいのか迷う場面も多数ありました。

本書を読んで僕が何より感激したのは、当時疑問に思っていたポイントの多くが、本書で触れられていたことです。
著者の方は本当に自治体のことをよく見ていると思います。
自治体職員が悩みそうなポイントを把握していて、答えを提示しているのです。


例えば、SNSアカウントに寄せられたリプライへの反応。
僕の場合、炎上回避のため、以下のルールで運用していました。
  • 基本的に反応しない(プロフィールにあらかじめ明記しておく)
  • 投稿内容のミスを指摘するリプライのみ、感謝の意を返信する(「黙って修正した」と後から叩かれないように)

当時この本があったら、このような対応には止まらなかったと思います。


攻めに転じる手がかりとして

インターネット上には意図的に炎上案件を発生させて楽しむ悪い人がたくさんいます。
そんな方にとって、自治体は格好のターゲットです。
幸い、自治体には炎上を回避するノウハウが豊富に蓄積されています。
公平性と網羅性の徹底なんかは、その最たるものでしょう。

まずは行政ならではの守備優先の運用方法を習得してから、本書にあるような「攻めの運用」を考えていけばいいのではないかと思います。

広報のレベルは、自治体ごとに相当格差があります。
あえて力を入れていない(広報より内実に注力する)という考え方の自治体もあるのでしょうが、そうであったとしても、全国的な成功事例・先進事例を知っておくことは重要だと思います。
手軽に全国の事例を総ざらいできるという意味でも、本書は大変有用です。

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